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ワルコフに気をつけない  作者: スサノワ
9:優等生と小鳥とブラックボックス

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33/153

9:優等生と小鳥とブラックボックス、その3

2016/06/20 16:13 もう少し整えました。よろしくお願いします。

2016/06/20 2:18 さしあたって整えました。すみません。

2016/06/19 19:44 取りあえず版ですが。よろしくお願いします。

 薄暗い教室内。すり鉢状に並んだ座席には、VRデバイスを装着した生徒たち。

 南側の窓が、遮光性のある模様(テクスチャ)で覆われている。室内は、かすかな作動音で満たされ、点在する高輝度のARガイド表示と相まって、さながら深海を模したパビリオン展示の様相を呈している。


 黒板前の教卓の上を歩き回る、約20センチの人影(サムネ)は、半透明に光り輝いている。


「ワオン。おやつくれっ!」

 舞台役者のように手のひらを、大きくつきだす人影(コウベ)。


 黒板前の空間に表示中の、”機能を模したアイコン”や、”生徒の主観映像を映し出すウインドウ”。それらを、操作していた講師が返答した。

「ちょっと待ってくださぁい」

 黒板に表示されたツールアイコン(はさみ)を、ウインドウ内の生徒へD&Dし(つかんで投げ入れ)てから、教卓へ向き直る。


 教卓の上の小さな舞台俳優は、再び、手のひらを大きく突き出して見せた。

 その、堂に入った迫真の”おねだり”に、目を細める環恩(ワオン)。


 グレーのオーバーブラウスのポケットから、光る小袋を取り出す。

 細い指先には事務用の指ぬき(滑り止め)。

 ナノシリコン製の(分子レベルで滑らかな)指先は、より正確にカーソルを操作出来るため、VRアイテムの一つ一つを直接ターゲットし(つかみ)やすい。


 メガネのサイドに灯る、2つのLEDに隠れているが、10人にアンケートしたら、7人は”キレイ”に☑(チェック)するくらいの美人講師は、

「はぁい、どうぞぉ」と子供のような声を出した。


 舞台役者は30キロの米袋(ばかでかい)大(サイズ)の”特選おやつ:手羽先”を、飛びつくようにひっつかむ。

 所有権が移った、”特選おやつ:手羽先”は、瞬き、舞台役者の手のひら程度の大きさになった。

 逡巡せず(ノータイムで)袋を開け、中身に齧(かじ)り付く役者。その味に大げさな表情で、驚いて見せたのち、講師へ|牙を剥く《100%の笑顔を見せる》。


 パタタタッパタタタッパタタタタッ。

 そのとき、生徒たちの座る座席の一つから、飛翔する抹茶色(・・・)。

 上体を起こす男子生徒が一人。


 飛び立った、ノイズ混じりの抹茶色(半透明)は、北側の窓の明るい風景に、姿を溶け込ませる。

 上昇下降を繰り返す、紙飛行機のごとき軌道を描き、教卓(ステージ)に降り立つ。

 ピピピュイッピピピュイッ♪ と自分にも寄越せと、舞台役者(制服姿の美少女)へ詰め寄った。


「うを! 離せ! コレはアタシのだい!」

 鳥獣(ことり)は、その大きな嘴(縮尺のまま)で、手羽先の半分をむしり取った(ばくり)。小鳥へ所有権の移った”特選おやつ”の半分が、嘴(くちばし)の中で震え、倍増(対応サイズへ変化)した。でろーんと飛び出した”特選おやつ”を、満足げに、飲み込んでいく小鳥。

 小さな役者は、小さな眼を吊り上げる。そして小鳥の鳥足をローファーの先で、何度も何度も蹴り飛ばした。


「……まぁ、いいか。NPCにもぉ、おやつにもぉ、遺伝情報がぁあるわけじゃないしぃー」

 笹木講師は、なにやら困惑の表情をしながらも、生徒たちの補佐及び監督作業へ戻っていく。


 北窓に切り取られたグレーの空を、鳩の群(むれ)が横切っていく。

 ここは、公園に隣接した情緒有る洋風の大きな建物の2階の一角。厳重な電子防壁(シールド)で囲まれ、門には「VR拡張遊技特区立ターミナル学園β」と学校名が彫り込まれている。


 本日、笹木講師は、グレーのオーバーブラウスに、紺色の9分丈パンツ(ズボン)、銀色のミュールという服装。金曜午後は各種イベントがらみで、すぐに放課となるので、普段より、ラフな格好なのだろう。

 舞台俳優たち(小鳥騎士一式)の食い意地の張った怪演に、当てられたのか、彼女はズボンのポケットから、携帯食(ヌガー)を取り出した。

 細長いパッケージには、デフォルメされ頭身が半分になった、B級映画のクリーチャー〝悪夢(ナイトメア)の(・)処刑人《エクスキューショナー》〟が描(えが)かれている。

 朝、食べてる暇無かったから良いよね~と、教室中を見渡し、咎(とが)める者が居ないことを確認―――居た(・・)。

 別に咎(とが)めているわけでは無いだろうが、VRデバイスを外し着席したまま、教卓を見つめる男子生徒が1名。

 教卓の隅に表示されている(ブリンクする)、ダイブアウトの文字と座席番号。その横には『鋤灼驗(スキヤキシルシ)』の文字と、少年が自分で設定したであろう|角の生えたモンスターのシルエット《トレードマーク》。


 この薄暗さでは、お互い何をしているかは解らない。それでも笹木講師はバツが悪そうに横を向いた。そっちには黒板横の準備室のドアくらいしかない。

 窮屈なパッケージから、白っぽい中身をグリグリと押し出す。そして、今まさに、|ナッツとキャラメルの塊《携帯食》に、囓(かじ)り付こうという瞬間、ガッチャリと、準備室のドアが開いた。


 それは恐ろしいまでの実感(ディテール)を伴い、ドアを開けて(・・・・・・)入ってきた(・・・・・)。

 日常風景にはとても似つかわしくないはず(異質)なのに、今では見慣れてしまった感がある。

 教室内を広角に映し取る、”船外活動用宇宙服(EMU)”の丸いバイザーと目が合う。

「ワルさぁん?」

 ―――声をかけたが、返答は無い。

 笹木講師の額(ひたい)を緊迫の汗が流れ落ちる。

 彼女の挙動から、彼女の心境は次のようであったと推測される。


 1:ドアの裏表に点灯する施錠ランプが、宇宙服に完全に遮(さえぎ)られ、目視確認(ビジュアル・チェック)できない。

 2:薄暗い中でもはっきりと床に落ちている、宇宙服の影に違和感はない。

 3:準備室の非常灯が作る淡い影までも、リアルタイムに再現されている。

 4:完全ホログラムにも弱点がある。幾重にも環境マッピング(反射や照り返し)が発生すると、現実の演算速度(光)に負けるはずだが、今のところ齟齬(そご)は起きていない。

 5:何より、コレ(宇宙服)は、現実のドアを開けて入ってきたのだ。

 6:これがワルさんじ(・・・・・)ゃなかったら(・・・・・)、何なのかしら(・・・・・・)!?


 完全に物理的な解像度で構成されており、映像と見分ける術は無いレベルであるとVR専門家は判断したようだ。囓(かじ)り掛けていた携帯食(ヌガー)をくわえ、包装紙(パッケージ)を丸める。

 一歩一歩踏みしめ、重心に細心の注意を払う宇宙服(EMU)。見慣れた(・・・・)、軽快(軽薄)な動きとは違う、重厚な歩(ほ)。

 宇宙服の手が放れ、閉じていく準備室のドア。ガッチャリ! ピピピ♪

 自動的に施錠され、静かな教室に電子音が鳴り響く。

 緊張に耐えきれなくなった特別講師(トッコー)、いや、笹木環恩(ワオン)さん推定25歳は、行動する。

 掌(てのひら)に乗せた紙弾を、宇宙服(侵入者)へ向かって、発射した(指で弾いた)。


 放物線を描いて飛んでいく直径2センチの弾丸。それは、絶対的な境界を二分するはず―――


「あっ! ワルコフだ! あれ? なんかデッケーッ!? ギャッハハハハハハ!」

 紙弾発射と同時に、飛び込んでくる、米沢首(ヨネザワコウベ)の一声。

 暴風にも似た、緊迫感(プレッシャー)は、その場で霧散した。

 何もなかったかのように、窓の外を飛んでいった鳩の群(むれ)が引き返していく。


 紙弾は宇宙服に当たる直前、見慣れた(・・・・)、軽快(軽薄)な動きで、叩き落とされた(・・・・・・・)。


「んなぁっ!?」声を漏らす笹木講師。


 舞台役者(美少女優等生)は、羽繕(はづくろ)いに没頭していた抹茶色(小鳥)の羽を掴んで飛び乗った。小鳥騎士(メジロナイト)完成である。

 無言で”元(・)・緊迫感(・・・)”を指さす”ナイト”部分(コウベ)。

 ピキュキュイ♪ さっきのおやつ分くらいは働こうというのか、素直に飛び立つ”メジロ”部分(小鳥)。

 パタパタタパタタタタッ!


 キキュキュキュキュキュウゥン!

 コウベに看破(かんぱ)されたためか、一気に以前の軽快(軽薄)さを取り戻した宇宙服は、教卓へ一気に詰め寄る―――


 銃撃のようなキータイプ(打鍵音)。

■通リスガリノs_

■通リスガリノ、シガナイ宇宙飛行士ヲ、演ジテ_

■通リスガリノ、シガナイ宇宙飛行士ヲ、演ジテ見タノデスガ、コウベサンニハ、バレテシマイマスn_


 黒板上の、”機能を模したアイコン”や、”生徒の主観映像を映し出すウインドウ”を全て押しのけ、黒板中央で会話を始める”宇宙服(ワルコフ)”。


 黒板へ、一瞬、視線を走らせた、笹木講師(逃げ腰)は、床にへたり込んだ。

「モグモギュ……脅かさはひでふははひほ、……モグ……はれ?……ほんほにー、……ゴクン……大きくなってるぅ?」

 口(くち)一杯の歯ごたえ(甘いやつ)を飲み込みながら、宇宙服(ワルコフ)を見上げる笹木講師。

 昨日はちょっと首を向ける程度だったのに、今日は、見上げると仰け反るほどなので、威圧感がハンパない。


 ワルコフ(宇宙服)をヒラリとかわした小鳥は、そのまま螺旋機動《バレルロール》する。丸っこい体型からは想像できない俊敏さだ。天井に腹を向けたまま一度羽ばたき、”|下降しながら戻ってくる《スプリットS》”。


 床に落ちた紙弾を、タッチアンドゴーの要領で上手につかむ。

 パタタタタッ!

 そのまま高度を上げながら大きく旋回し、”ナイト”部分(コウベ)が落ちそうになる前に、水平飛行へ戻る。

 一直線に教室最後部へ向かう小鳥は、紙弾を両足でつかみ直す。標的(ターゲット)は、教室後ろの高台に置かれたゴミ箱らしい。

 

 投下された紙弾は見事ゴミ箱へ(命中)。


 ワルコフからキータッチ音。

■オ見事デs_ コカコカカコカ

 黒板に文字が流れる。


「そうねぇー、アナタたちー、ほんとぉに色々出来るのねぇー」


 ギャッハハハハハハッ―――ピギャッ!

 いや、それほど芸達者でもなかったらしい。”ナイト”部分(コウベ)が勝ち鬨(かちどき)をあげた直後、小鳥騎士(メジロナイト)は壁までの距離を見誤り、―――激突した!

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