1:追跡開始 その3
2017/01/07 9:19 もう少し整えました。室温10・4℃。
2017/01/07 7:56 さらに整えました。15分くらい流し読みして、気になった所を補足。室温は9・5℃。
2017/01/07 5:06 一先ず整えました。1時間ちょっと掛かりました。室温は8・5℃。
2017/01/06 23:25 暫定です。書き上がったままです。適宜修正を入れていきます。目安一回3000文字。書き上がるまで4、5時間。室温10℃、寒くて指が動かなくなってきました。よろしくお願いします。
彼女は、すでに、”キャリア中型免許”所持者だ。
新たな機能の実行権限を手にした以上、VR空間内部ではもはや、別の存在と言って良い。
鋤灼驗少年を、窮地から救い出すことなど、造作もない。
―――抹茶色を、狙った光の軌跡が消える。
彼女は”SIGN†ORGE”の頭を引っ掴み、空中へ出現した。
―――造作もない……というほどでは無かったようで、
バタタダダッバタタダダダッ!
―――超必死だった。
「あっ! あそこ! 小鳥、居たっ!」
「撃破されたたかと思ったぜ!?」
「……何で、鋤灼……はん゛がくっつ……い゛てま゛すのっ?」
「あら、やだぁ! 本当ぉー!」
突然空中に出現した、サイボーグ少年を追っかけて、映像空間が上昇していく。
これは白焚女史が使っていた、配信用の映像チャンネルではない。
キャラボイスによるチャットのため、音声ノイズの演出こそ混じらないが、性能的には格段に落ちる。設定されている”自動追尾”は、おまけ程度の物で、レスポンスはそれほどよろしくない。
少年が見下ろす四角い映像の中。
這いつくばるような姿勢で、少年を見あげているVRE研の面々。
惑星ラスク地表と、地下2千メートル(弱)をつなぐ映像空間。定格サイズの倍、厚みでいったら8倍程度、約60センチ四方の、前よりは大きく見やすい”立体的なライブ映像”。その箱型のウインドウは文字通りに、お互いの空間を見通す、全方位カメラの役割を果たしている。
小鳥+鋤灼少年、いや、”SIGN†ORGE”の横腹の辺りに、引かれる補助線。
ロックオンマーカーが出てない以上、避けようと思えば避けられる攻撃であると予測できる。
「シ、シルシの事なんててて、知らなななないんだか、又、ズビビビッ来るよ、ズビビビビン、避け―――!」
小鳥型NPCと、同じく”新たな機能”の実行権限を手にした、美少女型NPCは、映像空間の向こうから、腕を伸ばすが、届くわけはない。
ズビビビッというのは、レーザーサイトに沿って放たれる、光エネルギー弾の事だ。
ズビシシシシシシシシシシュンンン!
放たれた紫色の強い光。宙を舞う抜けた羽根を一瞬で焼却し、遠くのドーム状の膜のような天井の一部を爆発させた!
ドドドドドドォォォォォォォォォォンッ!
爆発の上の方には、最初に小鳥を狙った一発目が開けた巨大な穴が開いている。
「なんだ!? コウベじゃなくて、小鳥っ!? 俺、どうやって助かった!?」
頭を掴まれ、ジタバタしながら、落ちていくサイボーグ。
頭上に羽ばたく鳥を従えた姿は、神々しくも、マヌケにも見える。
蒼いトグルオーガに吹っ飛ばされて気絶した、コウベを空中で支えた、小鳥の超頑張り。しかも、今度は”中ボス資格”付きだ。
猛烈な羽ばたきをみせ、一瞬、空中に静止してみせる小鳥。
だが、いくら資格を持ったところで、所詮、小鳥は小鳥でしかなかった。
再び、抹茶色の小さな小さな羽根を、大量に舞い散らせ、―――落ちていく。
ズビシシシシュン!
不意に落下する動きで、奇跡的に光弾を避けた。
ズビシシシシュン!
もう一度、避け、―――加速するままに落下していく、小鳥+鋤灼少年。
走り回る、先行した方の敵性機械が巻き起こす土煙で、直下は視界ゼロ。
抜け散り痛んでしまった羽根。少年の灰色髪も、鳥脚でクシャクシャ。
そして、落下する軌道を予測算出するための情報は、必要十分に揃っている。
少年と一緒に補助線は落ちていく。
「小鳥ちゃぁん! がぁんばってぇー!」
コウベの隣、映像空間からはみ出すほどに、顔をつきだしている特別講師。
「ピピュイ♪ ピピュイ♪ ピピュイ♪」
米沢首は、流暢な口笛で鳥の鳴き真似を披露する。
これも、”中ボス”獲得により開花した、新たな技能、なのかもしれない。
小鳥の眼が真っ赤に光り、羽根をハチ鳥のごとき高速で、羽ばたかせた。
ブププゥゥゥゥゥゥゥゥゥン!
数瞬、時間にして、4秒。
ホバリングし、僅かに上昇すらしてみせるが、―――すぐに力つき、拡散する土煙の中へ落ちていく。
どたん!
うおわっ!?
「「「「「!?」」」」」
上ってきた映像空間と、サイボーグの眼が合う。
「鋤灼! 大丈夫か!?」
ドズズズムン!
ドドドドズズズムムムン!
それは直下に走り込んで来ていた敵性機械に偶然着地したサイボーグが、口の端を歪めているだけの、余裕のない姿だった。
しかも頭の上に鳥。プークスクスクスッ!
成人女性コンビが折れ曲がる。
「俺、コイツに踏みつぶされたはずじゃ!?」
我に返る、”SIGN†ORGE”。
「プーッ! た、たぶんー、小鳥ちゃんの中ボスとしての新しい力で、鋤灼君のー座標に一回飛んだんじゃないかしらー!? ……クスクス」
「プークス、……鋤灼はん゛、……鳥さん、頭に乗っけて……えっらい……カワ゛イイどすなあ……プーッ」
ピッピッピチュイッ♪
小鳥は少年の肩に飛び降りた。
「ふ、ふんっだっ! 小鳥の”イベント演出用ファストトラベル”はもう残数ゼロだかんね。し、しぃーらないんだかんね!」
ふてくされつつも、チラチラ横目で心配顔をみせる美少女NPC。
チィーーーーーーーーーッ。
言うが早いか、少年の心臓付近を通過し、眉間へ停止する、細い線。
「鋤灼はん゛! ……お゛でこ、狙゛われてま゛っっせ!?」
少年は、肩からポロリと落ちた、ボロボロの小鳥を、後ろ手で受け取る。そして、もう片方の手で、個人用金庫を開いた。
ズビシシシシシシシシシシュンンン!
紫色の光弾が、避けた少年を掠めた。
背後で、爆発する巨木の天辺。映像空間の中から、それを振り返ってる魔女っ娘。
横方向への予測演算も、完了したらしい。驗少年の、避ける歩幅にあわせて、補助線が追従する。逃げ場は無い。
ズビシシシシュン!
手にしていた円盤を、顔の前にかざした。
光エネルギー弾とは言っても、光の速度で飛んでくるわけではない。前もって予備動作に入っていれば、ある程度までは躱せる、ゲーム用の速度。
少年は、仰け反った。
ギュガッッッッッンン!
その、大きな反動を伴う爆発。あまりにも巨大な火花。
少年に逸らされた、6割程度の残光が、斜め後ろの膜に散らされる。
ドボボボボボボボボボボゥンッ!
連続的な小爆発は広範囲にわたり、膜の一角を崩落させた。
「痛っってー! けど、円盤の使い道、有った」
少年は小鳥を庇いながら、背後に倒れた。
「おい、大丈夫か! ソレ方式で逸らせ!」
「そうね、まともに全部喰らうと消し炭になるわよ!」
「ギュギギギギギュ!」
映像からオデコを突き出し、言葉にならない声を発する美少女NPC。
「ザザザッ―――あー、ソレ、なんだかわかりましたよ。敵性機械の類いでは無いでーす。惑星システム由来の、”空間リサイクルマシン:阿吽號”ですね。とりあえず、要らなそうな物を片っ端から真っ平らにしますよ」
白焚女史の、冷たくも動じていない、ある意味、のんきな声が、全員に届く。
俺達ゃ、要らん子か、ビビジュイ♪
抗議の意を示すものの、小鳥も驗も撃破寸前。空中に浮かぶHPゲージは真っ赤だ。
しばらく、照準が、自動機械の片割れの自動機械へ向けられていたが、角度的に小鳥+鋤灼少年に到達しないと判断したようだ。
光線兵器による攻撃を打ち切り、自動機械へ接近を始めた。
「惑星システムってぇー、あのぉー、取説だけでぇー100TBの……」
「あ、あ゛ー、……あれどすか……ぬぐぐぐむぐ……」
成人女性コンビが遠い眼をし出す。
「惑星システムの生物進化構造の一部。主に、”負の選択”を担っていますね」
女史の変わらない、どこか冷めたような声を、聞いていたシルシ少年は、円盤を腹の上に置いて、その上に小鳥を放してやった。
「負の選択ってなんだぜ?」「アタシ知ってるっ! ”進化圧”とかいうやつでしょ!?」
「それ゛を言うなら、……”淘汰圧”どが……”選択圧”どずな゛」
「”初期フロア”にも、”正の選択”を……担う空間リサイクルマシン居ますよー? 非公開な情報ですので、一応オフレコでー」
軽薄さも感じる冷めた声。”実働部隊”を指揮しているのか、作業しながらの声。余計に気もそぞろっぽいが、情報的には”非公開”な事まで公開してくれている。笹木特別講師は、手元でメモのような物を取っている。流石に、”音声メモ”は控えている。
「そんなの居たかな?」
ピピピチュ?
少年は、小鳥の言葉が解るわけではない。
それでも、ニュアンス的に、意志の疎通が図られているようだ。
その様子を映像空間の中から見下ろして、コウベはドコからか取り出したハンカチを、激しく噛みだした。ギリギリギリギリッ。どこから覚えてくるのかは、解らないが、確実に行動パターンが豊かになっている。
時折、頭上にまたたく、HUDによると、
『たこ焼き大介作成:米沢首Ver:3・1.13ー㊥』
『たこ焼き大介作成:小鳥Ver:2・8.7ー㊥』
いつの間にか大幅に、メジャーバージョンアップがされている。
㊥ってのは、”キャリア中型免許所持”を表す記号であると思われ。
「鋤灼君には朗報ですね。V.R.IDの再発行しなくても、良くなりましたよ?」
「えぇー? どう言うぅことですかぁ?」
何か、ゴソゴソと装備の換装をしながら、猫耳ヒューマノイドが、映像空間の中で聞いている。
「機能検索したんですが、”空間リサイクルマシン”は、基本的に惑星表面上での運用を目的として設計開発された為、飛行機能がありません。地表の”惑星管理センター”から出発した以上、どこかから惑星内部に入り込んだと思われます」
「そ、それわ゛……よござん゛……したな゛ぁ」
「何かもう、聞いてばっかりだけど、どういうこと?」「どういうことだぜ?」
「ソコまでぇー、ずーっと地ならししてぇー、歩いて行ったぁ訳だからぁー、歩いてぇー地表まで戻ってこれる証拠ですよぉー」
「あーそういう事ね」「なるほどだぜ」
納得する、威勢の良い海賊声。そして、生意気な魔女っ娘声。
「へー、どのみち、何とかして地表まで戻るつもりだったから、朗報朗報。じゃー俺はどうすっかな」
ヘラヘラっとした合成音声。
「しばらくそうして隠れてれば、”空間リサイクルマシン”は、通常タスクの周囲巡回へ戻ると思われますが」
冷たい感じもする事務的なシラタキ声。
「とりあえず、このまま通信衛星役に徹しまーす、あと、よろしく」
立ち上がれば、また撃たれ無いとも限らない。
少年は、個人用金庫から、針金を取り出した。
ピッピッピューイ♪
小鳥は、上空を向いた針金頂点に飛び乗り、周囲の索敵を開始する。既に連携が出来ている。なかなかの名コンビかもしれない。
映像の中のコウベは、ハンカチを噛み、引き裂いた。
その背後から忍び寄る、越後屋兼、悪代官。
「コウ゛ベ、あん゛たはん゛、……ここらで良゛いとこ……見せて置きま゛へん゛と、……シルシはん゛、小鳥に……取られ゛てしま゛……いま゛すな゛ぁ?」
に゛ひひひ。巨漢のB級映画のクリーチャーは下卑た笑みを浮かべる。
「ほらいくよ! さっさと、アイツ等とっ捕まえて、シルシにプレゼントしてやるんだかんね―――」
ジジッ! ドゴゴォォォン!
ぬおうわぁぁぁぁっ―――!
魔女っ娘の手を掴んで、急加速。2歩目から電磁加速全開、一気に映像空間から消えた。
「歌色さん、……何、焚きつけてんのよ?」
「取りあ゛えず、……鬼のNPCさん゛達と、……大立ち回り゛して……もら゛うのに、発破゛……かけてみ゛たの゛やけど……」
映像の中、巨漢の背後に控える猫耳メイドさんが、ジト眼で猫耳ヒューマノイドの動向を探るように凝視している。
その視線の先、猫耳ヒューマノイドは、換装した装備の動作チェックを始めた。
「発っ破ぁ……効きすぎまぁしたぁねぇー。うふふふふぅー」
朗らかで舌っ足らず、やや合成音声。
その声を聞きながら、少年はあくびをして、眼を閉じた。




