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異世界、遺します ~天涯孤独となった俺に亡き祖父母が『異世界』を遺してくれた~  作者: 鏑右いなだ


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第十話 防衛準備

 昼間だと言うのに太陽の光が届かず、獣や魔獣が跋扈している深い森の中唯一と言って良い人の気配が存在する空間があった。

 そこには獣も寄り付かず滅多な事では魔獣も現れる事は無かった。


 森の中に突如として現れる断崖は、所々に縦に細長い隙間が存在している。人一人分が入れるその隙間に入って行くと、灯りが無いとまともに歩く事も出来ない通路があるが、慣れた者によると灯りがなくても壁伝いに歩いて行ける。

 そしてその通路を歩いた先には、かなりの広い空間が広がっており、この空間に粗野な小屋を建てて暮らしている人間達が居た。

 四方を堅個な崖に囲われて、上の部分は吹き抜けになっており上から陽光が差し、ここに暮らしている人間からすれば、ここは正に天然の要塞と言える住処であった。 

 そしてこんな場所に、住んでいるのが只の人間な筈もなく、彼らは俗に世間からは盗賊と呼ばれてる者達だった。


 近くの町や村で犯罪を犯した者、軍人から落ちぶれた者、元々の性格が暴力性に溢れていた者、それらが徒党を組み一つの集落を作り上げていた。 

 元来、彼らは実力に自信がある者たちの集い、多少の魔物程度なら数人で囲めば対処出来た。

 

 今日も、近くの街道を通り掛かった、市民や商人を襲ってきており略奪した物の、取り分で揉めている最中だった。

 粗野な男たちが、人や物を力付くで奪い取る、それは決して気分の良いものではない、男は殺し女は売るために捕まえ偶に味見をし、奪った物や金品は最初に手にした奴の物、それが気に食わなかったら仲間内だろうが殺して奪う。それが彼らの生き様だった。

 今もまた洞窟内に、男達の下卑た笑いと女の悲鳴が辺りに響き渡る。



  

 「はぁ……」


 そんな場所から少し離れた場所で、盗賊には似つかわしくない男のため息が聞こえてきた。

 彼らはアジトの見張り役、入口付近に身を隠して侵入者や魔物の接近を知らせる役目、要するに貧乏くじを引かされた者達とゆう訳だ。


 「いいなぁ、頭達は楽しめて、俺もやりたかったぜ……」


 「お前ぇがくだらねぇヘマしたからだろうがっ、このボケがっ」


 「だあってよう、まさかあんな魔道具持ってると思わねぇじゃんかよ」

 

 「おかげで、俺も見張り番やらされる羽目になったじゃねえかっ、ぶち殺すぞテメェ」


 向かって右の男がヘマをしたせいで、この男と組まされていた左の男も連帯責任でここにいる。

 内容は、旅商人の集団を襲っていたのだが、その中に中々腕の立つ用心棒が居たせいで、盗賊側に余計な死人を出してしまった。

 それ自体は、盗賊をやっていれば割とある話なのだが、その用心棒に気を取られすぎて商人の一人が魔道具の起動をしている事に気付かなかった。

 

 魔道具の突然の攻撃に、間に合わなかった為男は咄嗟に近くにいた、盗賊仲間を押し出し盾にした。

 そのせいで余計な死人が出たのと確認を怠ったという事で、罰として見張り番をさせられてる。隣の男は完全なとばっちりである。

 

 「ケヒヒヒヒ、しかし最後のあいつの顔見たか? 何で俺がって顔してたぜ、ありゃ笑えたね」


 「ぼ~っと突っ立てたのが悪い。そんな奴は何処に行ったって死ぬだけだ、しょせんあいつはここで死ぬ運命だったて事だろ」


 仲間一人を、身代わりで殺したというのに全く気にもしていない、やはり彼らは、一般人と違い倫理観がずれていた。

 

 「出た! お前の運命論っ、盗賊稼業やってんのによくそんなもん信じてんな」


 「元がしがない僧侶だからな、どうしても考えちまうんだよ」


 「ふーん。しっかし俺も混ざりたかったな、今回の得物はかなり俺好みだったからな~、俺が一番に味見したかったぜ」


 「ふんお前の年増趣味には呆れるな。そんなもん相手にしてどうする、やはり無垢な少年少女が一番だろう。まだ何色にも染まっていない存在を汚して、俺色に染め上げるのが良いんだろうが、あの捕まえた少女を俺にくれないかな、そしたら俺の奴隷に育て上げて……」


 「おーい、戻ってこい腐れ坊主」


 「……まぁ、どちらにしてもお前が余計な事をしたせいで、楽しみが全部無くなってしまったんだがな。くそがっ」


 「だから、悪かったって~」


 見張りも忘れて、くだらない話をだらだらと喋り続けている。

 上の者に見つかれば、また何かしらのお仕置きを食らうだろうが、彼らは盗賊、ルール何て物はあってない様な物なので、真面目に仕事をやる奴はいなかった。


 そんな事をしていると、目の前の茂みがガサっと揺れる。二人は一瞬で音のした方に目を向けると警戒態勢に入った。

 音がしたのは奥の雑木林、獣かもしくは魔獣か茂みの奥から何が飛び出してくるから警戒する。


 しばらく二人はそうして固まっていると、雑木林の奥から茂みをかき分けて分けて透明な何かが現れた。二人は固唾を飲んでそれを見ていると、透明な何かが二人の前に姿を現した。


 「代理っ」


 「……おう」


 現れたのが自分たちが知っている男だと分かると、見張り番達は警戒を緩めた。

  

 この代理と呼ばれる男は、盗賊内でも一目置かれている存在で、実力は頭に次ぐ強さを持っており、それでいて隠密にも長けている事から、盗賊のお手本として仲間内から親しまれていた。

 代理と呼ばれているのは、頭に代わって細かい事を色々調整してくれる事から、親しみを込めてそう呼ばれていた。


 そんな男の様子がどこかおかしかった。

 額に汗をかき呼吸を荒くして、目が大きく見開かれており、冷静さを失っていた。

 普段は、仲間の前では無表情で過ごしているので、ここまで狼狽えてるのは見たことがなかった。

 

 「……おい、何か飲み物持ってないか?」


 「さ、酒ならあるすけど……」


 「それでいいから寄越せ」


 そう言われ、腰にぶら下がっていた瓢箪の酒入を渡した。

 代理はそれを、奪うように手から取ると、勢いよく飲み干した。


 (ああ……、今日の為に取っといたのに……)


 せっかく夜に、戦利品と一緒に楽しもうと取っておいたのに、奪うような形で取られ、挙げ句飲み干されてしまった。

 見張り番の件といい、今日はついてないと思い泣きたくなる。


 「ふう、おい腐れ坊主、お前に頼みがある」


 空になった酒入れを、用済みと言わんばかりに投げ捨てると、手の空いていた男の方に命令する。

 もう片方の男は、投げ捨てられた酒入れを必死に拾いに行き、中身を見て残ってないこと確認すると、気落ちしていた。


 「……俺ですか?」


 いきなり命令されそれも変な呼び名で呼ばれて、気に障ったのか男は少し不機嫌な態度を出してしまう。


 だが、そんな態度も気にしてないと言わんばかりに、続けざまに坊主に話続ける。

 

 「ああ、広場に全員集めろ誰一人欠けることなく、寝ている者遊んでいる者楽しんでいる者全員を叩き起こせ、ぐだぐだ言っている奴がいたら殴ってでも連れてこい、それでも喚く奴は、俺がその喉を引き裂いてやると言え」


 「……分かりました」


 坊主は、渋々といった感じで命令を受けて、アジトの中に入っていった。

 

 「ふーーっ、俺は頭に報告に行ってくる、お前はここで引き続き見張りをしていろ、そうだな……、あの木の上で隠れて見張っていろ」


 代理は、もう片方の男に坊主とは、違う命令を出す。

 それを聞いた男は、拾った酒入れを抱え直すと、代理を見上げ命令を聞き返した。


 「はぁ、それで?」


 「異変があったら、いつもの角笛で知らせろ」


 「異変って何すか?」


 男の察しの悪さに、代理は苛ついて頭を掻き毟るが、こいつらは盗賊に落ちぶれた奴らだ、代理はそう思い、いつもの様に律儀に説明する、


 「知らない奴が来たり、何かおかしいと感じたら角笛を吹け、それが来たら見ただけで分かるからよ」

 

 「何が来るんすか?」


 代理の真面目な説明に男も真剣さを感じたのか、真面目な顔つきになり気になってしまい聞いてしまう。魔物が来るのか、はたまた実力のある冒険者が俺等を捕まえに来たのか、今までの経験と照らし合わせて考える。

 

 しかし、代理が放った一言は予想を超えてきた。


 「サムライが来る」



 代理は盗賊のアジト内をズカズカと足早に歩いて行く。途中肩がぶつかったりした者も居たが、相手が代理でしかも顔が物凄い怖い顔していると知ると、逃げる様に去って行った。

 代理はアジトの奥まで歩くと、ある建物に入って行く。

 その建物は一際大きく石造りで頑丈に作られていた。

 他の住処は、岩肌をくり抜いて作ったり、唯の布を被せて簡易テントにしただけの、とても住処とはいえない様な粗末な家ばかりなのに、この建物だけ違う作りなので、アジト内でも異質さを放っていた。


 何故この建物だけ立派なのかというと、過去に盗賊を立ち上げたばかりの頃、今の頭と代理が襲った商隊の中に、『建設魔法』を使える者がたまたま存在していたのだ。

 そいつを脅し、アジトを拡張させ自分達だけが、快適に過ごせる建物を作らせたのだ。

 以来、その建物には頭と代理、それと主要なメンバーだけが住んでいる。

 それが、今から数年前の出来事だ。


 なお、捕まった魔法持ちの男は散々奴隷のように使われ、せっせと建物を作らされた挙句、用済みとなったら妻子共々皆殺しにされた。

 

 代理は、その建物に入っていくと二階の一番奥の部屋の扉を叩いた。

 だが幾ら叩いても、中の人物からの応答がなかったので、部屋主の許可も取らずに扉を開け中に入って行った。

 開けると、一番に酒の匂いが鼻についた。

 そして次に、色んな物が散らかって足の踏み場もない、部屋の様子が目に入った。


 代理はこれ以上、部屋の中に入っていきたくなかったので、その場から部屋の主を起こそうと思った。


 「頭、ちょいと起きてくれやせんかね、緊急事態なんですが」


 部屋の扉を強めに叩きながら、再度部屋の主を起こしに掛かる。

 だが等の本人は、訪ねてきた代理とは反対方向に寝返りを打ち、挙げ句の果てに此方に向かって屁までこきやがった。

 これには、いつも冷静な男と呼ばれた代理でも、流石に頭に血が登った。

 切羽詰まった状況だと言うのに、緊張感の欠片もない態度に大声で怒鳴り散らかしていた

 

 「頭ぁっ!!!」


 「はいっ、何でしょうっ、今起きますっ!」


 外にも、聞こえる位の音量でいきなり怒鳴られたもので、寝ていた本人もびっくりして飛び起きた。 

 まだ、完全には覚醒してはいない頭で、大きな声を出した人物を探し当てる、それが信頼してる自分の腹心だと分かると、頭は大きく息を吐いた。


 「何だよ〜、お前かよ〜びっくりして全部出るかと思ったわ……」


 安心して、緩んだ頭は大きな欠伸をしながら、腹回りが痒かったのかポリポリと掻いていた。


 「頭、話があります緊急事態です」


 「あ〜、分かった分かった、ゆっくり聞くから取り敢えず、下に行ってろ俺も準備したら……」

 「頭、真面目な話です、そんな待ってられませんぜ」


 普段から、仏頂面で過ごしニコリとも笑わない男が、額から汗を垂らして急いでいる、こんな姿は久しく見ていなかった。

 そんな代理の様子に、相当にまずい事態が起きたって事を想像させた。


 頭は、気持ちを切り替えて目の前の男から、話を聞く体勢になった。


 「話せ、何があった?」


 頭の真面目なトーンに、代理もようやく聞く気になったかと思い、小さく息を吐いた。

 

 「落ち着いて聞いてくだせぇ、サムライを発見しました。それもこのアジトからそう遠くない場所で、しかも最悪なことに上位職のサムライでした」

 

 代理の口から、発せられた言葉に頭は衝撃を受けた。

 

 侍? それもアジトの付近で? 上位職? 俺らを捕らえに来た? それとも……、報告された一言が衝撃すぎて、思考が錯綜して考えが纏まらなかった。


 「……おめぇ、後を付けられる様なヘマはしてねよな?」


 「一応、全力を出して撒いては来たつもりですがね、それでも、絶対にとは言い切れませんぜ、何しろ相手は上位職のサムライ、俺も一歩間違えばここには帰って来れなかったんで」


 「……そうか、おめぇが逃げる事しか出来ねぇ化け物か、そいつはやべぇな」


 不味いことになった、事態を飲み込めてきた事で頭は頭を抱える。

 よりによって、この国で最高戦力とされる侍を見つけたなんて。


 「確認だが、本当にサムライだったんだな? 見間違えなんて事は……」


 「それはありまえせんぜ、妙ななりはしてましたが、あいつらの魔力量を俺の眼が間違える筈はないんで、それに最大限警戒してた筈なのに、即座に看破されたんでねそんな事出来るのは奴らぐらいでしょう」


 「そうか、悪い確かにお前の『魔量視』が、見間違えた事はないもんな」


 その言葉を聞いて、代理は深く頷いた。

 『魔量視』とは、代理が持っているスキルで、見た者の総魔力量が可視化されるというスキル。

 その上、相手の魔力量を可視化出来るという当たりの部類のスキル、このスキルを持っていたおかげで、今の自分があると言っても過言ではなかった。

 

 過去に、侍と呼ばれる人間の魔力量を数人見てきたが、そのどれもが人の枠組みを外れている様な人間ばっかりだった。

 かくいう、目の前に座っている我らの頭も、下級職だが侍に属していた。 

 この人も、十分人外染みた強さをしてるが上位職の侍には遠く及ばない、それだけ上位職の侍は強いのだ。

 

 「にしても、俺らが狙われるとはなあり得ないと思うが……、奴らが裏切ってアジトの場所を垂れ込んだか?」


 「頭は、其処らへんの確認をあの方に聞いてくだせぇ、その間に俺はこのアジトの防衛を固めるんで、例え俺らが束になったとしても敵わないかもしれませんが、隙は作るんで、頭がとどめを刺して下さい、もし駄目でも俺らが逃げる位の時間は稼げるでしょう」


 頭は、頭の中で考えと覚悟を決めると、勢いよく立ち上がった。


 「うし! 分かったっ、お前はサムライを迎え撃つ準備をしてくれ、どんな汚い手を使っても構わんからよ、何なら今日取ってきた獲物を使ってもいいぞ、俺はあの人に連絡を取ってみる、それと武器の準備もあるからそれから合流だ」


 代理は頷くと、急いで仲間に指示を出すためにその場から立ち去る。ダンダンと通路が歩く音が遠ざかると、バンッ勢い良く建物の扉が閉まる音がして、この空間に静寂が訪れる。


「……サムライか、下位のサムライだったら俺一人で何とか出来るが、上位のサムライならば俺らは全滅だわな」


 男は顎をショリショリと触りながら、諦めた様にボソボソ呟く。


「サムライ……サムライか、もしそうなら俺の復習も果たせるってもんだ……、おいおいおいおいおいおいおい……、殺ってまって良いのか? 俺がサムライを殺す時が来たって事か!? 遂にその時が来たのか!?」


 段々と男の中で怨恨の炎が燃え上がると、その火力はどんどんと増していく。

 だが今はそれどころではない。男は息を吐いて一旦冷静になると、やるべき事をやる為起き上がる。

 裸のまま部屋から出ると、代理に言った通りあの人に連絡を取るため動き出す。


 こうして、潤平の知らない所で盗賊達による潤平包囲網が仕掛けられつつあった。

 まさか、それが勘違いによるものだとは潤平は気づく余地がなかった。





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