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ワルコフに気をつけない  作者: スサノワ
16:底と、トグルオーガたち

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118/153

3:驗(シルシ)とプロトタイプ(巨大おはぎ) その2

2017/01/21 9:03 細部を整えました。

2017/01/20 4:09 少し整えました。

2017/01/19 13:20 やや暫定ですが。ようやく、当初やろうとしていたことに、差し掛かりました。よろしくお願いします。

「もしもし? 先生?」

 ガチャ♪ 驗(シルシ)の腕に巻かれた、データウォッチが、VR空間内部(接続先)との通話開始音を伝えてくる。

 彼は以前、安物と言ったが、十分なVR・AR対応の機能を有しているようだ。もちろん、環恩(ワオン)や、歌色(カイロ)の持つ、ゴツい腕時計型デバイスほどの超高性能ではないが。


「もしもし? 先生ー?」

 もう一度、声をかけながら、彼は自分が座っていたパイプ椅子を、白焚(シラタキ)女史が引き出してくれた、小さなテーブルの前まで引きずっていった。


「ザッ―――鋤灼(スキヤキィ)君ー? 今ぁどぉこぉーっ!?」

 通信規格上、距離や状況を演出する以外では、ノイズが発生することはない。若干入るノイズは、データウォッチ内蔵の外部スピーカーの性能によるものだ。


「さっきの、コンビニ部屋です」


「ザッ―――お体の調子はぁー、どぉーでぇーすぅーかぁー?」

 舌っ足らずな萌え音声(・・・・)ライブラリ、少し合成音声感(マシンボイス)。


「ぜんぜん平気ですよ。ソレより、すんません、開始早々ダイブアウトしちゃって」

 テーブル前に置いた椅子に腰掛ける。


「ザッ―――大丈夫でぇすよぉー。鋤灼(スキヤキ)君はぁ、我々とぉ合流してからがぁ本番だとぉ思ってぇくださぁーい! ―――ガラ、ガラララ」


「へーい。まー、そりゃそーだなー。で、そっちの状況、っていうか……何すか、その煉瓦(れんが)が崩れたみたいな物音は?」


「ザッ―――今ねぇー、なんかぁ、ミサイルがぁ通り抜けたぁみたいなぁー大穴(・・)をー通ってぇ、追跡中ですぅよぉう」


「ザザザッ―――先生、ミ゛サイル゛が……ぶち当゛たっ……ザッ―――たり゛しても゛うたら゛……建物ごと爆゛発……してや゛しま゛へん゛か?」

 歌色(カイロ)の声が、ノイズと相まって、不気味さに、拍車を掛けている。

 あらぁ、それもそうですぅねぇー。と呑気な声。


「ザザッ―――姉さん、歌色(カイロ)さんも! 話が進まないでしょ!?」

 2人に割って入る、勇ましい声。


「おう、笹木、そっち今、どうなってんだ?」


「ザザッ―――鋤灼(スキヤキ)の探査棒(ダウジングロッド)からの、探査結果が無くなったから、ちょっと、測定ポイントが広範囲(ざつ)になっちゃってるけど、これだけ、近くなら問題ないわ!」


「ザッ―――それでぇ、今ぁー、先行したぁコウベちゃんたちのぉー、後を追跡中でぇーす」


「ミサイルとか穴とか言ってたのは?」


「ザザッ―――公園があった都市から、街道をずっと真っ直ぐ来たんだけど、その突き当たりに建物があって、外壁に穴が(・・・・・)あいてるのよ。そっちを通った方が近道だから、今みんなで、くぐり抜けてるとこよ」


「ふーん。状況は判ったよ。ぜひ、がんばってくれ。アイツら仲間に引き込めたら、笹木にも絶対楽しい目に、遭わせてやれるからさ」

 少年は、手に持っていた、巨大おはぎ(最初期型VRHMD)を、壁から突き出ている小さなテーブルの上に置く。おはぎの接地面は小さくて、横を向ければ、何とか置けた。


「ザザッ―――言われなくても、そのつもりよ」

 そう言った、逞(たくま)しい声が、遠ざかる気配。


「笹木-?」


「ザッ―――禍璃(マガリ)ちゃんはぁー、先にー行っちゃいましたぁー。音声通話じゃなくてぇー、AR接続の映像空間(パーティーチャット)を、開きましょぉーかぁー?」


「待って、先生。その前に、質問なんすけど、比重0%にしちまった(・・・・・・・・・・)、”P(パーソナル)B(・ブレイン)C(・キューブ)”をすぐに再充填(じゅうてん)って出来ませんか?」

 巨大おはぎを持ち上げ、首が入る穴の下に置いてあった、朱色の小箱を手に取る。


「ザッ―――えぇー? それはぁ、難易度ぉ高いですねぇー」


「あれ? やっぱり無理ですか? おっかしーなー?」

 ひっくり返して、見ているが、小箱(PBC)は、全面、真っ平らだ。特にコネクタ的な構造は無く、色(比重)以外に見所は無い。


「ザザザッ―――そう゛どすな゛ー、……それ゛はハード的゛、……というよ゛り゛は、……脳゛を量子的に゛再゛構成……する゛ときの゛制約だから゛、……有り゛体に言゛って、……無理(・・)どすな゛ー」

 再び会話に割って入る、項邊(コウベ)歌色(カイロ)クリーチャーVer(ボイス)。


「白焚(シラタキ)のやろうが、先生と歌色さん(・・・・・・)の2人掛かりなら、何とか出来るとか抜かしやがったから、てっきり出来ると思っちまった」


「ザッ―――鋤灼(スキヤキ)君ー。目上の人には、”さん”をつけてくださぁーいネェーっ」


「あ、はい、すんません」

 椅子に座ったまま、ペコリ。


「ザザザッ―――管理者゛っ、……白焚(シラタキ)はん゛が、―――そう抜かした(・・・・・・)……んどすな゛ー?」


 ザザザッ……、どういう事……でっしゃろ? ヒソヒソヒソ。

 ザッ……、判りませんがぁ、管理者権限所持者(シラタキルウイさん)がぁ、そう見立てた(・・・・)ならぁ、鋤灼(スキヤキ)君をー、今すぐ再接続(リダイブ)する事はぁ不可能では無い(・・・・・・・)とぉー、思われますよぉぅ?

 ヒソヒソヒソヒソ。

 成人女性コンビは、内緒会議中のようだが、猫耳環恩(ワオン)の腕に巻かれているであろう、開発者用腕時計型デバイスは、VR空間内部の音声を、しっかりと少年に伝えてくる。VR・AR完全対応なので、VR空間内部でも使用可能と言うだけで無く、混在する接続形態での、シームレスな接続切り替えが自動的に行われる。

 ひと言で言えば、接続が切れない。切れても再接続までの時間が、格段に違うなどの利点がある。


「先生ー、聞こえてますよー? でも、さっき、P(パーソナル)B(・ブレイン)C(・キューブ)を即座に充填する方法はないって……」


「ザッ―――だからぁ、PBCをー充填する以外の方法(・・・・・)がぁ、有るってぇ事ですよぉう」


「充填できない……充填しない……それでも、俺がダイブ出来る方法が、……有る?」

 音声通話越しに、会議に参加した少年は、続けて思った事を口にした。


「―――それじゃ、PBCが無くても(・・・・)、フルダイブ可能(・・)って事に、なっちゃうじゃないすか?」


「ザッ―――!」

「ザザザッ―――!」

 音声通話の向こうから、息を飲む気配が伝わって来る。


「ザザザッ―――そう゛いえ゛ば、化学(ばけがく)の゛先生に゛……聞い゛たん゛どすけど、……笹木先生の゛ご専門(・・・)って、……確か『フルダイブVRの構築』……と『身体性偽造(テストベッド)』……でしたな゛あ?」

 化学(ばけがく)教師の言葉を借りて、簡単に言うなら、『脳の数値化を根幹とした、”理系(にくたい)最高峰”』となる。

 もっと簡単に言うと、フルダイブ専用ハードウェア設計(・・・・・・・・)。


「ザッ―――そういえばぁ、歌色(カイロ)さんのぉ、専門(・・)ってぇ、『身体慣性(リグ・コントロールド)規格(クラス)の記述言語』とぉ『専(スペシ)門(ャライゼー)性(ション)に特化した人格設計(キャラメイク)でしたぁわねぇー?」

 化学(ばけがく)教師の言葉に倣(なら)って、簡単に言うなら、『心の再構成を目的とした、”文系(せいしん)最高峰”』となる。

 もっと簡単に言うと、フルダイブ専用ソフトウェア設計(・・・・・・・・)。


 ―――くすくすくすくすくす。

 ―――けたけたけたけたけた。


「なんすか? また何か、笑いのツボにでも入りましたか?」

 そう、この成人女性コンビは、笑い上戸(ゲラ)なのだ。


「ザッ―――鋤灼(スキヤキ)君ー? キミの頭の真っ黒い奴のぉ何処(どこ)かにー、『言語野経路隆起ユニット』って文字がぁ、書いてないですかぁー?」

「ザザザッ―――じゃな゛かったら、……『本のマーク』でも゛……かま゛へんの゛や゛けど、……書いてな゛いどすか?」


「ちょっと待ってください?」

 巨大おはぎを手に取り内側やら、ゴテゴテとくっついてる外側のパーツの表面やらを、凝視して探していく。


「あっ、『言語野経路隆起ユニット』って有りました! あと反対側に『ノベルドライブ』ってロゴマークみたいなのが付いてて、本のマークがあしらわれてます」


「ザッ―――!!」

「ザザザッ―――!!」

 再び、音声通話の向こうから、息を飲む気配が伝わって来る。


「ザザッ―――姉さんも、歌色(カイロ)さんも、何を、見つめ合ってんの!?」

 イライラした口調の、禍璃(マガリ)の急かす声が、遠くから(小さく)聞こえてくる。



   ◇◇◇



 ドパパパパパパパパパパパパパパパパパァァァンッ!


「むっ! 銃声!?」

 瞳をキラーンと輝かせ、ドッゴゴン!

 両足でPLOT-AN(プロトたん)のレリーフをぶち壊した勢いで、時速230キロを大まかに相殺(そうさい)。

 ローキックの姿勢で片足を浮かせると、殺しきれなかった慣性で、身体が回転を始める。その動きにあわせて、環状放電(リップススパーク)が、残した軸足へ流れ込む。

 ズドン! ザザザザッ!

 減速と同時に、軌道を逸(そ)らした超高速美少女は、即座に草むらへ隠れた。


 草むらの、下から匍匐(ほふく)前進。

 頭を外に突きだし、眼前の不可解な様子に思案を巡らせている様子。

 銃声を発した、火器の類いは見当たらない。

 コウベの眼の前に現れた、『武装検索結果』にも、魔法杖(ロッド)や、アームガードや、ホルスターに仕舞われたままの無骨な短剣、地中の爆弾や、オウガニャンのダイナマイト数本がアイコン表示されただけだ。

 広範囲へ斉射可能な、連射性能の高いマシンガンの類(たぐ)いは、この場には無い。

 にもかかわらず、刀風(カタナカゼ)魔法少女Ver、狛丑(コマウシ)、オウガニャン。その場に集結している、すべてのプレイヤー及びNPCが、頭の上に★(ほし)を浮かべて、気絶していたのだ。


 トカゲは見あたらなかったが、その理由は即判明する。

 ビビビッ♪

 カーブした街道のずっと先、三叉路の合流批点に、トカゲっぽいのが居る。

 口から火を吐きながら、真っ赤になってる案内表示(・・・・)みたいのと格闘中で忙しそうだ。


「えーっと、これは、アイツに聞こう」

 コウベは、唇を引っ込めて、視線を宙に泳がせる。

 プルル♪ 微かに漏れる呼び出し音。

 即座に、額に浮かび上がる、☎(電話アイコン)。


「おい、アタシだけど―――」

「うん、捕獲対象を発見、確保手段を指示されたし」

「うー? いいから、教えろー! あのごついウシとか、今、ピヨってっから一網打尽に出来そーなんだってーの!」


   ◇


「カッチャ♪ ピピ、ピュイッ?」


 小鳥は、巨大機械に乗ったままだった。

 驗(シルシ)が早々に、ダイブアウトしてしまったので、途方に暮れていたように見受けられる。

 探査棒(ダウジングロッド)は一本しか落ちていない。

 個人用金庫(インベントリ)に、格納したのかもしれない。


「ピピピピピピピピチチチチッ♪」

 ☎(電話アイコン)を額に浮かべた小鳥は、話し相手が出来たことを喜んでいたようだったが、

「チュイッ―――ビビビッ!」

 何か抗議のような囀(さえず)りと共に、激しく羽ばたき、歯車状の円盤から飛び降りた。


「―――ピピュイ♪ ピピュイ♪ ピピュイ♪」

 そして、高らかに、歌を歌うように、3回(・・)囀(さえず)った。

 即座に消える☎(電話アイコン)。

 小鳥は、周囲を見回していたが、やがて、円盤に近寄り、嘴(くちばし)で突いた。

 歯車円盤は、手品みたいに消失し(きえ)た。


   ◇


「―――バトルレンダ、起動」

 地面にはいつくばった姿勢の美少女が、ポソリと言葉を発する(実行宣言)。


 両手両足、四肢へ流れ込むオレンジ色の、環状放電(リップルスパーク)。

 背中へ垂(た)れている”お下げ”は短いが、ちゃんと火花を発している。

 ボボッボボォォォォッ!


 ジジッジジジッジジジジジジッ!

 その低すぎる姿勢から、加速された動きは、まるで、―――まるで泥棒猫のようで。

 とても、”格好良い”とは言えない動きを見せたが、すさまじく、不規則かつ、―――迅速だった。

 彼女が髪に蓄(たくわ)えていた、”余剰(よじょう)リソース”を余すところなく、消費しているのだ。その全行動の威力・速度、だけで無く、意思決定の速度までもが倍増している様に見える。


 高速で射出される踵(かかと)や靴先。電磁(リニア)稼動によって反発させ、関節の自由度に沿って加速することも出来る。

 指先を傷つけないよう、手のひらを地面に置いてから、電磁加速(リニア)で四肢の末端を加速させる、猫足の(泥棒猫)スタイル。


 小鳥にバトルレンダ起動承認された、清楚系乱暴者(ヨネザワコウベ)は、とにかく、積極的に優位な位置を取りに行ったようだった。


 見た目的に、パワーの一番強そうな相手の斜め後方へ、スタタタッタタン。

 ほんの数十分前に、自分を撃破寸前まで追いつめた真っ青な体躯に、一瞬で忍びよった。


 周囲には何故か、割れた風船が散乱していて、次々と光の粒子になって消えていっている。

 地面には、妙に大量の木の根が、波打つように(・・・・・・)生えていた。その木の根を、掴んだ自分の手を見て、清楚系乱暴者は、一瞬だけ動きを止めた。

 ボッボボボォッ!

 その間にも、再燃焼(アフターバーナー)されているかのような、お下げが燃えて短くなっていく。


「……コレ(・・)で、キツく縛っちゃえばいいんじゃね?」

 速度に任せて、ブチブチとむしり取ろうとしたが、木の根は堅くなく、自在に意志を持つように動いた。

 コウベの動きをトレースするように、ぴたりと追従される。触手のような木の根はたわみ、”のれんに腕押し”状態。

 清楚系ネズミ花火の身体に、幾重にも巻かれていく、荒縄のような根。もしくは根のような荒縄。


 ぐぐぐぐっ!

 シュルルルルゥーーッ、ギッチッ!

 手にしていた一本の根っこを両腕で引きちぎろうとしたが、一斉に巻き付かれ一瞬で簀巻(すま)きにされる。


「むがむが、ふごふご、ふっへん!」

 ドタリ。ぷすん。

 簀巻(すま)きから突き出ていた、お下げが燃え尽き、白煙に変わる。燃料(余剰リソース)を一気に使い果たし、バトルレンダは終了した。


 コウベが倒れると同時、オウガニャン、刀風(カタナカゼ)、遅れて蒼鬼の気絶状態(ピヨリ状態)が解けた。

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