6・5・5:ワルコフ対自動屋台5
2016/05/14 8:31 長すぎたので調節して7・5・6に分けました。
2016/05/13 17:58 難航中。よろしくお願いします。
ギュワァーーーーン!
俺の足下の2重丸が、水滴が起こした波のように広がってく。
すぐに何倍もの大きさになり、周囲の2重丸を押しやる。
ガシガシガシンと小刻みで素早い動きで、こっちに正対する自動屋台。
なんかおっかねえ! けど……も、問題無いはずっ。
自動機械の頭脳は、正式な作法で基幹フレームからローカライズされた特注品だ。
大規模な実験設備運用及び、特区都市の希少なログを継続するために、通常の数十倍の災害対策がなされてるからぁ、とーってもぉ安全ですぅって先生言ってたし。
ココに住んでる俺たちや、日帰りの客の安全を、最優先で考えてサービスを提供してくれているはず―――。
『ごく一部の”自動機械”の、利便性を全く無視した遭遇率の低さは、安全に遠因する』って、難しい言葉で、特区の取説に書いてあったはず―――。
つまり、”自動屋台”は安心・安全を体現してるはず―――。
「プレイヤー、スキヤキ・シルシ、ヲ、カテゴリ3ノ驚異ト認定シマシタ」
近くに居る、”自動屋台”から合成音声が出た。
パパーン♪
あれ? 小さくファンファーレ鳴った? あれ? これ褒められてる?
「プ、プレイヤーって何の!? カテゴリ3って、な、なんだっ!?」
俺は、震えた声を絞り出す。
『処理中ニ付キ、オ答エ出来マセン。―――バトルレンダ起動』
轟く合成音声。
「また、不穏な響きの宣言がぁっ!」
戦慄く先生。ばとるれんだぁってなぁにぃ? 聞いたことないしぃー! そんなの、取説のドコにも載ってないしぃーと、取り乱す。テーブルへ戻り、コップをあおるが、黄金色の液体は、もう無いっぽい。ひっくり返したコップを舌で突っついてる。
刀風は見ないふりをしている。刀風偉いな。
姉さん落ち着いて、コレでも飲んでと、禍璃は、ドリンクサーバーからオレンジジュースを注いでいる。つまり、今まさに、なんか起動中の自動屋台にピッタリより沿って注いでる。なんつー豪胆さだ。
『目標、プレイヤー、スキヤキシルシ、目的、VR兵装の無力化』
轟く合成音声。
あ、これ駄目なやつだ。狙われてんだから、俺も危ねぇけど、禍璃! ゼロ距離で何やってんだ。何でオマエ、自分の分まで注いだりしてんだ。
キュルルルルッガシャッパリーンガララッ!
ひっ掴もうと思った、その手を、刀風がさらっていく。
片手で携帯ゲーム機を操作しテーブルを旋回。空いた手で禍璃を引っ張り、テーブルに付いたイスに登らせてる。先生も振り落とされないよう天板の縁にしがみついている。スピードは出ていないが、旋回速度は中々あるっぽい。
禍璃の落とした、底と縁だけドジャー・ブルーな、透明コップが、旋回したテーブルに蹴飛ばされ転がってく。
「鋤灼も乗れっ!」
カッケー! 刀風、マジ、カッケー!
俺たちの足下は、普通のハイ・プラスチックの地面だ。
俺たちを遠間で囲む大きな2重丸の外側には小さい2重丸が無数に敷き詰められてる。この白線は、透けない”完全ホログラフィー”の技術を転用したモノだ。初めて見た時、ものすごく驚いたけど、1週間で慣れた。地下都市空間やその直上都市周辺で死角無く投射できるらしい。
◎
◉ フッ
「っきゃ」「わっ」「ぎゃっ」「んなっ」
その大きな2重丸に囲まれたアスファルトが消える。
2重丸の内側の丸が、塗りつぶされたのだ。眩しいくらいに真っ白だ。
俺はテーブルに向かう足を緩め、上半身を捻って振り返る。
>> ビビッ! ”自動屋台”の表示板に何か出た。
ぎゅちっ! 止まっていた2重丸はさらに膨張。
>>>>>>>> ビビビビビビッ! それは音量を示す断続的なバー表示に似てて、いきなり最大になる。
くるくるーぎゅるるん! バー表示が猛スピードで回転し出す。なんだこれ?
”自動屋台”は微動だにしない。
地面の表示も変化なし? いや、周囲のちいさい2重丸が時計回りに、そのさらに外のが反時計回りにゆっくりと旋回し出す。
「今のうちに来い! 皿すてろバカッ!」
見ると、少し遠ざかってるテーブルから、刀風が手を伸ばしてる。
俺は未だに”地鶏の丸焼き”を後生大事に抱えてる。
「えーっ! これ、店で食べたら、1万円くらいすんじゃね?」
「じゃ、持ってこい!」「そうする!」
ひゅっ! 足下のでかい白丸が、縮んだ。なんだよ次から次へと。
俺がまた振り向くと、白丸は”自動屋台”の下へ吸い込まれてスポッと隠れた。「きめぇ」「キモ」「広範囲描画は難しいのに~」
口々に感想を述べるテーブル組。
空いた余白に、なだれ込むように、小さい2重丸が入り込んでくる。
ナンカやばい? 俺はドタドタと加速し、テーブルに皿を叩き付けるように置いた。そして距離の空いたテーブルへ向かって再加速し、何とかイスへ飛び乗った。
振り返ると”表示板”の中央からオレンジ色の●が膨張―――
再び一気に押しやられた周囲の丸は、逃げ場を求め、事も有ろうに、バキバキと平面から飛び出した!
「んなっ」禍璃は頭上を見上げ、刀風は、驚愕の表情のまま舵を切り、先生は俺と一緒に皿をしっかりと押さえている。皿は深さがあるので、皿から中身が転げ落ちたりしないのが救いだ。
跳ね上がった輪の『太さ』は俺の顔の横幅くらいか。見上げるほどの頭上で、直径1メートル位の2重円がバラけ、ゆっくりと降ってくる。
あれ? なんで、何で平面に表示された画素が、消えずに飛び出してくるんだ!?
俺、ダイブ中だっけ? いや違う。簡易AR眼鏡すらかけてねえし。
「先生っ! 何で、ハイ・プラスチックの地面に投射されてるだけの光の粒子が―――」
”悩んでます。先生は悩んでますよ”と言わんばかりの、藪睨み。
―――今の状況すべてがイレギュラーっぽいことは理解できた。
刀風は、そんな藪睨み、ですら、愛しく感じるようで、チラチラと気にしながら、テーブルを操作してる。
ちょっとウゼェ、と思ったら、案の定、テーブルの下で禍璃に蹴られたらしく、「痛っ、蹴るな、危ねー」と抗議してる。
テーブルに付いたタイヤはとても小さなもので、旋回に特化しているため、直進性が弱い。
時にはスイッチバックの要領で、時には切り返したまま一回転したりして、器用に走らせている。走った方が早いかと思うくらいだけど、緩衝エリアは結構広く、全力疾走では、止まった時に追いつかれないとも限らない。
俺は、危なくないんだとしても、なにか武器がほしいと思い、テーブルの横とかさすってみる。
取っ手があったので引いてみると、トングが二つ引き出され、取り出しやすく、ぶら下がった状態になる。ソレを「刀風、これっ」と渡そうとしたら、禍璃に奪われた。
「じゃ、オマエ、ちゃんと、たたき落とせよ」と、頭上1メートルになった”輪”をトングで指す。
まかしときなさいと振り回してみせる禍璃。
「危ねえ!」食材を掴むだけの、小さなモンだけど当たれば怪我する。
先生はそんな俺たちを見て、「そうね、悩んでたってしょうが無いよねぇ、出来る事しましょー」と、掴んでいたポールに付いた大きなパラソルを開く。
お、こりゃいい。と思ったのも束の間。
かなり分厚い合成生地で出来ているにも関わらず、すぱりとスリットをあけ白い輪は難なく進入してくる。
めちゃくちゃ振り回した禍璃の活躍で、何とか、飛び込んできた輪を粉砕した。
だめだ視界が遮られる分、よけい危ねえ。
「先生、コレ駄目だ、畳んでっ」「はぁーい」
地面に落ちた輪は、接触と同時に、粉砕され、消えてる。
フオオオォォォォォォン!
うらっ! シャリンッ!
えいっ! シャリンッ!
次々に、跳ね上げられ飛来する、白い輪を俺と禍璃が、粉砕していく。
なんつったっけ、こういう武器有ったよな。
水平に切った薄切りのタマネギみてえな―――
俺は刀風が喰ってたイカ&オニオンリングを思い出した。
やっぱり普通サイズの海鮮丼一人前だけじゃ、朝からの空腹は押さえきれねー。
この、白い輪っか、壊れて、丸焼きにかかっちゃったら、食べられなくなったりしそうだなぁ。せめて、一口だけでも―――
片手で押さえた、皿に乗った”地鶏の丸焼き”に、齧り付く。
ガブリ。旨ぇ! 炭火の香ばしさと、皮に擦り込まれたスパイスのハーモニー。レモンみたいな香りもして―――
シュルルルルッ! ちょうど俺の頭があったあたりをかすめて、薄っぺらの輪が落ちていった。
「はっふへー」モギュモギュリ。
後ろを見れば”自動屋台”が、滑るようにこっちを追従してる。向こうは、時々、角度を変える度に停止してるから、このままなら追い付かれることはなさそうだ。……けど足下でオレンジ色の●が、でかくなったり小さくなって引っ込んだりしてて、不気味っつうか……怖ぇな。




