3:驗(シルシ)とプロトタイプ(巨大おはぎ) その2
2017/01/21 9:03 細部を整えました。
2017/01/20 4:09 少し整えました。
2017/01/19 13:20 やや暫定ですが。ようやく、当初やろうとしていたことに、差し掛かりました。よろしくお願いします。
「もしもし? 先生?」
ガチャ♪ 驗の腕に巻かれた、データウォッチが、VR空間内部との通話開始音を伝えてくる。
彼は以前、安物と言ったが、十分なVR・AR対応の機能を有しているようだ。もちろん、環恩や、歌色の持つ、ゴツい腕時計型デバイスほどの超高性能ではないが。
「もしもし? 先生ー?」
もう一度、声をかけながら、彼は自分が座っていたパイプ椅子を、白焚女史が引き出してくれた、小さなテーブルの前まで引きずっていった。
「ザッ―――鋤灼君ー? 今ぁどぉこぉーっ!?」
通信規格上、距離や状況を演出する以外では、ノイズが発生することはない。若干入るノイズは、データウォッチ内蔵の外部スピーカーの性能によるものだ。
「さっきの、コンビニ部屋です」
「ザッ―――お体の調子はぁー、どぉーでぇーすぅーかぁー?」
舌っ足らずな萌え音声ライブラリ、少し合成音声感。
「ぜんぜん平気ですよ。ソレより、すんません、開始早々ダイブアウトしちゃって」
テーブル前に置いた椅子に腰掛ける。
「ザッ―――大丈夫でぇすよぉー。鋤灼君はぁ、我々とぉ合流してからがぁ本番だとぉ思ってぇくださぁーい! ―――ガラ、ガラララ」
「へーい。まー、そりゃそーだなー。で、そっちの状況、っていうか……何すか、その煉瓦が崩れたみたいな物音は?」
「ザッ―――今ねぇー、なんかぁ、ミサイルがぁ通り抜けたぁみたいなぁー大穴をー通ってぇ、追跡中ですぅよぉう」
「ザザザッ―――先生、ミ゛サイル゛が……ぶち当゛たっ……ザッ―――たり゛しても゛うたら゛……建物ごと爆゛発……してや゛しま゛へん゛か?」
歌色の声が、ノイズと相まって、不気味さに、拍車を掛けている。
あらぁ、それもそうですぅねぇー。と呑気な声。
「ザザッ―――姉さん、歌色さんも! 話が進まないでしょ!?」
2人に割って入る、勇ましい声。
「おう、笹木、そっち今、どうなってんだ?」
「ザザッ―――鋤灼の探査棒からの、探査結果が無くなったから、ちょっと、測定ポイントが広範囲になっちゃってるけど、これだけ、近くなら問題ないわ!」
「ザッ―――それでぇ、今ぁー、先行したぁコウベちゃんたちのぉー、後を追跡中でぇーす」
「ミサイルとか穴とか言ってたのは?」
「ザザッ―――公園があった都市から、街道をずっと真っ直ぐ来たんだけど、その突き当たりに建物があって、外壁に穴があいてるのよ。そっちを通った方が近道だから、今みんなで、くぐり抜けてるとこよ」
「ふーん。状況は判ったよ。ぜひ、がんばってくれ。アイツら仲間に引き込めたら、笹木にも絶対楽しい目に、遭わせてやれるからさ」
少年は、手に持っていた、巨大おはぎを、壁から突き出ている小さなテーブルの上に置く。おはぎの接地面は小さくて、横を向ければ、何とか置けた。
「ザザッ―――言われなくても、そのつもりよ」
そう言った、逞しい声が、遠ざかる気配。
「笹木-?」
「ザッ―――禍璃ちゃんはぁー、先にー行っちゃいましたぁー。音声通話じゃなくてぇー、AR接続の映像空間を、開きましょぉーかぁー?」
「待って、先生。その前に、質問なんすけど、比重0%にしちまった、”PBC”をすぐに再充填って出来ませんか?」
巨大おはぎを持ち上げ、首が入る穴の下に置いてあった、朱色の小箱を手に取る。
「ザッ―――えぇー? それはぁ、難易度ぉ高いですねぇー」
「あれ? やっぱり無理ですか? おっかしーなー?」
ひっくり返して、見ているが、小箱は、全面、真っ平らだ。特にコネクタ的な構造は無く、色以外に見所は無い。
「ザザザッ―――そう゛どすな゛ー、……それ゛はハード的゛、……というよ゛り゛は、……脳゛を量子的に゛再゛構成……する゛ときの゛制約だから゛、……有り゛体に言゛って、……無理どすな゛ー」
再び会話に割って入る、項邊歌色クリーチャーVer。
「白焚のやろうが、先生と歌色さんの2人掛かりなら、何とか出来るとか抜かしやがったから、てっきり出来ると思っちまった」
「ザッ―――鋤灼君ー。目上の人には、”さん”をつけてくださぁーいネェーっ」
「あ、はい、すんません」
椅子に座ったまま、ペコリ。
「ザザザッ―――管理者゛っ、……白焚はん゛が、―――そう抜かした……んどすな゛ー?」
ザザザッ……、どういう事……でっしゃろ? ヒソヒソヒソ。
ザッ……、判りませんがぁ、管理者権限所持者がぁ、そう見立てたならぁ、鋤灼君をー、今すぐ再接続する事はぁ不可能では無いとぉー、思われますよぉぅ?
ヒソヒソヒソヒソ。
成人女性コンビは、内緒会議中のようだが、猫耳環恩の腕に巻かれているであろう、開発者用腕時計型デバイスは、VR空間内部の音声を、しっかりと少年に伝えてくる。VR・AR完全対応なので、VR空間内部でも使用可能と言うだけで無く、混在する接続形態での、シームレスな接続切り替えが自動的に行われる。
ひと言で言えば、接続が切れない。切れても再接続までの時間が、格段に違うなどの利点がある。
「先生ー、聞こえてますよー? でも、さっき、PBCを即座に充填する方法はないって……」
「ザッ―――だからぁ、PBCをー充填する以外の方法がぁ、有るってぇ事ですよぉう」
「充填できない……充填しない……それでも、俺がダイブ出来る方法が、……有る?」
音声通話越しに、会議に参加した少年は、続けて思った事を口にした。
「―――それじゃ、PBCが無くても、フルダイブ可能って事に、なっちゃうじゃないすか?」
「ザッ―――!」
「ザザザッ―――!」
音声通話の向こうから、息を飲む気配が伝わって来る。
「ザザザッ―――そう゛いえ゛ば、化学の゛先生に゛……聞い゛たん゛どすけど、……笹木先生の゛ご専門って、……確か『フルダイブVRの構築』……と『身体性偽造』……でしたな゛あ?」
化学教師の言葉を借りて、簡単に言うなら、『脳の数値化を根幹とした、”理系最高峰”』となる。
もっと簡単に言うと、フルダイブ専用ハードウェア設計。
「ザッ―――そういえばぁ、歌色さんのぉ、専門ってぇ、『身体慣性規格の記述言語』とぉ『専門性に特化した人格設計でしたぁわねぇー?」
化学教師の言葉に倣って、簡単に言うなら、『心の再構成を目的とした、”文系最高峰”』となる。
もっと簡単に言うと、フルダイブ専用ソフトウェア設計。
―――くすくすくすくすくす。
―――けたけたけたけたけた。
「なんすか? また何か、笑いのツボにでも入りましたか?」
そう、この成人女性コンビは、笑い上戸なのだ。
「ザッ―――鋤灼君ー? キミの頭の真っ黒い奴のぉ何処かにー、『言語野経路隆起ユニット』って文字がぁ、書いてないですかぁー?」
「ザザザッ―――じゃな゛かったら、……『本のマーク』でも゛……かま゛へんの゛や゛けど、……書いてな゛いどすか?」
「ちょっと待ってください?」
巨大おはぎを手に取り内側やら、ゴテゴテとくっついてる外側のパーツの表面やらを、凝視して探していく。
「あっ、『言語野経路隆起ユニット』って有りました! あと反対側に『ノベルドライブ』ってロゴマークみたいなのが付いてて、本のマークがあしらわれてます」
「ザッ―――!!」
「ザザザッ―――!!」
再び、音声通話の向こうから、息を飲む気配が伝わって来る。
「ザザッ―――姉さんも、歌色さんも、何を、見つめ合ってんの!?」
イライラした口調の、禍璃の急かす声が、遠くから聞こえてくる。
◇◇◇
ドパパパパパパパパパパパパパパパパパァァァンッ!
「むっ! 銃声!?」
瞳をキラーンと輝かせ、ドッゴゴン!
両足でPLOT-ANのレリーフをぶち壊した勢いで、時速230キロを大まかに相殺。
ローキックの姿勢で片足を浮かせると、殺しきれなかった慣性で、身体が回転を始める。その動きにあわせて、環状放電が、残した軸足へ流れ込む。
ズドン! ザザザザッ!
減速と同時に、軌道を逸らした超高速美少女は、即座に草むらへ隠れた。
草むらの、下から匍匐前進。
頭を外に突きだし、眼前の不可解な様子に思案を巡らせている様子。
銃声を発した、火器の類いは見当たらない。
コウベの眼の前に現れた、『武装検索結果』にも、魔法杖や、アームガードや、ホルスターに仕舞われたままの無骨な短剣、地中の爆弾や、オウガニャンのダイナマイト数本がアイコン表示されただけだ。
広範囲へ斉射可能な、連射性能の高いマシンガンの類いは、この場には無い。
にもかかわらず、刀風魔法少女Ver、狛丑、オウガニャン。その場に集結している、すべてのプレイヤー及びNPCが、頭の上に★を浮かべて、気絶していたのだ。
トカゲは見あたらなかったが、その理由は即判明する。
ビビビッ♪
カーブした街道のずっと先、三叉路の合流批点に、トカゲっぽいのが居る。
口から火を吐きながら、真っ赤になってる案内表示みたいのと格闘中で忙しそうだ。
「えーっと、これは、アイツに聞こう」
コウベは、唇を引っ込めて、視線を宙に泳がせる。
プルル♪ 微かに漏れる呼び出し音。
即座に、額に浮かび上がる、☎。
「おい、アタシだけど―――」
「うん、捕獲対象を発見、確保手段を指示されたし」
「うー? いいから、教えろー! あのごついウシとか、今、ピヨってっから一網打尽に出来そーなんだってーの!」
◇
「カッチャ♪ ピピ、ピュイッ?」
小鳥は、巨大機械に乗ったままだった。
驗が早々に、ダイブアウトしてしまったので、途方に暮れていたように見受けられる。
探査棒は一本しか落ちていない。
個人用金庫に、格納したのかもしれない。
「ピピピピピピピピチチチチッ♪」
☎を額に浮かべた小鳥は、話し相手が出来たことを喜んでいたようだったが、
「チュイッ―――ビビビッ!」
何か抗議のような囀りと共に、激しく羽ばたき、歯車状の円盤から飛び降りた。
「―――ピピュイ♪ ピピュイ♪ ピピュイ♪」
そして、高らかに、歌を歌うように、3回囀った。
即座に消える☎。
小鳥は、周囲を見回していたが、やがて、円盤に近寄り、嘴で突いた。
歯車円盤は、手品みたいに消失した。
◇
「―――バトルレンダ、起動」
地面にはいつくばった姿勢の美少女が、ポソリと言葉を発する。
両手両足、四肢へ流れ込むオレンジ色の、環状放電。
背中へ垂れている”お下げ”は短いが、ちゃんと火花を発している。
ボボッボボォォォォッ!
ジジッジジジッジジジジジジッ!
その低すぎる姿勢から、加速された動きは、まるで、―――まるで泥棒猫のようで。
とても、”格好良い”とは言えない動きを見せたが、すさまじく、不規則かつ、―――迅速だった。
彼女が髪に蓄えていた、”余剰リソース”を余すところなく、消費しているのだ。その全行動の威力・速度、だけで無く、意思決定の速度までもが倍増している様に見える。
高速で射出される踵や靴先。電磁稼動によって反発させ、関節の自由度に沿って加速することも出来る。
指先を傷つけないよう、手のひらを地面に置いてから、電磁加速で四肢の末端を加速させる、猫足のスタイル。
小鳥にバトルレンダ起動承認された、清楚系乱暴者は、とにかく、積極的に優位な位置を取りに行ったようだった。
見た目的に、パワーの一番強そうな相手の斜め後方へ、スタタタッタタン。
ほんの数十分前に、自分を撃破寸前まで追いつめた真っ青な体躯に、一瞬で忍びよった。
周囲には何故か、割れた風船が散乱していて、次々と光の粒子になって消えていっている。
地面には、妙に大量の木の根が、波打つように生えていた。その木の根を、掴んだ自分の手を見て、清楚系乱暴者は、一瞬だけ動きを止めた。
ボッボボボォッ!
その間にも、再燃焼されているかのような、お下げが燃えて短くなっていく。
「……コレで、キツく縛っちゃえばいいんじゃね?」
速度に任せて、ブチブチとむしり取ろうとしたが、木の根は堅くなく、自在に意志を持つように動いた。
コウベの動きをトレースするように、ぴたりと追従される。触手のような木の根はたわみ、”のれんに腕押し”状態。
清楚系ネズミ花火の身体に、幾重にも巻かれていく、荒縄のような根。もしくは根のような荒縄。
ぐぐぐぐっ!
シュルルルルゥーーッ、ギッチッ!
手にしていた一本の根っこを両腕で引きちぎろうとしたが、一斉に巻き付かれ一瞬で簀巻きにされる。
「むがむが、ふごふご、ふっへん!」
ドタリ。ぷすん。
簀巻きから突き出ていた、お下げが燃え尽き、白煙に変わる。燃料を一気に使い果たし、バトルレンダは終了した。
コウベが倒れると同時、オウガニャン、刀風、遅れて蒼鬼の気絶状態が解けた。




