8:小鳥ファイル解凍その5
2016/06/09 18:50 ちょっと調整。
2016/06/09 16:45 さらに、もう少し前進。よろしくお願いします。
「じゃあぁ、”SDK”譲渡のついでにぃ、”画素”を最大までぇ、移植しまぁすよぉ」
画面からはみ出ているアイコンの一つを、入部届にも使ったデジタイザで、突く。
アイコンがさらに空中に、はみ出して、太い紐のような物を伸ばし始める。
「これが終わればぁ、開発者コマンドォ、使えるわよぅ」
「あ、履歴参照しても良ーいー?」
待ってる間の暇つぶしか、普段、この端末で、何をしているのかを、知りたがる。
「いいですよ」
という少年の返答を待って、アイコンの一つを何回か押す、VR専門家。
ズラーッと落款のような物が列をなして表示されていく。普通の書道作品の隅に、押されてたりしている、落款とは違い、とてもカラフルだ。
数字と幾何学模様の入り交じった羅列を、歌うように節を付けて、読み上げていく専門家。
『かぁのぉちぃにぃばぁんーゆーうがぁおーーー♪』
あらぁ、なぁにぃコレ? と首を傾げている。
「それっ……暗号化してあるのになんで!?」
焦る様子の驗。
「んっふっふーぅ! ダテに、専門家を名乗っているわけではないのですよぅ!」
ピクトシェルなんてぇ、ソラで詠めますよぉ。
「流石にー、ファイル名しかぁ読めませんけどねぇー」
とペロッと舌を出す。
侮れない。専門家は侮れないぞ、とブツブツと口の中で言いながら、驗は返答に悩む姿を見せている。どうも、このファイル名、は余り知られたくなかったらしい。
刀風は、侮れない、美人講師は侮れないぞ、とブツブツと口の中で言いながら、顔を赤らめている。シュッとしたその顔を、だらしなく綻ばせ、ペロッと舌を出した。
背後で、じっとしていた禍璃が、侮れない、刀風は侮れないと声に出しながら駆け寄る。そして、あろう事か、筋骨隆々の少年から飛び出た舌を、”指相撲”の要領でひっつかんだ。
いでででで、てへぇーはひゃへぇー!
何言ってるかわかんないわよ!
などと、聞こえてくるが気にしない様子で驗は、VR専門家へ返答する。
「それ、……この間出たばっかの、……荒神話文庫の新刊です!」
驗は、シドロモドロながらも、なんとか弁明した。
面と向かっていればウソだと顔に書いてあるので、ばれただろうが、今、専門家は専門的な作業に取りかかっていて、モニタに張り付っきぱなしだ。
え? 小説? なんか、ゲームのOPみたいだけど……読みたい読みたーい!
コレはダメです。えっと……まだ読んでないんです! 読んじゃった奴なら、どれでも、お貸ししますから。
と、少年は収納壁へ走って、一角を引き出し、中に積み重なってた電子ペーパーブックを何冊か、テーブルの上に置いた。
テーブル周りのゴミはすべて、ルフトとルフト1/6が片づけ済みだ。
そんなやり取りがあってから数分後。
「開発者コンソールの負荷にも耐えられることを、確認しましたぁ」
作業台の上にジャララと置かれた、薄型のキーボード。隅にある四角い縁取りに、親指を当てる。画面に、『外付けアナログキーボードが接続されました。』と表示され消える。やはり、文字までもが”付けすぎた朱肉で、押し潰れた”ようになっている。
「姉さん、これ、読み辛くない?」
「さすが、禍璃ちゃん。良いところに気が付きました」
”量子フォント”は個人所有の物を使うんだけど、鋤灼君は、量子フォントを一個も持ってないみたいですね。と補足するが、若者3人の顔を見るに、理解した者は居ない様だ。
「なんですかそれ?」
「来週の授業から勉強するのでぇ、まだ知らなくても良いでぇーす。今日の所は、先生が持ってる、”余ってる奴”をー、鋤灼君にー、進呈しましょぉ」
「え!? 何だよ、鋤灼ばっかりー!」
刀風は、ガタイの良さを生かし、驗の両肩をギュギュギュギュギュと押し下げる。
「いだだだだだっ!」
「こらあぁ! ケンカしないのぉ! 刀風君がぁ、”開発者コンソール”を作った時にもぉ、ちゃんとあげますからぁ」
え? ほんと? やりぃー!
アンタ、ゲームプレイばっかで、開発者コンソールなんて、必要ないでしょうが!
けほけほっ! 痛ってー! などとじゃれ合い青春を謳歌する、若者達には目もくれず作業を進める笹木講師。
しばらく、落款で、和算数の様な事をしていた彼女は、驗の”空間認識用アダプタ”を借り受ける。
歯車の付いた凝った作りのソレを、空いている差込口へ、差し込む。
「音声入力」「認証コード発行」と全手続きを手早くすませる。
「さぁ、コウベちゃん達を、解凍しますか」
両手を組んで、天井へ向けて伸ばし、体をほぐしている。
「おう、鋤灼、これ、俺たちのゲームにも、超便利に使えるんじゃねえ?」
刀風は、やや、声を潜めて話しかける。
「しっ、ソレ、後で話そうぜ」驗も声を潜める。
集中している笹木講師には聞こえていない。
「なによ? 悪巧み?」
背後に忍び寄ってきてた禍璃が目ざとく、聞き耳を立てていた。
「そういうんじゃねえよ、そういや、おまえ、決着付けなきゃな」
「そうね! でも、姉さん、集中してるから、こっち、一通り終わってからね」
笹木講師の背もたれを掴みながら、禍璃が言う。
「そうだな」と刀風は驗の背もたれを掴んで、目の前の端末を見る。
左側に座る笹木講師の前の端末に遅れて、右側の端末にも全く同じ画面が表示されていく。
「あれ? 笹ちゃん先生、こっちも専門家仕様にするんだよね? ……鋤灼ィ、これ、大会前の審査通んのか?」
背後霊と化した、刀風の言葉に驗は慌てた。
「あああっ! 先生! コレ! ”開発者コンソール”って、ゲームのレギュレーション通る?」
「公開鍵検査の精度によるけどぉ、基本的にダメかもぉ、”開発者コンソール”だと普通にぃ、システムファイル開いたまま実行出来るものぉ」
「こっちの、まだ、いろいろインストールしてない方は、レギュレーション通りますか!?」
いつになく真剣な少年に、気圧されながらも、真摯に答える講師、環恩。
「たぶん大丈夫ですがぁ、ちょっとした設定が必要なのでぇ、実機を見せてくれませんかぁ?」
笹木講師を見やり、作業台の引き出しを悩んだ顔で睨む。数拍の躊躇の後、作業台の引き出しから、携帯ゲーム機を取り出す。
ジ。
そのゲーム機は、一目でソレとわかるほど、古いタイプの物で、洗練されておらず、とても巨大だった。
刀風や禍璃の物とは、違って、やたらと沢山の、ネジ止めがしてある。
ジジジ。
「これぇ、GMBr規格のぉ自作組立機ねぇ」
ジジジジィーーーーッ!
あちこちに、継ぎ目や、色違いかと思う程のヤケが見て取れる。
不格好に膨らんだ、スケルトンパーツの筐体から内部が覗いている。内部には、ケーブルが何本も束ねて押し込められており、基盤などの部品は見えない。数年前まで、主流だった、リング状のシリコンメモリが、僅かに見え隠れしている。専門家、笹木環恩は、妙に顔を綻ばせながら、触らずに、あちこちの角度から、じっくりと見ていく。
ボッシュッ!
「なによさっきから、うるっさいわね」
禍璃の声に、全員で”開発者コンソール”を見る。
薄暗い画面の奥の方から、羽ばたくような音が聞こえてくる。
音自体は、驗の部屋に作り付けの、一般的なサラウンドシステムによるものだ。よく見ると緑色のドットが画面中央に点いている。
近づいてくる羽根の音。
緑色の点は、急激に大きくなり、全貌を表す。
改造にも耐えた、驗の虎の子のモニタ端末を、そのクチバシで、突き破った!
バリィィィィーーーーン!
飛び出たその姿は、まさに抹茶色。首から腹にかけて、朱色から黄緑のグラデーション。
黒目の周りを縁取っている白は、”自動屋台”の飛ばした白丸を彷彿とさせる。
「ピチュチュ! ピチュチュ! ピチュチュ!」
自由を満喫するように大きく旋回している。
……つもりらしいが、モニタの前面15センチしか活動範囲がないので、ほぼその場で、ゆっくりと回転しているだけだ。
呆気にとられ、大口を開けたままでいる若者たち。
VR専門家は微塵も動じるそぶりを見せず、デジタイザでそいつを、突き―――
「あっぶなぁい! 下回りの改造ぉしてなかったらぁ、ロストしてるとこだったわぁ」
専門家は、全力で動じていた。しきりにオデコの汗をブラウスの袖で、拭いている。
『たこ焼き大介作成:小鳥Ver:1.0.4_qr2』
端末とのリンクを確立した小鳥のHUDが忙しなく点滅しながら飛び出た。
動じた大人は、その更にちょっと上の辺りも、突く。
少し太めの眉毛と、風に揺れる長いまつげ。切れ長の瞳に、切り揃った前髪。両耳の後ろで束ねられた栗色の髪は、小鳥の尾羽根より長く棚引いている。
禍璃と同じ、白いブレザーに、紺色のセーラー襟が付いたような制服。端的に言って、”清楚系美少女優等生”、以外の何物でも無い。
セーラー襟と同じ色合いのチェックのプリーツスカートから伸びた足は、小鳥のフサフサした胴体を跨いでいる。
小鳥騎士は端末とのリンクを確立させ、ギャッハッハッハッハーー! と御満悦の様子。
『たこ焼き大介作成:米沢首Ver:2.0.0_qr2』
とサムネ表示の頭上にも、HUDが出た。
「……自己解凍型のぉ、圧縮プロトコルだったみたぁい……」
手に、オレンジ色の台形を持つ、推定25歳は、少しの間をあけて―――
”てへぺろ”をした。
”てへぺろ”とは、猫手で頭を小突き、片目を瞑り、舌を出すあれだ。
イケメンも、今だっ! とばかりに、猫手で頭を小突き、片目を瞑り、舌を出した。そして、又もや禍璃にギュッと摘ままれ、ろれつの回らない雄叫びを上げた。




