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異世界、遺します ~天涯孤独となった俺に亡き祖父母が『異世界』を遺してくれた~  作者: 鏑右いなだ


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第七十九話 金貨は如何ですか?

 第二区画のそこら中から、木を叩く鎚の音が聞こえてくる。それに呼応するように木板を運んだり、瓦礫を撤去する人の声が飛ぶ。

 まだ完全に復興には至っていないが、それでも町を往来する人の顔と声には元気が見える。


 都が襲撃されて数日後、町の人々は普通の日常に戻りつつあり、一般人だけではなく、第二の兵士や魔法ギルドの職員や冒険者、学生や異国の人までもが、壊されてしまった町並みを新しく作り直そうと、皆必死になって動いていた。


 その賑やかさを、潤平は頭にピー男爵を乗っけて、道路を歩きながらゆっくりと眺めていた。


 ユウタロウが無事に戻ってきてからというものの、ルリのお屋敷は普段通りの生活を取り戻したが、それでも前と同じ様な生活とはいかず、タマヨは復興作業や治安維持に奔走しているし、ルリさんもユウタロウのお世話に付きっきりだ。

 使用人達がやると言っても、ルリさんは決して譲ることなく自分でお世話をしている。

 そして昨日、ようやくそのユウタロウが目を覚まして、またしても皆涙を流した。


 

 そしてラショウはあの言葉を最後に動かなくなった。

 潤平に取っては敵でも、ラショウの姿をしたミツナリなので、タマヨさん達と綺麗に棺に入れて火葬した。


 最後まで何を考えていたのかは分からない。

 だが、あの饅頭を抱えた姿だけは妙に頭に残っていた。

 

 それとは別にナオイエは国葬とされる事が決まった。

 この事件の首謀者と知っているのは、潤平とタマヨとルリとピー男爵だけなので、必要な人に報告しない限りは、ナオイエの名誉を落とすことはなかった。

 その事もあり、御三家は存続されナオイエの跡継ぎは息子が務める事になった。


 ナオイエの葬儀は明後日行われる事が決まり、火葬が終わり次第ナオイエの屋敷に集まり、事件の真相と手紙の内容を確認することになっている。


 それが終わると、ランセイさんとタマヨさんの会合があってそこに俺も呼ばれる事になっている。

 内容はまだ知らないが、別に気にする必要はない。


 それと新たな問題も発生している。

 まあここら辺は、おいおい取り掛かって行けばいいだろうと思っている。


「おいっ 静かにしてろってっ」


 それよりも今はこの子達をどうするべきか考えている。


 潤平の胸ポケットやら首に巻き付いてたり、騒々しくしている三匹の白蛇を窘める。


 あの後、潤平がナオイエを屋敷に連れてきた後、ミオリがナオイエを自室で寝かせたのだが、いつの間にか白蛇達が、潤平の元から離れてナオイエの傍で固まっていたらしいのだ。


 三匹は何故か潤平にも懐いていて、結果今は潤平が引き取っている事になっているのだ。


「にゃー、可愛いのにゃー」


 ピー男爵は頭の上から、手でチョイチョイと白蛇達とじゃれ合って遊んでいる。


 猫って蛇が苦手じゃないのか?

 こんなにフレンドリーでいいのか?


 頭の上で騒々しくしている三匹と一匹を煩わしく思いつつも、何も言えない潤平は息を吐く。


「……結構注目されているんだよなぁー」


 皆復興の事で忙しくしているが、それでも猫を被せた人間が目立たない筈もなく、すれ違う人に驚かれていた。


 そんな事をされつつ耐えつつも、潤平は目的の場所に辿り着く。

 意外とこの建物は被害が少なかったらしく、そんなに壊れていない。

 所々窓が割れているくらいで、他に目立ったダメージもない。

 そして依然として巨大な石像は健在である。


 そう目的の場所は魔法ギルド。

 以前ここで魔獣の換金をしたため、その代金を受け取りに来たのだ。

 潤平は中に入り、前に訪れた換金カウンターに足を向ける。


 道中人とすれ違ったが、気になったのが前訪れた時よりも、異国の人が多い気がしたのだ。

 金髪茶髪、碧眼、褐色等、アズマの国ではそうそう見掛けない人達が、魔法ギルドの中に溢れていた。


 途中そんな人達と目が合い、頭にピー男爵を乗っけている事で、向こうが騒いだりもしたが、あまり目立ちたくないので、さっさっと目的のところに向かう。


「混んでるねー」


「あそこが空いてるのにゃ」


 ピー男爵の言ったとおり空いている窓口に向かう。

 すると前回の快活そうな女性職員と目があった。


 向こうが渋い顔をした。

 俺も同じく渋い顔をした。


 しかし他に空いている窓口はない。


 詰んだ……。


 「……いらっしゃいませっ、今日は何のご用件でしょうか?」


 くうっ。営業スマイル何だろうが彼女の後ろに何かが見える。

 俺だって別の人が良かったよ、でも他に空いてないんだから仕方ないじゃんっ。


 くうっ。


「…………えっと、以前査定していた魔獣の代金を受け取りに来たんですけど…………」


「……そうでしたか。少々お待ち下さい」


 女性は努めて営業スマイルを崩すことなく、後ろに下がると何か潤平には分からない、水晶に触れて書類を作ると、険しい顔付きになって戻ってきた。


「…………お待たせしました。こちら魔獣の査定額になります」


 おおっ良かった。

 大事件が起きたから、てっきり支払いは遅れるかと思ったけど、ちゃんと代金は支払われるのか。

 良かった良かった。


「…………こちら書類の確認と、水晶での確認になります」


 間違いがないように、書類に記載されている代金と水晶にも代金が映し出される。

 そしてマナカードをそこにかざせば、代金が振り込まれるといった仕組みだ。


「はいはい」


 潤平は書類に目を通しながら、マナカードを水晶にかざすだが、書類に記載されている数字を見て思わず固まってしまった。


 

 …………………………………………ん?

 一、十、百、千、万、十万、百万、千万、一億、……………………。


 ん?

 もう一回……。

 一、十、百、千、万、十万、百万、千万、一億、十億…………。二十二億……………………?


 ………………………………ん?

 何これ……? 二十二億…………って何?




 水晶にかざしたマナカードが、だかだかだかだかと物凄い音を立てて増えていくのが分かる。

 チーンと(実際にはなっていないのだが)音がなり、数字が止まりマナカードに記載される。


 その額何と、二十二億七千三百万。


 えっ、まじ…………?


 見間違いだと思って、潤平はもう一度数える。

 だが数えても変わらない。


 二十二億。


 潤平はあれだけの魔獣を売ってかなりの金額を手にしてしまったのだった。


 潤平はどこか足が地面に着いていない感覚を味わっている。

 取引が完了した際、目の前の女性職員ではなく、前に後ろから現れた女性の職員が、他に売却出来る素材はないかとか、不動産を買わないかとか、資産になる金貨を勧められたのでそれとなく断わる。 

 窓口で魔獣の代金を受け取り、ついでに前にルリさんから受け取っていた報酬の事を思い出し、それもついでに換金したら二十五億という数字がマナカードに記載された。


 二十五億って……………………。

 てか……、ルリさん報酬とお礼のお金で二億以上も渡してくれていたのかよ…………。

 どんだけだよ…………。

 御三家パネェ…………。


 改めて、彼女が御三家のお嬢様だと認識していると、頭から降りたピー男爵が潤平に向かって話し掛けてくる。


「びっくりしたにゃー、まさかそんな大金になるとは。あれだけの素材を出せばその位にはなるもんなのかにゃー。僕もそれ位欲しいのにゃ」


「…………まだ収納にあれ以上残っている…………」


「…………。ま、まあお金が沢山あった方が困らないし、将来に備えるのも大事にゃっ」


「ピー男爵も結構お金持っているの?」


「僕は結構浪費が激しい方だからにゃー。まあそれでも人並みよりは持っているのにゃっ」


「……どれ位?」


「………………潤平の、じゅ、十分の一くらい?」


「何だ結構持ってるじゃん」


「何かそれ嫌みにしか聞こえないにゃ…………」


 換金を終えて、魔法ギルドを後にしようとしたが、またしても異国の人達が特に女性が、ピー男爵を見つけて妖精さんだっとか、モフモフもこもこだっとか、数人ほど目を輝かしてピー男爵を見つめていた。

 その度にピー男爵が気さくに挨拶をするものだから、来たときよりも時間が掛かった様な気がした。


「ん~~~っ、はっ。……さてどうする? どこか寄る? 何か食べて帰る?」


「どうしようかにゃ~、その提案も魅力的だけどにゃ、潤平は他に寄りたいところはないのにゃ?」


「ん~別に、テッケツさんはまだ時間が掛かりそうだし、ランセイさんはこの前会ったし、カントウさんは明日会うことになっているし、別に行きたいところはないかな?」


「じゃあ、ミツナリさん行きつけのお饅頭屋さんに行くかっ」


「おっ! 甘い物食べにいくのにゃ!?」


 甘い物が食べれると知って、前のめりになったピー男爵と、前にくノ一とラショウとかち合ったお茶屋さんに足を運ぶ。


 そう言えば、ラショウがお饅頭をずっと握っていたのは、どうもミツナリの影響が残っていたらしく、生前のミツナリはあそこのお饅頭が、大の大の大好物だったらしく、立ち寄る度にいつも袋買いしていたらしいのだ。


 その話を聞いて、ラショウが大事そうにお饅頭を抱えていたのを思い出すと、ベースになった人間の影響は結構残っている物なのかと考えてしまう。


 まあそこら辺はおいおい調べて行くとする。


 外の備えられた椅子に二人とも座り、注文を取りに来た店員さんに、取り敢えず甘い物と温かいお茶を頼む。

 通りを行き交う人々の笑い声が聞こえる。数日前まで血の臭いがしていた場所とは思えなかった。


 潤平は湯呑みを手に取り小さく息を吐くのだった。





 



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