8:小鳥ファイル解凍その4
2016/06/09 22:48 誤字等修正。
2016/06/09 20:15 数カ所整えました。
2016/06/09 16:41 何かバタバタしてますが、爆誕とその先へ向かって、小さく前進。よろしくお願いします。
「さて、一時はぁどうなることかとぉ……モグリ……思いましたがぁ……モグモグ」
「ほんと……ポキッ……ですよ……ガブリ」
「まった……ザクッ……くだわ……モギュルリ」
「その通り……パキポキ……だぜ……ガジガジ」
全員で、最後に残った、伊勢エビに囓り付いている。
こんな、目立つ御馳走は真っ先に平らげそうだが、環恩が、足下に除けたまま、忘れたため、最後になった。なぜ除たのかと言えば、特大伊勢エビで箱が膨れてて、重ねるとグラグラして、崩れたからだ。
「禍璃! ガジリ……コレ食ったら、……サクッモグッ……勝負すっかんな!?」
豪快に伊勢エビの唐揚げに、囓り付く。
「バカ風こそ……モギュル……最後の晩餐、……ザクモギュルリ……とくと味わうが良いわぁぁ!」
口の中の物を、少し飛ばし、慌てて口に手を当てている。
「禍璃ちゃぁん……モグモグモグ……食事中に魔王声はぁ、……モグゴクリ……お行儀悪いですよおぉ」
と小言を言いながら、殻に詰められたグラタン風の伊勢エビ料理を、一番乗りで完食した。
早い。大人でも、2個も食べたら、苦しくなる程の、量の折り詰めを、伊勢エビも含め計4個、一気に平らげた。しかも、ちょっと前に、同量程度の食事をしたばかりである。笹木環恩推定25歳独身、侮れない大食漢である。
「オ手製デスガ、……ヨロシケ……レバ」
ルフトが環恩と同じエプロンをして、スッと屈み込む。
小さいお盆の上には、フタの付いた椀が人数分。
コトリ。テーブルの空いた隙間に置かれる椀。
「えー? ルフトさんのぉ、手作りぃー?」
環恩は、飛び上がらんばかりに、破顔する。
「今朝ノ……残リ物デ……スガ」
禍璃は、エビ殻が山盛りの箱を、素早く持ち上げて、ルフトの置く手が止まらないようにしている。
「笹木は……ガブリ……気が利くなあ」
シルシは、伊勢エビを囓り、残った尻尾を、山盛りの殻の上にそっと置く。
「えー? そっかなぁー! なぁに鋤灼君、先生ほめても、何も出ないよぉ~?」
ビンごと貰ってきた、琥珀色の水はほぼ全部、笹木講師の腹の中である。
「そうです。笹ちゃんはー、日々、俺たちのために、頑張ってると思う! ドン!」
笹木講師の隣へ座り込んだ刀風が、テーブルを叩く。
手には、ぬるくなった、オレンジジュースの瓶。
「……おまえまで、出来上がってどうする」
と言って、驗は刀風の、食べかけを移動してやる。
ルフトの持ってきた、椀。
驗は「椎茸だ」、禍璃は「曲がり葱だわ」とフタを開ける前に、口にする。
小さいお盆の表面に、落ちる椀の影から、細い線が伸びている。その先には、『椎茸と曲がりネギの味噌汁』と、印刷されたように表示されている。
驗はフタを開け、口を付ける。
「赤出汁だ」
「あらぁホント、おいしいぃ! 禍璃ちゃぁん、赤出汁だってぇ」と味噌の種類に反応する笹木姉。
「赤出汁好きなのか?」
驗が禍璃に問いかけると、環恩が答える。
「禍璃ちゃんわぁ、お味噌汁がぁあんまり好きじゃぁないんだけどぉ、赤出汁のお味噌汁だけはぁ、ちゃんと飲むのよねぇ~」
「姉さん、そんな、情報どうでも良いでしょ」
と言って、椀を持ち、ズズズと啜り始める。
「……いけるわね」
「うん。こりゃ、うまいぜ」
「だっろー? ルフトさん、のご飯はいつでも美味しい」
「……鋤灼のくせに、いつも良いもの食べてんのっねっ」
「ほんとだな、羨ましーっぜっ」
ほぼ同時に、テーブルの下から伸びてきた2本の足に、蹴たぐられる驗。
環恩に負けず劣らずの大食揃い。食に対するこの執着は、ひょっとしたら、”自動学食”などの一風変わった食事事情も、関係しているのかもしれない。
「痛って! やめろ、こぼすだろっ!」
必死にバランスをとって、なんとかテーブルにお椀をおく驗。
「まったくーーーつか、寒ぃ」
首を縮め、頭の上のネコミミと、幅広の送風口を引っこ抜く。
「そうねぇ、ちょっと冷えてきたわねぇー」
と裸エプロンからエプロンを取ろうとする笹木講師。
「わー姉さん! だめ!」
スタイル抜群の、盛り上がりを隠そうとする、幼児体型。
下にちゃんと着ているとは言え、目に毒だっ! と叫び、クルリとソッポを向く少年×2。
「鋤灼、もうそろそろ良いんじゃねーか? モニタの回路焼き込み? とか言う奴」
「そだな。先生、もう、毛布取っても良い?」
少年達は背を向けたまま確認する。
笹木講師はごつい腕時計で経過時間を確認し、いーよぉを出す。
二人とも環恩の方を見ないように、折り詰めをたぐり寄せる。中を空にし、味噌汁で流し込む。
それをみた禍璃は、何よ勿体ない。こんなに美味しいのにと、大事そうにチビチビと味噌汁を飲んでいる。
「どれ」「っしょ」
作業台へ向かった2人は、同時に毛布を取る。
作業前と何も変わらないモニタをみて、ほっと胸をなで下ろす持ち主。
「よし、ヒビとか入ってねえな」
刀風は、尻尾を付けたまま、再び椅子に座る。
ウリュリュリュっと凄まじく滑らかに、椅子が動く。
驗も、椅子に座るが、床に張り付いたように動かない。
小さいキャタピラにはストッパーの類は付いていない。驗曰く、格安理由の”謎の機構”が働いているらしい。禍璃は、気味悪そうに、OAチェアを睨んでいる。
「じゃぁ、始めましょうかぁ」
立ち上がる笹木講師。
刀風は椅子から立ち上がり、彼女に席を譲る。
「うん、いいねぇ。鋤灼君、コレ結構、張り込んだわねぇ」
一応モニタ型番という物もあるが、大きさから、積層枚数や、デザインなど、様々にカスタマイズするのが当たり前だ。型番が同じでも、性能は、掛ける金額によって、雲泥の差になる。
驗は、積層枚数を最大の64枚にしたことを、ちょっとだけ自慢した。
笹木講師は教室の先生の端末は32枚だよ。良いわねコレェ。とモニタの縁を撫でる。確かに、この部屋のモニタは2枚とも、とても分厚かった。
「えっとねぇー、ちょっと、待ってねぇー」
笹木講師はメガネの両脇のLEDを点灯させた。まるでB級映画のクリーチャー、”悪夢の処刑人”の眼孔が光っているように見える。
パッ。急に室内に明かりが灯る。
「あ、ルフトさん、ありがとう」
驗が椅子を回転させて、ルフトを振り返る。
薄暗くなった為、ルフトが、室内灯を付けたのだ。
「まってまってぇ、ごめぇーん、一旦切ってくれるぅ?」
同じく椅子を回転させ、天井を指さし、振り返る。
ルフトは室内灯を消した。
「”画素”抜けが無いかどうかぁ、最初に一回だけぇ、チェックするから薄暗いくらいでぇ、丁度良いのですよぉ」
「さぁてぇ、とっととぉコンソール開けるようにしてぇ、コウベちゃんと、小鳥をレスキューするわよぉ!」
ボキボキと拳をならす真似をするが、音はしない。
「じゃ、まず、私の使うわねぇ」
と取り出した、オレンジと赤でデザインされた”空間認識用アダプタ”を、モニタのコネクタへ差し込む。
即座に、特別講座中にも使っている、技術者専用の開発者コンソールが立ち上がる。特徴的な明るい赤の地色に、白いロゴが表示された。
驗の話では64枚ある、積層パネルの中を、表示面が物理的階層を沈んでいく。
ピゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥッシュバッ!
最後の一枚にプリントされた光回路が、オレンジの地色に、白線で浮かび上がって直ぐに消えた。
ピロンッ♪
正常起動を表すアラームが鳴る。
「積層面にぃ、”画素”抜けは無しぃ」
驗が安堵の息をもらす。
画面右下に現れた、太めの線で書かれた□、に親指を当てた。
四角がフラッシュして、指を離すと、指紋が取り残される。
四角の中の指紋が消え、四角が下に落ちる。下縁に当たると同時に、左端へすっ飛んでいく。
『□command:_』 シシシシッ。
点滅するカーソルが現れた。
各種アイコンが画面からはみ出る形で多数表示されていく。
アイコンに文字は無く、すべて絵で表現されている。
一見すると、魔術的な文様を象った、呪術的な装置のようにも見える。
「わっ、これ教室の黒板で見たのと同じだ!」
専門機能に特化した、高性能のコンソールが自分の家の端末で、起動したことに、少なからず驗は興奮しているようだった。




