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ワルコフに気をつけない  作者: スサノワ
8:小鳥ファイル解凍

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8:小鳥ファイル解凍その2

2016/05/31 4:37 少し、進みました。ややこしい書き方になってしまっています。よろしくお願いします。

 キュッキュッキュッと音を立てて、階段を上がってきた”ルフト”は、開きっぱなしの扉から驗(シルシ)の部屋の中を覗き込んだ。


 フローリングの6畳部屋の一角に、畳が一枚だけ敷かれ、その上に、寝袋が出しっぱなしになっている。

 壁の一面が収納になっている他は、無骨な作業机が2台並んでいるだけと言う佇(たたず)まい。思春期の少年の部屋にしては簡素と言える。


 寝袋の上に体育座りの女性陣に対し、男性陣は、オフィスチェアに陣取っている。

 オフィスチェアの足にはコロコロしたタイヤでは無く、軸が斜めになった複雑な形状の、小さく平たいキャタピラが5個くっ付いている。新しい特許を使用した製品には、特区指定の割引制度が利用できるため、安く購入することが出来る。

 かくして新入生の部屋は、珍妙なモノであふれることになる。


 鋤灼驗(スキヤキシルシ)は、頭の上からネコミミを生やし、震えたような声を発した。

「ざざぁぶぶぅととぉんー、だだぁししぃままぁすすぅかかぁー?」


 笹木環恩(ササキワオン)は、裸エプロンと言う格好で、開かれた文庫本に指を走らせながら答える。

「コレで良いわよ。キレイみたいだし」

 と寝袋を撫でた。


 文庫本は、本置き台により、床から20センチ浮いた状態で、保持されている。

 その本置き台は、ルフト1/6サイズ(・・・・・・・・・)だ。基本的に、フルサイズのルフトとは独立しているが、いつでも、同期可能で、住人のサポートだけでなく、副系統《サブシステム》として、下宿運用システム保守に一役買っている。


 ちょこまかと動く様が、とてもかわいらしく、環恩(ワオン)の視界に入ると、事態が進まないので、作業(・・)に必要なマニュアルを持ってて貰うことにしたのだ。

 驗(シルシ)の文庫本にDL(ダウンロード)した、マニュアルは、スクランブルが掛けられており、環恩(ワオン)のメガネでしか読むことは(デコード)出来ない。当然、驗(シルシ)達からは、全部の文字が塗りつぶされた、発禁本にしか見えない。


 補足だが、この”電子ペーパー”を数百枚束ねた、『電子ペーパー・ブック(ぶんこぼん)』は、本来、完全ホログラフィー技術の粋(すい)を集めたもので、一度DLした書籍は半永久的に再表示可能だ。

 例外的に無料で”画素表示”出来るが、その演算能力は、電子ブックとしての機能を実現するために必要な最低限に押さえられている。それでも、8量子ビットマシン同等の能力を持つので、ふつうの、旧世代パソコンとして、事務仕事や趣味に使う人も多い。もちろん通常の使用とは言えないので、それなりの手順や、リスクを伴うが、それ自体を趣味(ホビー)としている人も多い。


 笹木禍璃(ササキマガリ)は、制服の上着を脱ぎ、両腕に、肉球付のフサフサ長手袋を付けている。

「鋤灼《スキヤキ》、テーブルくらい無いの?」

 禍璃(マガリ)は足を崩し、上半身を起こす。収納スペースが格納された壁を、しきりに猫手で指す。


 刀風曜次(カタナカゼヨウジ)は、制服の上着を脱ぎ、腰のベルトの後ろから、クネクネ蠢(うごめ)く長い尻尾を生やしている。

 刀風(カタナカゼ)は器用にも、尻尾で、壁面の横木を突っつく。

「そこ、強めに押すと、作り付けのテーブル、飛び出るぞ」


 禍璃(マガリ)が膝立(ひざた)ちで、壁へにじり寄って行く。

 一枚敷かれた畳の大きさからすると、6畳部屋だが、耐震機構付の梁(はり)が渡らせてある下の空間が、多少おまけで広くなっている。その空間に作業机を押し込んでいるので、手狭(てぜま)な感じはしない。


 驗(シルシ)が座る作業机から、伸びた2本のアームの先には、”鏡(・)”が取り付けられている。夕日に染まりつつある紫色の空を写し込んでいるが、陽炎(かげろう)のように蠢(うごめ)いている。

 鏡の表面には、沸騰するお湯の様な、浮かんでは消える泡構造が見て取れ、その激しい斑(むら)に呼応するように、強烈な熱を発していた。


「笹木(ササキ)……環恩(ワオン)サン、階段ノ……入口ニ、コレガ落チテ……イマ……シタ」

 ルフトは、拾った台形(オレンジ色)”を水平に突き出したまま、背中に4人分の荷物を抱え、キュキュキュと歩いて、入ってくる。


「え? うそぉ!? 」

 環恩(ワオン)は脱いだ事務服の上着のポケットを探り、―――あら無い! 危なぁい! 無くす所だったぁ! と慌ててルフトへ駆け寄る。

 よく見れば、環恩(ワオン)は、ブラウスを脱ぎ、キャミソールの上からエプロンを掛けていた。エプロンには『水冷エプロン』と、パイプの中を水が流れていくロゴで描かれている。エプロン生地の表面に浮き出た、迷路のようなモコモコした線(モールド)は、循環水冷パイプの通り道だろう。くび紐に繋がった水冷パイプは、首の後ろの形にフィットした、スプレー缶のようなモノに繋がっている。


 ああっぶぶねねぇー、と驗(シルシ)は環恩(ワオン)に駆け寄る。

 よく見れば、驗(シルシ)の頭に付いた三角形は、ネコミミではなくて、個人用空調装備のエアインテーク(空気取り込み口)であり、首の後ろから、洋服の中へと風を送っている。声がブレているのは、襟元から風が断続的に吹き出すため生じる、空気の疎密のせい。襟元をきっちり閉じて置くか、逆に開けて置けば、声がブレる事は無い。

 環恩(ワオン)は、驗(シルシ)のタイを、引っ張ってギュッと閉める。

 ぶわぶわぶわっ、ごぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ。

「わ、涼しい!」


「こら、鋤灼《スキヤキ》、近づきすぎ!」

 釘を指す禍璃(マガリ)。指を刺すが、猫手では、迫力がない。

「そうだ、俺と代われ」

 尻尾をクネクネさせ、タイを緩(ゆる)める刀風(カタナカゼ)。


「それ、コウベを、圧縮して仕舞(しま)った積層メモリー(やつ)?」

 同級生を無視し、話を続ける驗(シルシ)の宇宙人声が、ふつうの声に戻る。


「そうぅ。『削除反対! 勿体(もったい)ない!』」

 ってしきりにコウベちゃんがぁ、鋤灼(スキヤキ)君の事ぉ、本気で噛むもんだからぁ、つい仕方なくー、”文書化”しちゃったけどぉ、ホントはしたくなかったんですよぉ、とグチるVR専門家。


「仕方ないですよ。もう、腹一杯で食えないのに、『嫌(や)だい、嫌(や)だい、お化け椎茸は全部アタシのだいっ』って、言い張るんだから」

 驗(シルシ)はこうべのマネをしているのか、握った両手をぶんぶんと上下させる。


「そうよね~。あの小(ち)っささで、あんなに、駄々をこねられると、もうカワイくってカワイくって。……お化け椎茸? 盆栽? も、あのままにしとけなかったし……」

 受け取ったオレンジ色の台形(カード)を、文庫本に挟んで、閉じるVR専門家。

 姿を現した1/6のルフトさんをガシリと掴んで抱き上げるVR専門家。

 小さいルフトさんは環恩(ワオン)を見上げ、両目を点滅させる。

「小さいルフトさんが出してくれた、防暑グッズ、結構効いてるわよ。ありがとう」

 AR対応メガネの指向性スピーカーから、出ているらしい声と会話して眼を細めている。


「カワイイモノに執着するの、程々にしないと、その内、大ポカするわよ」

 環恩(ワオン)はテーブルを引き出して設置し、ルフトから荷物を受け取っている。

 その手をよく見ると、毛皮ではなく、放熱効果の有るナノファイバー製長手袋であり、手袋の長いところを折り返しているのは、寒いといって、調節したためだ。


 ウウウウウウウウウゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥュュン!

 熱を発していた、鏡が音を発して、元のコンソール画面へと戻っていく。

 部分的に鏡の部分が円形に残っているので、CGみたいに見える。


「二人とも、今よ!」

 環恩(ワオン)は、妹の小言を無視して、指示を出した。


「はい! よろこんでぇーっ!」

 驗(シルシ)から渡された毛布を、満面の笑みで、鏡へ掛ける刀風(カタナカゼ)。腰(ベルト)から生えた尻尾は、よく見れば、それは、気化熱を利用した、熱中症予防機であり、伸ばすと首筋まで届く。冷却効率500%アップと、ゴミ箱に捨てられたパッケージに、記載されている。背中の動きを読みとって、自在に動くが、それ自体に意味は無い。


 驗(シルシ)も、毛布をもう一つの鏡へ、ばさりと掛けた。

 毛布の中から、ミシミシと何かが収縮するような音が聞こえてくる。


 驗(シルシ)の作業机に付いた、鏡は、積層パネル搭載のTVモニタである。

 演算と表示の両方を、切り替えなしに、平行して出来る、そこそこ性能の良いもので、VRヘッドセットの代わりに使えるようにと、驗(シルシ)が最高に調べ抜いてたどり着いた製品だった。空間認識用アダプタ(ドングル)をモニタに付けるだけで、量子コンピュータにアクセスできる様になる。


 通常の完全ホログラフィー技術による物体表面表示と、モニタへの表示とで、何が違うのかと言えば、個人使用の際に、料金がかかるかかからないかという一点だけだ。”各種座標指定に関する煩雑さ(・・・)が、1番お金がかかる部分”と特別講座”VRエンジン概論(アウトライン)”のテキストにも書かれている。


 今、彼らは、この(・・)驗(シルシ)愛用の、”モニタ端末(・・・・・)”、をVR技術者(ワオン)の持つ、権限の一部を譲渡することで、”開発者コンソール化(・・・・・・・・・)”している真っ最中である。

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