第十一話 その者
「え? 君らって本当の兄弟なの?」
盗賊のアジトまで案内させている道中、暇だったので世間話でもしていたら、目の前の三人組が血の繋がった実の兄弟だと判明した。
話の中で、彼らは自分達の事を「猛虎三人衆」だと名乗った。
「ああ、そうだ」
「その割には、三人ともあまり似ていない気がするけど」
「そこら辺は色々と事情があるんだよ、察してくれや」
そう言った男の顔を見ると、気まずい顔をしていたので潤平はそれ以上は何も聞かなかった。
まあ、誰しも秘密に一つや二つはあるだろう、潤平だってこの世界での生い立ちを聞かれたら答えられないし。まさか、神様に頼まれてこの世界に転移して来ました、なんて言っても誰も信じてくれないだろう。
「そういえば、まだお互い名乗っていなかったよね、俺の名前は潤平っていうんだ、君らの名前は?」
先程から、潤平とワドウしか会話をしていないので、折角だからと、気になってガタイ君の後ろに隠れる様に歩いている、ガタイ君の下の兄妹にも質問してみた。
「……」
「……」
だが折角潤平が話をしようとコミュニケーションを取ってみても、二人は潤平から目をそらすように下を向いて、口を聞いてくれなかった。
「チッ、俺の名前がドウザで、細くて背の高いのがシンカ、そして一番小さいのがリンだ」
「おお〜、ありがとう」
「チッ」
見かねたドウザが変わりに、自分の名前と後ろ二人の名前も名乗ってくれた。潤平が、勝手に心の中で仮で名前を付けていたのだが、当然の様にしっかりと彼らには名前があった。
ガタイがいいからガタイ君と呼んでいたが、彼の名前はドウザ。
細くて背の高かったから、ヒョロガリ君だったが彼の名前はシンカ。
一番背が小さかったからチビ君だったが、彼の名前はリン。
三人それぞれ名前が判明したのだから、これからはちゃんとそう呼ぶ事にする。
心の中で勝手にあだ名で呼んでごめんねと謝っておく。
「そうか~、ドウザ、シンカ、リンって言うんだ、よろしくね」
「……」
「……」
(……あれ~?)
後ろに振り返りながら、潤平から目を逸らしたままの二人に、友好の意を伝えるもまたしても目を逸らされてしまった。
「……ねえねえドウザ、何で後ろの二人は目も合わしてくれないし、ずっと黙ったままなの?」
潤平はこっそりとドウザに近づくと、小声でドウザに二人が何故黙ったままなのか理由を聞いてみた。
ドウザはその質問を聞いて大きく溜息を吐く。
「はぁ、そりゃおめえよ三人掛かりで挑んで負けて、ましてやあれだけボコボコにされて、そんな奴と一緒に行動できるか? 普通だったらお前にびびって喋れないだろうが」
「でも、ドウザは話してくれるじゃん」
「そりゃお前俺は不屈の男だからな、こんぐらいではへこたれねえのよ、……てゆーかさっきから馴れ馴れしく喋ってるけどよ、おめぇとはアジトに連れてく約束しただけだかんな、あんまり馴れ馴れしくするつもりはねぇぞ」
「あぁ、そうねごめんごめん」
あんまりにも潤平が馴れ馴れしく接しすぎたのか、ドウザから、あんまり関わるつもりはないと注意されてしまう。
忘れてはいけない彼らは盗賊。
腹の中ではどんな事を考えているのか分からないのだ。
(まあ、仮にもう一度襲われたとしても同じようにやり返せばいいし。何度襲って来ても結果は変わらないだろうな)
チラリと、潤平は後ろの二人にばれないように、横目で後ろを並んで歩いている二人を盗み見る。
(恐怖の対象か……)
潤平は三人に襲われて、それを悉く反撃した時の事を思い出す。
λ
覚悟を決めたドウザ達は、陣形を組み始めジリジリと潤平を囲み始める。
しかし動く事を潤平が黙って見ている訳がなかった。
彼らが陣形を組み終える前に、潤平は目にも止まらぬ速さで駆け出し彼らの背後に回る。
(まずは弱そうな奴から……)
戦いの基本。比較的弱そうなやつから狙おうと思い、リンくんの背後に高速で移動する。
案の定潤平の速度に誰もついてこれず、反応が明らかに間に合ってなかった。
潤平は手に持っていた武器のお玉を握りしめて、リン君に一撃を入れて戦闘不能にしようとした。
だがその攻撃が相手に届くことはなかった。
潤平が背後を取って、一撃で決めようとした攻撃はジィィーーンッと、鈍い金属音を出して何かに防がれてしまう。
(……何だ、これ? 大きな手?)
お玉の一撃を防いだ箇所を見ると、、リン君を覆う大きな灰色の手が潤平の一撃からリン君を守る様に、出現していた。
潤平はリン君を覆う灰色の大きな手に、呆気に取られて見ていると急に体が固まった様に動かなくなった。
まるで巨大な何かに握られてるみたいに、潤平の体が何かに握られたようにギリギリと歪んでいく。
その答えはすぐに分かった。
自身の身体を確認すると、リン君を覆っていた大きな灰色の手とは違う、もう一つの大きな灰色の手が潤平を握っていた。
「……危ない」
不意の一撃を片方の手で防ぎ、もう片方の手で動きの止まった潤平を握りしめているのだろう。その証拠に潤平の体は大きな手に握り締められている。
「……やぁ」
気の抜ける掛け声と共に、リン君が左手を軽く振り払った。
すると、潤平を掴んでいた大きな灰色の手が、リン君と同じ挙動をして掴んだままの潤平を投げ飛ばす。
「ちょっ」
まさか掴まれたまま、投げ飛ばされるとは思っていなかったので、受け身も取れないまま水切り石の如く、地面を数回バウンドすると、潤平は物凄い速度で木に叩きつけられる。
「よし! ナイスだっリン!」
そんな光景を見ていたドウザは、勝ちを確信して喜びを上げてしまう。
普通ただの人間があれだけの力で投げられれば、勝負は決したと思うだろう。それに普通の人間でなくても無傷ではすまないと思っていた。
だが彼大きくは勘違いをしていた。投げられた人間はただの人間ではなく、この世界の神様によって転移させられ、スキルで体を強化された人間であると言う事を。
ドウザ達が、潤平の生死を確認しようと近づこうと足を踏み出したら、投げられた筈の潤平が、土煙の中から何事も無かったかの様に勢いよく立ち上がったのだ。
「うえっ、ぺっぺっぺっ、れろれろっ、ぺっ!、口の中に、砂が、入っちゃった」
潤平は口の中に入った砂を吐き出し、土埃で汚れた服をパンパンと軽く払うと、何事も無かったかの様にドウザ達に向き直った。
「いや~凄い魔法だねっ、何て言う魔法ですか?」
平然と、今しがた自分が食らった攻撃よりも、見たことのない魔法に興味が沸き、それについて質問をしてくる様子にドウザ達は、衝撃を受けて声が出なかった。
ドウザは直ぐに、頭を切り替えるとシンカとリンに陣形を組ませる様に指示を出した。
「シンカ! リン! 気を付けろ! 巨大な魔獣を仕留めるつもりでやれっ!」
ドウザは直感で、目の前の相手がとんでもなくヤバい奴だと察し二人に怒号を飛ばす。
稀に見る自分達の頼れる兄貴の、冷静さを欠いた様子に二人は、深刻な事態だと考え言われた通りすぐに陣形を組み直す。
前衛にドウザ、中間にリン、後衛にシンカが配置についている猛虎三人衆の鉄壁の構えだ。
「行くぞっ!」
ドウザの掛け声と共に、一斉に動き出す三人組。
まずは、ドウザが相手と距離を詰め白兵戦を仕掛け注意を引く、そのまま立ち回り、意識外からリンの『手』を使い動きを止める、そして遠距離からシンカの攻撃魔法で一気に止めを刺す。
これが、この兄弟たちの黄金パターンだった。
そしていつも通り、ドウザが距離を詰めて潤平に肉薄すると、そのまま上段から大刀を振り下ろした。
牛を一刀両断出来そうなドウザの渾身の一撃は、そのまま潤平の脳天に入るかと思われた。
しかし決まると思われたドウザの一撃は、潤平が片手で掴んで止めてしまう。
ドウンッと辺り一面に衝撃と爆風が飛び散る。
ドウザ達は信じ難い光景を目にしていた。
ただの青年が、振り下ろされた大刀を片手で鷲掴みにしている、それも自分達が慕っている兄貴の馬力込みの一撃を受けて。
(……びくともしねぇっ)
ドウザは潤平に掴まれている大刀を動かそうとしたが、微動だにせず自分よりも小さな青年に完全に力負けしていた。
「ねぇ、何の魔法か教えてよぉぉぉぉ」
潤平と目が合うと、ドウザの背中に冷たいものが走り、潤平を丸で怪物か何かと錯覚してしまった。
「このバケモンがあぁっっ!」
ドウザは咄嗟に大刀から左手を離すと、開いている方の拳で潤平を思いっきり殴り付ける。
「ふんっ!」
しかしドウザが拳を振り上げるのよりも早く、潤平がドウザの鳩尾に一発拳を入れた。
腹部に強烈な一撃を食らったドウザは、耐えきれない痛みと衝撃を食らいそのまま失神して崩れ落ちる。
それを後ろから見ていた二人は、こんなにあっさりと兄貴が敗北した事に愕然としていた。
いつも自分達を引っ張ってくれていた兄貴が、無残にも倒れている。
二人は、ドウザを倒した潤平を恐る恐る視界に入れる。
「まぁずはひとぉり」
潤平からすれば、ちょっと興奮したぐらいの様相だったが、シンカとリンから見ればセリフも相まって、ドウザと同じ様に潤平を怪物かと錯覚する。
「……シン兄っ、魔法打ってっ」
「わ、分かった!」
リンが慌ててシンカに指示を出す。
シンカが魔法を唱える一秒ちょっとの間、リンはどうにか潤平を足止め出来ないかと考えた。
しかし相手は、自分達が反応できない速度で移動する、それをどうやって捕まえるのか、とりあえず何もいい案が浮かばなかったので、灰色の手を出して潤平を捕まえてみる。
「おお〜、凄いね」
潤平は呑気に、感想なんかを言って灰色の手から器用に逃げている。
(……今だ)
その隙に、リンはこっそりと潤平の位置を、少しづつ移動させていく。
これからシンカが使う魔法が広範囲な為、足元で意識を失っているドウザに被害が及ばないようにだ。
(……くっ、捕まらない)
だがそうしてる間も、大きな灰色の手を躱し続ける潤平。
しかもその攻撃を躱しながら、リンの灰色の手を観察している余裕まで見せている。
リンはそんな潤平の動きに段々とイライラしてきた。
「リ、リン! いけるぞっ」
そんな攻防を続けていると、後ろからシンカ兄の合図が聞こえてきた。
「……打ってっ、後は合わせるっ」
簡潔に返事をすると、シンカの合わせる様にタイミングを図る。
するとすぐに後ろから魔法が飛んで来た。
「中級魔法:焔の蛇懇」
紫色の炎で形作られた五匹の蛇が、潤平に向かって物凄い速度で飛んでいく。
自分に向かって来た魔法を見て潤平は一瞬動きが固まる。
(……今だっ)
その一瞬の隙をついてリンは潤平を捕まえに掛かる。
正面から、灰色の手で捕まえに行くと見せかけて、本命は足元のサイズを縮小した灰色の手、実はリンのこの灰色の手はサイズ変更が可能なのだ。
そうとは知らず、潤平は魔法と正面の攻撃に気を取られてまんまと捕まる。
慌てて抜け出そうとするがもう遅い。
潤平が見上げると、目の前に炎の蛇が来ていて当たって爆発する。
「つ、追加でっ、『中級魔法:火の玉・九』」
そう唱えると、シンカの周りに九つの拳大程の火の玉が浮かび、潤平に向かって高速で飛んでいった。
「っっっっ!!!」
潤平に当たると、大規模な爆発を起こして大きく燃え上がった。
リンは潤平の近くにいたので、顔を火傷しないように腕で自分を覆い、そしてそこら辺に意識を失って倒れているドウザに、もう一方の灰色の手を使って被害が及ばない様に守り、爆煙の中心にいる対象を見届けていた。
やがて炎が収まると、その爆煙の中心にいた人物を確かめようと、リンはゆっくり近づく。
あれだけの火力なのだから、その中心にいた潤平は真っ黒焦げになっているとリンは確信していた。
こんな魔法を出したシンカは魔力を使い果たしたのか、膝に手を付いて顔からダラダラと汗を流し今にも倒れそうだった。
リンが遠目から確認すると、爆煙の中心には焼け焦げた地面と何かの燃えカスしか残ってなかった。
もう少し近くで確認しようと、リンが一歩足を踏み出したら、顎の下に凄い衝撃を受けて意識を失ってしまった。
それを後ろから目撃してしていたシンカは、リンが倒れた理由が分からなかったが、その理由を考え込む前に意識を失う。
最後に見た光景は、倒れたリンと視界に入った誰かの握り拳だった。
これが先程まで繰り広げていた内容である。
まさかあれだけの魔法の攻撃を、ほぼ無傷で耐えれるとは潤平も思っていなかった。
足を掴まれた瞬間はあ、これ終わったと。二回目の人生の終わりを悟った程だった。
改めて、この様な体にしてくれた神様に感謝である。
それからと言うもの、服が炎の魔法で燃え尽きてしまい、何故かパンツまで焦げてしまったので、燃えカスになってしまったワイシャツとズボン、その他靴下とか靴とか下着とかに修復魔法を掛けていき、彼らが目覚めるのを待った。
折角修復魔法を掛けたばかりなのにと、潤平は少し悲しい気持ちになって修復作業を行っていた。
しばらく経つと彼らが目を覚ます。
一番最初に目覚めたのがドウザで、そこから暫く立ってリン、シンカの順で目を覚ました。
ドウザ以外の二人は、目が覚めると潤平に対して物凄く怯えていた。
それからは、半ば従わせる様な形で会話をしていった。
基本ドウザが、受け答えをして行動を決めているので、二人はドウザが承諾したらそれに付いていく感じだった。
そして彼らのアジトまで案内して貰う事を約束に、その代わりに彼らを開放するという条件で案内させた。
どのみち仕事に失敗した彼らは盗賊の掟で、何らかの制裁を食らうので辞めるつもりだったらしい。
これが、さっきまでの道中であった事だ。
もし他人から今の状況を見られたら、自分も盗賊の一味と間違われるのかなとか、下らないことを潤平は考えながら彼らと行動を共にしていた。
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