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ワルコフに気をつけない  作者: スサノワ
16:底と、トグルオーガたち

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117/153

3:驗(シルシ)とプロトタイプ(巨大おはぎ) その1

2017/01/18 9:34 細部を整えました。

2017/01/16 0:44 台詞順など修正。室温9.0℃ 寒いですね。

2017/01/15 6:58 室温8・5℃。取りあえず、時間的に真っ直ぐな話なのでそのまま読んで下さい。よろしくお願いします。

「鋤灼(スキヤキ)君、鋤灼(スキヤキ)君」


「ミソシル!」


「は? お味噌汁なら、隣のコンビニに売ってますよ? VR嗜好品(おやつ)じゃなくて、ちゃんと、お湯入れるやつ」


「―――いっけねっ! 俺、寝落ちしてたっ!? いつの間に?」

 少年は、パイプ椅子の背もたれから、飛び起きた。巨大おはぎ(最初期型VRHMD)”の両側面に、赤い輪が点滅している。


 ”こってり豚汁”に固形コンソメを一個足して、お湯たっぷり目で作ると、ちょうど2人前出来て(・・・・・・・・・・)、しつこくないお味になるので、オススメで、

「―――お疲れですか? 若っいのに」

 自慢の味噌汁改造レシピを聞いていない少年に、詰め寄った白焚(シラタキ)女史が、”おはぎ”後頭部の可動部分を掴む。


 後頭部と連動してるっぽい、顎(あご)にも付いてる可動部分が、パシャリと開いた。

 無造作に持ち上げられる、”真っ黒く無骨なVRHMD”。

 たとえ稼働(ダイブ)中の、フルダイブHMDを、いきなり取り外したところで、まったく問題はない。その軋轢(あつれき)は、すべて、P(パーソナル)B(・ブレイン)C(・キューブ)が肩代わりしてくれる。もっとも寝ている人が、叩き起こされる程度の不快さ(・・・)は生じるので、あまり、良い行いとは呼べない。

 ただ、VR専門家である笹木環恩(ワオン)特別講師も、誰彼かまわず、いきなりVRHMDを、取り外してるところを見ると、慣れた人ほど乱暴に扱う傾向がある。

 ソレは、朝起きられない子を、叩き起こすオカン的な(・・・・・)感覚なのかもしれない。


「―――だってあの、でっかい機械(マシン)、すっげーいー感じに揺らしてくるんすよ」

 ボッサボサの髪を左右により分けながら、少年は自分の眼で周囲を見渡した。

 眼のすぐ前に吊り目美人の、細い腰。車座(くるまざ)になったパイプ椅子。ぽっかりと空いた中央。巨大おはぎを手にした女史が、目の前に立っている。

 ち近い近いと、ガタガタと後ろへ下がる少年。少年の右眼の上辺りを、ピンク色のウサちゃんが飛び跳ねているが、絆創膏の柄は少年(ほんにん)からは見えない。


 あら、カワイイと、指先でウサギを突こうとするが、猛烈な勢いでダッキングさ(避けら)れる。残念そうに肩をちょっと落とす彼女(シラタキ)は、巨大おはぎ(・・・・・)と壁を繋いでいる導念(SuperEEG)ケーブルを裁(さば)きながら、少年の背後に回った。

「強制ダイブアウトの原因は、P(パーソナル)B(・ブレイン)C(・キューブ)、の比重がゼロになったからですね」

 VRHMD(おはぎ)から、朱色の小さな箱(PBC)を取り出した。


「おっかしーな、これ、一昨日(おととい)おろしたばっかりっスけど……」


「どこか、お体の具合でも悪いんですか?」

 女史の声色が、柔らかいものに変わる。


「超ー、健康すよ? おっかしーなー?」

 腕組みして左右に首を傾げる少年。


「それなら良いですけど、どうします? クエスト形式で受けた特典がなくなっちゃいましたけど?」

 女史の声色が普段の、無機質なものへと戻る。


「クエストの特典(・・)って、結局何でしたっけ?」


「は? トポロジックエンジンが自動作成する、”チャレンジポイント”の獲得に決まってるじゃないですか?」

 女史は、何バカ言ってるんですか、と首を小さく横に振っている。


「チャレンジポイント? そういや、ワル……アイツがなんかフザケてやってたの見たな……」


「フルダイブVR中に、行った動作の全てから、言語化できる行動や状況に付随したポイントが、支給されるアレですよ」


「えっと、そのポイントは、何に使えるん―――?」

「今のところ、特に、使い道は有りませんが、―――何か?」

 喰い気味に即答する女史から、圧(あつ)のようなものがズゴゴゴゴッと立ち上っている。”オウガ▲▲ニャン”や”ミミコフ”を目(ま)の当(あ)たりにした時の、笹木特別講師のごとき、拘(こだわ)り。


「……へ、へぇーっ。それは、―――お、面白いすねぇーーーっ」

 白焚(シラタキ)女史から、巨大おはぎを渡された少年は、口の端をゆがめながらも、ここ数日で刀風(イケメン)から学んだ処世術を披露した。その手本となった、刀風(イケメン)は、隣のイスに座って、何かうわ言を呟いている(・・・・・・・・・)。


「鋤灼(スキヤキ)君、『安全・安心・長時間ダイブ可能な”視覚野経路(ビューリンク)隆起ユニット(・ダイブ型)”のVRデバイス』、唯一の欠点(・・)とは?」

 横に屈み込み、少年に顔を近づけた、女史の瞳が細められる。


「なんすか? いきなり……励起(れいき)状態の”P(パーソナル)B(・ブレイン)C(・キューブ)が無ければ、フルダイブできない」

 寄り添う女史から最大限、身体を避けながら解答する。


「はい正解。鋤灼(スキヤキ)君、コレ、再充填(リチャージ)するのに、半日くらい掛かりそうですよ?」

 女史は、立ち上がって、首から下げていた、オレンジ色の”V.O.I.Dチャージャー”を操作した。その透明じゃない瓶の基盤部分の(フタに付いた)コネクタに、差し込まれた導念(SuperEEG)ケーブル。その反対側は、彼女のリクルートスーツの腰に付けられた、パズルゲームのブロックのような逆L字型の機械に繋がれている。


 驗(シルシ)の、脳内における量子状態を丸ごと複製した、朱色の箱(PBC)。この中には、少年の最も個人的(パーソナル)な、人格情報(こころ)……厳密に言うなら、”人格(こころ)を再構成するすべての要素(魂のソースコード)”が入っている。


 但し、朱色に変わってしまった部分。つまり、現在の本人のニューロンにおける量子的状態から、大きく変化してしまった”差異(さい)”の認められる部分の比率(・・)。

 それが比重0%(・・・・)になってしまっては、如何(いか)に、簡略化された”全脳モデル(もぞうひん)”と言っても、同期(シンクロ)させるのは難しい。特別講座『VRエンジン概論(アウトライン)』で、今まで習ってきたところなので、始めたばかりの少年にも、理解はできる。


「あれ? そんなに時間掛かるんすか!?」

 慌てるヴォサ髪。


「はい残念ー! 急速充填機(クイックチャージャー)なら、3分も掛からないはずだったんですけど、比重10%(・・・・・)以下にまで、落としてしまうと、コレ使えないんですよね」

 首から下げていた、オレンジ色の”瓶(VOIDチャージャー)”を軽く持ち上げてみせる。


 「俺、今回、役立たずだから、せめて探査棒(ダウジングロッド)持って、GPSの役くらいしたかったんだけどな」

 ボサボサ髪の少年は、片手で顔面を覆った。


「あら? これ、ウチの倉庫から、お出しした実証機(プロトタイプ)ですね?」

 巨大おはぎをペタペタと撫で回す女史。

 女史が触りやすいように、宝物を扱うかのごとく、両手で巨大おはぎを掲げる少年。


「はい、さっそく使わせてもらってます―――ました」

 特区及びスターバラッド運営が蔵出しした(・・・・・)、型落ちの製品(デッドストック)。巨大おはぎも、その中の1つだ。

 それらの運用には、有る程度の技術力が必要らしく、譲り受ける際に、

「その覚悟(・・)はあるのか?」

 と白焚女史(かのじょ)は、脅(おど)すように念押ししてきた。そして、

「有る(・・)なら力添えいたしますよ」

 と、言ってしまったが故(ゆえ)の、逡巡(しゅんじゅん)かもしれなかった。


 今日はもう、リダイブする事ができないと判明し、意気消沈する彼(シルシ)を、眺めていた女史が、よし、と意を決してから、急にそっぽを向いた(・・・・・・・・・)。


「ん゛っん゛ー。えー、コレは私の独り言ですがー、本来(・・)、管理者サイド的には推奨(すいしょう)出来ませんがー」

 女史は、壁から小さなテーブルを、引き出している。この作りは驗(シルシ)の部屋のテーブルと同じだ。


「こほん。―――笹木先生(せんせい)と、設計師(カイロ)さんなら、ソレ(・・)使えるように出来るかも-、知れませんねー」

 あー、んっんっー。芝居がかる女史(だいこんやくしゃ)は、とても不自然だったが、少年は即座に壁の有線接続用のHUBコネクタに、自分(シルシ)の各種IDが登録済みの、空間認識用アダプタ(ドングル)を差し込んだ。

 歯車の付いた凝った作りのソレを経由すれば、笹木環恩(ワオン)特別講師、希代にして凄腕らしいVR専門家への、”音声通話”を開く事が出来る。


「音声入力―――」


「じゃー私(わたくし)は、戻りますよー」

 女史は、驗(シルシ)少年の、朱色になった(おとといの)”PBC(こころ)”をテーブルの上に置いた。



   ◇◇◇



「ここんとこ、魔法なんて使ってなかったぜ。……えっと」「詠唱入力」

 もう、地表までの距離は、それほど残っていない。


「タバスコ:タバスコ:悪夢:空豆」

 言葉が発せられる度に、杖の先に付いた魔法素子(ダイオード)が稼動し、空間を大きく波立たせていく。彼女(かれ)が手にしているのは、真空管が先端に埋め込まれた簡素な魔法杖(ロッド)。その形状や型番から、整流用二極管(レクティファイア)と呼ばれる、効率化(支援補佐)を目的とした一般的な杖だ。

 電気的な作動条件は、物理法則に沿っているが、ソレが制御しようとしているのは電子流(・・・)ではない。惑星ラスク上に無限に分布している、既に設定されている存在確率の雲(・・・・・・)だ。

 内部処理的には、凄まじく高度な処理を行い、導き出されている結果だが、使用法も、効果も、『魔法(・・)』、と思って何の差し支えも無い。


 杖が発する気配を感じ取った、青い逆算角形が、刀風(カタナカゼ)を睨みつけ、拳を地につけた(タッチダウン)。

 ソレは、魔法少女(カタナカゼ)迎撃のための予備動作(・・・・)だったと思われるが、蒼鬼の足下で蠢いていた樹の根の動きが停止した。

 チュイーン、チュイーン、チュイーン、チュイーン、チュイーン、チュイーン、チュイーン、チュイーン!

 地面から突き出た根っこの先に巻き付けられている、まるで爆薬のような何か。

 その起動音と共に、小さな赤い光が、蒼鬼を取り囲んでいく。

 背後からの振動(タッチダウン)に驚いた”ラケルタ”は、岩石に隠れようとして、大きく迂回し、チョロチョロロッ。


 ボボボボボボボボムン!

 突如立ち上る、カラフルな爆煙。

 狛丑(コマウシ)の背後から周囲を取り囲むように、時計回りにピンク、赤、橙、黄、黄緑、緑、青、紫、計8つの狼煙《のろし》が立ち上った。

 今この場には、4勢力が集結していた事になる。

 トグルオーガ勢。カタナカ勢。ラケルタ勢。

 そして新勢力、

 ―――広域攻撃を持つ、おそらくは中ボスクラス(・・・・・・)、爆弾をくっつけた根っ子勢。


 その蒼鬼の足下、十数メートルに及ぶ広い攻撃範囲(・・・・・・)に、驚く魔女っ娘(カタナカゼ)。しかし、彼は詠唱中(えいしょうちゅう)だった。地表は眼前。


「ッ―――ベーコン:電球:トルティーヤ」

 顔をひきつらせつつも、少女は、途切れること無く詠唱(えいしょう)を終え、|た。

「発動」

 魔法杖《ロッド》を構えたまま、実行命令を出す。

 先端の整流用二極管(レクティファイア)は、爆煙で彩られた中央、狛丑(コマウシ)へ向けられている。

 内部の、フィラメントが熱電子を放出し、光量を最大にした。

 携帯用に折り畳めるようになっている箇所以外には、特に動作部分のない杖から、カチンッと鉄板が鳴るような音が発せられた。


 ぽこ、ぽこ、ぽここ、ぽここここここここぶわわわわわわわっ!

 狛丑(コマウシ)が、見上げていた刀風(カタナカゼ)の落ちてくる空。

 その視界全てを覆い尽くす、大量の風船が(・・・・・・)現れる(・・・)。


 杖先端の30センチ前方。空中の一点から、吹き出すように出現した、黄緑色の大量の風船。風船同士がバラバラにならずに、ボギュギュギュッとくっついたまま、円形に広がり平面となった。直径は5メートルほど、蒼鬼で言ったら2個弱くらい?


 ボギュッボムン!

 魔女っ娘は、空中に出来上がった、風船の絨毯(じゅうたん)に飛び込む。


 パパパンッ!

 杖の先端が当たった箇所の風船が数個割れる。

 風船の平面は、厚みが50センチほども有って、それ自体が空気抵抗を受けて、刀風(カタナカゼ)の弾丸のような勢いを受け止めた。


 急に出現した、風船の平面。

 その影になった直下。アッパーを繰り出す狛丑(コマウシ)。

 だが、蒼鬼(ヤツ)の足下は蠢(うごめ)く樹の根で埋め尽くされている。

 ウゴゾゴゾ、ウゴゾゴゾッ。

 波打つ地面に、足を取られ、突き上がる拳が空を切った。


 バランスを崩す蒼鬼に覆い被さる、無数の風船で出来た、黄緑色の絨毯(バリュート)。

 ブモォーーーーッ!

 狛丑(コマウシ)は吠え、風船の中央が彼の巨体で持ち上がる。小柄な刀風(魔女っ娘)は、風船の斜面を跳ねて転がっていく。


 ゴゴゴパッァァァァッ!

 風船の絨毯の周囲に点在している岩石の1つが、宝石のように光り輝き、地面から浮かび上がる。

 ウゾゾウゾゾウゾゾッ!

 輝く岩石は宙に浮いているわけではなかった。岩石から生えた樹の根っこのような触手によって、持ち上げられていたのだ。岩石の底から、荒縄のようなものが生えていて寄り集まって、大樹の根っこのようになっている。


 光る岩に驚き、回避行動中の猫耳娘(オウガニャン)が、根っこに足を取られた。

 ゴロゴロゴロロッ!

 転がっていくトグルオーガ人気ナンバーワン。

 そこへ、跳ね回ったあげく錐揉(きりも)み状態で、すっ飛んでくる、魔女っ風。

 フッギャッ! 痛っで! ゴン! ばたり、ばたり。

 仰向けに倒れるミス物騒(・・・・)。物騒な外見に似合わず、中身は案外ドジっ娘かもしれない。魔法少女も反対側に倒れ、魔法杖(ロッド)を落とす。


 ボムン!

 魔法杖(ロッド)の真下へ走り込んで来た、チョロチョロが不運にも撃破(・・)される。

 ”ラケルタ(最弱エネミー)”は、素材アイテムとなり、ミス物騒と魔女っ風は、目を回した(ピヨった)。

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