3:驗(シルシ)とプロトタイプ(巨大おはぎ) その3
2017/01/25 6:00 寒い。暫定ですが、修正したとしても、設定自体の変更はありません。たぶん。よろしくお願いします。
「おい、コウベ! 大丈夫か!?」
生意気そうな幼い声を張り上げる、刀風曜次魔法少女Ver。気絶中でも、見えるし聞こえるから、状況は把握出来ていたようだ。コウベが蒼鬼の背後に、瞬間的に姿を現してから、荒縄のような根っこに巻き付かれるまで、約5秒。
「ふごふごっ! ん゛ーっ! ふごっ! ……―――スヤァ」
簀巻き型、美少女が、オレンジ色の放電を放ち、ジタバタしたが、一瞬で動かなくなった。
可動部分が無ければ、いくら身体操作系を駆使したところで、寸勁を放つことは出来ない。
スピースピー♪
「おい、諦めんな! 何寝てやがんだぜ!?」
駆け寄り、巻かれた根っこを解こうと、魔法杖を突き立てたが、ぎっちりと巻かれたそれには歯が立たなかった。
「ふごー? ……―――スヤァ」
余剰リソースを表す、お下げは0センチ。
余力がないのも、致し方ないかもしれないが、この寝付きの良さは筆舌に尽くし難い。
コウベを巻くのに、結構な長さの根っこが消費されたため、蒼鬼と猫耳の足下は根っこから解放されている。
コウベたちの方へウゾウゾと寄ってくる、光り輝く岩石。
それと同時に、ずるるりと引っ張られていく、簀巻き型美少女。
刀風は、必死にしがみついたが、現在の質量は魔法少女一人分だ。
軽々と、一緒に引きずられていく。
そして、その背後から、トグルオーガ達2体が、駆け寄っていく。
タッチダウンし飛び上がる巨体、振り上げられた青い拳。
岩石が放つ光を反射する、―――アームガード。
低い姿勢、ホルスターから抜き取られる、無骨なツノ刀。
コウベほどではないが、視角外へ大きく振られる、ギザギザな軌道。
その高速機動で、ポシェットから、こぼれ落ちていく、―――ダイナマイト。
「鋤灼ぃ~~!」
”中身までイケメン”にあるまじき、ひ弱さを見せる刀風少年。
だが、それも仕方がないことかもしれない。
フルダイブVRの臨場感はすさまじいのだ。フルダイブ・ネゴシエイト中の、意識拡張はゲーム中にも僅かながら影響が残る。1個や2個のピンチなら反骨材料となるが、それ以上となると、視野狭窄が過ぎる。
最強かと思われた友軍は(寝)落ち、
引き寄せられる前方には、怪しく光る岩石エネミー。
振り返れば、背後に迫る反復軌道のミス物騒と、
落下軌道に入る3連コンボモーション。
哀れイケメン少女は、涙を堪え、魔法杖をもう一度構える。
「ス、鋤灼い~~~~!」
効率化を目的とした、整流用二極管が、真価を発揮するには、効率化を図る元の要素が、必要となる。
◇◇◇
「―――真っさらの、初期化した状態のPBCが2個? ……結局PBC使うんじゃないすか。それも、2個も」
少年は、部屋の隅に置かれたボストンバッグから、蛍光グリーンの小箱を取り出した。この小箱は量子メモリとしても使用できるため、ストックとして、環恩が用意してきたモノだろう。
「ザッ―――用途がぁ全くー違うんですよー」
笹木特別講師は、やや早口、特別講座中の如き流暢さで、少年への説明を開始する。
「ザッ―――脳内の量子状態をぉ同期させてぇ、そのリアルタイムに変化する極小の差異をぉ、量子的な作用のぉ範囲内にとどめ続けるのがぁ、現在のフルダイブの仕組みなんですがぁ、わかりますかぁー?」
「はい、判んねっす!」
鋤灼君ー、良いお返事ー。でも、”拡張ビット”周りはぁ、この間ぁ、講座でやったトコでっすよぉー。
やべっ! すんません。でも、一介の不出来な高校生には、荷が重いっすよ?
鋤灼君ー、別にー成績悪くないじゃなぁい。
「ザザザッ―――先生゛、コレは、……必゛要な部分だけに゛して、……どんどん先゛へ進゛め……たほう゛が良くないどす゛か?」
「ザッ―――じゃあそうしましょぉう。鋤灼君、判らないところは、その都度、聞いてください」
「いつもの、”正式な手順を踏めば機械が全部やってくれる”方式じゃ、なんかマズイんすか?」
「ザッ―――それがですねえー、非常に不本意なのですがぁー……その手順のぉ中にー、”使用者の理解”がぁ含まれているんですようー」
一際、”不本意”というニュアンスが伝わってくる。
その声色に、釣られるように少年は、眉根を寄せる。
「理解度が関係するって、なんか、すっげー、……ふわっふわっしてますね?」
「ザッ―――でっしょおーーーーっ? 鋤灼君もそう思うわよねぇー!?」
「ザザザッ―――そう゛、そのノベルドライブの゛作動原゛理の……量子的特゛性てぇの゛が……複雑すぎま゛してな゛……とうとう完全゛に゛は……一般化゛できへん゛かった……のや」
歌色のクリーチャーボイスからも、”不本意”とか””落胆”いうニュアンスが伝わってくる。
「そりゃあ、残念でした……ね?」
「ザッ―――それでも、100人中……14人程度の、起動率……を見せたんで……実証実験機としては……十分だったんですが、―――」
息を詰める笹木環恩。
「ザッ―――どう言うわけかぁ、VR研究に従事してたぁ研究者の中からはぁ、とうとう起動成功者はぁ、一人も出ませんでしたぁー……」
うわぁーーーん。先生元気だしてぇな、ぐすん。
なにやら慰め合う、VR界隈に生きる、社会人女性コンビ。
VR研究者達には、なにやら、不遇な時代が、有ったと見える。
「ザッ―――そこに有るノベルドライブは、量子的に作用させる部分を、限りなく最低限度に絞り込みます」
「ザッ―――脳の機能を丸ごと複製するのが、PBC。それと生身の脳を、同期させるのが、脳波顕微鏡」
「ザザザッ―――それ゛が……視覚野経路隆起型……ドラ゛イブの基本構成゛どすな」
「ザッ―――ここまではいいですかあ?」
へ、へーい。心許ない、返答を返す少年。
「ザッ―――じゃあ、どんどん進めますよぉー! 脳波顕微鏡を経由して、肩代わりされるのが、プレイヤーの五感ですが……」
「ザッ―――言語野経路隆起型ドライブは、実験用途向けに開発された、最初期のフルダイブVRデバイスです」
「ザッ―――そのため基本構成がちょっと変わるので、脳波顕微鏡を経由して、肩代わりされるのが、プレイヤーの五感ではなく、”主観”になります」
「主観? それって、フルダイブ中の五感とは違うんですか?」
「ザッ―――簡単に一言ぉ……では言えませんねぇー」
「ザザザッ―――そう゛どすな、……コレ゛に関しては、……向き不向゛きも゛……有り゛ますよ゛って」
「む? 何か歯切れ悪いっすね?」
困惑する少年の声。
「ザザザッ―――別に危険が伴う……ようなものではないので、……ここまでの理解で……一度やってみまひょか?」
「ザッ―――えーっと、そうねー、……そうしましょうかぁ。じゃあ、鋤灼君ー? そのVRHMDはこれから使うから、……簡易ARメガネはお持ちですか?」
「はい」
面白メガネをかける驗。
「ザッ―――じゃ、開きますよぉう?」
ヴュワァン!
少年の眼前に、定格サイズの”映像空間”が開かれた。
「ザッ―――あらぁ?」
「ザザザッ―――真っ暗どすな?」
少年のデータウォッチから、音声が出ているので、接続切り替えが上手く行っていないようだ。
驗は簡易ARメガネを、何度かクイクイっと持ち上げる。
「を?」
おはぎに折り重なって現れた映像を、彼は指先で摘んで右側へ寄せた。
有線接続のVRHMD同士でも可能な、通常の簡易VR経由の、VR空間へのアクセス。壁に挿したドングル経由で、この接続は維持されている。接続先は環恩の魔女帽子型VRHMDだ。
「鋤灼はん、……何度見ても、最高に……お似合いどすな―――プークス」
「ARメガネが似合う人なんてぇ、他に見たことぉ無いですよぉう―――プークス」
「それ、口でプークスって言っちゃってるじゃないすかー」
憤慨してみせる少年の口調は、それほど嫌でもなさそうに聞こえる。
ガタガタ。よいっしょっと。先生手伝いますえ゛。
小さな映像の中の猫耳環恩と処刑人は、大穴が開通している部屋の隅から、木製のテーブルと椅子を引っ張り出している。
「あっ! なんか始めちゃってるっ!?」
画面の外から、禍璃の大声が届く。
簡易ARメガネは音量調整が完璧とはいえないが、雑音は入らなくなった。
「ふうっ……じゃぁ! アタシ先に行ってるわよ?」
「妹ちゃん゛、ミミコフは゛んを、付゛けてあ゛げまひょか?」
「そんな化け猫、要らないわよー」
遠ざかる、禍璃の勇ましい声。
「……ご挨拶コフにゃ」
映像空間へ映り込んでくる、寝起きのドラ猫のような表情。
「あら? そうどすかー? ミミコフはんは、どないしたいどすか?」
「ミミコフはご主人の、お側に控えていたいですコフにゃ!」
巨漢のB級映画のクリーチャーの背中に、頭をグリグリ擦り付け、付き従う猫耳メイドさん。
どうも、”項邊歌色の外見”ではなく、個別V.R.IDを対象として、主従関係を成立させているようだ。この盲目的な服従ぶりは、メイドさんとしては、何ら不自然ではないが、ワルコフ由来の、キャラクターとしては超不自然だった。
そもそも、項邊歌色は、宇宙服のワルコフを”意地悪”と呼んで敵対していたのだ。
その行動の背景も、目的も、原因も、何もかも明らかになっていないが、一つだけ明白なことがある。
驗への、解説が中断され、暇になった笹木特別講師が、首だけを旋回させ、その両目へ不気味な光をたたえていく。
ジリジリと後ずさりながら、”◯✕銃”を取り出して構えるメイドさん。
やはり、”お仲間みたいな猫耳環恩の外見”ではなく、個別V.R.IDを対象として、毛嫌いしているようだ。
「ご、ご主人のご命令とあらば、し、仕方ないコフ、付いていってやるにゃ―――」
待つコフーーーッ!
と脱兎のごとく画面外に消える猫耳メイドさん。
「先生、後で、……ミミコフはんを、思う存分……触らせてあげます……やさかい、とっとと……ノベルドライブ起動……してしまいまひょ」
「えぇ? 本当ぉー? 鋤灼君、何サボってるんですか!? 急いでください!」
少年は、言われるままに、巨大おはぎの両サイド、”脳波顕微鏡”のリング部分の中央を押し、小箱《P.B.C》がぴったり収まりそうな機構を引き出した。




