第九話 盗賊紛い
潤平は結局森の中を歩いている。
木の棒が落ちたのが右の方向だったので、決めていた通りまた森の中に戻ってひたすら進んでいる。
どのみち左を選んだ所で、結局の所進んだ先が正解かどうか分からないので、潤平はあまり気にしていなかった。
それに、森の中でも今回は舗装された道を歩いている訳で、今までの森の中の自然道を歩かなくていい分気が楽だった。
さてウキウキで森の中を、歩いている潤平は何をしているのかとゆうと、魔法リストに記憶しておいた魔法を選んで、何を作ろうか考えている所だった。
今まではいちいち足を止めて作っていたけど、歩きながら作れる事に気づいてからは、作りたい魔法リストの魔法を積極的に作る事にした。
勿論、じっくりと時間を掛けて作りたい魔法が思いついたら、それはちゃんと時間を掛けて作るつもりである。
今回のは比較的簡単な『風魔法』と、『修復魔法』を作ってみるつもりで、この二つは少ない魔力量で作れるらしくて、今の内にぱぱっと作り上げてしまいたかった。
だが、一番に作ろうと思っていた『映像魔法』は、どうも時間が掛かるし消費する魔力も結構食うようなので、この場で作るのはあきらめて、もう少し落ち着いた所で改めて作ろうと思い直した。
「よ~し、とりあえず『風魔法:初』と、『修復魔法』は作ることが出来たぞぉ、とりあえずYシャツとダメージの酷いズボンでも直しますか、ん~修復」
道中すっかりボロボロになったシャツとズボンに、『修復魔法』を掛けて直してみる。
すると、破れたり擦れた箇所がどんどんと綺麗になっていき、新品同様に修復されていくではないか。
出来上がったシャツとズボンは、まるで新品同様に直っていて、入学式に着て行けると思うくらいに直っていた。
「うほー! すげぇ、こんなに綺麗になるのかよ! なら靴と靴下も魔法で直しとくか!」
あまりの綺麗さに感動したので、同じように靴と靴下も、修復していく。
全身、見違えるように綺麗に修復された事で、入学式の日の事を思い起こす。
祖父母が、新しい制服を見てとても喜んでいた記憶が蘇る。
忘れていた懐かしい記憶と、便利な魔法が出来た事で潤平は気分が上がる。
そのまま、上機嫌で森の中を歩いていると、不意に妙な気配を感じて立ち止まる。
しばらくの間動きを止めて、ジッとしていると道の端の木から三人組の男衆が現れた。
そいつらは潤平の前に立ちはだかると、真ん中の男は偉そうに腕を組んで、両隣の二人は懐から武器を出して潤平に対して隠す気のない殺気を向けて来た。
「よおあんちゃん、随分と上機嫌だなぁ、何か良い事でもあったのかい?」
そう訪ねてきたのは、三人の内の真ん中の少し偉そうな態度をした男。
他の二人より、かなりがっしりとした体付きをしていて、いかにもあらくれ者の風貌をしていて腕っぷしの強そうな男だった。
(…………)
潤平はそんな男の言葉が全く耳に入って来なかった。
それとゆうのも、彼らが木の陰から出て来た時に、潤平の目に入った光景が余りに衝撃すぎて、頭の中を素通りしていったのだった。
潤平は頭を軽く振って冷静さを取り戻す。
だが、我に返った所で禄に話も聞いていなかったので、適当に断った。
「え、嫌です」
まさか、きっぱりと断られるとは思ってもなかったらしく、三人とも一瞬呆気に取られて、間抜けな顔をしていた。
「あ、兄貴っ、あいつ断りやがったすよっ」
ひと呼吸おいて、左側の男が慌てた様子で真ん中の男に、尋ね出した。
見ると左側の男は、身長は真ん中のガタイのいい男と、あまり変わらなかったが、服の上からでも分かる位ひょろひょろの体付きをしていた。
真ん中の男が、隣にいると尚更華奢な体が目立っていた。
「……素直」
右側の男は、その一言だけ呟くと黙ってしまった。
対して、この右側の男は他の二人と比べて、頭ひとつ分身長が小さく、逆に目を引いた。
中性的な顔つきをしていたが、右頬に似つかわしくない傷があり、それが却って目を引いた。
そんな両側の二人が話している時、兄貴と呼ばれた真ん中の男はというと、ポカンと拍子抜けしていた。
すると潤平の言葉を理解したのか、間抜け面から徐々に顔が真っ赤になって行き、ここから見るととても憤慨している様子だった。
そんな、男の様子に気付いた左側ののっぽ君は、慌てた様子でどうにか男を刺激しない様に宥め始めていた。
ガタイくんは、のっぽ君の言葉で落ち着きを取り戻そうとして、何度も深呼吸を繰り返していた。
その間、チビくんは我関せずの態度を取っており、一歩離れた所で状況を見つめていた。
ガタイ君は、苛立った感情を抑えて落ち着きを取り戻すと、額に青筋を立てつつも、必死に堪えながら再度潤平に対して高圧的な物言いをしてきた。
「そ、そうか、断るのかなら話はお終いだ、着ている物と持っている物を置いていきな、じゃなきゃ痛い目にあうぜ」
「そうだ! は、早くしろぉ」
「……早く」
真ん中の男が、恐喝染みたセリフを言うと、その言葉に続いて他の二人も畳み掛けるように続いた。
ここに来て、ようやく彼らが言っている事が理解できた。
要するに彼らは物盗りである。
道を歩いている者から、金品や身につけている物を略奪していく類なのだ。
そうと分かれば話は早い、取るべき行動は一つ。
「嫌です」
再度、きっぱりと断った。
その回答が引き金になったのか、ガタイくんは怒りの頂点に達してしまい、背中から大刀を取り出すと、潤平に向けて明らかな殺意を向けてきた。
それでも、直ぐに襲いかかって来る事はなく、体がプルプルと震えて怒りを堪えてる様子だった。
そんな男を、両脇の二人は刺激しない様にちらちらと、顔を伺うだけだった。
この場の空気に耐えかねた、のっぽ君が拙い口調で、潤平に物言いをし始めた。
「お、お前! 話が分かる内に言う事は聞いといた方が良いぞ! あ、兄貴が切れたらやばい事になるんだからな!」
「……怖いぞ」
若干、ガタイくんの後ろに隠れて、脅迫めいたセリフを潤平に向かって言い始める。
やばい事とは何だろう? 頭を捻って考えてみる。
もしも、彼らが力付くで来るつもりなら、此方もそれなりの対応をするつもりでいた。
潤平があからさまに、雰囲気が変えた事で両脇の二人は、更にガタイくんの後ろに隠れてしまう、そして遮蔽にされている等の本人は、今だに下を向いて怒りで震えていた。
潤平は改めて、眼の前にいる三人組を見回す。
見れば見るほどアンバランスな組み合わせのトリオ。
真ん中の男はいかにも、盗賊とゆう格好をしてたし顔つきも、人相の悪い顔をしていたので納得する。
だが、両脇の二人はどう見ても、荒ごとには向いてなさそうに見えたので、本当に盗賊なのか疑いたくなる。
ふとチビくんに、視線を向ける。
彼は、見られてる事に気づいたのか潤平と視線が合うと、潤平を睨み返して罵詈雑言を言ってきた。
「……こっち見んじゃねえ、ゴミカスが」
(怖っ……)
余程、潤平に見られてる事が不快だったのか、急に口が悪くなった。
潤平は、これ以上刺激しない様にと、慌てて視線を相手から外して、別の方に移した。
こちらはと言うと、左側の男が必死に真ん中の男を宥めている様子だった。
「があああっ! もう無理だっ、我慢できねぇっ、何でこんなガキ相手に俺が下手に出なきゃならないんだっ、盗賊だったら最初から力づくで奪えばいいじゃねぇかっ」
しかし、真ん中の男は我慢の限界だったのか、左側の男の静止を振り切って、潤平を指さすと怒りの感情をぶつけてきた。
怒り喚いてる男、それを宥めてる男、いまだに潤平を警戒して睨みつけてくる男、吹っ掛けて来たのは向こうなのに、収集が付かなくなってきた事で潤平は、この場から逃げ出してくなってきた。
(めんどくさいな、逃げようかな、でもなぁ……)
多分だが、逃げた所で余裕で彼らからは逃げ切れると思うし、仮に力付くで来ても軽くあしらえる気がした。
実践経験に乏しい潤平だが、強化された体が生物レベルで違うのだと、直感で分かった。
だが潤平は少しばかり気がかりな事があり、この場を離れる事を躊躇わせた。
一つが、彼らの容姿である。
どこからどう見ても、彼らの容姿が純日本人にしか見えないのである。
これには初めて見た時にとても驚いた。てっきり潤平は、異世界の人間というものは、西欧風な人種の容姿をイメージしていたので、想像と反して違う容姿が出て来た事にびっくりして言葉が出てこなかったのである。
それに、服装も少しばかり違った。
純日本人と言っても、彼らが来ている服装は現代風の服装とは全く違う。その格好とゆうのが昔祖父が見ていた時代劇に出てくる盗人の様な格好をしており、それが更に予想の斜め上を行った。
まさか、この世界に来て初めて邂逅した人間が、こんなに日本人の見た目をしてるとは、予想だにしていなかった。
そしてもう一つの気になる点はというと、男は自分たちを盗賊だと言った。
ならば潤平の制服を奪った透明の主と、何か繋がりが有るのではないかと考えたからである。
おそらくだが、あの場から逃げ出した男も盗賊。そしてここら一帯は彼らの縄張りであり、透明の男はたまたま潤平を偵察していて、珍しいそうなら服装があると思って、制服を盗んだのではないか。
そして潤平にばれて必死に逃走した。
眼の前の三人は盗賊がアジトに戻って、情報が行き渡る前に潤平と出会った、でなければこんなに立て続けに盗賊に遭うのはおかしいと思う。
潤平があれこれ頭を捻って考えていると、ガタイくんが我慢の限界だったのか、二人の静止を振り切って潤平に襲い掛かって来た。
潤平はその攻撃を軽快な動きで躱すと、追撃されない様にその場から飛びのいて距離を取った。
だが、離れても次の攻撃は来なかった。
見ると、潤平を真っ二つにしようとした大刀は、潤平が避けた事で地面に叩きつけられ深々と、地面を抉っていた。
かなりの重さであっただろう一撃は、食らったら安易に致命傷になっただろうが、その重さ故連続で振り回す事には向いてなさそうだった。
ガタイ君が、地面に埋まっていた大刀を持ち上げて、大刀に付いた土を払っていた。
「避けたなてめぇっ」
自分の渾身の一撃を躱せるとは思ってなかったらしく、潤平を睨みつけるガタイ君。
(いや、あんなデカい刀避けるでしょ……)
いきなり切りかかられたら、誰だって咄嗟に避けるだろうし、ましてやあんな大きい刀の一撃だ、どんなにこの身体が丈夫に出来てたとしても、生身で受けるのは勘弁したい。
そう思いながら態勢を整える。
「あ、兄貴ぃ」
「……やるの?」
そんな、ガタイ君の突然の行動を見て、両脇の二人は力なく呟く。
「覚悟決めろお前らっ、俺らが生きていく為にはやるしかねえぇんだっ! それともゴミの様に野垂れ死にたいのかっ?」
弱弱しく呟く二人に、見かねたガタイ君は大声で発破を掛ける。
(お? 何か訳アリか?)
そんな三人のやり取りを見ていた潤平は、目の前の三人が何か事情があるのでは考える。
勿論、あれが潤平を騙す演技だという可能性も捨てきれない、盗賊ならば卑怯なやり口の一つや二つ持っているだろう。
だが、どうやらそうではないらしい、見るとのっぽ君は青白い顔をしていたし、チビ君はどこか落ち着かない様子だった。
どうやら、ガタイ君と違ってあの二人は、人を襲う盗賊業に乗り気ではないのかもしれない。
思えば、彼らには不自然な行動がいくつかあった。
盗賊だったら、最初の時点で有無を言わさず襲い掛かって来ればいいし、纏っている雰囲気は盗賊っぽくないし、見た目に関しては、ガタイくんは盗賊に見えるかもしれないが、両脇の二人は外套の隙間から見える服が、ただの小汚いボロ布を纏っているだけに見えた。
改めて、しっかりと三人を見ると、盗賊に向いている様には見えなかった。
ガタイ君も良い様に捉えれば、ただの声がでかい粗暴な男かもしれない。
(これは、どうしようか)
真ん中の男はともかく、両脇の二人は戦意を感じられない。
ならば、まだ話し合いをするチャンスは残ってるのでは? それに彼らには色々聞きたいこともあるし、どうにかガタイ君が矛を収めてくれる可能性はないか、と考えている時だった。
「俺だけを見てろ、俺に付いてこい」
何とも、盗賊なのにどっかしらの、主人公みたいなセリフをガタイ君が吐きやがった。
その言葉を聞いた途端、二人の目の色が変わり急にやる気に満ちていた。
「マジか、急にどうしたよ」
三人とも急に、戦意に満ち溢れた事で、とてもではないが、話し合いが出来る様な雰囲気では無くなった。
彼らが急に覚悟を決めたらしいので、潤平も迎え撃つ覚悟を決める。
迎え撃つと言っても、『収納』から調理用のお玉を取り出すだけだが。
思えばこの世界に来て、魔獣とは散々戦闘をしたが、人間との戦闘はこれが始めてな事に気付く。
だからと言って油断する気もない。彼らは潤平を襲うつもりで来るんだから、此方も殺す気でいかないと自分が食われる。
この異世界は広いとは言え、こんな歯がゆい盗賊は居ないだろう。そしてそれをお玉で迎え打つ奴も居ないだろう。潤平はくだらない事を考え小さく笑いつつも、彼らを倒す気で戦うと覚悟を決める。
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