3:蘇生ランゾウ その2
2016/12/17 8:52 ちょっと修正。
2016/12/17 6:55 文体など修正。
2016/12/17 6:26 少し暫定ですが、よろしくお願いします。
「ファッ―――!? どこだここはっ!?」
一本だけ敷かれているレールを掴んで降りていく、”自動機械”。
周囲を、表面処理されたコンクリートブロックで囲まれたチューブ状の通路は、地下モノレール線路のようにも見えるが、レールも通路も、その規模はとても小さい。
そして、レールは水平になる事はなく、垂直のままだった。
辰田乱雑少年は、ゲーマー特区の中枢に迫りつつあった、―――物理的に。
量子データセンターを常態稼働させる為の、地下都市空間。その全ての建築作業は、作業BOTによる自動化の元、執り行われた。
竣工後、国家レベルでの潜入が試みられ、未だに只一人の侵入も許していない非公開空間―――へ、無許可で進入した最初の人間となった。
彼は産業スパイでもなければ、ゲーマー特区、ひいては量子データーセンターにまつわる特ダネを追う記者でも無い。ごくごく普通の、成績優秀なだけの一般生徒である。ソレがどれほど希有な事だろうが、彼には興味が無かった。
ごぅごぅごぅわっ―――!
吹き抜けていく風、煽られる少年。
手すりの一つもない箱の上では、アームの先の看板に、へばりつくしかできない。
「―――こ、こらおっまえ! ボクをどこへ連れて行くつもりっだっ!」
只でさえ早口な彼の言葉が、更に早まっていく。
いろんな角度の急勾配を乗り継ぎ、レール付きの通路は開けた空間へ合流した。
螺旋を描き降りていく、”自動機械”。
レール一本で連結されている、非常に心許ない足場。
(◎_◎)が少年の乗る天板部分を、水平に保ってくれているおかげで、彼は振り落とされずに済んでいる。
ゆっくりと回転する光景。恐る恐る顔を出して、進行方向を盗み見る。
何キロ続いているか分からない広さの、天井と下層構造。おそらくは特区地表面と、下層のジオフロントを隔絶している、何もない空間。
「駅ビルの屋上から、と同じくっらいか!? 怖っ!」
6階建ての駅ビル最上階からの光景と同じ程度ということは、この空間の直線距離は、25~30メートル程度と思われる。
その何もない空間には、地表の表面都市を支える構造と、|大深度地下のジオフロント地下都市《下部》を繋ぐ経路がひしめいている。
メカメカしい巨大な柱構造や、上下を繋ぐ各種構造物や、縦横斜めの昇降機らしき移動体。それらは一定の距離が保たれているため、角度によっては遠くまで見渡すことが出来、それほど圧迫感はない。
ごんごんごんごん。
その中の、作りかけのブロック細工のような、水平で平たい構造物の一つへ向かって、一定速度で落ちてゆく。
「そういや、なんっで、ここはこんなに明るいっんだ?」
見上げれば、底面や側面部分が、煌々と光を発している。
遠くにそびえているであろう、地下空洞の壁面へも目を凝らしてみるが、光に霞んで見ることはできない。
シュゴッ―――!
ぬぅおわっ!
構造物の中へ入る。
ゴンゴンゴ……ガッゴン!
レールが急激に斜めになり減速、すぐに停止した。
「おい。止まっちまったぞ!? 僕はどうっすりゃいいんっだいっ!?」
上部にあいた穴からの光で、わずかに周囲の様子は見える。
『この表示面を足場としてお使いください。ご搭乗誠に有り難うございました。』
パッ。
しがみついていた看板を手放すと、そう表示され、アームが動いて、盤面を水平に保った。
その高さは、彼が床面へ降りるのに、ちょうど良かった。
「ふんっ! 君はー”乗り物”では無いっだろう?」
自販機の側面に描かれているのと同じロゴ入りの、オレンジ色のレジ袋を抱きかかえ、彼は前人未踏の非公開空間へ降り立った、初めての人類となった。
プルリリリリリリ♪
あわてて、手首を押さえて、姿勢を低くする。
「だっれだ!? こんな時に!?」
押さえた手をすり抜けて、さっきの見慣れない、◐が浮かんでいる。
まるで、手の甲に埋め込まれた金属物体にみえる。「気持っち悪っ」と少年は両手をぶんぶんと振り回したが、白黒球は手首のリストバンドを軸にして、クルクルと回転しただけだ。
白黒球は定位置で静止すると、ビッ―――♪
と、大きな発振音と、床から広がっていく光輪を放った。
やがて、薄暗い通路の数メートル先に到達し、何か壁についている、四角いものを光らせた。
ガピュピーーーボフン!
四角いものは、赤く発光したのち、怪音を発して煙を吐いた。
「おい、やめろ! 静かにしろっ! ここは、入ったらっ駄目な所じゃっないのか!?」
◐は答えない。
「……ひょっとして、僕をこっんな所へ連れてきたのはオッマエか!?」
手首に浮かぶ、◐が、震え、◍へと変色した。
ここ、通称ゲーマー特区では、禁忌とされる、明るい赤色。
WEBカラーで言えば”#FF263E”。
ひぃぃ!
固まる少年。どうやら、彼は臆病な気質のようだ。
ゴゴゴン!
プルピピピ、プピピピッ♪
ゴォッ―――ヴァリッヴァリッ!
”自動機械”は、レールに電磁推進の放電を煌めかせながら、瞬間的に発車し、居なくなった。
ジジジッ!
「おい!? 僕をっ置いてくなっ!」
彼が伸ばした手の先には、一本のレールが―――を降りてきた、箱型の”自動機械”。
その筐体の色は手首の球と同じ色。
足を一本ずつ床に接地させ、レールを掴んでいたアタッチメントを格納していく。
少年は半狂乱になりながら、手首のリストバンドを投げ捨てる。
ガッガッガッキュゥン!
3メートルは有る、通路状の天井に頭をぶつけ立ち上がった”自動機械”。
そのハッチが開き、せり出した平面。
パッと、白い人影が表示されたが、目鼻口はなく、そのツルリとした顔に、へたり込んだ少年を魚眼に映し込んでいる。
”自動機械”は少年の鼻先3センチまで接近し、そのノッペラボウを見せつける。
違う、これは、単なる映像じゃ無い、双方向の主観を伴った、リアルタイム通信だ。それに気づいた少年は、肩をふるわせた。
その宇宙服を着込んだ通信主の、バイザーが、魔術的なまでの奇跡の称号、凶悪で明るい赤色に塗りつぶされる。宇宙服のバイザーに、内側から鮮血が差したようにも見える。
彼は卒倒し、パタリと倒れた。
◇
「このバトルロイヤル戦に決着が付くまでは、設定を何一つ変えることが出来ませーん!」
ヘッドセットの、作動状況を表す表示が発声にあわせて点滅する。
戦闘フィールドの有る、この広い部屋中に拡声される、白焚女史の現状報告。
それは、遅延なく街頭モニタ前の、三叉歩道橋へも、届く。
◇
ガヤガヤガヤガヤガヤガヤガヤヤ。
「どうなってんのこれ!? 見えなーい」
「金返せ-! 真っ暗だぞー!」
表示上の不具合を、訴える声がピークに達している。
なお、街頭モニタは年中無料である。
「先輩戻ってこないね? ……居たら居たで、忙しなくて、落ち着かないから、別に良いんだけど」
「そうね。むしろ、……あの自販機だけでも、早く戻ってこないかな。なんかおいしそうな匂いしてたしー」
キャッキャッキャ!
◇
ゴゴゴゴゴッ!
バンッ、ゴカン! ドドドドッ!
「先生ーーーっ! その戦闘フィールドの、物理的な、”仮想現実感”対応レベルは最上限に設定してありますーーー!」
「姉さん、どういうこと!?」
刀風の背中に、ぶら下がる禍璃が、野生の勘を遺憾なく発揮して、横から飛んできた小さな瓦礫を蹴飛ばしながら、聞いた。
「特区のー技術力が許す限りってぇ事だからぁー、事実上ぉー無限大って事ねぇー、何がぁ起こってもぉ不思議じゃないわぁー! ウッフフフフゥー❤」
筋骨隆々の教え子にお姫様だっこされるがままの、やや、上機嫌な環恩が返答する。
さすがに、”特選おやつ”は開けられ……ないみたいねと言葉を続け、レトルト食品っぽいのを開けようとしているが、確かに出来ないようだ。開封口の切り込みが見当たらない。
そして、小脇に猫耳を抱え、腹の上で、特選おやつ”開封を試みる様は、―――。
王子様の肩に、よじ登るようにしがみついた、”しがみつき魔神”は、「ラッコ……みたい」と、的確な感想を述べた。
「……魔法みて……えな事も、っはぁっ……起こり放題ってことかあ!?」
俺にとっちゃ、今のこの状況自体が、魔法みてえだけどなっ! キャッホーイ♪
満面の笑みで、担当特別講師を抱きかかえる、筋骨隆々の王子様は、……急激に減速していく。”しがみつき魔神”の、しがみつき攻撃で、体力を消耗したっぽい。




