8:小鳥ファイル解凍その1
2016/11/20 22:36 色の表記を統一。
2016/05/27 0:08 整頓。よろしくお願いします。
2016/05/26 11:12 『爆誕』に繋がる所まで来ました。ここまでの25話分を約1万文字で済ませる積もりでした。
よろしくお願いします。
「オカエリナサイ……マセ」
玄関の引き戸が僅かに開いていて、床から1メートルくらいの所から、角張った頭らしき物が、飛び出している。
その頭は、ロボット然としており、……どこから見てもロボットだった。
隠れるように体を引っ込めたまま、驗達を、じっと見ている。
ちょっと見える、サッシに掛けた手が、いじらしさのようなモノを演出していた。
「うん。ただいま~」
鋤灼驗は、にこやかに応答する。
鋤灼驗御一行様を、まず出迎えたのは、玄関サッシのすぐ横に打ち付けられてる、『The下宿』と書かれた小さな板張りの看板だった。そう、ココは驗少年が、絶賛間借り中の、特区立ターミナル学園βの指定施設、『The下宿』だ。
月額、3万円の破格のお値段。さらに各種経費無料の上に、3食付きで、頼めば弁当にもしてくれる。至れり尽くせりの、驗にはうってつけの物件だった。
驗の声を聞き、安心したのか、ロボットは何度か左右を確認した後、キュッキュッキュと音を立てて、玄関の外まで出て来た。
目の覚めるようなマリン・ブルーを基調とした、先鋭的なフォルム。
武装こそされていないが、武装を取り付けるアタッチメントプラグが、多数設置されている為、戦闘的なイメージを想起させる。
手首と膝に、エアインテーク。取り込んだ空気を爆発させ排出する終端部分、つまり、肱と踵に付いたカウル一体型のエンジンノズル。
一般的な印象からすれば、どんな相手にも、勇猛果敢に突撃しそうな、”超高速戦闘型”なイメージと言えよう。
だが、彼もしくは彼女は、どうも、そういう人格設計では無いようだった。
「オ客サマ……デスカ?」
発声自体は流暢だが、どこか辿々しい合成音声。
「学校の友達と、特別講師の先生、あと今日は、晩ご飯いらないよ」
驗は、丁寧な言葉を返して、折り詰めを抱えたまま、カートを指さす。
ちょっと前に、アミューズメント系の施設で、似たようなロボットを見たことがあると、刀風曜次。
へー、と相づちを打つ笹木禍璃。
笹木環恩特別講師は、ロボットの頭上の突起や、脚部のトルクホイールの動きに注目している。
「コレハ、”飯櫃2号《Type2》”ノ、折リ詰メ……デスネ」
青い人型は、折り詰めに巻かれた、アジュール・ブルーの包み紙を指さす。
「うん。そう。沢山あるから、1階の人達にも、良かったらお裾分けしたいんだけど……」
「ピピッ♪ 賞味期限ハ、……アト1時間27分……デス」
「えぇ? そんなの分かるのぉ? へぇー、さぁすが、”メイドイン特区”のぉ家ロボねぇ、良いスマートセンサ使ってるぅー」
と興味津々の笹木特別講師。白焚女史との会話で、マシンOSへの興味が湧いたのかもしれない。
「イエ、包装紙ノ隅ニ、デジタル表示サレテイマス」
えっ? そーなのう? なぁんだ、とまるで、10年来の友人のように会話をしている笹木特別講師。
『賞味期限切れまで―――01h26s』白い点描で印字された数字が一つ減る。
そして、『The下宿』の管理ロボ、『ルフト』さんですと、驗は、一同に紹介した。
「初メマ……シテ、”ルフト”デ……ス。以後オ見知リ……置キ……ヲ」
「あらどうも、ご丁寧に。笹木環恩です。学園βの特別講師をしています」ぺこりと一礼する先生。
「先生、ウチのルフトさん、見たら飛びかかるんじゃないかと思ってたんだけど……」
「鋤灼君は失礼ですねぇ。私にだってぇ、節操ぉと言うモノが、ちゃんとありまぁーす」
ぶるんっと胸を張る笹木講師。驗は瞬間的に首を禍璃の平たい所へ向け凝視する。笹木講師から目を離せずにダラシナイ顔を見せる刀風。
笹木禍璃は、一瞬考えた後、二人共、張り倒した。
「アナタの事がぁ、気に入らないと言う訳じゃぁ、無いんですよぉ」
中腰になって、”ルフト”の頭部をぺたぺたと触りながら語りかける笹木講師。
「むしろ、この、かわいらしい性格の上、サイズまで小っさめだったら、先生もう……ダメ……だったかもしれませんが」
若干震える指先から、現段階で、多少耐えている様が見れる。
「姉さん、……本っ当に、小っさカワイイものに、メガNASA杉~」
禍璃が、どうでも良さそうに、言う。
大好きな姉の事とは言え、こう、日常的に、猫やフィギュアやカワイイ物にすっ飛んで行かれると、いちいち相手にしていては身が持たないのだろう。
「小サメノ……サイズ? 1/6サイズノ……小型端末機ナラ、ヒト部屋ニ……1体ズツ配備サレテ……オリマスガ?」
ああっ! ルフトさん! 余計なことをっ!! 慌てる驗。
「え? どういう事ぉ? ちっさいルフゥトさぁん居るの? しかも動くのぉ? さぁ、早くぅ鋤灼君のお部屋ぁ、拝見させて頂きましょぉ!」
むぎゅぎゅ、すぽーん、ズダダダダダッ!
玄関横の、2階直通の入り口の前で、パンプスを一瞬で脱ぎ捨て、手すりも使わずに急な階段を登って行ってしまう笹木講師。4個の折り詰めを抱えたままでだ。2階の唯一の住人である驗でさえ、狭い階段入り口で折り詰めを落とさずに靴を脱ぐだけで一苦労だというのに。
放り投げられたローズレッドのパンプスは、磁石が付いているのか空中で合体し、ゴツゴツとキッチリと揃えたように着地した。
じゃ、コレ置いたら、スグ降りてくるよ、と言い残し、慎重な足取りで驗は階段を登っていく。
カートを操作し、玄関先へ横付けする刀風と、コミューターから全員の荷物を取り出して玄関先に並べていく禍璃。
ごめんなさい、……玄関先、お借りします。と辿々しく会話する禍璃。自動機械群とは別の、キャラクタを有する人型ロボットと触れ合うことなんて無かったのだから当然だろう。
日常と化した驗は別としても、笹木環恩のフレンドリーさの方が異質なのだ。
「……じゃあどうすっかな? えっと、俺たちは一人4っつが良いとこダロって話してたんだけどよ」
笹ちゃんと驗の分は、もう2階に自分で持って行ったから、俺たちの分8個貰うとして、残り……12個くらいか、とルフトに告げる刀風。
カートに12個残し、8個全部を抱える。
「おい、早く上に行かなくていいのか?」
「え? 何が? 早く荷物下ろしてコミューター解約しないと、チャーター料金加算されちゃうじゃない」
「……そうだけど、笹ちゃんと、驗を二人っきりにしていいのかっつってんだが?」
「もーー、なに言ってんの。―――もっと早く言いなさいよっ! 超バカッ!」
「姉さーん!」とスッ飛んでいく、幼児体型にして、威風堂々とした立ち振る舞いでおなじみの”笹木<妹>禍璃”。
禍璃は、姉と同じフォームでローファーを脱ぎ捨てる。
おらぁぁぁぁ! ズダダダダダッ! っと急勾配を駆け上っていく。
ローファーは環恩のパンプスと同じ放物線を描き、裏返しに落ちた。
「はぁ。それで、コレ、貰ってくれる当てが有るっぽいこと、鋤灼が言ってたけど……!?」
『賞味期限切れまで―――01h22s』白い点描で印字された数字はどんどん減っていく。
「わーっ! 先生っ! ダメだって! そんな強くしたらぁ! こ、壊れちゃうだろっ! あっはぁーっ」
2階から驗の気色の良くない声が聞こえてくる。刀風は、「どうせ、小さい何か見つけて、笹ちゃんがまた、暴走してるだけだろ……」
と高を括っている。
「いいじゃないのいいじゃないの!」「だめだってばぁぁぁん。はあぁぁぁぁん!」
ドタバタと忙しなく、気色の良くない喧噪が続く。
「なにバカやってんだか……」
抱えていた折り詰めを、一端カートへ戻し、コミューターから学園指定のスポーツバッグを取り出してる。
禍璃が途中で放り出した、荷物出しを引き継ぐイケメンだったが……。
「ね、姉さん! なんて格好してるのっ!? もっと慎みって物を―――」
という禍璃の声が、直上から飛び込むに至り―――
うおぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!
驗の1・5倍はありそうな、長いコンパスを使って、一瞬で階段に消える筋骨隆々。
荷物のすべてを玄関に降ろし終わって、空っぽになっていたコミューター。
開いたシートの中を確認し、パタンと閉めるルフト。
手には紐の付いたP・B・C。
「「ピンポーン♪ 御利用誠ニ有り難う御座イマシタ」」
2台の発音タイミングがズレたため、いつまでも終わらないかのように聞こえる。
ループしている様に聞こえた挨拶がやがて終わり、2台の長いすは、ウリュリュリュと、独りでに去っていく。
此処がハイテク満載のVR特区でなかったら、その、若干不気味な光景に、新たな都市伝説が誕生していたことだろう。
ルフトは階段の前に何かが落ちているのに気が付く。
ルフトは紐の付いたP・B・Cを他の荷物の上に置き、階段の前へ行く。
ルフトの左目がチカチカと明滅を繰り返している。
「あはははははははははははっ! 鋤灼ぃ! バッッカじゃん! アファファファファファファファファファッ!」
ドカンガタン!
2階から、”悪ふざけ”にイケメン参戦の狼煙。
狼煙直下の、荷物がぐらりと倒れ、P・B・Cが転がり落ち、スイッチが入る。P・B・Cから茶色の盆栽が、ビュワッと飛び出した。
ルフトはオレンジ色で台形のカードのような物を手にしている。
ルフトはその台形を読み上げる。
「顧問:笹木環恩殿―――私は『VRエンジン研究部』に入部したく此処に届け出いたします。」
台形をじっと眺めるルフト。
「―――鳥ノ……絵?」
台形を更に繁々と眺めるルフト。
「―――Warkov?」
台形を透視するかのごとく見つめるルフト。
「―――牙ヲ剥ク……怪人ノ……絵?」
ルフトは台形を下駄箱の上に置き、その横に設置してある、最新型の黒電話に手をかけた。




