2:トグルオーガ その2
2017/01/12 12:50 室温17.2。後回しになっていた、2つの要素を同時に進めてみました。暫定ですが、よろしくお願いします。
惑星ラスクの構造は、基本的には、どこにでも入っていけて、ドコからも出ていける。
遭遇するエネミーとの戦闘に打ち勝ち、撃破されなければだが。
各種の乗り物に乗れば、エリアマップ上を高速で横断する事も出来る。こと移動に関しては、”制限の無い作り”になっている。
―――そう、鋤灼驗の置かれている状況が、想定外なのだ。
エリア移動のための電送が使えず、通常の出現地点への復帰方法がないこと。惑星ラスクの地中深くに、謎の空間が有り、謎の生物が生息していること。すべて想定外だ。
それでも、”地下2000メートル”からでも、徒歩での地上帰還が可能と判明したため、ゲームの仕様的にはなんら問題が無いっぽい。
そして、謎の状況に置かれている少年は、鼻歌を歌いながら、広場を横断する謎の”空間リサイクルマシン:阿吽號”に乗って、その振動に揺られている。
その大きさから想像されるよりは、ずっと小さな振動。
しかも、ストロークは大きいので、ゆらーんゆらーんと、まるで揺りかごのようで、瞼も重くもなると言うものだ。
スヤァ―――んがっ!?
「あっぶね、寝ちまうとこだった!」
暇つぶしに開いていた掲示板が、風に流されて、光の粒子になって消えたりしてる。
「えー? 体に良くありませんよぉー? それでなくてもぉー、鋤灼君ー、一昨日のぉー時点でぇー結構疲れてたぁーみたいだったしぃー」
宙に浮かぶ映像空間の中で、猫耳ヒューマノイドが心配そうな顔をしている。
「でも、これハンモックに揺られてる見てーな、動きすんですよ?」
寝ころんだままの少年は、小鳥が乗ってない方の、探査棒を持つ手で、真下を指さした。
「あー、そり゛ゃ……難儀どすな゛ー」
映像空間の中、B級映画の代名詞になっているクリーチャーが、泡立つような不快な声で心配する。
「ハンモック……、ふ、ふーん。う、羨ましくなんて、無いんだからねっ」
クリーチャーの横にいた三角帽の厳つい海賊が、腰に手を当て人差し指を突きつけてきた。
◇
海賊が凛とした良く通る声で羨ましがったのと、同時刻。
現実世界の、”中ボス試験会場”となった”AR完全対応”の戦闘フィールドの一角に、なぜか設営されていたコンビニ。その隠し扉の向こう、小ぢんまりとした殺風景な部屋に座る、男女5名。
その中の、中肉中背の方の少年の頭を、モコモコと覆っている不格好な巨大おはぎ。その結構なサイズのVRHMDは、張られていた付箋紙によれば、フルダイブデバイスの開発初期に作られた”実証機”らしい。
ひとまず機能を成立させただけの、現行機よりも何世代も前のテストバージョン。
その両耳部分で金色に光る、リング状の”脳波顕微鏡”が、赤色に変化した。
実際の脳に変わって、各種負担を受け持つ、フルダイブのための副脳のような役割を果たす、PBC。その5センチ角ほどの量子メモリにもなる、小さな箱。
その脳の意匠が平行投影された箱の中の、量子状態の劣化が進みきってしまうと、演算のための量子状態を回復させるまでは、ダイブ出来なくなってしまう。体調の悪いときや疲れているときなどは、量子的な比重の減りが早いとされている。
ついさっきの、猫耳ヒューマノイドの「一昨日の時点で疲れていた」という発言は、少年の使用していたPBCが、”たった一回の初期フロアへの登場だけ”で、朱色の劣化部分が全体の5分の1ほど、出来てしまった事を指している。
ダイブ中に、量子演算的に安定した状態の”比重”が減ってしまった場合、どうなるのかと言えば、―――。
「ザザザッ―――あれ? 鋤灼君、キミ、強制ダイブアウトさせられそうになってるけど、何かしましたか?」
「え? 白焚さん? 何もしてないっすよ、居眠りしそうだったけど、ちゃんと起―――」
チャリーンチャリーン!
それは、宇宙ドルの決済音ではない。
彼の持っていた、探査棒が、巨大自動機械の上に落ちた音だ。
ピッピュヒューッ!?
あわてた小鳥が、周囲を旋回するがサイボーグ少年の姿は、どこにも無かった。
◇◇◇
刀風を上空へ蹴り上げた、見てくれだけは清楚系美少女の米沢首。
当然、その反動だけでは、時速230キロの勢いを相殺するには至らず、後方回転。
迫る壁は、まるで90度回転した世界の、煉瓦敷きの地面のよう。
刀風を蹴り上げ、延びきっていた美少女の、右足が元に戻る。即座に環状放電が再帯電、踵へ集束していく。
コツッと接地した壁を、電磁加速された踵が、軽々と粉砕する。
寸勁という、1インチに満たない距離の、ショートレンジパンチを放つ、リアル伝説級の体術。
NPC米沢首は、それを足で再現した。
元ネタは一角獣の電磁加速である。
ジジッ、ゴパゴゴゴゴンンッ!
これは秘伝とされる”武術の足裁き”にも似ていたが、電磁稼動によるもののため原理が別物だ。
本来、会得していない、理想的な力学的効率を実現している。
けど、元からあるモーターへの介入はしていない。
モノケロス戦で”必殺技”を彼女はすでに体現しているが、それも、根幹部分は、電磁稼動による身体操作のみで、行われている。
驗や刀風に、この寸勁?を、間近で見せていたら、「すげえ! これも必殺技じゃん!」と尊敬されるところだ。
が、悲しいことに一人は既に上空へ消え、一人は遙か地底世界、しかも強制ダイブアウトさせられている始末。
彼女の、免許皆伝クラスの特技の本質が、日の目を見るのには、もう少し時間が必要になる。
壁を水平に踏み抜いた先には小部屋があり、その反対側の壁を連続で、ジジジッゴパゴゴゴッン、と踏み抜いていく。
直進してきた時速230キロの運動エネルギーは、壁を2枚も踏み抜けば、相殺できそうなものだったが、勢いは止まらない。
実現方法は違えど、ヤってる事は、秘伝とされる奥気と同じ、”力学的に理想の効率での回転ベクトルへの変換”だ。足先に集約する、作業効率は計り知れない。
ジジッジジッジジッッ!
バゴッゴパッバゴゴゴンッ!
さらに4枚ほど踏み抜いて、建物の反対側へ通り抜けてしまった。
最後の壁を踏み抜くときに、爪先で横方向への回転を加える。そのため、体は頭から落下せず、両手に受けた風圧で、姿勢をやや持ち直す。
そして、失速する直前に、”ひねり回し蹴り”を挟むことで、そのまま、走行可能な姿勢になった。
両足へ、集められる、環状放電。
なにか、そこに立てられていた、看板のようなものを、真っ二つにして、コウベは姿勢を取り戻した。着地すると同時に、再び、PLOT-ANのレリーフを踏み抜いた。
この、彼女が通り抜けた煉瓦造りの建物をよけて、街道は迂回していたのだ。
再び合流した街道を、駆け抜けていくオレンジ色の疾風。
人知れず免許皆伝級の、美少女NPCは、再び、トグルオーガ追跡のための全力疾走を再開した。
◇
弾道飛行中の魔女っ娘が、自棄気味に、折り畳まれていた、長大な魔法杖をパチリと延ばした。
地上を見れば、なぜか着弾地点へ駆け込んでくる2体のトグルオーガ。
魔法を詠唱し、着陸シーケンスに移行した魔女っ娘。
魔法杖は着弾地点へ向けられている。地表に向けて放つ魔法の何らかの作用で、軟着陸を試みるようだ。
それに気がついた様子の、”オウガ▲▲ニャン”が回避行動をとって、近くに生えていた岩石に頭をぶつけている。
気がつかずに駆け込んでくる”狛▼丑”。
その足下、何の変哲もない地面が脈打った。
どこにでも自由に行けるスターバラッドの世界。ただし、惑星ラスクの無数にあるエリアごとに”撃破すべき難敵”が設定されている。そして、その牙城への進入には多少骨が折れる。
具体的には、数か質か、どちらかへ重点を置いた、”中ボス”による進路妨害が待ち受けているのだ。
それは冒険を始めたばかりのプレイヤーが、最初に訪れる街道であっても例外ではない。
―――そう、さながら、地中から飛び出してきた樹の根のような、蠢く触手。
―――その先に巻き付けられている爆薬。一つが作動し、点る赤い光点。
―――光点は明滅する速度を速めていき、ボッガァンッ! やがてカラフルなピンク色の狼煙を立ち上らせた。




