第七話 調理器具
目が覚めると、日はすっかり昇っており太陽の光が湖に反射して、辺りは眩しいくらいに輝いていた。
二度寝したおかげで、疲労感も取れて魔力も少しだけどちゃんと回復している事から、良い二度寝だったと言えるのではないだろうか。
焚火に薪を数本くべると、ぼーっと焚火を見つめながら昨日見た夢の事を考えていた。
所々しか覚えてないが、何か嫌な夢だったのは覚えている。
服を着たネズミ何て見たこともないが、ここは異世界だ、そんな生き物が居たっておかしくはないだろうと思うが、何故そんなネズミ達が氷漬けにされたのか、意味が分からなかった。それにあの大きな生き物目を光らせながら潤平の事を見ていた。
潤平はあれこれ悩んだが、考えるのやめた。
まだやる事はいっぱいある、人里を見つけなきゃいけないし、浄化の使命だってある、衣食住の心配もあるし、魔力が回復したから新しい魔法だって作りたい、やる事は盛りだくさんだ。
「んい~~っ……とっ」
立ち上がって背筋を伸ばし、軽くストレッチをする。
「まずは、水が欲しいから『水魔法』の取得から初めていこうかな、それから、昨日言っていた魔法の発動条件なんかを試して、その次に食べ物か何かを探しつつ、川を見つけて下っていこう、そうすれば何かしら人の痕跡は掴めると思うんですけどどうでしょう?」
心の中の自分に問いかける、勿論返事は帰って来るわけがないがやる事は大体決まった。
そうと決まれば、後は行動するのみ。
『魔法創造』のスキルで、新たに『水魔法』を作り上げる。
同じ通りの手順で作ると、手の平にチョコのボールが出来上がったので、それを食べて自分に『鑑定』をかけると、『水魔法:初』が出来上がっていた。
「出~来た出来た、とりあえず飲み水は確保出来たぞ~っと、ほいっと」
やっぱり火魔法の時と同じように、無詠唱で発動させると出力が弱いらしく、指先からちょろちょろとしか出なかった。
潤平は、顔の高さに指先を持ってきて、指先から出ている水をがぶがぶと飲みだした。
「うん飲める飲める、変な味もしないし全然飲めるじゃん水魔法、味が薄くなるかなとか思ったけど、普通に飲み水として使えるなら水の心配は大丈夫かな」
水の確保は出来た。
後は食料を見つける事、魔法の検証もしたいが……。
「魔法の発動条件については、歩きながら検証出来ると思うから、食べ物を『鑑定』スキルで探して回るか」
潤平は徐に崩れた小屋の方を見ると、軽くお辞儀をした。
此処で何があったのかは分からない、でも一夜だけだったが過ごさせて貰ったので、感謝の気持ちが潤平にはあった。
名残惜しいが、潤平は小屋を離れた。
潤平が小屋を離れて数分後、何かが湖の中から這い出してくる。それは少しの間辺りをキョロキョロ見回すと、潤平が走って行った方向に進み出す。その生き物は潤平の後を追い掛ける様に進んでいるが、その事を潤平は気付く筈がなかった。
あれから湖の周りを散策すると、案外すんなりと川は見つかったので、そこから川沿いを歩いて下流に向かって歩いている。
道中色々な収穫があった。川沿いを歩いていて鑑定スキルで見つけた食料を拾ったり捕まえたり、使えそうな薬草や地球でいうゴムの原材料になりそうな木も見つけた。
後竹、竹林が途中で生えているのを見つけ、この世界にも竹があるんだと感心した。
それらを全部『収納』スキルに収納した。
そして魔法の検証についてだが、結論から言うと魔法の件についてはあまり進展はなかった。
無詠唱で魔法を発動出来ないか試したけど、やはりどうしても上手くいかず、結局詠唱した方が良いとゆう事に気づいて、それからは火球とかファイアーボールとか、水球とかアクアボールとか言って発動させていた。
この方法だと、魔法が発動するらしく人の頭程度の大きさの魔法が、目標に向かって飛んで行った。
因みに魔法を発動させる時に、魔力を多めに組み込んでも、魔法の大きさは変わらなかった、多分これは初級だから何だと思う。
そして、ある程度の追尾性能が備わっているらしく、目で追える範囲なら追いかける事も可能だった、試しに手で視界を遮ると直線に飛んでいくだけで、再度視界に入れても接続は切れたままだった。
それと、一度に発動させるのは十個が限界らしくそれ以上は無理だった。
これは言った通り「初級」魔法だからなのか、それともまだ潤平が十個までしか発動出来ない仕様なのか分からなかった。
ここら辺は、魔法に詳しい人に聞いてみるのが分かると思う。
「ふーーっ、ちょっと休憩」
そこら辺に転がっていたる座れそうな岩に腰掛ける。
今、いる辺りは大雨が降って洪水が起きたらしく、あちらこちらに木や、車程はありそうな大きな岩が転がっていた。
岩に藻が付いておらず、流れて来た木もあまり乾いていないので、洪水が起きたのは遂最近の事なんだろう。
鉄砲水に流されたくないので、急いで崖上に登る。
「じゃーん! お昼ご飯は川で採れたでかい岩魚とでかい川ガニ、それとそこらへんに群生していた山菜でーす!」
スキル『収納』から食材を取り出す、岩魚は腹を捌いて串に刺して焼いて食おう、川ガニは軽く洗って茹でればいける、山菜も洗って茹でておひたしにすればいい。
これで昼飯は完成だ。
「ありがとうじいちゃんばあちゃん、教わった事がここで生きたよ」
日本にいた時、祖父母がやっていた事がこの世界でも役に立った。
山菜の取り方とか、魚の捌き方教えて貰っておいてよかったぁ。
さて、焚火の用意をしていざ食材を調理しようと思ったが、ここで問題が起きた。
調理器具が何もない。
包丁も無ければまな板も無い、茹でるための鍋も無いし、まさかのスリーストライクに潤平は頭を抱える。
最悪まな板は、平べったい石を浄化魔法で、綺麗にして使えばいいし串もそこら辺の木を使えばいいが、だが包丁と鍋がないのはとても困る。
こんな事なら、小屋にあった錆びた鉄鍋を持ってくれば良かったと後悔する潤平。
困り果てていたが直ぐに解決策は見つかった。
無いなら作ればいいじゃない『魔法創造』。
器具を作れる魔法を作っちゃえば良いって事。
そうと決まれば即断即決。
「魔法を作っちゃうよーん、名前はどうしようかなー、うーんまぁ無難に物質魔法とかにするか、周りにある材料は木とか石とか、砂鉄ぐらいしかないし物質から作れる感じで良いか、圧縮、研磨その他諸々出来る感じで」
考えが纏まったので魔法を作り上げる、両手を光の玉に翳してイメージする。
……今回は何故かいつもより、ちょっとだけ長く時間がかかった。
使用した魔力も、ほんの少しだけ多く持ってかれており他の魔法を作った時とは少し違う感じがした。
それでも、無事にチョコのボールになって出来上がったので、それを口の中に放り込む。
「んぐんぐっ、よしこれで魔法を取得出来てると思うんだがどうだろう? 『物質魔法』!」
魔法を唱えると、目の前の空中に魔法陣が現れた。
どうやら魔法陣の上に、木でも泥でも石でも何でもいいから、物質を置いて頭の中でイメージすると、その物質を原料としてイメージした物が出来上がる様だ。
試しに、川から大きめの岩を運んで魔法陣の上に載せて、包丁の形をイメージしてみる。
そうすると、魔法陣が輝きだし出したかと思えば、岩が細かく分解されてそれらが輝いて、徐々に形が変わって行き最後には手頃な和包丁の形に収まった。
出来上がった包丁に関心してまじまじと見惚れていると、大事な部分が無い事に気付く。
包丁の持ち手の部分が出来ていなかったのだ。
どうやらイメージしていても、素材が足りない箇所は作る事が出来ないらしく、欠損して作られる様だった。
失敗した包丁をしまって、代わりに『収納』の中から、持ち手になりそうな竹を取り出すと、もう一度『物質魔法』を使い岩と一緒に包丁をイメージした。
そうすると今度は上手くいったらしく、綺麗な和包丁が目の前に出来上がっていた。
「おおっ、おおおおおっ! 出来たぁっ!」
クオリティの高い物が出来上がった事に、気持ちが昂ってくる潤平。
その熱が冷めない内に、次の物に着手し始める。
まずはまな板、新たな竹を『収納』から多めに取り出して、魔法陣の上に載せる。
そして頭の中でまな板をイメージする、すると魔法陣に置かれた竹が光り出して、徐々に形が形成されていくとまな板の形になった。
「うっひょうぉっ〜、おもしれーこれ! 他の器具もどんどん作っちゃうか!」
面白さに味を占めた潤平は、次から次へと色んな調理器具を物質魔法で作り上げていった。
あれから、包丁、まな板の他に、土鍋、陶器の皿、箸、焼串、お玉、木べらを作った。
これでようやく昼飯をつくり始める事が出来る。
先ずは料理のための火をおこす、それからその上に水を張った土鍋を置いて湯を沸かす。
水が沸くのを待ってる間、岩魚と川ガニの下処理をする。
岩魚は鱗を包丁でこすって取り、腹を捌いて内蔵をかき出しエラを箸で捻りとる、そして串に刺して焚き火の周りに立てて焼いておく。
川ガニは表面を洗って、浄化魔法をかけてみる。
ちょっと怖いので、保険としてないよりはマシか程度の気持ちで。
水が沸騰してきたので、先に適当な山菜入れて湯がいていく。
程度が分からないので、気持ち多めの時間茹でてみる、終わったら指から水魔法を出して、冷やして軽く絞ったらおひたしの完成だ。
そしてもう一度水を溜めて、沸騰するまで待つ。
その間に岩魚が焦げないように、反対側にひっくり返す作業をする。
水が沸騰したら川ガニを入れる。
これで昼飯の出来上がりだ。
先ずは、山菜のおひたしから食べてみる。
「いただきます、はむっ、んぐむぐっ、……上手っ! と、言いたいけど何か足りない……、わかってるわかってはいるんだ、おひたしはやっぱり醤油がないと駄目なんだ、味気なく感じてしまうんだよ、ビバ醤油、醤油が恋しいよ……」
山菜自体のポテンシャルが高いが故に、尚更醤油の様な味付けが欲しくなってしまう、惜しい惜しいんだ。
味はと言うと、昔じいちゃんが取ってきてくれた行者にんにくの様な味に近い気がする。
男の人が好きそうな味だ。
頭の中で山菜について、評価を決めていると岩魚がいい感じに焼けてきていた。
「おっ、岩魚も良い感じに焼けて来たじゃん、あー、はぐっ、はふはひっ、はつあつ熱いっけど美味いっ、美味いっ! めっちゃ美味い岩魚! 塩気がちょっと足りない気もするけどそんなの気にならない位美味い、昔じいちゃんが採ってきてくれた奴より美味しい! 何でこんな美味しいんだこれ?」
日本に居た頃では、味わえないであろう美味さの川魚のレベルに感嘆する、川魚でこの美味さならば、海の魚はどれだけ美味しいのだろうか、考えただけで涎が出る。
気付いたら、右手に箸左手に岩魚を持って交互に食べていた、ばあちゃんがいたらはしたないと怒られてるかもしれない、でも食べるのが止まらない。
両方ともあっという間に食べ切ってしまった。
串に付着している岩魚の残りかすを、何度も舐めたりかじったりしてしまう、これもばあちゃんが見てたら怒られてしまうなと思いつつも、止められない。
だがまだメインディッシュが残っているのを忘れてはならない。
そう、茹で川ガニがまだ残っているのだ。
そろそろ良い頃合いだと思い、土鍋の蓋を開けてみる。
するとそこには真っ赤に茹で上がった大きな川ガニが出来ていた。
潤平は上手く箸を使って、川ガニを土鍋の蓋の上に乗せて少しの間冷ます、良い感じに温度が下がったら、胴体から順番に足を外していく。
一際大きな足を食べようと思い、甲羅を割ろうとしたが割れるような物は無いので、歯で甲羅を割った。
器用に歯で甲羅を割って大きな身を取り出す、ぶりんぶりんとした身でカニの匂いが食う前から漂っていた。
カニの身がまるで早く食べてくれと、急かしてきてる様に聞こえたので慎重にかぶりつく。
「……っ! ふんま~い、美ん味すぎるぅ、何これはぁ上手すぎるよ、今まで食べたカニの中で一番美味いよぉ、こんな大ぶりなのに味は濃いし歯ごたえは凄いし、何より川ガニなのに甘さが凄い感じる、美味しい美味しいよぉ、……はっ! 待てよこのカニの身をカニ味噌に付けて食べたらやばいのではっ……」
カニが美味すぎるあまり、禁断の合わせ技を思いついてしまう。
カニの身をカニ味噌に混ぜて、それをおそるおそる口に運んでみる。
「美んんっ味しゅぎるぅぅ」
しびびび、美味みが体を駆け巡る。
ここが天国か。
潤平は暫くの間、思う存分カニの味を堪能していた。
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