6・5・7:ワルコフ対自動屋台7
2016/05/24 2:57 6・5・8が多く成りすぎたので、末尾に少し、ソレを分けました。よろしくお願いします。
2016/05/22 15:36 難航。章立ての番号を修正しました。よろしくお願いします。6・5・8はこの後スグ投稿します。よろしくお願いします。
「シタラキルウイさん……?」
名刺を受け取った先生が、書かれた名前を読み上げる。
「……フリガナ、でかっ!」
横から覗き込んでる禍璃が感想を漏らす。
俺も見た。確かに、フリガナが漢字の倍のでかさだ。
「よく言われます」
白焚女史は掛けてもない眼鏡を、指で持ち上げる仕草をする。
この”出てない涎を、袖で拭いたり”する類の、一連のコネタは、VR特区内でのお約束みたいなもんだ。
何もないところで、様々なジェスチャーに興じる、VR特区ならではの、文化と言っても良いかもしれない。滞在3日で容認、一週間も居れば、自然に、ついやってしまう。
カッカカカッ!
ハイ・プラスチック製の地面を踏み抜いたヒールが、ステップを踏んで華麗にターン。腰に手を当て―――
「立ちなさい。”飯櫃2型”」
そして、それほど流暢でもない英語で、命令した。これは音声入力の正確さを重視した話し方で、自販機や発券機相手にメンテナンスしてる横を通りかかったときとか、よく聞くヤツだ。初めて聞いたときはちょっと笑ったけど、今はプロの仕事の象徴、いや勲章? みたいなもんだと分かる。
そして、強制終了は日本語で良いのに、強制起動? は英語じゃないとダメなのは、2Dゲー周りのツールも、GUIが立ち上がるまでは英語じゃないとダメっだったりするのに似てると思った。
ビクリと”自動屋台”は立ち上がり、何事もなかったように、即、開店した。グググッガシッウゥンピピピッ♪、6肢にトルクが戻り、グラグラと自分で調整して水平を取り戻す。
「イラッシャイマセ。ゴ注文ハ出来マセンガ、オ任セデ、ディナーメニューを―――」
「今回の件は誠に申し訳有りませんでした。コンソールからの緊急通報を確認次第、駆けつけて良かった。見た目ほど危なくはないんですよ。ほんとですよっ?」
いささか挙動不審に、俺たちに説明する白焚女史。
俺たちは、テーブルから生えてる、穴のあいた傘を広げてみせる。
「そーですよねー。あの”輪投げ”、始めて見たとき、私なんて、”なんて実用兵器なのかしらっ♪” と胸躍らせたものですが。生体には一切効果ないんですよー」
勝手に色めき立ち、すぐさま肩を落とす白焚女史。
なんか、争点っつうか論点っつうか、着眼点が盛大にズレてる気がしたが、タイトスカートをめくって、”ほらさっき輪っかの一個を脛で蹴ったけど、傷一つ無いでしょう?”と太股のあたりまで見せてきた。俺と刀風は一瞬も食い付く事なく、目をそらした。さっき、つい一瞬、反応したからな。あぶないあぶない。
禍璃がこっちを凝視する気配が無くなってから、俺と刀風は視線を戻した。
「つきましては、お詫びといっては何ですが、こちらを、お受け取りください」
白焚女史は、45度、きっかり頭を下げ、ラブレターを渡すかのように、何か差し出してきた。
それは、ちょっと高級な質感の厚紙だった。
「そうは言っても、お預かりしている生徒たちに、もしもの事があったりしたら、ましてやリファレンスにも載ってないバト……」
と先生はそこまで言って何か思い当たったようで、素早く眼鏡を掛けた。周囲を見回し、一瞬たじろぎ、俺たち三人を振り返る。眼鏡を流れるような動作ではずし、人差し指を口に当て「しぃーっ」をした。そして、またすぐ、白焚女史へ向き直る。
なんだ!? 特別講座初日に遅刻して、代理講師の背後の換気窓からコソコソと入ってきた時のジェスチャーそのままだ。
俺は、だらしない顔で「しぃーっ」してる刀風と、ソレをウザそうに肘でツツく禍璃に目配せする。ここは先生に倣おうぜ。二人も、”了承”の目配せを返す。
先生は、人数分の高級そうな厚紙を素早く受け取り、「―――お、お預かりしている生徒たちがぁ……、無茶な注文の仕方をしたせいかもしれませんしねぇー」
と態度を爆発的に軟化させた。
当然、俺たちは、特に無茶なんてやってない。やったとしたら、そりゃワルコフだ。
「そう言っていただけると、助かります~」
がばっと起きあがった白焚女史は、そそくさと、”自動屋台”に近寄り、肢の一本をショートブーツのつま先で蹴飛ばしながら命令する。
「調理中の料理の中で、ほぼ出来てるものを急いで、調理完了して、お持ち帰りにしなさいっ」
ガチャガチャ、ガララン、ゴトゴト、ガサガサ、クルクル、パチン。
白焚女史は、あら、何か処理が遅い? といぶかしんでいる。”自動屋台”の脚を今度は尖ったヒールで蹴って急かす。足癖悪いな。
チャカチャカ、ガサガサ、クルクル、パチン。
お、手際が良くなった。目に見えて早い。
”自動屋台”と同じ色の包装紙に包まれ、輪ゴムで留められていく、高級折り詰め。
先生は、あらぁ、いいわね、いいわねと上機嫌だ。
どんどん積みあがっていく、折り詰め。蓋する前の中身が、ちらっと見えたが、実勢価格1万円はしそう。今4個目が、天板に置かれた。まだまだ出てきそうだ。
特区近郊の食糧備蓄を賄う為のシステムで、尚かつ廃棄ゼロを謳ってる以上は、調理に入っちゃった分は、全部、出しちゃうしか無いのかもしれないけど、こんなに食べきれるか?
”自動屋台”の情報は、基本的に、ほぼすべて特区外秘で、ソコソコ重要な機密だらけ、と言って良い。
えっと、なんだっけ、確か、音響冷蔵の功罪で、”新鮮な食材が、生のまま3年は保存できるけど、調理したら、2時間以内に食べないと急激に味が落ちる”。
調理にも、最新技術が不必要な程、使われてて、分子構造改変を駆使した無刀切断や、音響調理法なんてのも有るらしい。
自動機械群システム管理者はすかさず、別の厚紙みたいなのを差し出す。厚紙はA4位は有って、あの細いシルエットの、どこに隠されてたのか、さっぱり分からねえ。
でも、特徴的な明るい赤の地色に、白色で書かれた、あの文面の内容は、読まなくても分かる。”今回の情報を、特区外へ漏洩しないことを条件に、特区内に限り、様々な便宜をはかりますよ”っていうアレだ。
特区内に半年住めば、いや、住んでなくても、一年通えば、必ず一度は、どこかで『了承』ボタン押させられる。厚紙に書いてあるボタンを押すと、画素表示技術で即座に量子データセンター内の担当プログラムが受理するっていう見慣れた風景だ。
特区外では絶対にお目にかかれない、試験運用中の魔法みたいな最新テクノロジーが間近にゴロゴロしてるんだから、ココに居る以上はやむなしだ。
「こんな、カスタマーサポートっていうか、対外折衝みたいな事に、システム管理部署の人間が直接来るものかしら」
禍璃が、顎に拳を当てて、ぼそっと確信を突く。
深刻な口調は海外ドラマの、吹き替えみたいに聞こえる。
「にーしーろー……そうだな」
刀風は、詰み上がってく高級折り詰めを遠間で数えるのをやめて
「あの緊急事態を、蹴飛ばせる人材が一人とは思えねえ。管理者なんて重要なポストが出張ってくるのはちょっと不自然っちゃ不自然かもな」
と、小声で、コレ又、確信を突く。
刀風まで、どうした、なんか、カッコイイぞ。
俺は、気になってた、白焚女史の見覚えの確認をとる事にする。
「それなんだけどな」俺は手を口元に当て、ヒソヒソ話しかけた。
「何だよ、顔、近ぇよ……」
「いいから、あの顔、よーっく見てみろ。見覚え有るだろ?」
俺は眼と顔で白焚女史を指し示す。
「なに、いちゃついてんのよ、キモッ!」
「笹木、茶化すの無しで頼む。マジ緊急」
むっとした顔を俺たちに向けた後で、俺たちを隠すように仁王立ちになる。
俺たちを隠してくれるらしい。
「火の輪っか、蹴っ飛ばした、怖ぇーねーちゃんが、どうした?」
刀風も声のトーンを落とす。
「俺たちが最後に出た大会覚えてるだろ?」
「んあぁ? なんだ突然……又ゲーム始める気になったか!?」
声のトーンを跳ね上げて、色めき立つ。
「声でかいわよ」ぼそっ。
ごん! 禍璃が肩を背後に跳ね上げ、刀風の顎先をヒット!
「いって!」
同時に振り向く、VR専門家と、自動機械群システム管理者。
「な、何でもないわ、姉さん、よしよし」
「よし、ゲームか、そうだな、ゲームやろうな~刀風~よーしよし」
俺と禍璃は揃って、刀風の顎をさすってやる。
「触っんな! 俺ぁ猫かっ!」
青春を謳歌し、じゃれつく若者達を、一瞬眩しそうに眺めた後、すぐに興味をなくす、VR専門家と、自動機械群システム管理者。
テーブルを操作して、”自動屋台”に格納したりしてる。
「なんだよっ、いってーな、で、大会がどうしたって?」
「ゲーマー世界選手権、東京予選で俺たちが負けた相手、覚えてるか?」
「忘れる訳ねえダロ! あの卑怯な永久パターン女! ……ああああっ!?」
再び振り向く、VR専門家と、自動機械群システム管理者。
青春を謳歌し、じゃれつく若者達に、ため息を付き、話に戻る。”自動屋台”は、出来上がった折り詰めをドンドン積み重ねている。
「永久パターン!? そんなの有ったの? あのゲームにムググッ」
禍璃の口を俺と刀風が手で塞ぐ。
三度振り向く、VR専門家と、自動機械群システム管理者。
「禍璃ちゃぁん。モテモテねーっ! 大丈夫、お姉ちゃん、あっち向いてるからねぇー!」
と先生は、白焚女史の腕をとり、”自動屋台”が自分で天板の上に積み上げた、大量の折り詰めを、どうするか相談し始めた。確かにちょっと多すぎる。
「乙女の唇に気安く触れるでないわーーーーーっ!」
張っ倒すっわっよっ! と魔王声で怒鳴りながら、俺と刀風はオデコのあたりを、力いっぱい、平手で叩かれた。




