9:優等生と小鳥とブラックボックス、その2
2016/06/19 0:33 ちょっと調整しました。
2016/06/18 20:24 書き殴ったので、散らかってるかもしれません。よろしくお願いします。
「そもそも、お前が、”お化け椎茸”、欲しがったからこんな、面倒なことに―――」
作業台に置かれた、剥き出しのPBCを、掴んで、驗は椅子ごと詰め寄る。
そうなのだ、自動屋台から生えた、お化け椎茸を量子状態を保持したまま、丸ごと格納できるメディアは、あの場には、コウベの入ったPBCしか無かったのだ。そのため、コウベを入部届に転写し、空いたPBCにお化け椎茸を格納したのである。
「嫌だい!」 環恩に背を向け、胡座をかき小鳥の首に抱きつく、清楚系前髪ぱっつん。
「又、特選おやつあげるからぁ」
オレンジ色の台形を手に持ち、ひらひらと振る環恩。
「入る!」即座に起き上がり、180度ターン。長い髪が体に巻き付く。
「はい、了承ぉ」
しゅるるるる。
小鳥とコウベはモニタから出てきた竜巻に飲まれるように小さくなって消える。
PBCのちょっと上を見て、
「どーお? 小鳥ちゃんと一緒でぇー、窮屈じゃなぁい?」
とコウベ達の様子を確認している笹木講師。
作業台に置かれた、四角い瓶の中にセットされたPBCから、上に向かって何かが投影されている。人格や主観設定されている箇所には、参照ゼロでも画素演算が発生している。
そして、その参照先が増えれば、画素投射の軌跡も増える。つまり、空間を伝わる揺らぎが増え、慣れた者なら、察知できるようになるのだ。
シルシは、胸ポケットから簡易ARメガネを取り出して掛けた。
「うん? ん? ガブッ! ピキューッ! バタタタタッ!」
ドタバタとした物音が、驗にも聞こえたようで、慌てて四角い瓶を見る。
驗の目に、古い映像のような、横縞のノイズが写る。ノイズは即座に解像度を増し、制服姿の人影へと変貌する。
人影は巨大な鳥にしがみついていた。そして、止めを刺さんばかりに、ズングリした首に、噛みついている。巨大と言っても、せいぜい十数センチの小鳥だ。若干痛々しい光景に見えなくもない。
ピキュー、ピキュー♪
コウベと一緒に押し込められた小鳥は、やや、抗議の色を示すが、それでも、優等生に囓られたり叩かれたり、されるがままにしている。
「だぁーいじょーうぶー! 窮屈じゃないよー! さあ、おやつくれ!」
清楚系噛みつき優等生が、噛むのをやめて答えた。
現在PBCには、コウベと小鳥の2つ分、入っている。人間なら1人分の量子状態複製で、PBCが一杯になるところだ。いくら超高性能のNPCと言っても、容量的には人間より大分コンパクトらしい。
「でも、お前、腹一杯じゃねえか?」
驗が心配して聞いてやると、いきなり立ち上がった。そして、まるで優等生のような面持ちで、姿勢を正して顔を上げる。
「シルシ、髪の毛、地面に着いてる?」
耳の後ろから左右に垂れ下がる、纏められた髪。見えない地面に着いて、少し折り重なってる、ツインテールを見て少年は言う。
「……着いてるな」
「ギギャーーッ!!」
飛び上がるポーズ。少し浮いて又もとの位置に戻った。
「どした? 伸びてたらイカンのか?」
「食べ過ぎた! ダイエットしなきゃ!」
小鳥の周りを、ぐるぐると走り回る小さな優等生。
「あっ明日からぁ! 明日からぁやるもんっ!」
コウベの声を聞き、ビクリと肩を震わせた環恩が、耳をふさぎ、弁解を始める。少年は聞かなかった事にして、優等生との会話を続けた。
「やっぱり、その伸び縮む髪の毛、HPなのか?」
「……そーなのぉ?」耳をふさいでいた手をどける環恩。
「ワルコフの椎茸食った直後に、ショートの髪の毛が一気に伸びたし、―――お化け椎茸も少し囓ってただろお前、だからそんなに伸びちまったんじゃねえの?」
話の途中で、小言じみていく。
小さいコウベは、走りながら両耳を塞ぐ。
「ワルさんのぉ、特異技能なのか、前に聞いたコウベちゃんの謎パワーがらみなのか、はっきりしないわねぇ」
ナゼか、コウベと同じポーズで、再び耳を塞ぎながら、専門家が所見を述べた。
「おーい、どーうなんだ? 自分の構造つか機能くらい、解んだろ!?」
「それは……設計師ノ意向デス」
コウベは小鳥の陰に隠れたまま出てこなくなった。
驗がそっちへ回り込むと、小鳥の腹の下にゴソゴソと潜って出てこなくなった。
「あー、先生、コイツ、自分の謎パワーのことも解ってないみたい」
「あっ居たぁ! かっ、カワイイィ!!」
”瓶”ごと持ち上げ、小鳥と瓶の間の隙間を、のぞき込んだ環恩が叫んだ。
「さっき、コイツ等、つか、メジロナイトが―――」
「メジロナイトぉ!? おもしろい言い方するわねぇ。やっぱり、ゲー特は面白い人材揃ってるわねぇ」
「……ゲー特の話はしなくていいすよ。それより、コウベ等がPBCに移ったとき、俺にも解りましたよ。あの、不可視の演算中画素の気配って言うか、雑音って言うか、揺らいで見える感じ」
「あら、やったじゃなぁい。先生、専門家だけどぉ、それほど巧く察知できませんよぉ。特区でソレできるとー、いろいろぉ、便利よぉー」
目を細め、受講生の才能を喜ぶ。
そして、師弟の情を台無しにする、騒音が―――
「うおらぁー! 噛めーーーーっ!!」 ドコドコドコドコッドッドンッドン!
応援が再開される。ダイエットとか、小鳥に隠れるのには、飽きたらしい。再び羽毛に寄りかかり、スポーツ観戦状態に入る。
栄養? をため込んでいるツインテールは、だらりと垂れ下がり接地面にトグロを巻いている。それを、小鳥が、嘴で引っ張り上げ、凝った蝶々結びにしていく。
「くっそ! ふざけんなよ!」
YOU LOSE!
「あら、これが実力でしょう?」
YOU WIN!
刀風と禍璃の勝負に決着が着く。
フワフワと浮かぶ”2ー3”。禍璃が勝利。筋骨隆々のキャラが、いたいけな少女のキャラを踏みつけている。マット上に表示されているイメージが最高に悪い気がするが、実際には横たわる筋骨隆々の背を、小柄な少女が踏みつけている形なので、とくに嫌な気はしない。そう、刀風は現実のガタイの良さとは正反対の、魔法少女キャラを使っている。禍璃は長身で、ボディービルダーのような大剣使いを使っている。
「覚えとけよ! てめえ!」
「おうよ! で、充電できたの?」
負けても、単純維持の為の充電ゲージはいくらか増えるらしい。
ドンドッドン! ドンドッドン!
コウベは勝敗が付いた区切りを付けるように、太鼓を打ち鳴らし、満足げだ。小鳥は太鼓をいやがったのか、不意に飛び立つ。だが、一向に上昇しない事に諦めが付いたらしく、そっと鳥足を着き、羽ばたくのを止めた。
見た目からは想像出来ない、奇っ怪と言って良いほどの、複雑な工程のせめぎ合いによって、NPC処理は継続していく。
さてと、と言って笹木講師は、事務服のポケットから、ラメ入りで金色がかった乳白色の厚紙を取り出した。
「これぇ、結構ぉ、良い物とぉ交換できるぅカタログですよぉ」
一人一人に大事そうに手渡していく、笹木講師。
シルシは受け取りながら、「これ、どうやってそんな小っさいポケットに入ってたんですか?」と聞く。
笹木講師は「特区勤務技術者の持つぅ、スキルのーひとつでぇーす!」
……そういや、あの、足癖の悪い、姉ちゃんも懐から、これ出してたな。
……B5位あるのに、あんな小さなポケットに入ってたなんて、不気味だわね。
……コウベが、制服のポケットに詰め込んでた、エリンギみてえ。
ヒソヒソヒソ。口々に好きなことをいう教え子達は、厚紙でしか無いカタログに指を走らせる。
「うぉ!? おい、鋤灼! ”トグル<人鬼入>オーガー”の筐体有るぞ?」
「な、マジかっ!?」
ドタドタと刀風のカタログを見に行く驗。
「なによ、折角の高級品ぞろいの中から、また、ゲームー?」
と自分の欲しい物を厚紙の表面を忙しなく操作して、探しながら文句を宣う禍璃。
「先生はー……この開発者用の、”VRデバイス”ほしいかもぉー❤」
「姉さんは、仕事ばっかりなんだから、もう」
「そうだぜ、笹ちゃんは、もっと自分に優しくても良いと思うぜ」
「そうですね、そんなの有るんなら、俺も欲しいですよ……」
「えーアタシも欲しいわよ。だって、どんなに安くても30万円はしちゃうじゃ無い……」
「俺も欲しいに決まってんだろ。いくら笹ちゃん相手でも、その手には引っかからねえぜ……」
笹木講師はVRデバイスの写真と解説が書かれたページを、若者達に見せる。
「「―――な、なんだとーー!!」」
「―――な、なんですってーー!」
トントントントントン。
「……ドウカサレマシタカ?」
3人の声は、ルフトが心配して、下から上がってくるくらいに下宿中に轟いていた。




