9:優等生と小鳥とブラックボックス、その1
2016/07/08 12:14 いつまでも章が終わらないので、タイトル代えて、分割することにしました。
2016/06/18 19:29 時間が空いてしまいました。あと、なかなかワルコフの話にたどりつきません。すみません。よろしくお願いします。
「おらぁ! ―――ギガドォーン! 触軸のアウトブレイブ!!」
「なんで!? ―――きゃぁぁっ! カッウンたぁー!!」
「噛めっ! 強く噛めっ! ギャハハハーッ!」
「リサイクルBOXの中に、去年の卒業生が、置いてったPBC有りました」
「ピチチチッ♪」
開けっ放しのドアから、入ってくる部屋の主。
物騒な効果音の割には、座布団に行儀良く正座し、対峙している2人。
カバーの付いてないドット絵柄の座布団が、テーブルの横を彷徨いてる。
1/6ルフトが奥の部屋から、人数分の座布団を持ってきたのだ。ぽそりと放り投げるように、禍璃の横に置かれた、2枚重ねの座布団。1/6ルフトは、その上へちょこんと座る。その姿は、笹木講師の心の琴線に触れそうなものだが、彼女はイスに座ったままモニタの辺りをニヤニヤと眺めていた。
「よかったぁ。今から買いに行ってたらぁ、夜になっちゃうところだったぁ」
ニヤニヤ顔をキリリと引き締め、四角い蛍光グリーンを受け取る笹木VR専門家。
「でも、本当に貰っちゃって良いのかしら?」
「一階の、リサイクルBOXは、”THE下宿”住人なら、中の物を誰が貰っても良い事になってるんで、大丈夫です」
「そうなのー? ……買うと3万5千宇宙ドルくらいするのよぉ?」
『2016年6月16日現在―――YEN=8.617S$』
驗の、手首に巻かれたデータウォッチが、キーワードに反応して、自動的に日本円で算出表示している。彼はチラリと確認した。
「……4千円くらい? 買うと結構するんですねコレ」
「そうねぇ。必要な機材は全部ー、特区から支給されるけどぉ、予備や追加のぉ増設パーツなんかはぁ自分で買わないとダメだからー、鋤灼君もぉ上手に遣り繰り出来るようにならないとねぇー」
「そうしまーす」
気のない返事をして、驗は荷物の上に置かれた、紐付きのヨーグルト瓶を拾って手渡した。
「じゃ、感謝して貰っちゃいましょー」
笹木講師は、親指で、キューブの底に有る四角い枠を、ペタリと触る。次に、”瓶の付いた機械”のフタを開け、中にセットされていたPBCと手に持ったPBCを取り替えた。最後に瓶に突いたスイッチを押す。
コウベと小鳥を間に挟んで、ボンヤリと見えるコンソール画面に、回転するアイコンが表示される。
アイコンの周りを円形に伸びていく、紐の様子からすると、少し時間がかかりそうだ。
「そういえば、これ名前、何て言うんですか?」
少年は”四角い瓶の付いた機械”を指さす。
笹木講師は、「”V.O.I.D・チャージャー”って言うのが面倒だから、みんな”瓶”って言ってるわねー」と返答。
ピコン♪ 新しいPBCが接続されました♪
流暢な合成音声で、接続確立が知らされる。
『新しいPBCが接続されました』
同じ文面が、未来的なイメージのフォントで、くっきりと表示されている。
笹木講師の手持ちのフォントがインストールされたのだろう。
落款の様な潰れアイコン以外は、すべて、表示がクリアになっているが、どのみち、小鳥騎士が邪魔で驗達からは見辛い。
「音声入力」「PBC:全チャンネル:クリア」「実行承認」
表示された入力欄に、ゴカカッゴカカカカッダンッ! と、強めの鍵打音で、十数文字打ち込む。
モニタの真ん前に浮かぶ、小鳥騎士が邪魔になりそうなものだが、全く気にしたようすはない。
入力したのは音声入力だけでは足りないPWのようなものなのだろう。画面が見えなくても平気らしい。
「あんた達、かわーいーいーわねー」と又ニヤニヤし出す。
驗もコウベ達を見ようと近寄るが、「シルシ! 邪魔! 見えないじゃん! キシャァーーッ!!」と威嚇される。
威嚇された少年は、スゴスゴとその場を離れ、元の椅子へ座った。
コウベはちょっと離れたテーブル上で、行われている大スペクタクルに夢中だった。PVP戦というのは、スタバ内で行える、対戦形式の戦闘クエストだ。主にプレイヤー同士が戦い、その内容によりポイントが累計されていく。そして、週に1回、ランキング順位に見合った報酬が、自動的に支払われる。
”VR拡張遊技試験開発”特区に置ける、最大の実地試験がコレだ。”ゲーム内仮想通貨”の、特区内使用に関する全ログを持ってして、”複雑系経済”を可視化しようという試み。
『特区内の研究施設付属大学では、金融工学と、量子工学の融合が進んでいます。』
特区の案内には、そう書かれているが、笹木講師の講座中の脱線話しに因れば、”非常にグレーで、繊細な案件”らしい。
「気になる人はぁ、図書室で調べてくださぁーい」
と言っていたが、驗を始め、講座受講者のうち”宇宙ドル”に付いて調べた者はおそらく一人も居ないだろう。
敗北によるランク下降を防ぐために、対戦を避けると、1週間で”ランク電池”が尽き、累計ポイントが減り始める。
実力伯仲のPVP戦に置いては相対的に、ランクを一気に落とすことになるので、結局、最低でも一週間に一度、ガチで戦闘するしかない。
そして、今行われているのは、勝てばランク電池が充電される、模擬戦みたいなものだ。携帯ゲーム機でもキャラを操作できるように、操作系は携帯ゲーム機のUIに準拠している。
テーブルの上には布製の、フィールドマットが敷かれている。
驗にはチカチカ光る、マット上の各種ステータス表示と、その上に浮いた、あまり動かない、チェスの駒のようなキャラクタ同士の小競り合いが見えているはずだ。
「いけ! そこだ! 噛めっ!」
コウベには、刀風達の携帯ゲーム機上で行われている、大迫力のバトルが見えているのだろう。
フワフワの羽毛をソファー代わりに、コウベは手に汗を握り、しきりに噛め! と連呼している。
足を折りたたみ、腹を空中の接地面におろした小鳥は、自分の羽根やコウベの髪の毛を、毛づくろうのに忙しそうだ。
「画素充填による、量子的比重の自動更新、……10%終了しました……40%……80%……90%……100%終了しました」
と合成音声ダイアログ。
「はぁい、励起状態のぉ目視確認終了。安全にコウベちゃん達、仕舞っちゃえるわよぉ♪」
腰に手を当て、片目を閉じ、ビシリと、驗に指を突きつける。コレが刀風だったら、突き出された指をつかんで、離さなかっただろう。
対戦ゲームに興じ、青春を謳歌している、教え子達に触発されたのか、ご機嫌がとても麗しい。
普段から、講座後にスタバのパーティ募集してる位なのだ。ゲーム好きの血も騒ぐのかもしれない。
「まずー、コウベちゃんたちの事をー、済ませちゃいましょぉ」
小鳥騎士一式へ顔を寄せる専門家。
「んぁ? なに? ご飯? 食べられるかなあ」
自分の身長よりも伸びた、ツインテールをひっつかんで弄んでいる。そして、なぜか、飯が入るかどうかの心配をしている清楚系美少女優等生。
「コウベちゃんと小鳥ちゃん。もう一回、この中に入ってくれる?」
と四角い瓶を持ち上げ、蛍光グリーンの立方体を見せる。キューブ表面に平行投影された脳の意匠が若干不気味だ。
コウベと小鳥の首が、同期したように左右に振られる。
「ぷっ!」あまりのシンクロぶりに、専門家は吹きだした。




