第十二話 怪物くん
「見えたぞ、あれがアジトの入口だ」
盗賊のアジトに連れてって貰うために、山の中を猛虎三人衆と歩き回ること数十分。
ようやく目的地の、盗賊のアジトに着いたらしくドウザがその方向を指して教えてくれた。
ドウザが指した方を見ると、数十メートル先に大きな岩壁がそびえ立っており、その岩壁の麓に人が出入り出来そうな亀裂が数カ所ある。
そこから入って行き、中に本命のアジトがあるらしい。ぱっと見ただけだが、堅牢そうな天然の要塞と化していて住処としては申し分なさそうに見えた。
「ほえー……」
離れていても分かる岩壁の大きさに、潤平は開いた口が塞がらなかった。
(……思ったけど、自然のスケール感が地球とは全然違うなー、こんな景色あっちで生きていて見たことないもん。もしくは俺が地球の景色をちゃんと見た事ないだけなのかなー?)
感動したので、いつかこの光景を映像に残しておこうと心に決める。
そういつか、いつかね。
「止まれ」
潤平がぼけっと感動して岩壁を見上げていると、先行していたドウザが急に腕を出して、後ろを歩いていた潤平達に止まる様小声で指示をする。
潤平が動きを止めるとそれに倣って、後ろのシンカとリンも足を止めてじっとしだした。
どうしたものかと不思議そうにじっとしていると、ドウザが静かに来いとジェスチャーをしたので、潤平は静かにドウザに近寄った。
「どうしたの?何かあったの?」
出来るだけ小声で潤平はドウザに尋ねる。
「……どこか様子がおかしい」
ドウザも出来るだけ、こちらに伝わるくらいの小声で返答してきた。
「……おかしいってどこがさ」
森の中に大きな岩壁がそびえ立ってるだけで、潤平から見れば特におかしいところは見当たらなかった。
「それなんだが、いつもは大抵一人か二人はアジトの入口前に見張りが立っているんだが……。 例えばへました奴とか下っ端の奴とかな、それが見る限り誰も入口に立っていないこうゆう時は大抵……」
「大抵なに?」
「余程の収穫があって戦利品に夢中になっているか、酒を食らって馬鹿騒ぎしてるか、もしくは襲撃に備えてアジトの防衛を固くしているかだ、まあ最後のは滅多にないから可能性は低いだろうな」
「ほうほう」
潤平はその話を聞いて、腕を組んで考え出す。
「まあ俺等は、アジトまで案内する約束だったからな、ここまで来れば十分か?」
そう言うとドウザは、約束を果たしたと言わんばかりに、シンカとリンの二人を引き連れてこの場を離れようとする。
「うん? そうだね、ここまで案内してもらったらもう十分だよ。ありがとね」
そう素直な気持ちを口にしてドウザ達に告げると、ドウザ達はそれを聞いて渋い顔をする。
「……化け物みたいな強さをしてるのに、子供みたいな無邪気な顔をしやがる」
ぼそっと潤平には聞こえない位の小声でそう呟く。
「えっ、何て?」
潤平の耳を持ってしても、ドウザが小声で呟いた言葉が風に流されてよく聞こえなかった。
「何でもねぇ、じゃあな」
「うん。どこかでまた会う気がするから、またね」
「あ? お前みたいな化け物ともう一度会うなんて、ごめんだね」
そう言うと、ドウザは身を翻してこの場から去って行った。
後ろの二人もドウザの後を追うように続いていく。
結局シンカとリンは、潤平とは一言も話さないまま別れてしまった。
「……結局二人には怖がられたままだったなぁ」
彼らの背中を見て思い出に耽ける。
初見で盗賊を名乗っていたから、あいつの仲間だと思って警戒していたけど悪い雰囲気は感じなかったな。
それに不思議と潤平は彼らを嫌いになれなかった。
見ていて面白い集団だったので、もっと仲良くなりたい位には好意を抱いていた。
「さてと、どうしようか」
潤平はまだ数十メートルは先にある、見張りが一人も立っていない盗賊のアジトの入口を見てそう呟く。
(う〜ん、流石に何も無いわけがないよね、逃げた奴が報告していたら防衛を固めてるだろうし……、一か八か報告もされてなくてドウザが言っていた通りに、皆で呑気に宴会してる可能性はないかな? いや〜でもな〜、何か罠な気がするんだよな〜、入口に入った瞬間待ち伏せされてる気がするんだよな〜)
見つからないように茂みに隠れながら、頭を悩ませる潤平。
(試しにもうちょっと近づいて様子を伺ってみるか? いや〜、でも近づいただけで警報が鳴るような罠が仕掛けてないとも限らないし、そこら辺をもうちょっとドウザ達に聞いとくべきだったな〜)
必死に、頭の中で考えていた潤平だったが悩むのをやめて、覚悟を決めてアジトに近づく決断をする。
音を立てないように、身を隠せそうな茂みや木の陰に隠れながら、ササッと静かにアジトに近づいていく。
そしてアジトの入口まで残り数メートルまで来た所で、身を隠せる場所が無くなった事に気付く。
アジトの入口周りは整備されていて、開けた感じになっていた。
(う〜んここからどうしよう、今の俺の身体能力ならこの位の距離だったら一瞬で行けるかな? いやでも、もし入口周りに踏んだり触れたりしたら、反応する類いのトラップが仕掛けられたりしていたらまずいよな)
またしても頭を悩ませる潤平。
うんうん頭を揺らして小声で唸っていると、とある異変に気付く。
森の中にだと言うのにやけに周りが静かなのだ。
大抵は、何か小動物の気配や鳴き声が聞こえてきたり、昆虫の鳴き声が響いたりしているものだが何も聞こえてこない。
それどころか、風で揺れる木々の音もいつもより静かな気がする。
潤平は周りの雰囲気が変わった事に警戒を強める。
何故ならこうゆう時は、近くに捕食者や殺意を孕んだ生き物がいるのだと聞いていたからだ。
それにじいちゃんが昔、同じ様な場面に遭遇したと言っていた。その時は数十メートル先に熊がいたと話していた。
幸い、その時はじいちゃんの周りに人が数人いたから何もなかったらしいが、それ以来山に入るのは気を付けろと言われてる。
それにここ数日、潤平もこの異世界の山で生きてきて同じ様な場面に何度も遭遇し、面白くない経験をしている。
肉食性の生き物に襲われたり、地球では見たことないサイズの昆虫に襲われたり、一番驚愕したのは昆虫戦争を目撃した時だ。
大型のテレビ位のサイズはありそうなスズメバチみたいな見た目をした蜂を、これまた乗用車位のサイズ感のオニヤンマ?っぽい見た目のトンボが、襲って捕食していたのだ。
あれを見た時は正直引いた。
ブンブン空中戦をしたと思ったら、いつの間にかスズメバチが捕まってオニヤンマに食べられてるんだもん。
でっかい昆虫がそこら辺飛び回って、ばりばりむしゃむしゃされてるのを見るのは気分が悪い。
虫嫌いな人が見たら、失神してそのまま森の生き物の餌になるだろう。
それだけこの世界の食物連鎖はスケールがでかいんだろう。
俺だって、神様に貰ったスキルで強化されてなかったら、初手の時点で巨大狼に食われてただろうしな。
改めて周りを見渡して、警戒を強める。
何が出てくるか分からないが、間違いなく何かいる。
潤平は、すぐに動けていつでも魔法を発動出来るよう態勢を整えていた。
数分、十数分が経つ。
(……何もない?)
いくら待っても何も起きないので、潤平は警戒したままだった体の力をふっと抜いてしまう。
タッ。
その瞬間、微かに自分の頭の上から何か音がした。
「上っ!」
急いで態勢を変えて上を向く。
すると目に飛び込んできたのは、物凄い形相でこちらに向かって槍を構えて落下してくる男の姿だった。
潤平は、超人的な動体視力と動きで不意の一撃を回避するが、勢い余って地面を転がり回ってしまう。
急いで態勢を立て直すと、先程自分が立っていた場所に目を向ける。
そこには、深々と槍が刺さっておりその一撃が、安易に命を奪える程の物だと理解出来た。
潤平は立ち上がると、自分を襲ってきた相手をじっと見つめる。
自分より少し年上の男性、身長は同じぐらいかもしれない。
体の線は細く見えるが見た目に惑わされるなかれ、中身はしまった筋肉と運動能力の高い身体で出来てるだろう。
現にまだ、槍が地面に刺さったままなのに本人は、槍を掴んだまま掴まっているのだから。
雑技団でもあんな態勢は出来ないと思う。
ましてや、槍が地面に深々と刺さる程の一撃だ、どんな握力と身体能力をしていたらそんな芸当が出来るのか。
潤平は表情が引き攣っていた。
すると男がゆっくりと動き出す。
地面に足を下ろすと、地面に刺さったままの槍をずるりと地面から引き抜く。
潤平はすぐに次の攻撃が来ると思い、なんちゃって拳法のそれっぽい構えで迎え撃とうとする。
だが男は攻撃の素振りを見せず、右手で顔を覆うと大声で笑い始める。
「くふはっはははははははっ! どんな反応速度してんだよっ! あの一撃を避けんのかよっ、半端ねぇなっおめえよぉっ、コハクヤマネコかっつうんだよっ!」
ひとしきり笑うと今度は急に、静かに語りかける。
「……はぁ〜っ、だがおめえはもう終わりだ、残念だが俺の勝ちだ」
そう言うと、槍の男は潤平の右耳を指差す。
「俺の槍には毒が仕込んである、こうゆう時の為によヤモメヅキと公蛇の毒を、練り合わせて刃に塗ってるんだわ、少し経てば血と胃液を吐いてのたうち回りながら倒れ、最後には下の穴から無様に色んな物を撒き散らしながら死んでくぜ」
嬉しそうに、身振り手振りで話す男の言葉を潤平は、静かに聞いていたが内心は穏やかではなかった。
男が言った通り、潤平は右耳に軽く触れてみる。
(切れてる……)
すると、確かに右耳を切っているらしく出血と鈍い痛みが返ってきた。
不意を突かれたとはいえ、避けきったと思ったのに完全には避けきれていなかった所が、相手の技量が伺えた。
それに、狼に噛まれた時ですら出血どころか痣にもならなかったとゆうのに、この体にまともに傷を付けられたとゆう事実が潤平の心ををざわつかせる。
「はぁぁ〜、こんなもんかよ国お抱えのサムライってのはよ。頭と代理が騒いでるからもっと化物みたいなのを期待してたぜ。がっかりだわ」
そんな潤平の横目に男はべらべらと喋りまくると、テンションが勝手に落ちている。
随分と自分勝手な奴だなと、潤平は第一印象でそう思った。
「とりあえず、頭と胴体を切り離して首だけ持って帰れば手柄になるだろ、サムライを討ち取ったともなればかなり名が売れるだろうからな。これで俺も裏の世界では有名人よ」
満足したのか一通り話終えると、槍を構えてこちらに向かって一直線に突進して来た。
勝手にピーチクパーチク喋って、挙げ句の果てに俺を殺すってか? 随分と舐められたもんですな。
盗賊のくせに俺を舐めた事絶対に後悔させてやる。
「こいよっ!」
潤平が煽るのと同時に、槍の男はたんっ、たんっ、と兎の様に地面を三段跳びの要領で蹴って、こちらに物凄い速度で向かって来る。それに潤平は上手くカウンターを合わせ様とする。
出来る。
俺なら出来る。
この身体なら常人に捉えられない動きでも反応出来るはず。
捕らえろ俺の動体視力。相手の突きに合わせて顔面にぶち込め。
「そこだっ!」
相手の槍の一撃の瞬間に合わせて、こちらの渾身のカウンターの拳が槍の男の顔面にめり込む。
「手応えアリだこのやろうっ!」
むふーっ。
完璧に入ったぞ、巨大な獣たちも撃退出来る程の一発だからな。ただの人間を殴るのはこれが初めてだが、相手は非道の限りを尽くす盗賊だからな、それに何か強者みたいな雰囲気を醸し出してたし。これぐらいでも大丈夫だろ、そのまま木にぶつかって終わ……り……。
「……あれ? 木にぶつかっても止まらないんですけど、それどころかどんどん木をぶち壊して……あ……」
何か物凄い音を立てて、アジトの入り口の横の壁にぶつかったんですけど。大丈夫か? 入口とか崩落してないよな。てゆーか生きてるよね殴った奴、いきなり殺人とかしてないよね? 大丈夫だよね?
「とんだ人間兵器になっちまったよ俺……」
これからは、むやみに人を全力で殴らないようにしようそうしよう。いつか取り返しのつかない事が起きる前に気を付けないと。
うえっ、殴った右手に何か色々体液が付いてる。汚えっ、後で洗い流そう。しかし向こうは大丈夫だよね? 生きてるよね? もし死んでたりしたらそれを確認しなきゃいけないんでしょ? 嫌だよそんなの見たくないよ。
潤平は右手に着いた汁気をぴっぴっと飛ばすと、恐る恐るとだが、吹っ飛んでいった男の安否を確認しに行く。
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