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ワルコフに気をつけない  作者: スサノワ
16:底と、トグルオーガたち

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3:驗(シルシ)とプロトタイプ(巨大おはぎ) その3

2017/01/25 6:00 寒い。暫定ですが、修正したとしても、設定自体の変更はありません。たぶん。よろしくお願いします。

「おい、コウベ! 大丈夫か!?」

 生意気そうな幼い声を張り上げる、刀風(カタナカゼ)曜次(ヨウジ)魔法少女Ver。気絶(ピヨリ)中でも、見えるし聞こえるから、状況は把握出来ていたようだ。コウベが蒼鬼の背後に、瞬間的に姿を現してから、荒縄のような根っこに巻き付かれるまで、約5秒。


「ふごふごっ! ん゛ーっ! ふごっ! ……―――スヤァ」

 簀巻(すま)き型、美少女が、オレンジ色の放電を放ち、ジタバタしたが、一瞬で動かなくなった。

 可動部分が無ければ、いくら身体操作系(リニア加速)を駆使したところで、寸勁《ワンインチパンチ》を放つことは出来ない。

 スピースピー♪


「おい、諦めんな! 何寝てやがんだぜ!?」

 駆け寄り、巻かれた根っこを解(ほど)こうと、魔法杖(レクティファイア)を突き立てたが、ぎっちりと巻かれたそれには歯が立たなかった。


「ふごー? ……―――スヤァ」

 余剰リソース(ねんりょう)を表す、お下げは0センチ。

 余力がないのも、致し方ないかもしれないが、この寝付きの良さは筆舌(ひつぜつ)に尽くし難(がた)い。


 コウベを巻くのに、結構な長さの根っこが消費されたため、蒼鬼(コマウシ)と猫耳(オウガニャン)の足下は根っこから解放されている。


 コウベたちの方へウゾウゾと寄ってくる、光り輝く岩石。

 それと同時に、ずるるりと引っ張られていく、簀巻(すま)き型美少女(コウベ)。

 刀風(カタナカゼ)は、必死にしがみついたが、現在の質量は魔法少女一人分だ。

 軽々と、一緒に引きずられていく。


 そして、その背後から、トグルオーガ達2体が、駆け寄っていく。

 タッチダウンし飛び上がる巨体、振り上げられた青い拳。

 岩石が放つ光を反射する、―――アームガード。


 低い姿勢、ホルスターから抜き取られる、無骨なツノ刀(・・・)。

 コウベほどではないが、視角外へ大きく振られる、ギザギザな軌道。

 その高速機動で、ポシェットから、こぼれ落ちていく、―――ダイナマイト。


「鋤灼(スキヤキ)ぃ~~!」

 ”中身までイケメン”にあるまじき、ひ弱さを見せる刀風(カタナカゼ)少年。

 だが、それも仕方がないことかもしれない。

 フルダイブVRの臨場感はすさまじいのだ。フルダイブ・ネゴシエイト中の、意識拡張(わくわく)はゲーム中にも僅(わず)かながら影響が残る。1個や2個のピンチなら反骨材料となるが、それ以上となると、視野狭窄(スリル)が過ぎる。


 最強かと思われた友軍(コウベ)は(寝)落ち、

 引き寄せられる前方には、怪しく光る岩石エネミー。

 振り返れば、背後に迫る反復軌道のミス物騒と、

 落下軌道に入る3連コンボモーション。


 哀れイケメン少女は、涙を堪(こら)え、魔法杖(ロッド)をもう一度構える。


「ス、鋤灼(スキヤキ)い~~~~!」

 効率化(支援補佐)を目的とした、整流用二極管(レクティファイア)が、真価を発揮するには、効率化を図る元の要素(・・・・)が、必要となる。



   ◇◇◇



「―――真っさらの、初期化した状態のP(パーソナル)B(・ブレイン)C(・キューブ)が2個(・・)? ……結局PBC使うんじゃないすか。それも、2個も」

 少年は、部屋の隅に置かれたボストンバッグから、蛍光グリーンの小箱を取り出した。この小箱は量子メモリとしても使用できるため、ストックとして、環恩(ワオン)が用意してきたモノだろう。


「ザッ―――用途がぁ全くー違うんですよー」

 笹木特別講師は、やや早口、特別講座中の如(ごと)き流暢(りゅうちょう)さで、少年への説明を開始する。


「ザッ―――脳内の量子状態をぉ同期させてぇ、そのリアルタイムに変化する極小の差異(ゆらぎ)をぉ、量子的な作用(ねじれ)のぉ範囲内にとどめ続けるのがぁ、現在のフルダイブの仕組みなんですがぁ、わかりますかぁー?」


「はい、判んねっす!」

 鋤灼(スキヤキ)君ー、良いお返事ー。でも、”拡張ビット”周りはぁ、この間ぁ、講座でやったトコでっすよぉー。

 やべっ! すんません。でも、一介の不出来な高校生には、荷が重いっすよ?

 鋤灼(スキヤキ)君ー、別にー成績悪くないじゃなぁい。


「ザザザッ―――先生゛、コレは、……必゛要な部分だけに゛して、……どんどん先゛へ進゛め……たほう゛が良くないどす゛か?」


「ザッ―――じゃあそうしましょぉう。鋤灼(スキヤキ)君、判らないところは、その都度(つど)、聞いてください」


「いつもの(・・・・)、”正式な手順を踏めば機械が全部やってくれる”方式じゃ、なんかマズイんすか?」


「ザッ―――それがですねえー、非常に不本意(・・・)なのですがぁー……その手順(・・)のぉ中にー、”使用者の理解(・・・・・・)”がぁ含まれているんですようー」

 一際、”不本意(・・・)”というニュアンスが伝わってくる。

 その声色(こわいろ)に、釣られるように少年は、眉根を寄せる。

「理解度が関係するって、なんか、すっげー、……ふわっふわっしてますね?」


「ザッ―――でっしょおーーーーっ? 鋤灼(スキヤキ)君もそう思うわよねぇー!?」


「ザザザッ―――そう゛、そのノベルドライブの゛作動原゛理の……量子的特゛性てぇの゛が……複雑(カオス)すぎま゛してな゛……とうとう完全゛に゛は……一般化゛できへん゛かった……のや」

 歌色(カイロ)のクリーチャーボイスからも、”不本意(・・・)”とか””落胆《・・》”いうニュアンスが伝わってくる。


「そりゃあ、残念でした……ね?」


「ザッ―――それでも、100人中……14人程度の、起動率……を見せたんで……実証実験機(デモンストレーター)としては……十分だったんですが、―――」

 息を詰める笹木環恩(ササキワオン)。


「ザッ―――どう言うわけかぁ、VR研究に従事してたぁ研究者の中からはぁ、とうとう起動成功者はぁ、一人も(・・・)出ませんでしたぁー……」


 うわぁーーーん。先生元気だしてぇな、ぐすん。

 なにやら慰め合う、VR界隈に生きる、社会人女性コンビ。

 VR研究者達には、なにやら、不遇(ふぐう)な時代が、有ったと見える。


「ザッ―――そこに有るノベルドライブ(・・・・・・・)は、量子的に作用させる部分を、限りなく最低限度(・・・・)に絞り込みます」


「ザッ―――脳の機能を丸ごと複製するのが、P(パーソナル)B(・ブレイン)C(・キューブ)。それと生身の脳を、同期させるのが、脳波顕微鏡(レンズ)」

「ザザザッ―――それ゛が……視覚野経路(ビューリンク)隆起(ダイブ)型……ドラ゛イブの基本構成゛どすな」

「ザッ―――ここまではいいですかあ?」


 へ、へーい。心許(こころもと)ない、返答を返す少年。


「ザッ―――じゃあ、どんどん進めますよぉー! 脳波顕微鏡(レンズ)を経由して、肩代わりされるのが、プレイヤーの五感ですが……」


「ザッ―――言語野経路(ノベル)隆起(ダイブ)型ドライブは、実験用途向けに開発された、最初期のフルダイブVRデバイスです」


「ザッ―――そのため基本構成がちょっと変わるので、脳波顕微鏡(レンズ)を経由して、肩代わりされるのが、プレイヤーの五感ではなく、”主観(・・)”になります」


「主観(・・)? それって、フルダイブ中の五感(・・)とは違うんですか?」


「ザッ―――簡単に一言ぉ……では言えませんねぇー」

「ザザザッ―――そう゛どすな、……コレ゛に関しては、……向き不向゛きも゛……有り゛ますよ゛って」


「む? 何か歯切れ悪いっすね?」

 困惑する少年の声。


 「ザザザッ―――別に危険が伴う……ようなものではないので、……ここまでの理解で……一度やってみまひょか?」

「ザッ―――えーっと、そうねー、……そうしましょうかぁ。じゃあ、鋤灼(スキヤキ)君ー? そのVRHMDはこれから使うから、……簡易ARメガネはお持ちですか?」

「はい」

 面白メガネをかける驗(シルシ)。


「ザッ―――じゃ、開きますよぉう?」

 ヴュワァン!

 少年の眼前に、定格サイズの”映像空間(パーティーチャット)”が開かれた。


「ザッ―――あらぁ?」

「ザザザッ―――真っ暗どすな?」


 少年のデータウォッチから、音声が出ているので、接続切り替えが上手く行っていないようだ。

 驗(シルシ)は簡易ARメガネを、何度かクイクイっと持ち上げる。


「を?」

 おはぎに折り重なって現れた映像を、彼は指先で摘んで右側へ寄せた。

 有線接続のVRHMD同士でも可能な、通常の簡易VR経由の、VR空間(スタバ)へのアクセス。壁に挿したドングル経由で、この接続は維持されている。接続先は環恩(ワオン)の魔女帽子型VRHMDだ。

「鋤灼(スキヤキ)はん、……何度見ても、最高に……お似合いどすな―――プークス」

「ARメガネが似合う人なんてぇ、他に見たことぉ無いですよぉう―――プークス」

「それ、口(くち)でプークス(・・・・)って言っちゃってるじゃないすかー」

 憤慨(ふんがい)してみせる少年の口調は、それほど嫌でもなさそうに聞こえる。


 ガタガタ。よいっしょっと。先生手伝いますえ゛。

 小さな映像の中の猫耳環恩(ワオン)と処刑人(カイロ)は、大穴が開通している部屋の隅から、木製のテーブルと椅子を引っ張り出している。


「あっ! なんか始めちゃってるっ!?」

 画面の外から、禍璃(マガリ)の大声が届く。

 簡易ARメガネは音量調整が完璧とはいえないが、雑音(ノイズ)は入らなくなった。


「ふうっ……じゃぁ! アタシ先に行ってるわよ?」


「妹ちゃん゛、ミミコフは゛んを、付゛けてあ゛げまひょか?」


「そんな化け猫(バケコフ)、要らないわよー」

 遠ざかる、禍璃(マガリ)の勇ましい声。

「……ご挨拶コフにゃ」

 映像空間へ映り込んでくる、寝起きのドラ猫のような表情。

「あら? そうどすかー? ミミコフはんは、どないしたいどすか?」


「ミミコフはご主人の、お側に控えていたいですコフにゃ!」

 巨漢のB級映画のクリーチャーの背中に、頭をグリグリ擦り付け、付き従う猫耳メイドさん。

 どうも、”項邊(コウベ)歌色(カイロ)の外見”ではなく、個別V.R.IDを対象として、主従関係を成立させているようだ。この盲目的な服従ぶりは、メイドさんとしては、何ら不自然ではないが、ワルコフ由来の、キャラクターとしては超不自然だった。

 そもそも、項邊(コウベ)歌色(カイロ)は、宇宙服のワルコフを”意地悪(いけず)”と呼んで敵対していたのだ。

 その行動の背景も、目的も、原因も、何もかも明らかになっていないが、一つだけ明白なことがある。


 驗(シルシ)への、解説が中断され、暇になった笹木特別講師が、首だけを旋回させ、その両目へ不気味な光をたたえていく。

 ジリジリと後ずさりながら、”◯✕銃(シューター)”を取り出して構えるメイドさん。


 やはり、”お仲間みたいな猫耳(ササキ)環恩(ワオン)の外見”ではなく、個別V.R.IDを対象として、毛嫌いしているようだ。


「ご、ご主人のご命令とあらば、し、仕方ないコフ、付いていってやるにゃ―――」

 待つコフーーーッ!

 と脱兎のごとく画面外に消える猫耳メイドさん(ミミコフ)。



「先生、後で、……ミミコフはんを、思う存分……触らせてあげます……やさかい、とっとと……ノベルドライブ起動……してしまいまひょ」


「えぇ? 本当ぉー? 鋤灼(スキヤキ)君、何サボってるんですか!? 急いでください!」


 少年は、言われるままに、巨大おはぎの両サイド、”脳波顕微鏡(レンズ)”のリング部分の中央を押し、小箱《P.B.C》がぴったり収まりそうな機構を引き出した。

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