1:追跡開始 その1
2017/01/01 9:48 文体など整えました。
2017/01/01 3:13 長くなったので、その2へ分割。本年もよろしくお願いいたします。
2016/12/31 23:59 暫定
ジジジジジッ!
「だっよなーっ! 俺だけ、惑星ラスクの奈落の底じゃねえかっ!」
くそくそくそっ! マジで忘れてた!
台詞と裏腹に、覇気の感じられない合成音声。
パリン!
足下の光の円盤が消える。
出現完了と同時にドカリと地面に座り込む、サイボーグ姿。
そのどこか間の抜けた顔の上に浮かぶ、HUDには『LV7:SIGN†OGRE』。
ここは惑星ラスク。宇宙冒険喝檄世界における、主星だ。正式な軌道は恒星系第4惑星となるが、ゲーム中では、移住不可能な星を数える慣習がないため、第弌惑星と呼ばれている。
そして、ここは、―――地表ではない。
驗少年の尻の下には、超硬質の円盤が敷かれている。
シルシ少年の意識を、ここに電送してきた、光の円盤ではない。
この歯車状の板っぺらは、立方晶窒化ホウ素と同じ組成を持ち、すこぶる堅い。理論上最硬の分子構造を誇るが、今のところ、全く使い道がない。
プルルップルルッ♪
「はい、俺」
音声チャットの呼び出し音に答える、灰色髪のサイボーグ。
頭の上に通話マークがポップアップ。
この震えるような合成音声は、”自動機械化サイヴォーグパーツ”を適用して、”驗少年の本来持っている声”から自動生成された物だ。
「おう、そっちはどうだぜ?」
やけにハスッパなしゃべりの、女の子の声。驗サイボーグは、あたりを見渡すが、強敵も居なけりゃ、踊りが好きな顔長猫達までもが、居なくなっていた。
大決戦を繰り広げた、開けた場所。出現位置は変わってないように見える。
「別に変わってねえ。ただ、猫ども居なくなってる。なんかさみしい」
間抜けた合成音声。
「あれだけ、大騒ぎすりゃ、猫も逃げ出すだろうぜ」
特別講師と同じジャンルの声質。だが、幼く聞こえる声でも、ハキハキして整えられた印象を受ける。
「それもそうだな。で、そっちは?」
「おう、それがな。コッチに……コウベ来てるんだが、どういうこったぜ?」
「なんだとう!?」
サイボーグ然とした少年は、手で地面を押して、自分の乗った円盤を自分ごと回転させた。
地面のガタツキを軸にして、回転テーブルのように、軽く一回転。
そこは、開けた空間の中央、周囲には何もない。離れたところに、木が疎らに生えているだけだ。
猫も居なければ、美少女もいなかった。
「てっきり、後ろの方にでも出現したんだと思ってたんだが?」
ナイフを投げてきたり、噛みついてきたりする美少女は、ここには居ない。
それは、LV50オーバーの伝説級ボスが、徘徊していた謎の空間に、主戦力もなしに放り出されたことを意味する。
「俺のアカウントには、コウベが永久メンバー登録されてるはずだっ!」
やや、必死である。
「そう言われてもな。おう、コウベ、おまえ、何でコッチに居るんだぜ?」
ハスッパな声色が、生意気な口調で問いただす。
「うぉっほんっ! 私も、この度晴れて、LV:12になりまった。しかも、”キャリア中型”の正式なライセンス所持者ですぞ!」
コウベは変わらず、コウベ声のままだ。
拍手に包まれる通話先。
コウベの変なしゃべりは照れているのか? さすが、無駄に会話型の自律進化人格AIプログラムだ。日々、どこからか、変なことばかり覚えてくる。
少年は口の端をひん曲げた。コウベの、生えてない髭を摘んで横にのばす偉ぶり様が脳裏に浮かんだのかもしれない。
さっきの無差別格闘戦で、米沢首は、曲がりなりにも生き残ったので、上位3名以内にランキングされ、正式に、”中ボス免許”を手に入れたのだった。
「ピピチューッチュ♪」
「そう、小鳥の言うとーり。アタシは、LV:7のシルシの制限を受けなくてもよいことになりまった。出現位置をシルシの現在地点だけじゃ無くって、ふつうの最寄りの出現ポイントも選べるようになりまった」
「あら、忘れてたけど、鋤灼も、LV:7おめでと」
凛とした禍璃の声が、何もない開けた空間に響く。
但し、声は厳つい大男のような風情で、かなりむさ苦しい。
「おう、サンキュー。ま、そんな話してる場合じゃ無えけどな」
シルシ顔のサイボーグは、もう一度、尻の下に敷いている円盤を回転させた。
くるーん。
背後をせわしなく飛び回ってた、抹茶色を素早く手で掴む。そのまま回転し続け、元の位置でピタリと停止した。
本来、フルダイブを始めたばかりのプレイヤーが、キャラを、ここまで、自分の手足のごとく動かせるのは、普通ではない。
が、特にそれを指摘するものもいない。すでに、昨日、このサイボーグ少年は、直接撃破には至らなかったが、伝説級のレアモンスターをいいところまで追いつめたのだ。適正があると言えば有りまくりなのだ。
それでも、現在のステータスパラメータは、とても最適とは呼び難い。
『射撃メインの身体構成なのに、射撃スキルはマイナスで、必ず当たらない』
協力者が居てこその、投擲コンボだ。どんな雑魚相手でも、複数で来られたら即アウトだ。
「じゃあ、俺、ダイブしてる意味、本当にねえな。……ダイブアウトするか」
「ザザザッ―――、あー、そういえばー、仮にもスターバラッド形式のクエストを受けている以上、受注者本人が抜けちゃうと、いろんな手続きが無効になりかねないわねー」
「え? だれ? 白焚……さんか?」
白焚女史は、いつでもどこでも、ちょっと意地悪そうな彼女本人の声&風貌で、変わらないので分かりやすい。
「VR専門家としてぇ、いまの白焚さんのぉ独り言をー、意訳するとぉ、”鋤灼君がぁ、ダイブアウトしちゃうとぉいろいろなぁ便宜を図ることがぁ出来なくなりますぅ”ってことみたぁいー」
◇
今現在、驗達は、コンビニに出現した、謎の休憩所に居る―――物理的に。ジュースが入ってる大きなガラス扉を開けた先には隠し扉が有った。その先には6畳ほどの小部屋に、”理論上宇宙最堅牢の暗号通信規格”の通信環境が整えられていた。ほかには数脚のパイプイスが重ねられていただけで、テーブルひとつ無かったけど、笹木特別講師は妙に気に入った様子だった。”窓が無い所が素敵”らしい。
意識的にはスターバラッドの第弌惑星に居るわけだが、現実世界で、小声で発せられる声を拾ったりは出来ない。当然、唇や喉の筋電位から、音声を物理的に再現するような、事も出来ない。
彼らが着席している、この一見普通のパイプイスは、その実、普通のパイプイスで、学園のVR教室の座席のような、”フルダイブ完全対応”ではない。
単純に、VRHMD内蔵のマイクから拾えば良さそうなものだが、フルダイブ機器の仕様上それは出来ない。フルダイブ中にプレイヤーの脳の代わりに書き換えられる、副脳のような”PBC”を稼働させている間は、様々な観点から、デバイスへの各種入力情報を直接扱うことが出来なくなっている。
つまり、現在、彼らが出来る音声通話は、プレイヤー外装に設定されているキャラボイスを使用してのみ行える。あと、文字チャットはいつでも可能である。
◇
「ちょっと、声と外装が入り乱れてぇ、ややこしくなってきましたねぇ-。先生ぇ、人数分のぉ、ヘッドセットとか用意してくるべきでしたぁー」
せめて、いつものパーティーチャットだけでも大きめに開いて置きますねぇー。
ヴュワグワワワッ!
まえに使っていた定格サイズの倍くらいの大きさで”映像空間”が開かれた。
「いや、ややこしいけど、どうせ、プレイヤーキャラにも慣れていかなきゃなんないし、いいんじゃないすか?」
サイボーグは返答し、映像空間を見つめる。
「まあ゛、ぞうどずなぁ」
ボゴボゴと、泡立つ、身の毛もよだつ声。
”悪夢の処刑人”は、骸骨型のフェイスガードを歪ませて、思案している。キャラ設計や、プレイヤー本人の構造身体性との相性によっては、硬い物質も表情に合わせて曲がったりする。
公開から30年以上たった今でも、この、細身の巨漢は大人気である。
「アタシ、歌色さんの格好には、もう馴れたわよ」
三角帽子の厳つい大男が、厳つい声を出しながら、巨漢の腕を突いている。
「そしたら、話戻すけどさー、……俺、頑張らなきゃなんねえのかー? 先生に『受注ボタン』押してもらえばよかった。失敗した」
ゴロリと背後へ寝そべる、締まらない合成音声のサイボーグ。
「そうね、たしかに失敗したわね」
海賊は、かなりの大柄だが、処刑人の隣に並ぶと、相対的に、小さく見えている。
「どうする? オマエ、一人じゃ、その地底空間でやってけねえだろう?」
映像の中で、巨漢と大男に挟まれ、かなり小さく見えている、魔法少女。ハスッパな声で心配する。
それでも、手に持つ得物は、海賊の背中の大剣より長いから、存在感は両サイドに負けてない。
ピピチューイ♪
サイボーグの腹の上に置いた手の中で、小鳥が頼もしげな声を出した。
「あははは。小鳥が居たって、アタシが居なきゃ何にも、出来ないんだかんねー!」
増長気味の、米沢首のコウベ声が、”映像空間から、けたたましく届いた。




