第十七話 見合う対価
「いい天気だぁ」
空は雲一つない青空、気温はポカポカとしていて暖かい。こんな日は絶好の遠足日和だと言える。
ここにおにぎりがあればなぁ、最高のシチュエーションだったのに。
そう言えば俺がちっちゃい頃、ばあちゃんが作ってくれた昆布の佃煮めちゃくちゃ美味しかったな。市販の物とは違うしそ風味の味がおにぎりにめっちゃ合ってたんだよな。後鰹の佃煮も美味しかったんだよなあ、甘じょっぱくてあれもおにぎりに合ってて美味しかったなぁ。
やべー味噌汁も飲みたくなってきた、ご飯食べたばかりなのにお腹空いてきたなぁ。
はあ、日本食が恋しいですぅ。
「乗り心地はどうですか、潤平様」
今となってはもう戻れない故郷のご飯に思いを巡らせていると、横から自分の雇い主である少女が声を掛けてくれた。
「ああルリ様とても快適ですよ。天気も相まって何だか気が緩んじゃうすね」
「ふふっそうですか。それなら良かったです」
潤平の返答を聞いて少女は柔らかい笑顔を見せる。
かわええのう。これは以来を引き受けて正解だったのう。
この世界に来てから肉体的にも精神的にも疲れる事が多かったからね、少しだけでもゆっくりしたっていいでしょう。
潤平はチラリと少女の横顔を流し見して、潤平が少女達の護衛を引き受けた経緯を思い出す。
◇
「護衛を引き受けてくれるのですか……?」
「はい。良いですよ」
「そんな気軽に決めてもいいのですか……?」
「はい。俺も街まで用があるので別に構いませんよ」
「……そうですか。……ちょっとすいません」
潤平の返答が以外と素直な反応で想定外だったのか、少女は考え込むと後ろの従者を引き連れて、少しその場から離れて何やら密談し始める。
これは聞かない方がいいやつかな? 超人的な聴覚を持った事によってこの距離でも、集中すればヒソヒソ話を拾えてしまう。超人的な聴力を持っているこの体が怖い。
取り敢えず耳を塞ぐか。あーワタシハナニモキコエマセンキイテマセン、ワタシハカンケイアリマセン。
おっ、終わったかなじゃあもういいかな。
何かさっきより顔つきが険しくないですか? 後ろの従者さんも顔が怖いですよ大丈夫ですか。
「えと、それでは了承されたとの事で、この国の首都アズマネにある私達の屋敷に着くまでの護衛とゆう事で宜しいですか?」
「はい」
よし! ようやく街に行けるぞ! これで固くて冷たい地面とはおさらばだ。あ~早く暖かい布団の上でねたいなぁ、それとお風呂にも入りたいけどあるかなぁ? まあなかったら、大きい桶を借りて魔法を使って自分でお湯を沸かせばいいか。
「それで以来を達成した報酬の事なんですけど……」
ああ、そう言えば報酬も出るのか。う〜ん少しはこの世界の通貨は持っといた方がいいか? 相場も物価も何も分からんけどまあおいおい調べればいいか。
「今私共は持ち合わせがないので、心苦しいのですが屋敷に着いてからの後払いでも宜しいでしょうか……?」
「ああ、全然良いですよ」
「いいのですか!?」
「はい? 構いませんよ」
「ちょっとすいません」
またもや、少女は後ろに下がって従者と何やらコソコソと密談し始める。
はいはい、耳を塞げば良いんですね分かりましたよと、何かこうやって見ると彼女達が面白い集団に見えてきたな。
「分かりました。では依頼を引き受けて下さるとゆう事で、報酬は私共の名にかけて必ずやお支払いしますのでご心配なく」
「は、はあ。では依頼を達成出来るように全力を尽くします」
少女のあまりにも気迫の籠もった顔に気圧されてしまい、潤平は若干引き気味に依頼を受ける形になる。
お、おお。まあこれで一人で旅をする事にならずに済んだな。いい加減一人寂しく歩き回るのも辛い所だったし、俺一人じゃ街までたどり着けるか怪しかったし、土地勘がないとなるとどこに向かって行けばいいのかも分からないからな。
それに、こんなに可愛くて綺麗な女性達と旅をするなんて願ってもない出来事でしょ。まあ護衛を引き受けた以上は全力でやりますよ。その上で彼女達と仲良く慣れたらいいなーなんて考えたり。
「それでは、共に旅をする以上自己紹介は済ませておきませんと」
「自己紹介ですか」
「はい。そちらに先に名乗らせる訳にはいきませんので私達から先に名乗りますね」
少女はそう述べると、深呼吸をし胸に手を当ててどこか決意の籠もった目で自分の出自を語った。
「私の名前はカグラザカ・ルリと申します。カグラザカ家の次女になり後ろの者たちは私の従者です、右からフミ、スミレ、ヨリと言います、私が小さい頃からの付き合いでそれぞれが私にとって大切な者達です」
少女が自分を含め順番に自己紹介をしてくれる。
潤平の雇い主で、日本人形のように整った顔つきと揃えられたボブカットの少女がルリと言い、その女の子に付き添っているのが彼女の従者。
右から順に、一番背が高くポニーテールの凛とした落ち着きのある女性がフミさん。真ん中の少女と同じ位の身長で、頭頂部を結んでお団子にしていて額に髪留めをしているの女性がスミレさん。そして最後に、ショートカットでまだ一度も喋った事のない、黒髪短髪のわんぱくそうな女性がヨリさんと名乗った。
三人は、自分の主がそれぞれの名前を名乗り終えると、それぞれが丁寧に、深く、浅くお辞儀をした。
「本当はもっと多くの家臣がいたのですが、盗賊達の襲撃でこの世を去ってしまいました。ですが彼女達は最後まで生き残ったので私の命に代えてでも大切にします。それが例え悪魔や神の類であっても」
「いえ、私共がお嬢様より先に逝くことはありません。そうなってしまっては先に逝った者達に示しがつきません。死ぬのはお嬢様の脅威を排除して安全を確保してからです。逝くのはその後です」
「……死んでしまったら私が悲しみます」
「お嬢様、現実は何が起こるのか分かりません今回は運が良かっただけです」
「……そうですね、運が良かっただけですものね」
少女の顔に一瞬影が差すが、直ぐに気持ちを切り替えた様で、次の瞬間には前の顔つきに戻っていた。
「はい! これで私達の紹介は以上です、次はそちらの事をお聞かせ願えますか?」
次は潤平の自己紹介の番なのだが、潤平は自分の出自をどう言うか悩んでいた。
名前とか年齢を喋る分には構わないんだけどなー。
それ以外の部分でな、喋ったとして信じてくれるのかって感じだよな、かといって適当言うのもな良くない気がするし。
まあ言えない部分は省いて言わなくていいかな。何か聞かれたらその時は正直に話そう。
「俺の名前は潤平と言います。生まれは分かりませんが深い山の中で祖父母に育てられました。生きていくすべは祖父母に教わり、数カ月前に祖父母が事故で亡くなったので、人がいる所に降りてみようと思いました。その途中で盗賊と色々あって今に至ります」
どうかな? 嘘は言ってないし本当の事しか言ってないぞ。実際地球でも両親の事は知らないし、一番古い記憶でもじいちゃんばあちゃんに育てられてる記憶しかないし、じいちゃんとばあちゃんのお陰でこの世界に来られたんだし。
まあこの世界の事はまだ何も知らないから、山育ちって事にしとけばいいでしょう。
なにかあったら山育ち、困ったら山育ち、……何か語呂が地方のcmみたいになったな。
「そうですか……、深い山の中から人里に下りてきたと言う訳ですね。……ではマギカードも勿論持ってないと言う事ですか?」
「えっ、なにそれ」
「んん〜? もしかしてこの世界では一般常識である、大賢者様が作られたマギカードをご存じないと? 生まれた瞬間に発行されるというのに? そのカードが身分証になるというのに? それはおかしいですねー」
「…………」
そんなの聞いてないぞ! くそっこの世界にも身分証明の類があるとは、神様はそんなの一言も言ってくれなかったぞ。やばいどうしよう、一応収納の中にしまった財布の中には学生証があるけど、多分それじゃ駄目だよな。
ちきしょうっ嵌められた! 初見殺しが過ぎるだろこんなの、そんな大事な事は言っといてくれよ神様ぁ。
くっ、少女の無言の圧が凄い、こころなしか後ろの従者さん達も圧力を掛けて来てる気がする。
ここは、何とか笑って誤魔化すんだやり切れ俺。
「あ、あはは〜、も、勿論知ってますよあれですよね。賢者様が作ったカードですよね勿論勿論、作った事ありますよそりゃ、ただちょっと何処かで落としたとゆうか、無くしてしまったとゆうか、まぁ再発行すれば良いですよね? …………えっ、再発行できますよね?」
必死に誤魔化すも、誰がどう見ても苦しい弁解にしか聞こえない、だが逆にそれが良かったのか、少女は圧を掛けるのをやめて雰囲気を和ませる。
「ふふふそうですか、それならそうゆう事にしときましょう」
(ふう助かったぁ)
何とか誤魔化せたみたい潤平も胸を撫で下ろす。が、
「ですが、再発行には身元引受人と犯罪歴の確認があるのでお忘れなく。まあいずれ都についたら手続きをする事になるので気を付けて下さい」
「はい……」
「……まあ私達にも言えない事情はあるので、これ以上深く追求するつもりはありませんが、都の警備は厳しいので身辺調査は厳格にされます。そこら辺はしっかりと考えといて下さい」
「はい……」
「では自己紹介は終わりですね。言いたいことも聞きたい事もお互いあるでしょうが、ここは一旦飲み込みましょう。数日の間ですが護衛の方をよろしくお願いしますね」
少女は手を叩くと、この話はここでお終いだとでも言う様に半ば強引に会話を終わらせると、にっこりと笑顔を向けながら潤平に向かって握手を求めてくる。
潤平は釈然としない気持ちだったが、もう引き受けてしまったし嘘を見抜かれてる気がしたので素直にその手を握った。
だがそんな事よりも大事な事があった。
この時潤平は、女の子の手を握るのは初めてだった訳で、その時の感想を後にこう述べている。
曰く、とても華奢で柔らかく強く握ったら壊れてしまいそうな手だったと、何か守りたくなる感じだったと。
◆
てな事があった訳ですよ。まさか異世界に身分証明書があるなんて思わないじゃないですか。
しかも生まれた瞬間に皆に発行されるとは、凄いな異世界。
そして、潤平は今馬車に乗って目的地まで少女の一団と旅をしている。
馬車と言っても、潤平が想像していた地球の馬車とは大分違った。今乗っているこの馬車は従者の一人のスミレさんが魔法で出した物で、何でも土魔法で精錬したらしく魔力を送り続ければ自動で動いてくれるらしい。
何それそんな事も出来るのかと潤平は思ったが、思い返すと神様もテーブルと椅子を出していた事から、そんな芸当も出来てもおかしくはないかと考える。
そして、この魔法を見て潤平はある大きな夢を思いつく。まあこれはまだ夢の段階なので、実現するかは分からないがそれでも、少年の心に希望を抱かせるには十分だった。
そしてもう一つ大きな出来事があった。
従者の人達が魔法を使える様になったのだ。
実は、盗賊の奴らに魔力を遮断する腕輪を付けられていたらしく、魔法が使えない状態だったのだ。
これは専門の技師に頼まないと駄目らしくどうしようもなかったらしい。
そんな理由があって潤平に護衛を頼んだらしいのだ。
物騒な物を使うなーとか考えながら、試しに潤平がその腕輪に触れてみる。
すると前に感じた感覚が潤平の体を巡って来たので、それをかき消すように浄化の魔力を流し込んでみた。
するとフミさんの腕に嵌められていた腕輪が、浄化されたみたいで効力を無くしてポトリと地面に落ちた。
驚いたのは潤平だけではなく、ルリと従者達も潤平が起こした行動に物凄く驚いた顔をしていた。潤平とルリ達は驚いた顔をしながらお互いが顔を見合わせる。
そんな事もあって、従者の人達は魔法が使える状態になり、ルリを守るのが潤平だけでなくなり、余剰に戦力が追加された事になった。
御者を魔法で出した馬車をコントロールする為にスミレさん、その隣に戦闘員兼偵察役のヨリさん、後ろの荷台にルリさん世話をする為に隣にフミさん、そしてその向かいに潤平が座っている。
この布陣で、一路目的地まで馬車を進めて行った。
「いただきま〜す」
こんがりといい感じに焼けた肉の串焼きを頬張る。
モキュモキュと口の中に野性味の溢れる味が広がる。道中襲ってきた猪っぽい魔獣を解体して、適当にぶつ切りにして食べてみたんだけど中々美味しいじゃんか。
それに、フミさんが分けてくれたクレイジーソルトっぽい香辛料が効いてて、美味さが何倍にもなっている。
この魚のスープも美味しい。塩だけの簡単な味付けだがアラから出た出汁が効いてて美味し。
やっぱりあれだな、香辛料があるとすげぇ上手く感じるな。
今まで俺が獲った獲物は焼くだけだったり、ただ沸騰させたお湯で茹でるだけだったからな。
それに、料理出来る人がいるとご飯の質も数段上がるね。もうこれだけで活気が漲ってくるんだもん。
凄いね俺も覚えようかな料理。
「フミさん、ご飯めちゃくちゃ美味しいです!」
「そうですか、ありがとうございます」
「フミが作る料理は、城内の料理人が作る料理にも負けない位美味しいんですよ。何せ学園の料理学科で有名な学生で、当時三本の指に入ると言われていたんですから」
フミさんの事なのに、何故か主人であるルリが誇らしげに語っている。
「お嬢様ありがとうございます、ですがあまりその称号は誇らしくありません。結局の所三本指止まりだったのですから、それに料理が美味しいのは私の腕だけではありません。潤平様が分けて下さった食材が新鮮で上等な物ばかりでした、その影響もあるかと思われます」
「「へー」」
潤平とルリの相槌が重なり合う。
その間他の従者は夢中になって料理を食べていた、スミレは静かにだがかなりの量を、ヨリはとにかく沢山頬に食べ物を詰めて食事をしていた。
「学園があるんですね」
「はい。都に行けば分かりますが七年制の学園がありまして、三年生は基礎的な学び、四年生に上がる頃には、自分が将来やりたい事の為に好きな学科に入りますの。そこで卒業までに専門的な事を学んだら、晴れて卒業になります」
「それは誰でも入学出来るんですか?」
「まあ、基本的に来るもの拒まずなので入れますね。基本的な試験と面接を通れば大丈夫だと思います。それより入学してからが大変で、多額の授業料と卒業試験が大変だと聞いています、……もしかして入学したかったりします?」
「いやあまあ、少し興味を持っただけですよ」
「そうですか……、残念です」
潤平の返答に、ルリはあからさまにがっかりする。
まあ、神様からの使命があるからね、七年も縛られるのはちょっと無理かな。
落ち込んだルリを見て、潤平は苦笑いで誤魔化す。
「ご馳走様でした、美味しかったですフミさん」
「ありがとうございます」
腹いっぱい食べられて、皆満足そうに顔を綻ばせる。
そして、食べ終わったら皆で片付けと言いたい所だったが、ヨリの感知に何か引っ掛かったようで、急に警戒を露わにする。
そして少し待つと、ルリの見ている方向から大型犬位のサイズ感の犬っぽい魔獣が現れた。
「お嬢様」
「ええ、フミとスミレは私の横に、潤平さんとヨリは迎撃をお願いします」
「「了解」」
ルリの指示通り、予め決めておいた布陣に動くと魔獣の迎撃を始める。
潤平とヨリの働きもあり、比較的楽に対処は出来た。
そんな事を数回繰り返して旅を進めて行くと、漸く最初の街が見えて来た。
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