第十六話 ありがとうの気持ち
じいちゃんが獲ってきた魚はやっぱりウメェなっ、それをばあちゃんが捌いて調理したらもっとウメェ。うわまじ? 全部食べていいの? やったぁ、幾らでも食えるよこんなの、ん? ばあちゃんまた裏庭の変な草でお茶作ってんの? 変な草じゃない? いやいやめっちゃまずいからそれ、飲めって? いらないいらない、せっかくのご飯が不味く、ちょ何すんのっ、いらないって、ゴボゴボボっ……。
「はうっ」
ピチピチチ、ケェーケェー。
潤平が夢から目を覚ますとまず一番に太陽の眩しい光が目に入った。木々の隙間から木漏れ日が差していて、またしても森の中にいるのだと気付かされた。
綺麗な鳥のさえずりと、けたたましい何か分からない生き物の鳴き声が聞こえてくる。
潤平は深呼吸をして記憶をゆっくり辿っていく。
ココはドコ? ワタシハダレ? と冗談は置いといて、じいちゃんばあちゃんに異世界をプレゼントされて、使命を果たすために神様にこの世界に遣わされた。
そして色々あって、制服を盗賊に盗まれてそれを取り返しに行ったら、制服は売られてて盗んだ奴には逃げられて、挙げ句深手を負わされたんだっけか。
くそ、思い出すとむかついてくるな。それにあのワドウとかゆうスカした野郎、勘違いか何かで襲って来やがって、次会ったらメッタンメッタンのギッタンギッタンにしてやる。
潤平は苛つく感情を押さえて、今自分が置かれている状況を把握するために周りの景色にに神経を注ぐ。
頭だけを上げてキョロキョロと視線を忙しなく動かす。
……………………何か今の状況どこか既視感があるな。
あ〜あれだ。神様にこの世界へと降ろされた時最初に目が覚めた時と同じ感じだ。
待てよ……てことは、あの時と同じならば魔獣が腕に噛みついて………………ない。良かったぁーいくら似た状況だからって、二度も噛みつかれるとかそんな事そうそう起きるわけないじゃ。
「もし」
「ひゃい!」
っだー。びっくりしたーいきなり話しかけられて心臓が跳ね上がったよー、しかも何か声が裏返ちゃったし、絶対今の聞かれたでしょもー最悪だよ、何ですか? 俺に話し掛けたのは何処のどなたですか?
声の方向が潤平の頭上からしたので寝転がりながら、器用に視線だけを上に上げると、黒髪の少女が潤平を心配そうな表情をして覗いていた。
キラキラと少女の後ろから陽光がが降り注いで、艶のある黒髪に反射して丸で宝石の様に輝いている。潤平はその光景に見惚れてしまう。
潤平がぼーっとしている事で、何かあったのではないかと思った少女の顔に、不安の色が濃くなり困り眉になっていく。
そんな少女の表情を見て潤平は我に帰ると、痛む体を刺激しないようにゆっくりと起き上がろうとする。その際深手を負ったのに思ったよりも痛くない体に疑問が浮かぶ。
潤平が体を起こす際に、少女が潤平の体に手を添えようとしてくれたが、潤平はやんわりとそれを断った。
さて。改めて座り直して潤平は目の前の少女と向き直る。
年は中学生くらいか? 身長がまだ低いのと顔付きが幼く見える事から、現代の年齢から推測すると中学生位の年齢だと考える。
綺麗に切り揃えられたボブカットの黒髪と、日本人形の様なあどけなさと妖艶さそれと少女特有の幼さが含まれた顔立ちが目に付いた。こんな女の子が中学生の頃にいたら、学年どころか学校中の話題の中心になるだろうな。
それ位可愛くて奇麗な顔立ちをしていた。
こんな娘が頭上から顔を覗き込んで来たら、思春期の男子高校生はそりゃ目を奪われますって。
「あの、お体は大丈夫なのですか?」
声まで可愛いっ。
赤の他人なのに、自分の事をこんなに心配してくれるなんてなんて良い子なんだろう。
それだけで潤平は心を打たれ警戒心が薄れていく。
「はいっ、それはもう動ける位には回復して…………ん? 何でこんなに動けるんだ…………? 確か俺瀕死の重体だったよな…………?」
ワドウ達との戦闘で潤平は瀕死の状態にされていた。
潤平が幾ら脅威の回復力を持っていたとしても、数日は寝込んでいる程の深手な筈なのに、何故か座って会話出来る位まで回復している。
それに俺はどうやってあの傷で、燃え盛っている盗賊のアジトから出て来れたんだ? う〜ん? 記憶が全くないぞ? 出血も止まってるし傷も塞がっているし。何でだ?
「まさか……、何も覚えてないのですか」
「……まあ、全く」
潤平があれこれ頭を悩ませて思い出せない記憶を辿っていると、見かねた少女が驚いていたが、直ぐに事の顛末を話してくれた。
◇
「……ここも直ぐに崩れるな」
潤平とワドウ達が激闘を繰り広げたせいで、このアジト中に火の手が周り今にも崩れてしまいそうだった。
まあ殆どか潤平の手による物だったが。
潤平は燃え盛る火の手を避けつつ、直ぐにここから脱出しようと足を進めようとした。
「あれ?」
途端に視界がグラつき体に力が入らなくなりその場に倒れる。
まじかよ、ここまできてこんな所で倒れるのかよ。
血を流しすぎたせいか? やべー全然体に力入んねえ、どうしようこのまま炎と瓦礫に飲み込まれて終わるのか、いやもしくはこの身体のせいで、焼かれながらずっとここに閉じ込められるのかな、うわーそれはやだなー、どうにかこのまま這って出口までいけないかな。
頑張れ俺の体、ふうふんふうふん。
「もし」
うえええ、なんですか?
「見た所大変な傷を負っていらっしゃいますが、治してもよろしいでしょうか」
ああはい、どうぞおねがいします、なおしてくれ……るん………な………………。
「ああいけない早く済まさないと。意識をしっかり持って下さい」
地べたを這いつくばって血みどろになっている潤平を治すために、何処からか現れた少女はその場に座り込むと潤平に回復魔法を施す。
心地よい黄色い光が潤平を包み込むと、背中の火傷と左脇腹の殺傷が少しづつ治療されていく。顔色が悪かった潤平もゆっくりと生気を取り戻していく。
(……まあ凄いわこの方、初級の回復魔法なのに物凄い速度で体が治療されていく。こんな現象初めて見ます)
神に与えられたスキルのおかげで強化された潤平の体は、脅威の回復力も相まってみるみると治療されていく。
常人なら死んでもおかしくない傷が、あっという間に立って歩ける位にまで回復した様子に、潤平に治療を施している少女は目を丸くする。
「お嬢様、彼の傷はどうですか?」
「ええ大事には至りません。しかし凄いですねこの様な人間がいるとは世界は広いのですね」
潤平の治療をしている少女の後ろから若い女性が現れる。その人は桜色の着物に白いエプロンを身に着けている。
「お嬢様の治療の賜物かと」
「いいえそんな事はありません。私が施したのは初級の回復魔法です。それだけではここまで回復しません、彼は一体何者なのでしょう?」
「それは後で尋ねるとしましょう。今は彼の力を頼ってここから脱出をしないと」
「ええそうねフミ、彼の力がないとここから出られないわ。傷はある程度治りつつあるからそろそろ目を覚ましてもいいと思うのだけれど……、あら?」
治療を施したとゆうのに、一向に潤平が目を覚ます気配がない。
これには、少女もその後ろにいる従者の人達も困ってしまう。
彼を治療したのは理由がある。勿論少女の善意があってやったのは確かなのだが、潤平がワドウ達と戦っている姿を見て、彼ならきっと私達の力になると見越しての打算的な意味合いも含まれていた。
盗賊達に捕まって以来アジトに監禁されており、もう二度と日の目を見る事はないのかと絶望していた少女達の前に、大きな希望が現れたとゆうのに彼が起きなかったら意味がない。
「……お嬢様、これはちょっとまずいのでは」
「う〜ん、困った事になりましたね。この場合どうすればいいのでしょうか」
潤平が目を覚まさないとなると、このアジトから脱出する事は不可能を意味する。
ましてや現状は辺り一面炎に包まれつつある。それなのに彼女達だけで炎の中を切り裂いて進むのは厳しいものがあった。
「……う〜ん困りましたね。そうだ! 昔読み物で読んだ事があるのですけど、目を覚まさない人には異性の口づけが良いと書いてあったのですけれど、それを試すのはどうでしょう?」
「……お嬢様、この様な時に冗談は笑えません。それにそういうのは男性が女性にする物と相場が決まっております。後付け加えるなら双方が愛し合ってるとゆうのも要です」
「そうなのですか……。いい案だと思ったのですが」
少しズレた提案をした少女だったが、従者に即座に却下をされた事でしょぼくれモードに入ってしまう。
いじいじが始まった事で、従者はまたこの状態になったと頭を抱える。基本的には善良なお人なのだが、偶にいじけると暫くの間面倒くさい性格になる、平常時だったらいいが今は緊急事態それどころではないのだ。
横目で周りを見ると、炎の勢いが強くなってるし洞窟も崩落しそうだ、急いでここから脱出しなければ……。
少女とフミと言われた従者が潤平から目を離した瞬間だった。
「あっ」
もう一人、少女の後ろに立っていた従者が何かに反応して声を上げた。
何事かと思い、二人は声を上げた従者の方を見ると、従者はある方に向けて指を差していた。
そのまま流れるように従者が指を差した方を見ると、そこには潤平がゆったりと立っていた。
少女の顔には笑顔が戻り、フミもお嬢様の機嫌が戻ったとゆう事でとりあえずはと息を吐く。
後は、何とか彼の力を借りてこの窮地から脱出を図れればと考える。
「ああ、お体の調子はどうですか? もう立ち上がっても大丈夫なのですか?」
「……」
「もし……?」
潤平に話しかけても一切反応がない事から少女は怪訝に思い声が小さくなる。
すると潤平がいきなり手を体の前に構え始めて、魔法を少女に向かって発動させようとする。
「えっ」
「お嬢様っっ!」
いきなりの潤平の行動に少女は呆然とし、フミは少女を守るために自分の体を盾にして主人を守ろうとする。
そんな少女達の事は意に介せず潤平は魔法を出力一杯まで貯めて撃った。
潤平の手から放たれた魔法は、少女達を素通りすると燃え盛る炎にぶつかって蒸発して消える。
暫くすると炎が消えて道が出来た。
すると潤平はゆっくりとその方向へと歩き出した。
少女たちは呆気に取られていたが、顔を見合わせると潤平の後に続いて歩いて行く。
◆
「そうして、炎の壁が行く手を阻んでいたらその度に水球魔法を使って消し、洞窟から無事に抜け出すとそのままパタリと倒れてしまったんですわ」
「成る程」
「そしてそちらが眠っている間に私達は色々と準備をしてましたの、そしたらあなた様が目を覚ましたので急いで声を掛けたとゆう訳です」
「成る程」
俺が意識を失った状態で動いたってのは気になる所だが、俺自身な〜んも知らないいしどうせスキルか何かの影響だと思うし、分からんからほっとこう。
それよりもお腹が減ったし、シャワーとまでは行かないけど汚れを落としたい、流石に血みどろのままはねえ。
そういやこの人達はどうするんだろう、盗賊に捕まっていたってことは何かしら地位の高い方たちなんだろうけど、このまま解散する流れなんだろうか。
ん〜でも、眼の前の少女から何か言いたそうな雰囲気を感じるんだよな〜、じっとこっちを見つめて黙ったままだし、どうすればいいんだろうかこれ。
「お嬢様、ある程度準備が出来ました」
助かった! 正直この空気には耐えられなかったんだ、ありがとう従者さんっぽい人。
「そうですか、ではこちらも話を纏めるとします」
そう従者に告げると、少女は気迫の籠もった顔つき潤平を見てくる。
あれだね、綺麗な女性ってただ見つめて来るだけでも迫力があるんですね、凄い圧があります。
てゆーか俺に何か用があるんですかね、お腹減ったのでご飯食べたいのですが……。
「まずは、遅くなりましたが多大なる感謝を申し上げます、盗賊に捕まった私達を助けてくれてありがとうございます」
少女がそう言うと、後ろの従者の人達も続いて頭を下げてくれる。
「はあ、何もしてませんが……」
実際潤平は、制服が盗まれたとゆう理由で盗賊達のアジトに乗り込んだので、捕まってる人達を助けるなんて微塵も考えてなかったのだ。
てかそう言えば……。
「捕まってる人達はどこにいたんですか?」
アジトに侵入して、歩き回って物色したけど人質がいた建物なんてなかった気が……、いやそう言えば石造りで作られた建物があったな、あの中にいたのか?
「私達は重要な存在だった様でそれなりに頑丈な建物に移されてました」
成る程、建物が二つ建っていたのは、片方が彼女達みたいな価値のある人質を閉じ込めておく建物で、もう片方があのワドウとか名乗った盗賊の頭が住んでいる建物だったのか。
そう思うと俺が建物を調べた時に、聞こえてきた数人の寝息は彼女達の寝息だったのかもしれないな。
「私達を襲ったのは何か目的があっての事だったと思います。事実最初に捕まって以来私達に会いに来たのは、盗賊の頭を名乗る男と覆面の男だけでした」
「……」
「彼らは、私に用があり私を脅すために彼女らを残していました。日の一度の食事と劣悪な環境に私達の心はすり減っていき日に日に絶望していきました。そんな時眼の前に私達の希望が現れたのです」
少女は強く聡明そうな様に見える。
だが彼女はまだ子供だ、自分が捕まったらどうなるか怖くて仕方なかったろう、それに身内の命も秤に乗せられてるとなれば、精神的な負担も相当だっただろう。
「一人で盗賊のアジトに乗り込み、あまつさえ彼らを壊滅にまで追い込み、今にも崩れそうな燃え盛る地獄から私達を救い出してくれた、この音は一生忘れる事はないでしょう。深く深くお礼を申し上げます」
さっきよりも深く少女達はお礼の言葉を述べる。
アジト内に火を放ったのは俺だし、洞窟が崩れる程暴れたのも俺なんですが、まあ助かったんだから良かったって事で。
それにこっちは体を治療して貰って瀕死の状態から助けてもらったらんで、こちらこそお礼を言わなきゃいけないんですが。
「こちらこそ、体を治して貰ってありがとうございます」
ばあちゃんの教え其の一、ありがとうとごめんなさいを言える人間になれ。
そうばあちゃんから教えられたっけ、因みにじいちゃんは、どんなに自分が悪くても中々謝らなかったっけ。
まあ、人は年を取れば高慢になるからなしょうがないな。
「いえ、私に出来る事をしたまでなので」
お互いが感謝の交換をしあうと、少女は照れ臭そうに少しはにかむ。
可愛いっ、これだよこれじいちゃん、やっぱり感謝の言葉は素直に告げた方が良いよ。だってこんな可愛い女の子の笑顔を引き出せるんだぜ、それだけで言った価値があるってもんよ。
うふっ、いーなー可愛い女の子の笑顔っていいなー。
潤平が、頭の中で少女の笑顔を反芻してだらしない顔をしている反面、少女は笑顔が消え曇った面持ちになる。
少女の雰囲気が重くなった事で、後ろの従者達もどこか硬い表情になる。
それに気付いてないのはこの場で潤平だけである。
「……あの差し手がましいとは思いますが、一つお願いを聞いていただいてもよろしいでしょうか」
「はい、何でしょうか」
「嫌だったら断ってもらってもよろしいのですが、あのですね……」
なんだろう、今までハキハキと喋っていたとゆうのに急に歯切れが悪い、何をお願いされるんだろうか、後ろの従者の人達の顔つきも心なしか険しいし、裏にでも連れてかれるんですか?
「命まで助けて貰って申し訳ないのですが……」
「はいっ」
「私達の護衛をしてもらえないでしょうか!」
「いいですよ」
「えっ」
この世界に来て初めてのクエスト発生。
クエスト内容は少女と後ろの三人の従者達を無事に町まで送り届ける事。
達成報酬は不明。期限も不明。 支援物資支給。
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