4:中ボスってなあに? その2
2016/12/27 11:23 数行追加。まだ暫定です。済みません。
2016/12/26 11:27 暫定気味ですが。キャラを取り巻く状況がどんどん変化していきます。よろしくお願いします。
「はぁひいー……すみません。全部終わっちゃいましたね」
肩で息をする、鋤灼少年。
「あなたたちー、何事もなくってぇー、先生ー、安心しましたよー」
環恩は、遅れてきた2人に抱きつき、目を細めた。
そして、ボソリ。
「宇宙服のワルさんの事わぁー、一先ずぅ触れないでおきましょぉー?」
解りました了解す。あてえも了解しましたえ。ヒソヒソヒソ。
「―――おっ前、ほんっと体力無ぇーなー」
イケメンが、驗少年の肩を掴む。ググググッ。
美人特別講師に、ハグされたのを根に持っているのか、その手には血管が浮き出ている。
「―――そうねー。見た目よりかは、全然動けるのに、持久力が皆無なのよねー。……スタミナ値が絶対1しかないのよ」
小柄な少女が、驗少年の背中を小突く。ドドドドッ。
美人特別講師に、ハグされたのを根に持っているのか、その声にはトゲが混じっている。
「うるせー! 今日はなんか、この間みたいな、平坦な道じゃなかったんだよ……まあ、体力無ぇーのは認めっけどな」
「俺は、真っ直ぐな道と、エスカレーターだけだったぜ?」
「あたしも」「同じくー、わたしもぉー」
「……なんや滑り台みたいな、……えらい急斜面とか、……フィールド・アスレチックぽい……足場が不安定な通路も……仰山有りましたえ。……あてえはパワーブーツだから、……平気ど・し・た・け・ど・な」
にやり。さっきの白焚女史の表情を真似る、不敵な項邊歌色さん、推定20歳。
「む? でも、それは、ホントに、おかしいですね。申し訳有りません。早急に調査いたしますので」
一瞬険しい表情をしたが、公式に対応すべき案件であると判断したようだ。
「音声入力」「赤点號:経路選択:VステB2F」「対人ルート設定:ログ解析:オン」
「映像が、瓦礫の山で埋もれてたから、どうなったのかと思ってたけど、大したこと無かったんすかね?」
抱えていたボストンバッグを、環恩へ手渡し、驗は腕をぐるぐると回す。
環恩が、自動的に修復される仕組みみたいですよう、と説明する。
「なるほど、……あ! それより、狛丑達はっ!?」
少年は、既に修復された、まっ平らな戦闘フィールドを見渡すが、小石一つ落ちてない。
「残念だったな。天井が落ちたときに、どっか行っちまったってよ」
「詳細は、現在調査中で、さっぱり解ってないそうよ」
「ぐぬぬ、間近で観ときたかったんだけどなー!」
イケメンは、ドヤ顔で、さっき受け取った予約券を鋤灼少年に手渡した。
「コイツが有れば、あとで見られるってよ、一緒に見ようぜ」
そりゃいいな、サンキュー!
と予約券をカーゴパンツのポケットへねじ込む。
「うにゃぁー! ご主人コフッー!」
大きくなった猫耳メイドは、なぜか、ご主人視している、項邊歌色に飛びついた!
「こらっ! お放しっ! ……うっとーしー!」
単なる映像でも、この試験会場内部では、+5℃の暖かい空気となってまとわりつく。もやもやとして、確かに、うっとーしいかもしれない。
「それで? ……コウベの野郎は、どこに居やがんだ?」
「さっきまでー、戦闘フィールドのー瓦礫をー叩いてぇ壊すー、お手伝いしてたぁけどぉー?」
フィールド上には人っ子一人、落ちていない。
ヴォン♪
唸る真っ赤なイスが、壁を伝って降りてきた。足の先に付いた小さなタイヤが赤く発光しているところを見ると、パワーブーツと同じく、慣性制御を駆使して、壁や天井に張り付くことが出来るようだ。
ヴォプピ?
「は? 暗号化された連絡経路を快適に通過するための、『経路複号プロトコル』が壊れてる?」
ピピヴ、ピヴヴン?
「―――故意に破壊された!?」
なんか、ヴュヴュウン言ってる、真っ赤な、”自動機械”と会話する白焚。
「皆さん、さっきの、調査報告がでました」
女史は、自動機械”赤点號”に、腰掛けた。
その前へ集合する面々。
「トグルオーガのキャラクタ達は、どう言うわけか、この直下、地下都市空間を、隔離封印しているサブ防衛システムに攻撃を開始したようです」
「えーーーーっ!? あの子達、そんなに悪者には見えなかったですようぅ!?」
「いきなり殴りかかって来たんでしょうが、あの暴れ牛みたいな青い奴!」
「でもでもぉ、禍璃ちゃぁん。”オウガ▲▲ニャン”さんはぁ、お姉ちゃんにー、大事なぁ自分のー武器をー貸してぇくれましたぁようー?」
「そういや、俺たち3人で、攻撃受けたときも、ご丁寧に、上下中段コンボの、攻撃順で、予告出してくれては居たな」
「サブ防衛システムは、地下空間全ての連絡経路を管理しています。鋤灼君達を、正常にガイドすることが出来なかった原因はコレです」
「―――白焚さん!」
驗少年の声のトーンに、普段のだらけた感じは全くなかった。何時になく真剣である。
「あ、はい。何でしょう?」
「あの、トグルオーガのキャラクタ連中は、もう、削除決定!?」
「いえ、全実行プログラムを隔離の上、開発課へ送られるでしょうけど、別に消去したりしませんよ。あんな面白そうなもの、消すバカはウチには居ません」
管理運営には管理運営なりの矜恃があるらしかった。
「コッチにも居ないすよ。俺たちにも、そのチャンスくれませんか?」
「は? 鋤灼、何言ってんの? あんな危ないの!」
激昂する、小柄な少女。
「そうだぜ! そんな無茶って、……そう言うことか」
納得する、大柄な少年。
「鋤灼君ー。運営さんだけの問題じゃなくって、ジオフロントには、”量子データーセンター”と言う、人類最後のフロンティアを、担う責務が―――」
フルダイブVR専門家としての矜恃を見せる、スタイル抜群の子供声。
「先生、……ボソッ……俺と刀風が進めてた計画有ったでしょ? ……ボソボソッ」
顔を寄せる少年。
「え? ……ボソッ……あのゲーム機の筐体を使った奴ー? それがぁ、どうしましたかあ? ……ボソボソッ」
「アレね、あいつ等が居てくれたら100人力だ。間違いなく軌道に乗せられる」
「そうはぁ言ってもぉー」
「笹ちゃん先生。鋤灼に、乗っかっといた方がいいぜ!? ここ数日の、ゲーム配信で、コウベたちの人気が本物だってのは実証済みだろ?」
計画とやらには、コウベの人気が不可欠らしい。その彼女の姿は、フィールド上のどこにも見あたらないが。
「こら、アンタまで、何、姉さんの事、焚きつけてんのよ!」
「……何の話か、わからしまへんけど、……コウベの人気が出るってんなら、……あてえはそのお話、……乗りますえ。……元からその……つもりでしたしな」
環恩へ忍び寄る歌色。
「先生、人気って事でしたら、……たとえば昨日の、……モノケロス戦のPVが……5千やったとして、……1回の視聴に10宇宙ドル……の広告料が発生した……としますやろ?」
ぽちぽちぽちっと。さらに追加で、ぽちぽちり。
環恩が開いていた演算パネルを横から複製して、簡単な計算をしてみせる、前髪ぱっつんの成人女子高校生。その顔は、どう贔屓目に見ても、越後屋か悪代官のそれだった。
「先生、これは、俺の趣味と実益を兼ねては居ますが、先生の大好きな、儲け話ですよ!?」
驗が初めてフルダイブした日、環恩へ聞かせた、とっておきのイケメン声。再び。
「や、やぁねぇ、先生のことぉ、そんなぁ守銭奴みたいにー、まったく、鋤灼君はまったく」
ボソボソと反論を続けながら、背中を向けてしまう環恩。
やはり、VR専門家としての矜持と言うものがあるのだ。
まあ、しゃーねー、先生のそう言うところ、尊敬してるしな。
だよな、結構チャラいとこあるけど、芯にスジが通ってるんだぜ。
うんうん、姉さんはこうでなくちゃ。たとえ、お給料日まで無一文でも、専門家として守る、一線ってのが―――。
チーン♪
鳴る環恩の演算パネル。背を向けて算出していた演算が、終了したらしい。くるり。
「白焚さぁん❤ うちの部活でぇ、トグルオーガのキャラ達ー全員ー、面倒見させてぇ頂く訳にはー、いきませんでぇしょおかぁ?」
振り返ったその顔には営業スマイルが張り付いている。えへへー。
そこには、揉み手で、小さなお辞儀を繰り返す、希代のVR専門家が居た。
「もー先生まで、無茶苦茶言い始めましたねー」
眉間を指先で摘まむ女史は、とても、お疲れのようだ。
「でもぉ、この子達のぉ、やることなすことぉ、大盛況でぇちょっとー、面白いことにーなりそうなのはぁ、本当ーですよぉー?」
「あー、確かに、昨日の配信の、総再生回数凄いことになってましたね」
「頼みます。俺なら、あいつら、超面白く料理してやれる!」
余所行きのイケメン声。
「いやね、ホント兄弟そっくり……げふんげふん……、い、いいでしょう。確かに、あの、逸材をむざむざ、解析班に丸投げしてやる言われもないですし、おすしっ」
何故か、顔を真っ赤にして、そっぽを向いてしまう、アラサー女史。
短めの巻き毛がフワフワと揺れる。
「ですが、事が、”地下都市空間”の隔離品質に及んでいるので、立場上、表だっての協力は出来ません」
そこで言葉を区切り、赤い丸イスを、焚きつけるようにヒールの踵で小突く。
「なので、私は”赤点號”で、彼らを追跡・確保するための実働部隊をここで指揮します。その情報を”安全上の理由”と言う事で、逐一、君たちと共有します」
「つまり、白焚さんよりも先に交渉してスカウト出来たら、―――俺たちの勝ちって事ですね」
「はいそうです。―――但し! 交渉成立したとしても、まず背景を洗って安全確保できるまでは、こちらで彼らの全コード及び、実行権限を預からせて貰うんだからねっ!」
右手を腰に当て、驗に、左手の指先を突きつける。
コレは、アラサー女史が、身を削った渾身のギャグなのかもしれない。元々、バイトで、プロトたんの格好をしてるような人だ。素養は有る。
一同から、戸惑いのリアクションを引き出した女史は、収納したばかりの階段も引き出した。
「『経路複号プロトコル』が正常に機能していない現状なら、スターバラッドのエリア間電送を使えば、サブ防衛システムへ直接アクセスできます」
再び、高台へ上った白焚女史。その声が、試験会場に木霊する。
「ここから一番近い、ルートは、……スターバラッド内、第弌惑星。第弌エリア、『回廊都市デリカテッセン』最深部の、”ジャンプゲート”になります」
女史は、何時もの意地悪っぽい雰囲気を取り戻し、作戦テーブルへ指を走らせる。
『アンノウンNPC、トグルオーガキャラクターに酷似した3体の、武装解除。そして、全コードの凍結と、実行権限の無条件譲渡が、必須条件となります。この条件で、このクエストを受けますか?』
カラフルで、小さいキャラクタが踊る、楽しげなダイアログが、少年の前に表示された。スターバラッドの、突発型クエストの受注を促すものだ。
鋤灼驗少年は、部員と顧問の顔を見渡す。
本日、VRE研一同は、全員がフルダイブHMDデバイスを持参している。
パスタ柄のおもしろ長袖Tシャツで、手に握る汗を拭く。
少年の手首、データウォッチは、『07:09:24SBT』『10:23:08UTC+9』を示している。
休日の午前中は、まだまだ残っている。
大冒険に出発するだけの時間はある。
少年は唇を、ペロリと舐めた。




