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異世界、遺します ~天涯孤独となった俺に亡き祖父母が『異世界』を遺してくれた~  作者: 鏑右いなだ


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第十四話 別の世界の生き物

 盗賊のアジト内に男達の野太い声が木霊する。

 厳密には男だけじゃなく、女の盗賊もいるのだけれども大勢の男の声にかき消され聞こえない。


 盗賊、盗賊、盗賊。

 見渡す限り盗賊の群れ。それらが武器を持って潤平の首を取らんと、我先にと必死になって向かってくる。

  潤平からすれば、まずサムライとか何のこっちゃって話だけど、ここまで大勢の人間に狙われてると逆に吹っ切れてくる気もする。

 

 っと、さすがに集中するか。これだけの数を無傷で捌くのは無理だろうしな、それに後ろには強そーな奴とボスっぽいのが控えてるしな。無傷は無理だろうけど余計な致命傷は貰わない様にしないと。

 

 それにしても次から次へとどんどん湧いてくるな。俺一人にどれだけの人員を割くのさ。これあれだなどこかで見た事があると思ったら、あれだfpsのゾンビゲーやってる気分だな。

 

 迫ってくる大勢のゾンビを倒してまくって進んでいくと、武器を強化したりヘッドショットじゃないと堅い敵がいたり、ステージにギミックや謎解きがあったり、そんなゲームをやってる気分を思い出すわ。

 でもお生憎様ここは現実世界。そんな設定はないんですわ、てゆーかほんの数日前までただの高校生だった俺がいきなり人を撃てるかっつー話。


 そんな下らない事を考えつつ、潤平は此方に向かって来る盗賊の群れに向かって、勢い良く突っ込んで行く。 

 そもそもアジトに入った時点で逃げられると思ってないし、それに混戦にした方がこちらにとって都合がいいしね。ここは突っ込んで行く一本で。

 

 まさか獲物が自分達に突撃してくるとは思ってなかったのか、一番前にいた盗賊がギョッとした顔をする。

 驚いている間抜け顔の、そいつの頭を右手で掴むと後続にいる盗賊達に向かって思いっきり投げつける。 

 短い悲鳴と人間同士がぶつかるメギャッと音がする。

 その光景に気を取られてる動きの止まった何人かの盗賊を、更に掴んで投げていき同じ事を数回繰り返す。


 最初に突っ込んで来た盗賊達は、潤平の人外染みた力に恐れを成して恐怖で固まったり、潤平が投げた人にぶつかって動けなくなったりしていた。


 そしてそこまで来ると流石に盗賊達も学んだらしく、潤平から距離をとって投擲武器や魔法で応戦し始める。

 無数の武器や魔法が潤平に向かって放たれるが、飛んできた武器は避けて交わして、魔法は拳で殴って消していた。 


「打つのを止めろっ!!」

 

 盗賊達の無数の遠距離攻撃に晒されて、その内潤平の周りが爆煙と土埃で包まれて潤平の姿が見えなくなる。

 盗賊達は標的が見えなくなった事と、あれだけの攻撃を食らって流石に生きてる筈がないと思い攻撃の手を止める。

 時間にして数秒。盗賊達の間に静寂が訪れると、ボンッといきなり煙の中から何かが高速で飛び出してきて、煙を眺めていた盗賊たちを何人か串刺しにする。

 それは潤平が、このアジトに入る前に槍の男から奪った槍で、潤平は攻撃が止んだと同時に煙の中で、収納からそれを取り出すと動きの止まってる盗賊に向かって全力で投げ付けたのだ。


 盗賊達は、これだけ打ったのに標的を仕留めていない事に気が付き、また遠距離攻撃を打ち始める。

 だが、潤平がそれをただ黙って見てる訳もなく、煙の中から勢いよく飛び出すと、一番近くにいた魔法を詠唱している盗賊の所に一瞬で距離を詰めて、顔面を思いっ切り殴る。

 次に間髪入れずに潤平に襲いかかって来た三人の盗賊を回し蹴りすると、そいつらの内の一人が使っていた刀を奪い取る。

 潤平は手に取った刀を見ると、日本刀そっくりな事に目を奪われる。

 盗賊の格好といい、使ってる武器といいどうしてこう日本の時代劇っぽいのか。そういやさっき忍具の針みたいな物を投げて来てた奴もいたな。

 ……もしかしているのか? この世界には忍者とゆう存在が。

 

 「ほらぁっ!、どんどんこいよぉっ!」


 とりあえず、刀なんて握った事も触れたこともないので適当に振り回して、盗賊達を追いかけ回してみる。

 

 「うわぁ、こっち来んなぁっ!」

 「どけっ邪魔だっ!」

 「おいっ、ざけんなっお前らが邪魔で狙いが定まんないだろうがっ!」

 「うるせえっ、こんな近距離でどうやって魔法を当てるんだよっ!」

 「お前らが囮になれよっ!」

 「あ? うるせえぶっ殺すぞ」

 「おー、やってみろ返り討ちじゃボケ」

 「うわっ、こっち来るなっ!」

 「うわぁっ!」

 「うわぁっ!」

 「「ひいいいいいいいっ!!」」


 追いかけ回す内に、仲間割れし始めた盗賊を片っ端から討ち取っていく。魔獣を殺した経験はあっても人を殺す経験はなかったので取り敢えず峰打ちに留めておく。

 とは言っても、巨大な生物を容易に吹き飛ばせる程の膂力なので、潤平の振るった刀に当たった盗賊は動かなくなるか、何かにぶつかって破裂するかなので生きてるとはいい辛い。


 片っ端から盗賊を吹き飛ばしていく潤平。そしてそんな潤平のから必死になって逃げ回る盗賊達。潤平が右に動けば反対の左に逃げ、左に動けば逆の右に逃げ回る。

 盗賊のアジト内は阿鼻叫喚となっていた、狩る側から狩られる側へ盗賊達は普段とは逆の獲物の気持ちを味わっていた。


 大分盗賊達の人数も減ってきたな、あれ? そういや最初にいた盗賊の頭っぽい奴はどこ行ったんだ? 盗賊達に合図を出した直後から見えなくなったんだが、どっかで様子でも伺ってんのか?


 少なくなってきた盗賊を見て目の前の事とは違う事を考える。


 「隙あり」


 一瞬潤平が気が緩み動きを止めた。その瞬間後ろから女性の声が聞こえた。 

 潤平は急いでその場から飛びのって、自分が元いた場所に目を向けると、そこには忍者の格好をした女性が立っている。


 際どい格好をした女性忍者。これはいわゆるくノ一とゆう奴だろう。

 それにしてもだけどやっぱり忍者は存在したんだな。

 初めて生で見た忍者に潤平は興奮する。


 「ちょいとあんた好き放題暴れ過ぎだねぇ、これ以上はご遠慮願いたいねぇ、……いやぁ、どうせこいつらゴミと同然だしゴミ掃除出来たと思えばいいか」 


 ちょっと気怠げな様子でくノ一が足元に転がってる盗賊を見下ろしてそう呟く。

 

 でかいな、俺よりも身長が高い。そこら辺に転がってる盗賊達よりもでかいし。それにあっちの世界だときっとモデルや女優として、名を馳せてるぐらいにはスタイルが良いな美人だし。

 う〜ん、美人な人とはやり辛いぞ。顔だけで気圧されるし、何より女の人を殴るのはなー気分的に良くないな。とかなんとか考えていると、くノ一は床に気を失って転がっている盗賊達を、まるでゴミでも払うかの様に魔法で吹っ飛ばして自分の動くスペースを確保していた。

 うん、前言撤回。一瞬忘れてたけどこの人も盗賊側の人間だったなそう言えば。

 

 「う〜んこれで綺麗綺麗」

 

 邪魔な物を吹っ飛ばしてスペースを確保出来た事が嬉しかったのか、くノ一のお姉さんは少し満足げに微笑む。

 しかし今の魔法は何の魔法を使ったんだ? ぱっと見爆発が起こっていたから爆発魔法とかそんなのか? それとも何か他にカラクリがあるのか? てゆーかそんな物騒な魔法を人に向けて放つってこの人も結構ぶっ飛んでんな。

 

 「次はあなたが相手をしてくれるんですか?」

 

 「ん? 君の相手? いやーそんな猛獣の相手なんてするわけ無いでしょ怖いし。それに私はか弱い女性なんだから戦うのとか無理無理」


 か弱い女性が人を足蹴にしたり、魔法で吹っ飛ばしたりするかなぁ。それにあなたそこら辺の男より強そうじゃん、とか思ったが口には出せない潤平だった。


 「それにもう戦いならもう終わってるし」


 「……えっ」


 「背中」


 お姉さんが指で背中を指したので、潤平は頭を捻って自分の背中を確認した。するとそこにはびっしりと札が貼られていて何やら文字がびっしりと書かれている。潤平が驚いて目を見開くと、その瞬間札が眩く光りだして爆発し始める。


 「っっっ!?」


 次々と爆発していく札。洞窟内に響き渡る衝撃と爆発音。それらは数十秒間続いた。

 爆発が収まると、そこには物凄い量の爆煙と土埃がもうもうと舞っていた。


 「終わりかな」


 標的を確実に仕留めたかどうか、くノ一のお姉さんはまだ煙が舞って熱を帯びているその場に確認の為近付いていく。その瞬間、爆煙の中から勢い良く手が伸びてきてくノ一のお姉さんをを掴もうとする。


 「くっ!?」


 すんでの所でくノ一のお姉さんは回避したが、掴まってればその時点で他の盗賊達と同じ運命を辿る所だったと考えると、くノ一のお姉さんの頬に汗が流れる。

 煙から伸びた手は、目的を掴んだ感触がないと分かると、何度か手をニギニギと開いたり閉じたりしていた。


 「くそっ逃がしたかっ、痛っ」


 煙が晴れると、そこにはほぼ無傷の状態の潤平が立っている。ただ背中からお尻まで焼け焦げたせいで服はなくなっていたが。

 その状態の潤平を見て、くノ一のお姉さんはあまり自分の魔法が効果をなしていない事に驚く。

 自分の魔法にはかなりの自信を持っていただけに精神的にショックを受ける。しかしくノ一のお姉さんはそんな様子は表情に出さず、表面上は何事もなかったかのように振る舞う。


 そして魔法を食らった当の潤平は、爆発に驚いたのもそうだが、それよりも自分の体に小さくないダメージを付けられた事に驚いていた。

 この世界に来てここまでの傷を負ったのは初めてで、背中から焼けるような痛みが伝わって来る。

 だが潤平は、決して痛がる素振りも見せず攻撃が効いた事を、決して悟られないように必死に表情を取り繕った。少しでも弱ってる所を見せればこの人は、即座にそこを突いてくると思ったからだ。


 「惜しい、あと少しだったんだけどなそう簡単には捕まらないか」


 痛む背中を我慢して潤平は立ち上がると、お姉さんに向き直って視界に収める。向こうは向こうでただじっと潤平を観察する様に見ている。

 お互いがお互いを観察する様に見つめ合う、そこに流れるのは甘い雰囲気などではなく、殺意を孕んだ緊張感が含まれていた。


 (くそっ痛えな、あんまり時間をかけ過ぎるとまずいなこりゃ。さっさと制服奪い返して引きたい所だが、そうもいかないよね)


 先に動いたのはくノ一のお姉さん、懐から何かを取り出すと潤平に向かって投げ出す。潤平はいつもみたいにそれを躱そうとするが、背中からの鈍い痛みのせいで動きが遅れる、避けれなかった分は仕方ないので何本か掴んで受け止めた。

 それは、先程の盗賊達の攻撃に紛れて飛んできていた太い針みたいな物で、さっきからの所々の的確な攻撃は眼の前の人物だったのかと潤平は確信する。


 潤平は掴んだそれを捨てると、お姉さんに向かって猛ダッシュで距離を詰める。

 ちくちく遠くから攻撃するって事は、近づかれたくないって事だろ。それにあの爆発魔法も近づかれたら自分自身を巻き込むから発動出来ない筈。

 逃げ回るお姉さんにピッタリと付いていくと、徐々に距離を詰めて行き遂に、その手にお姉さんを捕らえる事に成功する。

 

 お姉さんの手首を掴むと、思ったより細い手首に驚きつつそのまま一本背負いをしようとする。以下に盗賊の仲間といえど、女性を殴り飛ばすのは気が引けたので、背負投で気絶させようとしたのである。

 だが潤平は気付いていない、どこの世界に人間を力一杯地面に叩きつける奴がいるのか、寧ろそちらの方が非人道的でないのかと。

 まあここは異世界で、相手もただの人間ではないのでそのぐらいの方がいいのかもしれないが。


 「おりゃぁ!」


 力一杯投げ付けた影響で、周囲に物凄い音と衝撃が伝わり地面がひび割れて陥没した。

 改めてこの身体の強さに若干引きつつも、膝に手を付き一呼吸置きようやく戦闘が終わった事を噛みしめる。

 

 危ない所だった少し油断した。調子に乗って盗賊達を狩って遊んでいたらここまでのダメージを負うとは思わなかった。

 強い人が使う魔法は、この体にダメージが通るって事を肝に命じておかないと、この人より強い人がゴロゴロいたらちょっとまずいかも、……まぁこんだけ強い人もそうそういないか。痛っ、く〜少し何処かで体を休めないと、ちょっと休めば脅威の回復力で満足に動ける位には回復するだろ。


 「おいしょっと、痛ぇー、うわーワイシャツ背中焼け焦げてるじゃん、てゆーか全身ボロボロだわ、後で魔法で修復しておくか」

 

 背中側が焼け焦げたワイシャツを脱ごうとすると、皮膚とくっついていて激痛が走ったが気合で脱いだ。

 半泣きになりながらワイシャツを修復しようとすると、ぞわっと体にゾクゾクとした悪寒が走る、この感覚は森の中で何度も体験した何か危機が迫ってるサインだ。


 「あ? まだ何かいるってのか?」


 その瞬間、潤平の左脇腹にドッと何者かに殴られた衝撃が走る。

 

 「あ?」


 見ると、開戦を告げた時から姿を見せていなかった盗賊の頭が、潤平の背後に回って左脇腹に深々と短刀を刺していた。


 「よう」


 潤平は、左腕をはらって裏拳で男を殴ろうとする。しかし盗賊の頭はひょいっと華麗に躱して避けると、そのままとんとんっと潤平から距離を取って、ニヤニヤとこちらを舐め腐った態度で見てくる。

 そして遅れて、潤平の左脇腹から激痛が襲ってくる。

 

 あり得ない、いつ? この世界に降り立って生き物の気配に気付かなかった事はなかったぞ。どんなに気配を殺した生物でも大体の気配は掴めてたのに、こんな簡単に背後を取られるなんてどうなってるんだ?


 「なっげえなっげえ、ようやく隙を見せてくれたわ、ずっと暴れてるから中々襲う機会が来なくてよ、ま、でもそのおかげで致命傷与えられたから待ったかいがあったってもんよ」


 手に持ってる潤平を刺した短刀をクルクルと回して、ご機嫌に喋り始める盗賊の頭。

 

 「因みに、この短刀の刃先には毒が仕込んである、それも猛毒のカラカガシとマイチョウを練り合わせた特別物よ、激しい痛みと出血がお前を襲い全身が爛れて死んでゆくという悲惨な最後を遂げる事になる」


 痛みで立ってられず膝をついて左脇腹を手で抑える。だが刺された箇所からは出血が止まらないし、何か物凄く気分も悪くなって来たかもしれない。出血多量で死ぬか、こいつの言う通り毒でくたばるのが先か、どちらにせよまずい状況になった。


 (いや、神様に強化されたこの身体なら何とか出来ないか? 流石に無理か……?)

 

 初めて直面した危機に、潤平はどうする事も出来ずただ相手を睨みつける事しか出来ないのであった。





 



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