第八話 第一異世界人
「ご馳走様でした」
両手を合わせて食べ物に感謝をする。
とびきり美味しい物が食べれたら感謝も一際大きくなる、現金な人間だなと自分でもそう思う。
でもそれで良いじゃないか、美味しい物を食えば幸せになるし活力も漲る。良いことしかないじゃないか。
「……じいちゃんばあちゃんと一緒に食べたかったな」
ここにはいない、もう二度と会うことは出来ない遠くへ行ってしまった祖父母を思いだす。
美味しい物は皆で囲んで食べれば更に美味しくなる、それに美味しい物は近しい人に食べさせたいと思う気持ちは皆あると思う。
「……まぁ、ばあちゃんは甲殻類アレルギ-だったから、川カニは食べられなかったけど」
余計な一言がなければ、綺麗な思い出で終われたのにそこらへんが、まだ精神的に幼いかもしれない。
食べ終わったら後片付け。
指から詠唱しないで、『水魔法』を出して器用に使った食器を洗っていく。
洗い終わったら、『浄化魔法』を掛けていく、本来こんな使い方ではないだろうが、綺麗になる気がして遂使ってしまう。
そういえば、温風とか欲しいかもな。
今みたいに食器を乾燥させたり、髪を乾かしたりする時に必要になってくるかもしれない、次あたり作るとしたら『風魔法』がいいかもしれない。
「ふう、ちょっと休憩」
食器や調理器具を『収納』に仕舞って、しばし食後の休憩。
暫くは動きたくないな。
そういえばじいちゃんは、食後に毎回たばこを吸っていた事思い出した。
ヘビースモーカーだったからな、ばあちゃんや俺に遠慮していつも縁側の窓を開けて、端っこで吸っていたっけ。
「うーん、まだじいちゃんばあちゃんの事思い出して悲しい気持ちになるなぁ、しょうがないかまだ二日目だし、これから色々忙しくなって徐々に薄れていくかもしれないか、でも完全に忘れるのは嫌だな、そうだ! 写真が撮れる魔法を作ろう、そうすれば二人の顔を忘れないで済むでしょう、後綺麗な景色とか写しときたいしね」
写真を撮れる魔法を取得すればこの先、色々役に立つだろう。
そう思い立ち、『風魔法』と『映像魔法』を作ろうとする。
「ガサッ」
後ろで物音がしたので、慌てて振り返る。
暫く森にいたおかげで、神経が過敏になっており小さな物音にも敏感に反応するようになってしまった。
そのため、咄嗟にこうして身構えてしまう事が多くなった。
そこには、暑苦しくなったので枝に書けてあった制服が、何故か勝手に中に浮いてる光景があった。
「……えっ」
皆さんはこんな経験をした事が有るだろうか、木の枝に掛けていた制服の上着が、独りでに動いて中に浮いてるの見た経験が。
しばらく潤平は固まる。
そして、中に浮いたままの制服も動く気配が特に無かった。
これは何かの心霊現象? 森の中ではそうゆう事が多いとは、じいちゃんに昔聞かされた事が有ったけど、まさか異世界で心霊現象に遭遇した?
それに、昼食を食べていて気付かなかったが、森の中なのに周りが異様に静かなのも不気味だ。
潤平は警戒心をMAXにして制服を見つめる。
もし何らかの心霊現象が関係あるとするなら、渾身の浄化魔法を食らわせてやれば良い。
霊に浄化魔法が効くか分からないが、浄化と書いてある位だからまあ大丈夫でしょう。
潤平は制服をじいい~っと見つめ続ける。
すると薄っすらとだが、制服の下に何かがいることが確認でき、それは此方の様子を伺っている様な気がした。
更に目を凝らすと、ぼんやりとだが人のシルエットをした何かが確実にそこにいた。
潤平の心臓が一気に跳ね上がる。まさか本当に心霊の類いだったとは……。
潤平は困惑して、しばし動きが固まった。
そして、その正体を確かめようとして一歩踏み出してしまった。
すると制服を着た透明の主は、自分が見破られてる事に気付いたのか、そこから勢いよく逃げだした。
「動いた?」
潤平は制服を着た透明のシルエットが、急に逃げた事で咄嗟にそれを追いかけてしまう。
(えっまさか、心霊現象じゃなくてただの人!? くそっ、そんな事があるなんてっ、人が透明になってただけなんてっ!? まずいっ! 見失わない様にしないと!)
潤平は視界から逃さない様に、必死になって透明の主を追っていた。
何しろ、相手は姿を隠していてここは森の中、直前まで気付かなかったのだから、一度見失ったら追いかけるのは不可能に近いだろう。
それに、この世界に来て初めての人間の手掛かりだ、潤平は絶対に逃さないように全力で追っていた。
「待てーーっ! 俺の制服を返せーーっ!!!」
大声を出して透明の主を追い掛ける。
奪われたのは、じいちゃんばあちゃんに買って貰った大切な制服だ、それを意味分かんない生き物に奪われる訳には行かない。
潤平は必死になってそれを追い掛ける。
追いかけていると、どうやら潤平の方が速さでは勝っているようで、徐々に相手との距離が縮まっている様だった。
(馬鹿めっ、この身体は神様に貰ったスキルで強化されているだよ! 元から馬力が違うんだよっ、馬力がっ)
心の中で、圧倒的なスペック差に浮かれて調子に乗っていると、相手が潤平から距離を取りたかったのか、ブツブツと唱えると火球を此方に向かって放ってきた。
放たれた火魔法は、潤平に真っすぐ向かって来て避けようがなかった。
避けようがないので、潤平は仕方なく飛んで来た火球に右拳のストレートを放った。
右拳が火球と衝突すると、バンっと音を立てて火球が霧散した。
「……は?」
火魔法がまさか、殴り一つで消滅するとは思ってもいなかったらしく、透明の主は信じられない物を見たかの反応をして、間抜けな声を上げた。
(あっぶねぇー! どうなるかと思ったけど流石は強化された身体、火球ぐらいだったら余裕で弾けるか)
此方は此方で、内心かなりドキドキしていた様だが、悟られないよう表情には決して出さなかった。
(てゆーかおい、心霊が火魔法何か放って来るか? やっぱりこの透明の主は人間だな! 心霊がそんな戸惑いの反応も見せる訳ないしなっ!)
潤平は、相手が動転したことで動きが止まった所を狙い、捕まえようとしてどこでもいいから掴みかかろうとした。
一瞬遅れて、透明の主もそれに気が付いて体を捻って、潤平の手から逃れようとした。
「取ったぁぁーーーっ!!」
潤平が掴もうとした箇所は、制服の内側で感触的には何か布を掴んだ感触がした。制服を掴んだら破けるかもしれないと思ったので、上手く内側を掴む事が出来た。
だが透明の主は無理に体制を立て直した様で、潤平が掴んだ箇所から、ビィィィィッッ! と布が破れる音が聞こえてきた、そして透明の主はその場から二、三歩跳ねて潤平から距離を取った。
潤平は破れた衣服を、そこら辺に捨てると改めて透明の主に向き直った。
仮に、もう一度逃げられ様がまた追いつける自身があったし、今度こそは絶対に逃がさない決意を持っていた。
そんな潤平見て困ったのは透明の主の方だ。
全力で逃げても追いつかれるし、放った火魔法は拳で殴って消されるし、どうすればいいのかと、姿は見えないが相手から焦った様子を感じられた。
暫しの間、膠着状態が続いた。
先に動き出したのは透明の主の方で、右手を此方に向けて何か魔法を唱えると、黒い球体を撃ってきた。
潤平は、また何かしらの攻撃魔法を撃って来た、と思いすぐさま迎撃出来る様に身体を身構えた。
しかし、打ち出された魔法はノロノロと遅く、潤平に届くまでしばらく時間が掛かり、潤平は気が抜けてタイミングがずらされる。
暫く、空中に漂っていた黒い球体は、結局近づく前に簡単に叩き落としてしまう。
だが、それが逆に仇となってしまった。
叩き落した瞬間、黒い球体は勢いよく爆発すると、二人を飲み込んで辺り一面に黒い煙が発生した。
「ぶあっ、何だこれ!」
潤平は、突然の煙幕にどうしようも出来ず、顔を覆って固まっていた。
数瞬遅れて目の前の相手の存在を思い出して、手を伸ばすがそこには既に何も居らず空を切る。
少しの間、存在しない相手と格闘していたが、動きがあるのは黒い煙幕だけで潤平は、無駄な体力を使いたくなくて動くのを止める。
しばらくの間不動のままでいると、風が吹いて、その場に残っていた煙幕を風が全て散らしてくれた。
ようやく視界が晴れると、周りには誰も居らず既に透明の主は逃げていて、潤平だけがポツンと立ち尽くしていた。
「あ~、逃げられたか~」
透明の主を取り逃がした事で、疲れと虚無感がどっと襲って来てその場に項垂れてしまう。
だが、そこはスキルで強化された身体、ものの数秒で回復して元気に立ち直る。
潤平は大きく深呼吸をすると、気を取り直してこの後の事を考える。
相手を取り逃がした事はかなり痛いが、それは終わった事なのででしょうがない、なら次の事に頭を使わないと思い気持ちを切り替える。
だいたい何故あんな奴が俺の制服を盗んだのか、それにあの身のこなしと咄嗟の判断、憶測だけど奴は後ろ暗い身分なんじゃないかと予測する。
こそこそと透明になって窺う様な奴だし。
潤平は歩きながら考える。
透明の主を追いかけていたせいで、川からも大分離れたし、方角も分からなくなってしまった。
また木に登って、見渡すのかと思いながら茂みをかき分けて進んでいると、目の前が崖になっていたらしく、足を踏み外してしまい滑落してしまう。
「うおおおおおおっ」
幸い、それ程高くは無く数メートル程度の高さだったので、滑落は思ったより直ぐに止まった。
動きが止まった所で潤平は虚しくなる。大切な制服を取られて、おまけにこんな所で転げ落ちて、幾ら頭で切り替えようと思っても心はそう思ってくれない。
「制服取られちゃったなー……」
悔しくなってポツリと呟きが出るがどうしようもない。
じいちゃんばあちゃんが頑張って買ってくれた大切な制服なのに、まさかそれを取られるなんて、悔しさが湧いては消して湧いては消してを繰り返す。
「うしっ、切り替え」
今度こそ気持ちを切り替えると、立ち上がって全身を確認する。
どこか怪我をしてないか、身体を確認するが丈夫な身体で出来ているので、怪我どころか擦り傷一つもついてない身体に改めて驚愕する。
しかし、服の方は無事とは言えず、魔物に襲われた時の傷や、長く移動して擦れてボロボロになった箇所等、かなりダメージを負っていた。
学生服がいくら丈夫に出来てるとはいえ、この状態で使い続けていくのは厳しいように思えた。
「まぁ、着られなくなる位ボロボロになっても、魔法で直しちゃえばいいから、そこら編は大丈夫だよね」
スキル『魔法創造』を使えば、思い通りの魔法が作れるのだから、壊れた物を修復する魔法を作るのなんて朝飯前だろうと考える。
後で作る魔法リストに、新たに修復魔法を追加する事を考えながら、お尻の周りに付いた泥を軽く手で払いながら立ち上がる。
そういえば、お風呂にも入りたい等と考えながら、立ち上がって視線を前に向けると潤平はある物が目に入り固まった。
それが目に入った瞬間、理解するのに少し時間が掛かったが、理解できると嬉しさのあまり全速力で駆け寄っていた。
顔や服に木の枝が当たるがそんなのお構いなしだった。
木々をかき分け目的の物に近づく、それは、明らかに人の手で整備された街道だった。
「やったーー! 道だぁぁーー!」
ようやく探していた町への手掛かりを見つけた事で、嬉しくなり大声で叫んで全身で喜びようを表現するのだった。
後は街道を歩いて行けば、何処かの町に辿り着くだろう。
潤平は嬉しくて、まだ小躍りをしていた。
だが踊っている途中、ある問題に気付いて動きを止める
それは、どっちの方向に進めばいいか分からないからである。
例えば右手に進むと、今まで通りの深い森の中を歩くように山道が続いていた、奥を見れば暗くなっていて、その先は見通しが悪かった。
反対に左手には、開けた丘が広がっていて先を見ると、右にカーブして行き後は丘の向こうに街道が続いていた。
どちらを選んでも、正解か不正解か分からないので、どっちを選んだらいいか潤平を悩ませた。
結局悩むのは時間の無駄だと思ったので、そこらへんに落ちていた棒切れを投げて、向いている方向に進んで行く事に決めた。
どちらに向いても、良い様に覚悟を決める。
「せいっ!」
上空に向かって、鬱憤を晴らす意味も込めて力いっぱい投げた木の棒は、物の数秒で見えなくなると、二度と落ちて来ることはなかった。
どうやら、あまりにも力を込めすぎたらしく、投げた木の棒は潤平が確認出来る範囲には落ちてこなかった。
今度は失敗しない様に、下手投げで軽く放る様に投げた。
くるくると空中で回った棒切れは、地面に落ちると何回か跳ね返り、動きを止めてある方向を差した。
潤平はそちらを見ると、枝が倒れた方向にと決めた通りにその方向に向かって歩き出した。
余談だが、潤平が力一杯投げた木の棒は、ある一人の女性を救う事になるのだが、この時の潤平はそんな事になるとは露程も思っていなかったのである。
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