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異世界、遺します ~天涯孤独となった俺に亡き祖父母が『異世界』を遺してくれた~  作者: 鏑右いなだ


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第七十一話 空に浮く合図

「あの生き物追ってこないのにゃ~~~」


「潤平君が足止めをしてくれているのが見えたわ。私達はこのままこの場から急いで離脱しましょう。それが彼のためになると思うわ」


 後ろを振り返りながら、ピー男爵とタマヨは白蛇が追って来ないのを確認する。

 タマヨが最後に確認した時は、潤平が白蛇の足止めをしていた光景なので、三人は潤平の邪魔にならないように、急いでこの場から離れないといけない。


「潤平さん…………」


 ルリはピー男爵の肉球の上に乗りながら、後ろでナオイエ達と交戦している潤平の事を思う。


「そ~っとにゃ~、そ~とっ」


「周りを壊さないように気を付けてねピー君」


「大丈夫なのにゃ~、任せるのにゃ~」


 ピー男爵は体が大きくなったので、屋敷や塀を壊さないように、気を付けながら器用に第三区画の道路を走っていた。


 

 しかし第三区画に住んでいる者からしたら、いきなり大きな音と振動が襲ってきてたまったモノでは無い。

 夜なのもあって皆が屋敷から飛び出して、ピー男爵を見て驚いていた。

 それらの視線を無視しながら、ピー男爵は第三区画の門までゆっくりと確実に走った。


 ピー男爵の巨大化した足では、すぐに第三区画の門に着いてしまい、そこまで来ると第二の兵士が駐留しているので、ピー男爵は魔法を解除しようとする。

 いきなり現れた巨大な生き物に門の衛兵をしていた兵士は驚いて、腰を抜かす者や武器をこちらに向けて構えている者が見える。

 そしてそれらを必死に止めている頼れる副官の姿がタマヨには見えた。


 ピー男爵は魔法を解除する前に、手の上からタマヨとルリをそっと地面に降ろす。

 地面に降ろされたタマヨとルリは居住まいを正すと、門の衛兵の前に歩み出る。

 すると兵士の中から見知った顔が歩み出て来た。


「ミオリっ!?」


「タマヨっ!」


 どうやらミオリが兵士を引き連れてこの第三区画で待機していたらしく、他にも見知った兵士がいた。

 ミオリと彼等はタマヨとルリが無事だと分かると、喜んでいたが潤平の姿が無いと分かると、それぞれが複雑な顔をしていた。

 それに隣にいるピー男爵の事も非常に気になっていたが、それよりもタマヨの切羽詰まった表情と、この場に潤平がいないことを疑問に思っていた。


「…………この場にいる兵士に非常事態を告げます。これから都で大規模な暴動が起こります。貴方達は絶対にこの門を死守すること、第二区画から第三区画に誰も通してはいけません。逆も然りです。いざとなったら備え突きの砲を使っても構いません」


「…………で、でもタマヨ、町に向かって砲を打つことなんてあるの……?」


「考えたくはないのですが、そうなるかもしれません。その時は迷わず標的を攻撃して下さい。責任は私が取ります」


「……分かったっ」


「私は一旦第二の兵舎に戻り、避難所の設立と暴徒と襲撃者の鎮圧の指示を出します。恐らくですが私はそちらで手一杯になるでしょう。ここに私が来ることはありません。なのでミオリそれとこの場にいる上級兵長が、第三区画の指示をして下さい」


「「了解しました!」」


「もし避難民が、第三区画から第二区画に移ろうとしたら城の方へ誘導して下さい。門を絶対に開けないこと。第三区画に散らばっている兵と非番の兵も、呼んで指示を出して下さい。私も少ないですが増援をここに派遣するよう指示を出しておきます」


「了解しました!」


「では私と一緒に誰か十名程着いてきて下さい」


「おいっ! 誰か団長に馬を持ってきて差し上げろっ!」


 タマヨの指示に第三区画の詰め所が慌ただしくなる。


「ルリ様っ!!」


 そこへフミとスミレとヨリが、ルリを見つけて涙を流しながら駆け寄ってくる。

 どうやらミオリと一緒にここで待機していたらしく、ルリの元へと駆け寄ると、喜びで抱き合う。


 その光景を見て、タマヨは優しく微笑む。


「……ルリ、状況が変わりました。貴方はここで皆と一緒に居なさい。屋敷にも帰れない以上安全な場所はどこにもありません。第二区画はこれから悲惨な事になるから兵舎には連れて行けませんし、ミオリと皆がいるならここの方が安全です。ですが本当に危なくなったら城に逃げなさい。上様とサムライの方々が守ってくれるかもしれません」


「はい、分かりました」


「それと……」


 タマヨは身をかがめてルリの耳元で呟くように喋り続ける。他の人には聞かれたくないのだろう。


「ナオイエ様の本当の狙いが分からない以上、また貴方が狙われるかもしれないわ。その時は逃げなさい。貴方の命が何よりも最優先だから」


「……はい」


「……大丈夫。私も無事に戻るし、潤平君もきっと無事に帰って来るはずだから」


「……はい。ご武運を」


 タマヨとルリはお互いの目を見ながら頷き合うと、どちらからともなく微笑む。そしてタマヨは馬に跨がり、ルリはフミと兵士に連れられ詰め所の中に入っていった。


 第三区画の門が開くと、タマヨと十名程の兵士が光球を出しながら、夜の土の道をひた走る。

 

 すると、タマヨが門を出て数秒もしない内に、真っ暗闇の空に一筋の光が浮かび上がる。

 それはどんどんと上昇をしていくと、ある一定のところではじけ飛んで音と光を夜空にまき散らす。

 第三区画の詰め所にいた兵士達は、見蕩れて手を止め部屋に入ろうとしていたルリ達も足を止める。

 第三区画に住んでいる貴族の者達も、夜空に浮かび上がったそれを綺麗だと言って眺めていた。


「っ! 団長、あれをっ!」


「足を止めないでっ!! きっとあれは…………!」


 そこまで言って、タマヨは喋るのをやめる。

 恐らくだがあれはナオイエが上げた何かしらの合図。

 方向を考えるとナオイエの屋敷から放たれたものだろう。

 それは二発、三発と夜空に上がると、第二区画の兵舎に向かっているタマヨと兵士の姿を淡く照らしていた。


 (潤平君っ…………!)


 タマヨは心の中で、ナオイエと対峙しているであろう少年の事を思い浮かべる。

 だが、今は何よりも第二の民と兵士の事が心配なので、走る馬の速度を速めるのだった。



  


「おおあっっ!!!」


 ラショウの大刀と潤平の槍がぶつかり合い、激しい金属音と衝撃がその場に生まれる。

 何度も何度もラショウと打ち合い続けているのに、やり合っている等の二人は疲れの色が見えてこない。


「…………凄まじいな」


 それを静かに眺めていたナオイエは、二人の止まらない打ち合いに思わず感嘆の声を漏らす。


「……だから俺が注意しといたじゃねえか、奴を放っておく事は出来ねえって」


「ワドウ君。もう傷は回復したのかね?」


「……お陰様で。礼を言うわ」


「ふむ。ならこの場は任せても良いのかね?」


「おうっ。俺は望み通りあいつと最後までやり合う。あんたは目的を果たす。それでいいんだろ?」


「ああそうだ。私は本来の目的を果たす、そのために今日まで準備をしてきたのだ」


「……そうかい。それならいいや、……一つ聞きたいんだが本当に城の人間は動かないんだろうな?」


「ああ。彼等は将軍とその身内が危険に晒されない限り、決して手を出すことはない。それもそれでどうかと私は思うが、私の計画に影響しないのは喜ばしい事だ」


「……分かったよ。なら俺はあいつに集中するぜ」


「そうしてくれ…………、ああっ、二つだけ。キミの所のハズシ君を借りてもいいかい?」


「あっ? ……まあ別にいいぜ、元々ハズシをこの戦いに巻き込むつもりはなかったしな」


「それではハズシ君を借りていくよ」

 

「……もう一つは何だ?」


「……キミにこれを渡しとこう」


「…………これは?」


「何、いざって時の保険さ。キミがまた彼に追い込まれるようになったら、それを使えばいい」


「……いや俺は、奴とは死ぬ気でやるつもりだが…………」


「……人間その時が来たら何かに縋るものさ……、まあキミが使わないならそれに超したことはない。使わないなら捨ててくれ」


「……そうかい」


「…………さてアザミ。それとウメ、タケ、マツ、始めるとしよう。私の悲願を達成するために」


 そう言って右腕を掲げると、天空に向かってぽんっ、ぽんっ、ぽんっと何かを打ち始めた。

 それは夜空をどんどんと上昇していくと、やがて頂点に達し音と光を立てて爆発する。


 何だっ……!?

 あいつは何を打ち上げたんだっ……!?


 潤平はラショウと打ち合いながら、ナオイエが何かしているのを眺める。

 その行動を阻止したいのは山々なのだが、どうにも目の前のラショウと遠くからちょっかいを掛けてくる、三人組のせいで動けない。


 

「……では」


「……ちょっと待て。そういやこの死にかけのこの当主はどうするんだ?」


「…………? ああっ、ユウタロウ君の事か、すっかり忘れていたよ。そうだねあの少年はユウタロウ君の事も、奪還したいと思っているから、君達が必死に守ればいいんじゃないのかな」


「けっ! 精々感張りますよっ」


「ではこれで」


 ナオイエは白蛇の頭に乗ると、そのまま何処かに立ち去ろうとしてしまう。


「待てっ!! どこに行くっ!!」


 潤平はナオイエを逃がすのは本能的に不味いと感じ、ナオイエの方に駆け出そうとするが、ラショウが前に立ち塞がる。

 そして発動していた鑑定魔法が、視界の端で慌ただしく点滅する。それは後ろにワドウが出現した証拠で、潤平はその場から急いで離れ奇襲してきた、ワドウの一撃を回避する。


「ちっ、やっぱり食らわねえかっ」


 潤平に対して攻撃が当たらなかった事で、ワドウは悪態を吐く。


「てめえのスキルはもう見切ったんだよっ!」


「……果たして本当にそうかな!? サムライっ!!」


 段々と顔付きが変わってきたワドウは、目の前の潤平に対して憎悪の眼差しを熱く燃え上がらせる。


 くそっ! ナオイエを逃がしてしまった!


 白蛇に乗って向こうに消えてしまったナオイエのことを気にする。

 本当はすぐにでもこいつらを片付けて向かいたいところだが、そう簡単に奴等が通さない事は見て取れる。


 潤平は一旦頭の中を整理する。

 まず目の前のこいつらを片付けないと、逃げたナオイエを追うことは出来ない。それにナオイエがどこに向かったのかも何を目的としているのかも分かっていないのだから、奴を止めても何か仕込まれていたら、対処のしようが無い。


 ならば、目の前のこいつらを一人ずつ片付けて、ワドウを残して魔法で情報を聞き出すのがいいのではないかと考える。

 取り敢えずラショウとワドウをすぐに倒すのは難しいので、一番最初に狙うのは…………。


 向こうでちまちま俺を攻撃してくる奴等からだっ…………!


 潤平は頭の中で目標を定めると、目の前の二人を差し置いて、向こうの三人組を狙い始める。

 潤平が急に方向を変えたことで、ワドウも何を狙っているのか気付いて、転移のスキルを使う動作をする。


 どっちだっ!? 

 俺は奴等に向かって走っているが、いつでもお前が後ろに現れてもいいように、体勢は整えているぞ。お前が後ろに現れても横に現れても、例え正面に現れてもお前を迎え撃てる準備はしている!


 その時、鑑定魔法が潤平の視界の斜め上にワドウが現れた事を告げる。


 後ろかっ!!


 潤平は、三人組に駆け出していた体を止めて、ワドウが現れる筈であろう後ろに、体を方向転換する。

 そこで潤平が見たものは、左手だけ空中に浮いている光景だった。


 …………は?


 ゴギャッ!! と潤平の顔に衝撃が走る。

 潤平は何が起きたのか分からず吹っ飛ばされ、地面を数回転がる。

 ただ意識外の攻撃とは言え、ラショウの一撃に比べたらそれ程重くない攻撃なので、吹っ飛ばされた勢いですぐに立ち上がる。


 そして立ち上がった先で見たものは、ワドウの左手首から先が無くなっていて、代わりに先程潤平が見たであろう方向に、左手が浮いている光景だった。

 その光景の答えが示すのは一つ。


「……体の部位だけでも転移は出来るのか……」


「そのとおーり、正解」


 指先をこちらに向けながら、腹が立つ表情を潤平に向けてくる。


 前に潤平と戦った時には見せていなかったので、あれはワドウにとっての奥の手なのだろう。

 しかし…………。


 正直分からなくなった。

 さっきの鑑定魔法が部位だけでもマークを表示するのなら、どちらから攻撃が来るのかそれを見極めるのが難しくなった。


「おっと? サムライ黙っちゃってどうした? 戦いはまだまだこれからだぜぇぇっっ!!」


 叫びながらこちらに向かってくるワドウ。

 それと同時にラショウもこちらに向かってくる。


 向こうからは三人組が待たしても、遠距離攻撃を仕掛けてくる。

 ちょっとずつ追い込まれている事に、潤平は何故だか口角が上がってくるのを感じた。


 やることは変わらない。

 まずは向こうの三人組を先に倒すことから。ワドウとラショウは後回しだ。

 

 切れた唇の血を手で拭うと、潤平は右手に槍、左手に火球を構えて奴等を迎え撃つ体勢になる。

 その顔は不敵な笑みに包まれていた。





 

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