第十三話 異世界のならず者
結果から言うと槍の男は生きてた。
生きてはいたが、あれを生きてると言ってもいいのだろうか?
顔面は殴られて変形して、手足は折れ曲がり頭とから出血していて、ヒュッヒュツと浅い呼吸を繰り返している。見るからに瀕死といった様子だが、まだ息があるので大丈夫とする。
まあ相手は盗賊だし、今までの行いが纏まって自分に返ってきたと思えばいい。
恨むんなら自分を恨むんだな。南無。
「さあって、こんだけ騒いだらもう気づかれてるよね」
盛大にアジトの入口をノックした訳で、これで中の盗賊共に気付かれてないは無理がある。
ちょっと特殊な方法だけど、挨拶は済んだと思おう。
もしも〜し誰かいませんかぁ? ちょっとお尋ねしたい事があるんですけどぉ。
………………。
返事がないなら勝手に入りますねぇ、あれ?槍が落ちてる。これ要らないようなので貰っときますね、はい『収納』っと、ちょっと気になってたんだよねこの槍。
俺の身体に傷を付けるって相当の武器だろうから、コレクションと鑑定用として回収しとこう。
この槍自体の切れ味が良いのか、それとも魔法を使ってるのか、もしくは槍の男の技能か特殊な技による物だったのか。
この槍について興味が尽きないけど、今はそれどころじゃないから後で調べる事にしよう。
アジトの入り口に転がっている瀕死の男を横目に、潤平は盗賊のアジトに入って行く。
失礼しまーす。
おっ、思ったより暗くないぞ。所々壁に亀裂が入っててそこから光が漏れている。
これなら問題なく進めるな、照明魔法とか作る必要があるかな~って、思ったけどこれなら大丈夫そうだ。
洞窟はそんなに長い事続いておらず少し歩けば洞窟は抜けれた。
洞窟を抜けた先には開けた空間が広がっていて、天井の開いた大きな穴から光が差し込んでおり、照らされた先を見ると限りある陽光を奪い合うように小さな小屋がそこら中に点在している。
まあ、盗賊とはいえやっぱり太陽が差す場所に住処を作りたいもんなんですかね。
人間太陽を浴びてないと、おかしくなるって言うけど人殺しを躊躇わない様な人種が、そんな事をいちいち気にするのかなぁ。
「うへぇ、きったねぇ」
警戒しつつ小屋に近寄ってまじまじと観察してみる。
どう見ても素人が建てましたと言わんばかりの出来の悪さ、じいちゃんの友達に大工さんがいたけどこんなの見たらブチギレて倒れてしまいそうだ。
顧客満足度調査とかしたら、ぶっちぎりで最下位取ること間違いなしだな。
それに外から見てるだけなのに強烈な匂いがする。
獣臭とゆうか人間の据えた匂いみたいな、独特な嫌な匂いが鼻から入ってくる、これはしばらく鼻の奥にこびりついたままだろうな。
こんな環境潔癖症の人が見たら、泡を吹いて気絶するんじゃなかろうか。
匂いもかなりひどいし、よくこんなに所に人が住んでいるなと驚くレベル。
「中世ヨーロッパの農民でももっとましな所で生活してるぞ、多分……」
気になったので小屋の周りもぐるぐる見て周ったし、近くの小屋も見て周ったりした。
小屋の側面には水瓶が置いてあり、その中に溜めた水を生活用水として使ってるみたいだ、正直この様子を見たら壺の中の水も飲めるのか疑わしい。
裏手には、小屋と小屋の間にロープが繋がっていてそこに衣類と肉や魚など保存食が垂れ下がっていた。
一緒にまとめて干しているので、そこからも強烈な匂いが漂ってきている、干した魚や肉は若干変色していてとても食欲をそそられる見た目をしていない。
これは何の肉何だろう? まあ、盗賊達が食べてるって事は食べれる肉なんだろうけど、現代人の舌を持ってる俺は食べようとは思わないねつんつん。
「うっひゃあー、すごいなまじで鼻の感覚がおかしくなりそうだ」
強烈な匂いでおかしくなりつつある鼻をつまみながら、アジトの奥に進んでいくと潤平はおかしい事に気付く。
おかしいというか、これだけあからさまだと誰でもすぐに気付くと思うが、これだけ見て周っているのに人の気配が全くしないのだ。
さっきまで生活していた形跡はそこかしこに残っているのに、小屋の中の囲炉裏に火が残っていたり、食事をしていた形跡だってある、なのに人っ子一人見当たらない。
まるで、急に人が消え去ったみたいな。
これはあれだな? 盗賊共め……。どっかから隠れて俺を覗いてるな?
そして、俺が油断した隙に一斉に襲いかかって来るんだろ?
くっくっくっそんなに甘くはないわっ、仮に襲ってきたとしても全員返り討ちじゃ。
……いや、良いこと思いついた。
隙を作ってあげようではないか、そうすれば隠れて伺ってる奴らもホイホイと出て来るんじゃないか?と、頭の中で瞬時に完璧な計画を考えると、何もない所でわざとらしく躓いて転けて見せる、ついでに両手も地面について完全に無防備とゆう事もアピールしておく。
こけっ。
「あ~、何かに躓いて転んでしまったー」
ハリウッドの主演男優にも劣らない全身全霊の演技を見よっ! そして俺を襲いにくるが良いっ、その時がお前らの最後の時だっ。
さあっ来いっ!
…………。
だが地面に倒れて数秒、数十秒経っても何も起きない。
潤平はいたたまれなくなり、むくりと起き上がると手や膝に付いた土埃や泥をパンパンと払いのける。
平常心、平常心を保つのだ。
(ふっ、誘いには乗らないってか、やるじゃないか)
虚勢を張ってはいるが、実は顔から火が出るほど恥ずかしい。
敵の拠点の真ん中で一人で何をやっているのか、考えたら虚しい気持ちになる、よくも俺にこんな気持ちを抱かせたなと心の中で盗賊達を壊滅させる気持ちが膨れ上がる、絶対に許さん。
そんな事はどうでもいいんだよ、俺は制服を取り戻しに来たんだろ、遊んでる場合じゃないわ。
羞恥心や虚しさを感じながらもどんどんとアジトの奥に進んでいく。
進むと、今とは違う形の小屋が見えた。
いや訂正、あれは小屋とゆうよりは一軒家だな、明らかに他とは違う二階建ての石造りの家が建っている。
それも、隣り合わせに二軒並んで立っている。
何故周りが木と藁で出来ている小屋ばかりなのに、この建物だけ石造り、それもちゃんと職人の手で作られた様なな作りをしているんだ?
こ〜んな感じに他とは違う作りだと、明らかにここが重要な建物だって思っちゃうよね。とゆう訳で非常に、この石造りの建物が気になったので、近づいて慎重にに注意深く家の周りを調べます。
まあ俺は元はただの高校生だから、見た所で何にも分からないんだけどね。
建物に近づいて見てみると、余計他の建物(藁小屋)との度合いの違いが目につく。
まあ、向こうに立っているのはボロボロの藁小屋だしな。素人目に見てもこの建物との作りの違いは分かる。だって藁と石造りだよ? 三匹の子豚じゃあるまいし見て分かるつーの。
しかし明らかに作りが違う。多少濁っているが窓ガラスも付いているし、隙間もとゆう隙間も見当たらない、ちゃんとした職人の手で作られたとしか思えない。
潤平は更に建物に近づいて、建物に触れてみた。
その時潤平の耳に、微かに本当に微かにだが中から人の吐息が聞こえた気がした。
潤平は動きを止めて、周りの音を拾うため耳に手を当てて音を拾ってみる。すると今度こそ本当に人の吐息が潤平の耳に聞こえる。
間違いじゃないっ。今家の中から人の声が聞こえた。
再度確かめる為に潤平は家の壁に耳を当てる。すると超人的な聴覚になったこの体が、石造りの建物の中から数人の人の吐息?寝息?の音を拾った。
なんだちゃんといるじゃん住人、呑気に寝てるのか。
それにしても、うーんどうしようか。
これだけ誰もいないなら誰かからも情報も聞けないし、かといって目の前の建物に侵入して聞き出せるかと言われればなー、俺は盗賊じゃないし無理矢理聞きだすのもなー、この建物以外に目立った建物はないし、ただ俺はブレザーを盗んだ奴の情報が欲しいだけだしブレザーを返して欲しいだけなんだけどなー、どうする? いっそ建物の屋上から侵入してみるか?
「お前か、単身でアジトに乗り込んで来たって奴は」
不意に、潤平の背後からドスの利いた男の声が聞こえてくる。
いきなりの事だったので驚いて、潤平は体がびっくっーんと少し跳ねてしまう。
びっくりしたなぁ。もう何だよ突然脅かすんじゃないよこっちは今悩んでいる最中だったんだから。
声のした方に振り向くと、赤い半天を着て首には手ぬぐいを巻いた、やはり時代劇に出てきそうなちょっとスカしてる感じの男が立っていた。
いやまあ見慣れたけどさぁ、良いんだよ? 良いんだけどね? やっぱり純日本人みたいな見た目なんだな〜って。
潤平に話しかけた男は、チラッと潤平の後ろの建物を一瞥すると、更に潤平に質問を投げてくる。
「……やっぱり目的は建物の中の人質だろ? かぁー、だからあれだけやり過ぎるなって言ったんだが、まあ俺等がデカくなれば遅かれ早かれ国から討伐隊が来るか」
この人は何の話をしてるんだ? 人質? 討伐隊? 何の事だかさっぱりわかんねえやどういう事?
潤平が知らない情報に困惑していると、尚も男は潤平に話しかけてくる。
「今、お前らにこのアジトを潰されると非常に困るんだし、大切な商品を没収されるのも困るんだわ。かといってお前らサムライが依頼された仕事を投げるわけもないしな、お前らの怖さは嫌って程知ってるからよ。しょうがねえから俺ら全員お前を殺す気で行くぜ」
そう言った瞬間男が手を挙げると、どこからかわらわらと盗賊達が出てき始める。
出てくる出てくる、やっぱり何処かに隠れてたんじゃん。
……あれ? 待てよてことは。
「俺ら盗賊だからよ。多勢に無勢で卑怯だとは言わないよな? それにこれ位しないとお前らサムライを殺すのなんて無理だからな」
盗賊達は各々が武器を持ち、潤平を見てかなり殺気立っている。
まあいくら凄まれたって森の魔獣に比べればねぇ。こんなのチワワがいきってる様にしか見えないですよ。森の魔獣は凄かったですよ? もっと敵意があったし何より、厳しい環境を生きてくための必死さがあったね。
森での生活の記憶が、遠いようで近く感じ潤平は懐かしさを感じる。
「いいかお前ら死ぬ気でやれよ、それにサムライを討ち取った奴はそれだけで有名人だ。金も女も名声も付いてくるぞ、そうすれば盗賊なんかやらずに遊んで暮らせっからよぉ、気張っていけや」
男の甘い誘惑に盗賊達は、頭の中で都合のいい妄想を始めたのか皆一様にやる気が漲る、中には目が血走って完全にいっちゃってる奴もいたがそちらは見ないようにした。
てゆーかどんどん話しが勝手に進んでるけど、これやる感じ? サムライとか人質とか分からない話しが出てるけど来る感じ? まあこんだけやる気に満ちてたら今更あいつらも止められないか。気になった事が二つある。
果たしてそれを聞いた所で、素直に会話に応じてくれるからどうか。
「やっ「ちょっと待ったっぁぁぁぁ!!」
今正に、男の号令で盗賊達が襲いかかろうとした瞬間、潤平は右手を前に出して彼らにストップをかける。
いきなり待ったをかけられて盗賊の何人かは、止まれずつんのめったり高所から落ちそうになってる奴もいた。
「その前に二つほど聞きたい事がある」
「……何だ?」
おお。てっきり有無を言わず襲いかかって来ると思ったが、一様話は聞いてくれるんだな。
取りあえず俺が聞きたいのは、制服を盗んだ奴の事とそれともうひとつ。
「俺の制服を盗んだ奴はどこにいる? そいつの居場所が知りたい。そしてもう一つは………………、俺が転んだ所は見ていたか?」
どっちも大事な事だろ?
前者は俺の大事な宝物だ、絶対にぶっ飛ばしてでも制服は取り返す。
後者は俺の名誉と羞恥を守るためだ、あんな所を見られて生きて帰すかよ。
「制服? 何だそりゃんなもんは知らん、この中の誰かが取ったのか? ならそいつを探して取り返せばいいだろが。…………それとお前が転んだ所は…………」
「所は?」
「見てた」
くっ、やはりこいら全員消さなければっ、俺の名誉を守るために。
よし決めた全員掛かってこいよ、こちとら神様に連れて来られた時に覚悟は決まっとんじゃい。お前ら纏めて記憶どころか来世までぶっ飛ばしてやるよ。
楽しい楽しい盗賊狩りの始まりじゃい。
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