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ワルコフに気をつけない  作者: スサノワ
16:底と、トグルオーガたち

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116/153

2:トグルオーガ その2

2017/01/12 12:50 室温17.2。後回しになっていた、2つの要素を同時に進めてみました。暫定ですが、よろしくお願いします。

 惑星ラスクの構造は、基本的には、どこにでも入っていけて、ドコからも出ていける。

 遭遇するエネミーとの戦闘に打ち勝ち、撃破されなければ(・・・・・・・・)だが。

 各種の乗り物(ビークル)に乗れば、エリアマップ上を高速で横断する事も出来る。こと移動(・・)に関しては、”制限の無い作り”になっている。


 ―――そう、鋤灼(SIGN†)驗(ORGE)の置かれている状況が、想定外(イレギュラー)なのだ。

 エリア移動のための電送(ファストトラベル)が使えず、通常の出現地点への復帰方法がないこと。惑星ラスクの地中深くに、謎の空間が有り、謎の生物が生息していること。すべて想定外だ。

 それでも、”地下2000メートル(ならくのそこ)”からでも、徒歩での地上帰還が可能と判明したため、ゲームの仕様的にはなんら問題が無いっぽい。


 そして、謎の状況に置かれている少年(本人)は、鼻歌を歌いながら、広場を横断する謎の”空間リサイクルマシン:阿吽號(あうんごう)”に乗って、その振動に揺られている。


 その大きさから想像されるよりは、ずっと小さな振動。

 しかも、ストロークは大きいので、ゆらーんゆらーんと、まるで揺りかごのようで、瞼(まぶた)も重くもなると言うものだ。


 スヤァ―――んがっ!?

「あっぶね、寝ちまうとこだった!」

 暇つぶしに開いていた掲示板(軸索さん)が、風に流されて、光の粒子になって消えたりしてる。


「えー? 体に良くありませんよぉー? それでなくてもぉー、鋤灼(スキヤキ)君ー、一昨日(おととい)のぉー時点でぇー結構疲れてたぁーみたいだったしぃー」

 宙に浮かぶ映像空間(パーティーチャット)の中で、猫耳ヒューマノイドが心配そうな顔をしている。


「でも、これハンモックに揺られてる見てーな、動きすんですよ?」

 寝ころんだままの少年は、小鳥が乗ってない方の、探査棒(ダウジングロッド)を持つ手で、真下を指さした。


「あー、そり゛ゃ……難儀(なんぎ)どすな゛ー」

 映像空間(パーティーチャット)の中、B級映画の代名詞になっているクリーチャーが、泡立つような不快な声で心配する。


「ハンモック……、ふ、ふーん。う、羨ましくなんて、無いんだからねっ」

 クリーチャーの横にいた三角帽の厳つい海賊が、腰に手を当て人差し指を突きつけてきた。


   ◇


 海賊が凛とした良く通る声で羨ましがったのと、同時刻。

 現実世界の、”中ボス試験会場”となった”AR完全対応”の戦闘フィールドの一角に、なぜか設営されていたコンビニ。その隠し扉の向こう、小ぢんまりとした殺風景な部屋に座る、男女5名。

 その中の、中肉中背の方の少年の頭を、モコモコと覆っている不格好な巨大おはぎ(・・・・・)。その結構なサイズのVRHMD(ボコボコした丸い物)は、張られていた付箋紙(ふせんし)によれば、フルダイブデバイスの開発初期に作られた”実証機(デモンストレーター)”らしい。

 ひとまず機能を成立させただけの、現行機よりも何世代も前のテストバージョン(プロトタイプ)。

 その両耳部分で金色に光る、リング状の”脳波顕微鏡(レンズ)”が、赤色に変化した。

 実際の脳に変わって、各種負担を受け持つ、フルダイブのための副脳のような役割を果たす、P(パーソナル)B(・ブレイン)C(・キューブ)。その5センチ角ほどの量子メモリにもなる、小さな箱。

 その脳の意匠(デザイン)が平行投影さ(描か)れた箱の中の、量子状態の劣化が進みきってしまうと、演算のための量子状態を回復させるまでは、ダイブ出来なくなってしまう。体調の悪いときや疲れているときなどは、量子的な比重の減りが早いとされている。

 ついさっきの、猫耳ヒューマノイドの「一昨日の時点で疲れていた」という発言は、少年の使用していたPBCが、”たった一回の初期フロアへの登場だけ”で、朱色の劣化部分が全体の5分の1ほど、出来てしまった事を指している。


 ダイブ中に、量子演算的に安定した状態の”比重(拡張ビット)”が減ってしまった場合、どうなるのかと言えば、―――。


「ザザザッ―――あれ? 鋤灼(スキヤキ)君、キミ、強制ダイブアウト(・・・・・・・・)させられそうになってるけど、何かしましたか?」


「え? 白焚(シラタキ)さん? 何もしてないっすよ、居眠りしそうだったけど、ちゃんと起―――」


 チャリーンチャリーン!

 それは、宇宙ドルの決済音ではない。

 彼の持っていた、探査棒(ダウジングロッド)が、巨大自動機械(空間リサイクルマシン)の上に落ちた音だ。

 ピッピュヒューッ!?

 あわてた小鳥が、周囲を旋回するがサイボーグ少年の姿は、どこにも無かった。



   ◇◇◇



 刀風(まじょっこ)を上空へ蹴り上げた、見てくれだけは清楚系美少女の米沢首(ヨネザワコウベ)。

 当然、その反動だけでは、時速230キロの勢いを相殺するには至らず、後方回転。

 迫る壁は、まるで90度回転した世界の、煉瓦敷きの地面のよう。

 刀風(カタナカゼ)を蹴り上げ、延びきっていた美少女(コウベ)の、右足(カタパルト)が元に戻る(ゆるむ)。即座に環状放電(リップルスパーク)が再帯電、踵(かかと)へ集束していく。


 コツッと接地した壁を、電磁加速(しゃしゅつ)された踵(かかと)が、軽々と粉砕する。

 寸勁(ワンインチパンチ)という、1インチに満たない距離の、ショートレンジパンチを放つ、リアル伝説級の体術。

 NPC米沢首(コウベ)は、それを足(・)で再現した。

 元ネタは一角獣(モノケロス)の電磁加速(リニア)である。


 ジジッ、ゴパゴゴゴゴンンッ!

 これは秘伝とされる”武術の足裁き(・・・)”にも似ていたが、電磁(リニア)稼動によるもののため原理が別物だ。

 本来、会得(えとく)していない、理想的な力学的効率を実現している。

 けど、元からあるモーター(筋肉)への介入はしていない。

 モノケロス戦で”必殺技(・・・)”を彼女はすでに体現しているが、それも、根幹部分は、電磁(リニア)稼動による身体操作のみで、行われている。


 驗(シルシ)や刀風(カタナカゼ)に、この寸勁?(ワンインチキック)を、間近で見せていたら、「すげえ! これも必殺技じゃん!」と尊敬されるところだ。

 が、悲しいことに一人は既に上空へ消え、一人は遙か地底世界、しかも強制ダイブアウトさせられている始末。

 彼女の、免許皆伝クラスの特技の本質が、日の目を見るのには、もう少し時間が必要になる。


 壁を水平に(・・・)踏み(・・)抜いた先には小部屋があり、その反対側の壁を連続で、ジジジッゴパゴゴゴッン、と踏み抜いていく。

 直進してきた時速230キロの運動エネルギーは、壁を2枚も踏み抜けば、相殺できそうなものだったが、勢いは止まらない。

 実現方法は違えど、ヤってる事は、秘伝とされる奥気と同じ、”力学的に理想の効率での回転ベクトルへの変換”だ。足先に集約する、作業効率は計り知れない。


 ジジッジジッジジッッ!

 バゴッゴパッバゴゴゴンッ!

 さらに4枚ほど踏み抜いて、建物の反対側へ通り抜けてしまった。


 最後の壁を踏み抜くときに、爪先で横方向への回転を加える。そのため、体は頭から落下せず、両手に受けた風圧で、姿勢をやや持ち直す。

 そして、失速する直前に、”ひねり回し蹴り”を挟(はさ)むことで、そのまま、走行可能な姿勢になった。

 両足へ、集められる、環状放電(リップルスパーク)。

 なにか、そこに立てられていた、看板のようなもの(・・・・・・・・)を、真っ二つにして、コウベは姿勢を取り戻した。着地すると同時に、再び、PLOT-AN(プロトたん)のレリーフを踏み抜いた。

 この、彼女が通り抜けた(ショートカットした)煉瓦造りの建物をよけて、街道は迂回(うかい)していたのだ。

 再び合流した街道を、駆け抜けていくオレンジ色の疾風(かぜ)。


 人知れず免許皆伝級の、美少女NPCは、再び、トグルオーガ追跡のための全力疾走を再開した。


   ◇


 弾道飛行中の魔女っ娘(カタナカゼ)が、自棄(ヤケ)気味に、折り畳まれていた、長大な魔法杖をパチリと延ばした。


 地上を見れば、なぜか着弾地点へ駆け込んでくる(・・・・・・・)2体のトグルオーガ。


 魔法を詠唱(えいしょう)し、着陸シーケンスに移行した魔女っ娘(カタナカゼ)。

 魔法杖は着弾地点へ向けられている。地表に向けて放つ魔法の何らかの作用で、軟着陸を試みるようだ。

 それに気がついた様子の、”オウガ▲▲ニャン”が回避行動をとって、近くに生えていた岩石(がんせき)に頭をぶつけている。

 気がつかずに駆け込んでくる”狛▼丑(コマ ウシ)”。

 その足下、何の変哲もない地面が脈打った。


 どこにでも自由に行けるスターバラッドの世界。ただし、惑星ラスクの無数にあるエリアごとに”撃破すべき難敵(エリアボス)”が設定されている。そして、その牙城への進入には多少骨が折れる(・・・・・・・)。

 具体的には、数(・)か質(・)か、どちらかへ重点を置いた、”中ボス”による進路妨害(しんろぼうがい)が待ち受けているのだ。

 それは冒険を始めたばかりのプレイヤーが、最初に訪れる街道であっても例外ではない。


 ―――そう、さながら、地中から飛び出してきた樹の根のような、蠢(うごめ)く触手。

 ―――その先に巻き付けられている爆薬。一つが作動し、点る赤い光点。

 ―――光点は明滅する速度を速めていき、ボッガァンッ! やがてカラフルなピンク色の狼煙(のろし)を立ち上らせた。

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