第十五話 神の加護
他者の物を奪う、他者の命を奪う。
荒くれ者達の、盗賊の頭を勤め上げているこのワドウとゆう男は、他者から奪うとゆう行為が得意でもあったし好きでもあった。
生まれは恵まれていたが、物心付いた時からそうゆう行為に走っており、そしてスキルとゆう天からの才能を持って生まれた事から、自分は他とは違う存在だと自覚していた。そして与えられたスキルも自分の性格と生き様に合ってると分かってからは、より奪うとゆう行為がエスカレートしていく。
十代の頃に見かねた両親が働き先を見つけ、一度は誰かに仕えたりもしたがそこで窃盗、暴行、殺人を犯してから日陰を歩く様な生活を強いられた。
追手や賞金稼ぎから逃げたり撃退したりしてる内に、同じ様な境遇の仲間を見つけては、引き連れいつの間にか盗賊を率いる立場になっていく。
元々腕っぷしも強かった事から仲間も素直に従った。
それに、ワドウのスキルが強力な事もあって、表の人間からも大金で言えない様な仕事を任される位にもなった。
そうやってワドウは裏の世界で伸し上がって行き、自分の支配欲と欲望を満たしていった。
なので、今目の前にしゃがみ込んでいる奴を目にして、ワドウは得も言われぬ快感を手にしていた。
自分よりも一回り年が離れた青年だろうが関係ない、自分を見下していた自分を追い詰めた、あのサムライを地に落としているとゆう事実がワドウを悦に浸らしていた。
致命傷も与えた、ついでに毒も食らわせた、後はこちらの思うがままに命を刈り取る事が出来る、これが奪う側の醍醐味なのだと実感する。
だが潤平を見ると汗を掻いてはいる物の、顔には一切絶望とゆう名の曇りはなかった。それどころかまだ自分が勝てると信じている真っ直ぐな目をしていた。
何だこいつは? 何故この追い込まれた状況でそんな顔が出来る? そういう所がむかつくんだよぉ〜ぉ、お前らサムライってのは常に自分達が上だと思ってやがる、見下してんじゃねぇ〜よ。………………決めた殺す。
勘違いと勝手な妄想が、ワドウの気持ちを昂らせる。
ワドウが、眼の前の青年に殺意を膨らましてる頃、潤平は必死にこの状況をどうするか考えていた。
考えろっ考えろっ考えろっ、何かこの状況を打破する方法を考えろ、背中に大火傷左脇腹に深い刺し傷、それに毒も盛られてる。
駄目だ何も思いつかない万事休すだ。かあ〜ここで終わりか短い第二の人生だったなあ、神様にあんだけ自信満々に言っといてこんな結末かよ。
じいちゃんばあちゃんごめん、せっかく異世界をプレゼントして貰ったのにここまでのようだよ。約束も果たせない様な情けない孫でごめん。
天国に行ったらまた笑って叱ってくれるかな。
嫌、そもそも天国に行けるとは限らないか? この世界に来てかなり魔獣の命も取ったし、盗賊の人達も死んじゃった人達もいるかもしれない、そんな事をした人間が天国に行ける訳無いか。
てゆーか何か長くね? 眼の前のクソ野郎は何かブツブツ言い出してから動かないし、そろそろ毒も回ってきてもおかしくないと思うんだけど、何か気持ち悪さ無くなってきてない? 思考もクリアだし、あれ? 治って来てる?
あれぇぇぇっっっっっ?????
相変わらず左の脇腹からは激痛が来るけど、毒が抜けた? 無くなった? おかげで動ける位には回復してる気がするぞ、ううっ痛えっ、頑張れ俺の体動いてくれ。
ワドウが自分の世界に浸ってトリップしてる間に、潤平はモーションが少ない『風魔法』を右手に出して、即座に左手に『火魔法』を発動させる。
「俺が殺すんだ、俺がサムライを討ち取った男になるんだ、そうすれば名実ともに俺が「おらぁぁっっっっっ!!!!!」
自分の世界に入ったきり戻って来ない相手に風魔法を叩き込む。
発動した風魔法は、相手の懐で炸裂すると吹き飛んでいく、小屋や色んな物を巻き込んだまま最後には壁に激突する。
すかさずそこに火魔法を叩き込んでいく。
「うあっ、たしか……こうだったか? 『火球・九』」
ドウザ達が使っていた魔法を見様見真似で使ってみる、上手く発動した火魔法は潤平の周りに九つ浮かぶと、そのまま吹き飛んだワドウに向かって勢いよく飛んで行く。
少しだけ違うのは、シンカが使っていた火魔法は中級で拳位のサイズ感だったのに、潤平の火魔法はバスケットボール位のサイズになっていた。
ボンボンボンボンっと、着弾してはその場に火が燃え広がっていく、魔法が九回続いた。
「はあっはあっ、『火球』」
最後に、ワドウが居るであろう場所に少しばかり魔力を込めた火球を打ち込む。
それは、この世界で使われてる一般的な火球のサイズとは異なり、トラック一台分の大きさまで膨れ上がった。まだ息があった盗賊や逃げて潜んでいた盗賊達は、その魔法を見て巻き込まれまいとアジトから逃げ出した。
潤平は盗賊達が逃げていくのを敢えて見過ごし、眼の前の相手に集中する。
十分な程、膨れ上がった火球は潤平が手を振ると、目標に向かって性格に向かって行く。
着弾。物凄い轟音と爆炎がその辺り一帯を包み込む。
それと同時に飛んだ炎や火の粉が、洞窟内を飛び回り崩れた小屋や瓦礫の木材に降り掛かり、火の手が上がり始める。
洞窟内のそこら中に家事が起き、二次災害を起こしていた。
直ぐにも、この洞窟は炎に包まれる事になるだろう。
潤平は、自分が起こしたこの惨状を冷や汗を書きながら見ていた。がそんな事は無視をして魔法を打ち込んだ相手から目を逸らさずにいた。
しばらく待っても何も起きない事から、潤平は相手が起き上がって来ないもんだと思いその場にへたり込む。
毒が消えかかってるとはいえ、背中の火傷と打撲は消えてないし、左脇腹の刺し傷もいまだ致命傷のままだ、こんな事なら、馬鹿みたいな量の収納魔法を作るんじゃなくて、先に治療魔法を作っとくんだったと後悔し始める。
「うあぁ、血が止まらない……」
出血が止まらない左脇腹をそっと手で抑える。
どこかに、医者や治療魔法を使える方はいませんかと効いて回りたいがそんな元気はないです。それに都合よくそんな人がいてたまるかと、自嘲気味な笑いが込み上げてくる。
その時ガラッと、向こうから瓦礫が崩れる音がする。
急いで音のした方を見ると、煙の中から人影がユラリと動き始める。
「クソがぁっ、バカスカ人に魔法を打ちやがってっ」
煙の中から現れた、ワドウは半身にが火傷を負っており、髪が焼けてなくなり服も溶けて肌にくっついており、足を引き摺りながら物凄い殺意の籠もった眼でこちらを見てくる。
「殺すっ、お前を殺すっ、俺の人生を狂わしたサムライを殺すっ、全て終わらしてやるっ」
喋ってる途中で体が動かなくなり、四つん這いになっても潤平を恨みがましい眼で睨んでくる。
そこまで、恨みを買うような事はした覚えがないと思うんだが、それにずっと言ってるサムライって何なんだよ、こちとら地球生まれの現役高校生じゃい。
何だか向こうが勝手に勘違いを起こしてるせいで、気持ちが冷めてきた。
死にかけのワドウを見て、もうトドメを差してあげた方が良い気がしてきた。
魔法を唱えようと右手をワドウに向けると、ワドウはますます恨みの籠もった目付きでこちらを睨むばかり。
そんなワドウを潤平は冷めた目付きで見下ろすと、火球をワドウに向けて放つ。
飛んで行く火球を見て、今度こそ確実に倒したと思った潤平だったが、火球がワドウに届く前に空中で何かにぶつかって爆発する。
火球が消えると、何者かが倒れているワドウに近づいてくると、慎重に重症のワドウを肩に担ぎ上げる。
(も〜、次から次へと何? しつこいってば、いい加減にしてよ)
やったと思ったらやれてない。しかもわらわらと出てくる盗賊達に、潤平は脇腹の痛みも忘れてちょっとイラッとした。
新たに加勢に来たのはどこのどいつじゃいと思いつつ、助けに来たそいつの顔を見ると、覆面で顔を覆っていて顔の判別がつかない状態になっている。
そいつは、肩に担いだワドウに手をかざしだすと、金色の光がワドウを包み込み荒かった呼吸と火傷が少しづつ治り始めて行った。
ただ、完全にとはいかずある程度の所で治療は止まったが、それでも先程までの重症の様子からは遠い状態まで回復したと言える。
覆面の男がやったのは応急処置で、完全に治療するまでには至らなかったのだろう、もしくは自分で歩ける位まで回復させるつもりだったか。
(……てゆーか、そんな魔法あるなら俺に寄越せよっ、こちとら瀕死の状態だってのに、ちくしょうっ、後で絶対ぶっ飛ばしてやるからなっ)
潤平が、イライラとどうでもいい決意を固めている頃、魔法での治療が終わったドウザは、借りていた肩から体を離すと、覚束ない足取りだが自分の足で立てる様になる位には回復していた。
「……すまん、助かった」
「しっかりしてくれ頭、あんたが居なくなったら俺等が困るぜ」
「……悪い、手筈は?」
「全て滞りなく進んだ、情報も資材も金も全て運んだ、さすがに最初は驚いていたがそこら辺は切り替えの早いあのお方だ、向こうで全て受け入れてくれると、ただ品のない者は出来るだ切れと言っていたので、渡れるのは数人だけだとも言っていたが」
「……そうか」
何やら二人で、ボソボソと秘密の話をしている。
だが、幾ら小声で話しても俺の聴覚は高性能に出来ているから、しっかりと拾っている。
ふむふむ、何やら色んな物を運んでいたと、そしてあの方ってどの方? 眼の前の男がトップじゅないの? これ以上まだ上があるの? もういいよお面倒くさいよお、俺はただ制服を奪った奴を……、奴を……。
「ああっーー!! お前っ!!」
潤平がいきなり大声を出した事で、向こうの二人はビクッと驚く、ついでに潤平の脇腹にも響いた。
「っ痛っ、お、前、俺の制服を奪ってった、透明野郎じゃねぇかっ俺の制服を返せよこの野郎っ」
覆面の男をよくよく見ると、潤平の干していた制服を奪っていった相手だと気付いた、最初は気付かなかったけど声と背格好で窃盗犯を思い出した。
ワドウは、何の話だとでもいう風にぽかんとした表情をしていたが、当の盗んだ覆面の男はじっと黙っているだけで何も話さない。
「おいっ、何とか言えよっ、俺の制服を返せって言ってんだよっ」
あまり興奮すると体が痛いので、穏やかに行きたい所だがそうも言ってられない。あれは高校入学の時にじいちゃんばあちゃんに、買って貰った思い出深い物なので、絶対に取り返さないといけない物なのだ。
右手には、いつでも魔法を発動できる状態にしておいて、覆面の男に制服の所在を問いただす。
「……盗んだ物はもうない、既に売ってしまった」
売った? 何を? 俺の制服を? この短時間で? 何処のどいつに?
潤平は、相手の想像してなかった返答に、かっとなり気付けば先程ワドウに撃ったサイズと同じ位の出力の火球を放っていた。
だが、潤平の放った火球は相手に着弾する前に、また空中で何かに阻まれるように爆発して消えた。
「っくそ、何だコレっ」
火球による煙がはれると、そこにはまたしても無傷の二人が立っている。
何かの魔法を使っているのか、それとも他に何か要因があるのか、今の段階だと見極める事が難しい。
「物凄い威力だな、ただの火球でこれか」
覆面の男は潤平の魔法の威力に、若干動揺している様子で覆面の上からでもその様子が見て取れた。
「……頭、あいつは危険だ、直ぐにここから撤退する事を提案する、それに火の手も強くなってきた、いずれこのアジトも駄目になるだろう、名残惜しいだろうが必要な物は運び終えた、目標は果たしたと言えないが俺等二人が生きてればやり直せはする、それでいいだろう」
「……」
「沈黙は肯定と受け取る、撤退しよう、おいっくノ一っ、生きてるんだろうっ、出てこいっ」
覆面の男が叫ぶと、潤平が倒した筈のくノ一が影から何事もなかったかの様に現れる。
倒した筈の相手が現れて、潤平は驚いて地面に転がってるくノ一を確認するが、そこに転がってるのはどう見てもくノ一だった。
どうゆうことだ? 俺は確かにくノ一のお姉さんをやったと思ったが何故向こうに立っているんだ? なら俺が地面に叩きつけたこいつは誰なんだ?
潤平の頭の中でぐるぐると考えが巡りまわる。
潤平がくノ一のお姉さんを見ていると、向こうもその視線に向こうも気付いたらしく、潤平が疑問に思っている事を吐いてくれた。
「ん? そんなにお姉さんを見つめてどうした? ああ〜、倒した筈の私が何故ピンピンしてるか分からないって感じ? それはね〜、私が『変化』のスキルを持ってるからなのさ」
まるで、潤平の心が読めているのではと思うほど、潤平の疑問に答えてくれる。
「君が私を追いかけて来た時、そこら辺に転がっていたゴミ共ににスキルを使っておいて、後はタイミングを見計らって煙に乗じて、捕まる直前に入れ替わってだけさ、んで私がゴロツキに変化して隠れていたという訳さ」
おーまいがー、そういう事か。
スキル持ちだったのか、それなら彼女が今目の前でピンピンしている事にも納得出来る、そうか、そういう事か、ん? 待てよてことは、横の二人も何かしらスキルを持っているんじゃないのか? なるほどだから、急に背後を取られたり、魔法を防がれたりした訳だ、納得納得。
んまあ、なんのスキルを持っているかは詳しくは分からないけど、だいたい予想はつきそうだな、そう思えば対処もしやすいか?
「しかし、ワドウ君も派手にやられたね、もう少しであの世行きだったじゃんか、だから復讐はためにならないって言ったじゃんか、復讐の炎は燃え上がらせれば燃え上がらせる程自分も火傷するんだよ?」
「……黙れ」
見た目に反して、意外とお喋りな彼女はぺらぺらとワドウに話続けているが、ワドウは潤平しか眼に入っていないといった感じで、彼女の話を一蹴した。
それを見て、彼女は覆面の男にやれやれといった感じで肩を透かす、覆面の男はワドウの肩に手を置くと、撤退を急かす。
「頭もう引きましょう、いつまでもグズグズはしてられないですぜ」
その言葉にワドウは後ろ髪を引かれつつも、スキルを発動させて逃げの選択を選んだ。
だが、その前に潤平の名前を尋ねる。
「……おい、お前の名前は?」
潤平は急に名前を聞かれたからびっくりしたが、黙っていても仕方ないと思いここは素直に返すことにした。
「……潤平」
「そうか、俺はワドウってんだ、いいかお前は俺が必ず殺す、もう油断も容赦もしねえ見つけたらその場で殺す、いいな?」
いきなりのワドウからの熱烈なラブコールに、潤平は面を食らったが、この誘いを真正面から受け取ることにした。
「うるせえクソ野郎こっちのセリフだ、制服の在り処が分かるまでお前らを執拗に追いかけ回すからな、それに来た所でぼっこぼこに返り討ちだわ、子鹿よろしく膝がガクガクするまで殴ってやるよ」
制服さえ取り戻せれば、後は本来の目的をやるまでなので、その前に障害があれば全て払うまで、どんと来いってもんよ。
やりとりが終わると、ワドウはスキルを使ったらしく、三人とも音もなく瞬時に消え去って行った。
火の手が強まるアジト内で、潤平はただ一人刺された左脇腹を押さえて、黙って消えた三人がいた空間を見詰めていた。
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