6・5・8:ワルコフ対自動屋台8
2016/11/20 22:18 色の表記を統一。
2016/05/24 2:43 ちょっと調整したら、文字数が倍になったので、6・5・7と分けました。よろしくお願いします。
2016/05/22 16:33 超難航。ワルコフ爆誕が、見えてきそうな。よろしくお願いします。
俺は、禍璃に引っぱたかれたデコを押さえながら、”自動屋台”の方を確認。
まだ、先生達は、コチラに背を向けている。危なかった。騒ぐなよな-。
先生は、後ろ手に、何度も緩衝エリアの真ん中あたりを指さしている。
「そういやさっき、先生、何か見てたな?」
俺は簡易AR眼鏡を掛けながら、緩衝エリア中央側を、視た。
俺はたじろぎ、尻餅を付いた。「ぶっぐひっ!」変な声が漏れる。
「おい、笹ちゃんに、ちゃんと説明しとけよな。鋤灼は兎も角、俺はお前に興味無えんだからな」
刀風は、叩かれた仕返しも含めてか、禍璃の二の腕をツネったりしてる。
「いった。なんて事すんのよ!」
鬼の形相で、つねり返してる禍璃を見てると、とても笹木環恩特別講師の妹とは思えねえ。
「俺は兎も角って何だよ、俺も笹木に興味無えよ」
俺もヒソヒソ声で抗議する。
「なによ、アンタ達、随分じゃないの! アタシこう見えても結構モテるんですからね」
自分の鳩尾のあたりに、開いた掌を押し当てる。
「わかった。マジになるな。お前らがモテるのは俺が一番よく知ってる」
急に、哀れむような視線を、本気で俺に向けてくる2人。
悔しい。悔しいので、脅かしてやる。
「いいからコレ掛けて、あの辺、真ん中辺り、視てみろ、大声出すなよ」
と、簡易AR眼鏡をクイッと持ち上げてみせる。
刀風もAR眼鏡を掛ける。倣う禍璃。
「ぶわぁムグッ……!?」
「きゃぁムグッ……!?」
2人の口を俺がバッと塞いだ。そのポーズだけ視れば、さながら、突っ込んできた巨大牛の角を掴んで、止めた人だ。
俺も、首だけ振り返り、もう一度視る。それは、ココがVR特区だと言う事を差し引いても、とびきりシュールだった。
目の前に、急に天気が良くなったみたいに、ピーカンの青空が広がって……いや、あれは青空じゃない。ふつう、青空には、『Dinner×Vender』なんて楽しげな文字が、でかでかと横並んでたりしない。
”自動屋台”の筐体側面がそびえ立ってる。幅は何かもう視界いっぱい、高さも電波塔よりも高そう。
その下で、対比的に、とても小さく見える宇宙服が、ちょこまかと何かやってる。あの長い金属棒を突き刺して、おそらく”悪さ”を、してる。
”自動屋台”の脚が見えないところを視ると金属棒で粉砕、じゃなけりゃ、落とし穴、掘ってズドーンと落とした状態なんだろうか?
更に、よく見りゃ、スラスターを噴射し、軽快に動き回るワルコフの背後を付いて回ってるヤツが居る。後ろ髪ツインテの優等生風の美少女が、キョンシーよろしく、カートに乗って直立不動のままフラフラ動き回ってる。
口を押さえた両手を、そっと離し、ちゃんと振り向く。ワルコフに向かって怒鳴ろうと息を吸い込んだトコを―――
「ワぶっ!」
後ろ頭を禍璃にひっぱたかれた。いかん、ワルコフ事になると、どうも我を忘れ気味だ。
データ・ウォッチの表示盤を弾き、パーティーチャットコンソールへ会話を打ち込む。
具体的には手の甲でフリック入力。コレはワルコフの使った、謎ハッキングじゃないから、もし視られても、”部員”以外には見えない。まあ、システム管理者がやろうと思えば視られるだろうが、建前上は、”理論上宇宙最堅牢の暗号通信規格”だ。無いよか100倍イイ。
シルシ :ワルコフ 何やってんだ!
コウベ :あれっ!? シルシだっ!! 生きてる!? キャッホーイ!
ワルコフ:オヤァ? ゴ無事デシタカ!? ソレハ僥倖!
シルシ :そんなのどうでも良いから! 何やってんだよ!?
ワルコフ:モチロン、部員ノミナサマノ、弔イ仮想電子戦デスガ? 何カ?
シルシ :今すぐ止めろ!
ワルコフ:ソウ言ワレマシテモ、現在、バトルレンダ、再スタートシタバカリデ、モッタイナイデスワ
シルシ :多分、ブレたキャラ作りなんて、やってる場合じゃねえぞ!
ワルコフもコウベも、瞬時に、全文送信してくるから、俺だけチャットに慣れてない人みたいになってる。
俺の眼前に表示中の、パーティーチャットログを、刀風と禍璃も、顔を付き合わせるほどの近くで視てる。自分でパーティーチャットコンソール開けよって思ったけど、言ってる暇がねえ。
この状況、恐らく、どう、都合良く解釈しても、システム管理者サイドから見て、喜ばしい光景じゃ無ぇー!
ワルコフは、気ままに、金属棒を、バックパックから取り外して2刀流とかやって、ふざけてる。こうしてる間にも、白焚女史、もとい、システム管理者に見つかるっつうの!
「では、そろそろ、お暇しなくちゃ」
対外向けの、よそ行きだとしても、白焚女史の優しげな声が逆に恐怖を駆り立てる。
カツカツン!
背後でヒールが振り向く気配! もう、運に天を任せるしか無ぇー!
スススス。俺は一文入力して振り返った!
シルシ :シスアド来てる
500円ショップで売ってる、板っぺらみたいな、ちょっとコミカルすぎる、簡易タイプのARグラスをお揃いで掛け、中腰のまま膝をそろえて振り返る、若者三人組。この様は、加工無しで、コミックバンドか、ロボットダンスチームの宣材写真に使えると思う。
青春を謳歌し、じゃれつく若者達を、一瞬怪訝そうに眺めた後、すぐに興味をもつ、VR専門家と、自動機械群システム管理者。
「なあにソレ? 今、流行ってるのかしら? うふふふふ」
俺と刀風から見れば仇敵だが、向こうは大人だ。
俺たちは焦燥と諦観が同時に押し寄せる複雑な感情に押しつぶされる。
微動だにできず、不甲斐ない。けど有る意味、それが功を奏した。
「なぁにぃ君たちぃ? おバカみたいよぉ? ぷははぁー!」
ああ、もう先生め。さっき、自分で、”ワルコフのワルさ”を見て慌ててた癖に。
自分で、こっちに丸投げしといて、フォロー無しか。つか、本気で、ほんの一瞬前の事、忘れてそうだなおい!
ふと、何かに気づいたように、空を眺めヘッドセットに手を当てる、白焚女史。
「「「ああっ!」」」
白焚女史は非常にもヘッドセットの、ARボタンらしき物を押した。流石に俺たちの挙動で、なにか不振に思ったのかもしれない。
いや、レンズっつか、ガラス部分が出てないし、単にヘッドセットのモードを切り替えただけかも―――
一瞬の沈黙。
「な、なあに!? コレは一体何なの!?」
叫ぶ白焚女史。
レンズとか、ガラスとか飛び出てないけど視えてるっぽい。最先端の技術を惜しげも無く使ってるんだろう。先生の魔女帽子のバイザーも視界全部を覆ってるわけじゃ無いモンな。
「このでっかいの、どう言うことなのー!?」
叫ぶ白焚女史。
終わった。コレは怒られたあげく、問いつめられるままに、コウベ登場の件から、長々と説明するしかねえなー。
俺は、諦め、両脇のクラスメイトと、大きな溜息をついた。
「君たち、イイね! 造形はまだまだだけど、このウネリと、逆に枯れてない感じ!」
「は? ほめられてる?」と禍璃。
「何かそう聞こえるな」と刀風。
3人揃って、振り返ってた上半身を、元に戻す。
眼前には、なんか、養分を吸われたように、つぶれて小さくなってる”自動屋台”。
小さいって言っても、小振りの体育館くらいはありそうだけど。
表面が萎びて、そういう模様の平たい器みたいに見える。とても、あれが”ディナー×ベンダー”のディープ・コピー》”だとは気づかねえだろう。
そして、その鉢に生けられているのは、巨大な巨大な椎茸だ。
大きくなりすぎたせいか、所々ほつれるように、枝分かれしてて、作りの雑な、松の木のように見えないこともない。
何かほんと、盆栽みてぇ。あの曲がり具合なんて、ちょうど俺たちの今のポーズそっくりだ……し―――。あ。3人揃って、再び、振り返る。
「そして何より、この、身を挺した、体現」
偶然、いやんいやんのポーズのまま固まって、くっつき有っただけの俺たちを、指さす女史。イイね♪ イイね♪ イイね♪ ぽん、ぽん、ぽんと、満面の笑みで、肩をたたかれた。
「先生! 実におもしろ……いえ、有望な生徒さん達ですね」
「常日頃からのぉ、私のぉ教育のぉ賜ですぅ」
あれか! 良く、公園でやってる、AR技術を使った大道芸とか、創作ダンスみたいなモノだと思ったのか。つか、ワルコフめ、とっさに”自動屋台の全養分(?)を使って、謎椎茸を、促成いや、即製栽培しやがった。
どっと冷や汗が流れる。
君たちにも名刺をあげよう、と言って懐から、アジュール・ブルーの地色に、白い文字の書かれたカードを取り出す。さっき、先生が貰ってたのと同じヤツだ。
禍璃と刀風、そして俺にも、それぞれに、作法に則り両手で、丁寧に手渡してくる。
あれ? これ、くっついてたのか2枚ある。
「あの、これ2枚―――」
返そうと思ったが、女史はさっさと、”自動屋台”の縁に、ぴょんと飛び乗ってしまった。ま、いっか。大して重要な物でも無いだろうし、有り難く2枚貰っとこう。
「シルシー! 良いの持ってんじゃん! くれっ!」
いつの間にか、スグ側に来てた、”PBC” の乗った ”簡易給仕ロボ”。
俺は慌ててカートの腕から、”PBC”を引っぺがした。
野良NPCくらい、特に問題ないだろうけど、なんか、”永久パターン”の事もあって、一応用心しとこうと思ったのだ。後ろ手に隠し、角張った瓶に付いたスイッチを切った。
「何だよー! ドケチか―――」ブツッ。
何か言ってたけど、ちゃんと切れた。因みに、切断中も、制限は有る物の、AR、又はVR空間内部で、連続性を保ってるはず。接続先が無くても数日は、自身のPBC保有の僅かな画素だけで保つはず。
「もし又、自動機械群が、ヤンチャした時は、機械に向かって、名刺を提示してください。最優先で、その自動機械に、”特権発動し”ますので」
なんか、聴き方によっては物騒なことを、自動屋台の上から言ってくる。
「あら、”簡易給仕ロボ”ソコにあったのね。それ、邪魔じゃ無ければ、差し上げますよ。折り詰め運ぶのに使って下さい。非暗号回線で、操作できますので」
よし、女史はコウベに気づいてない。
「え? 助かるぅ。じゃぁ、有り難く頂きまぁす」
”自動屋台”の天板の上の最高級折り詰めを、持てるだけ抱えて、”簡易給仕ロボ”に移す先生。
俺たちも慌てて、手伝う。
「飯櫃2号、お手伝いして。保守課の分と合わせて8個、頂いていきます」
先生と分け方を決めてあったんだろう。”自動屋台”は、産業用ロボットの様にアームを動かし、女史の近くに積み上げる。
俺たちが、”簡易給仕ロボ”へ、積めるだけ積む。全員手にも数個ずつ持って、ようやく天板上の最高級折り詰めが無くなった。
「では、本日はコレで失礼いたします。先生、今度、飲みに行きましょう」
ガシッウゥンピピピッ♪、6肢が自分で水平を取り、自動屋台はゆっくりと歩き出す。
なんか、ラクダみたいねと禍璃が、又、言い得て妙な事をつぶやく。
「はい是非~♪ では、こんなに沢山、ご馳走様です~」
先生が両手に抱える、最高級折り詰めは4個。上機嫌である。
俺たちも、先生に習って、手に抱えた最高級折り詰めをチョット持ち上げ、「「「ご馳走様です~」」」と挨拶した。
”簡易給仕ロボ”には、数え切れない程、山積みだ。先生が何故かゴム紐を持ってなかったら、とても乗せきれなかっただろって、くらいの山積み。
先生も給料日前に、身銭を切らんで済んだし、そこそこ良かった気もしてくる。
と言う事で、取りあえずの問題は、どうやって食べきるかって事を除けば、たった一つだけだ。
「いくよ! 飯櫃2号」
白焚女史は、まるでラクダのように”自動屋台”に乗ったまま、モールドから迫り上がった両開きの扉の中へ入ってく。
バタン、ピンポォン♪
ガチンガチンガチンガッチィン。ズゴゴゴゴッゴ、ガッシイイィイィン!
モールドが、溶けるように沈み込んで、元の平坦になるのを待ってから、俺は叫んだ。
「ワァルゥコォフゥ! どこだぁー!」
シィィィィィィィィィィィィィィィィィン!
さっきまでの騒々しさと比べると静かすぎて耳が痛ぇ!
くそっ! ワルコフの野郎め! 逃げやがった!
「管理者怖い怖いって言って、どっか行った」
んコウベ? どうやって確認用の電源入れやがった!?
ベルトに下げた”PBC”が無えので、振り返ると、先生が片手で折り詰めを持ち、片手で、”PBC”を持ってた。
「ひとまずはぁ、無事難局を乗り切りましたぁ、後はアレをどうにかすればぁ、今度こそぉ、作戦終了でぇす」
最高級折り詰めの山を抱えた俺たちの前には、巨大な巨大な椎茸が曲がるように聳え立っている。……どうすんだコレ。




