第七十話 買い手
仮面を脱いだラショウの素顔は、この国を愛しこの国を救いこの国の英雄の、タマヨとルリの祖父であるミツナリの顔をしていた。
潤平は実際ミツナリの顔を確認した事がないから、ラショウの顔が似ているのか判断が付かないが、後ろで絶望仕切った三人の表情を見る限り、本当にミツナリとそっくりの顔をしているのだろう。
「……な……んで……」
タマヨが、一筋の涙を目尻から流しながらかすれた声で小さく呟いた。
「ふむ。何でときたか。それを説明してもいいが、聞いたところで君達は恐らく把握出来ないだろう」
ナオイエの少しだけ興味を持ったかのような視線が潤平達を捉える。
ここにきて始めて、ナオイエは無機質な眼差し以外の瞳を向けてきた。その瞳が非常にムカついた潤平は少し言い返してやりたくなった。
「…………作ったんだろ?」
「…………ほう?」
潤平の言葉に興味が湧いたのか、ナオイエの瞳が潤平を見据える。
「……そいつの、ラショウの年齢が二歳になっていた。実際にはそんなことは有り得ない。そんなに成長している人間が二歳になることなんてな。だから……方法は分からないけど作ったんだろ?」
「ほうほう、そこまで知っているとは……。なるほど君は鑑定持ちだな? じゃなければラショウの正体を知る筈がない」
「……人間を、それも死人を作る真似をするなんて、あんたはどうかしてるぞ」
「まあ私の頭がいかれているのは認めよう。ただラショウを作ったのは私ではない。私は費用を出して依頼したまでだ。私には人間を作り上げる技術は無いよ」
潤平はナオイエの言葉を聞いて、奴が口を滑らせた事に気付く。
ラショウはナオイエが作った人間ではない?
ならば他に作った人物がいる?
ナオイエが口を滑らせた事を悟られないように、潤平はナオイエとの対話を試みて情報を引き出そうとする。
「……あんたの後ろにいるその女の人も作ったのか?」
「…………あまり人の中身を見るのは褒められた行為ではないね。……そうだ、君の言うとおり彼女は作られた人間だ」
潤平が彼女を鑑定魔法で覗いたとき、彼女も年齢と見た目が一致していなかった。彼女の年齢は七歳、年齢通りなら彼女はまだ少女な筈だ。
それに腕が伸びる何て真似、スキルの類いでもなければ普通の人間には出来ない真似だろう。
いや……、異世界なのでもしかしたら腕が伸びる魔法をあるかもしれない。いずれ探してみるのも面白いかもしれないな。
…………少し思考が逸れてしまった。
「そんなに人間を作って何がしたいんだあんたは。盗賊なんて使って国盗りでもしたいのか?」
「……ふむ。話すのは簡単だがまだ君は納得出来ないだろう。それにお喋りに付き合うのも飽きてきたしね」
くそっ。ばれてるじゃねぇか。
潤平は自分の企みが看破されていたことで、精神的に優位を失った気がした。
「さてお喋りもここまでだ。そろそろ始めねば、私の計画も遅れてしまう。ラショウ彼等を始末して首を持ってきなさい」
「…………御意」
ナオイエが手をかざすと、ラショウの中にある淀みの魔力が一際強く反応した、そしてラショウはナオイエの命令にただ無機質に頷くのみである。
ここまでかっ……。
潤平は歯を食いしばり、後ろの三人を確認すると魔法を発動させる。
自身の目の前に火壁を出現させると、ナオイエとタマヨ達を分断させる形になる。
後ろにも火壁、前にも火壁を出して間にはタマヨ達と、地面に気を失って倒れていワドウ達が取り残された形になった。
「タマヨさんっ!! ルリさんもっ! 立って下さい! ピー男爵とルリさんと逃げて下さいっ!」
潤平は絶望の顔を浮かべて、涙を流しているタマヨを力尽くで立ち上がらせ、服に付いた土埃を軽く払うとタマヨの腕を引いて指示を出す。
「……………………えっ」
まだ反応が鈍いタマヨさんを見て、潤平は少しイラッときてしまい、腕を強く引いてタマヨの目を近くで見詰めて語り掛ける。
「しっかりして下さいタマヨさんっ!! 貴方が呆けてしまったら誰がルリさんを守るんですかっ!!」
「………………でも私、どうしたら…………」
「~~っっ! すいませんっ!!」
潤平はタマヨの顔を引き寄せると、タマヨの顔を両手で挟み込んだ。
タマヨの顔がグニィッとなり、潰れて不細工な顔になる。
「タマヨさんっ、貴方がここで今正気を失ってしまったら、都の警護をしてる兵士達と、都に住んでいる人達は一体どうなりますか? きっとあの男はこれから都を荒らすつもりでしょう! その時に貴方がいなければ彼等彼女達は絶望しますっ。なら今は急いで戻って皆を導かないとっ。その役目はタマヨさんにしか出来ませんっ!」
思ったよりも柔らかくそれでいてしっとりとしているタマヨの頬を掴みながら、潤平はタマヨに向かって必死に訴えかける。
そしてその言葉にタマヨも心が動かされたのか、タマヨの瞳の徐々に生気が戻ってくる。
「………………でも目の前にお父様が……」
それでも父親の事が気掛かりなのか、自分の父親の心配をどうしてもしてしまう。
「それは俺が必ず助けます!! 俺の全てを掛けてお父さんを連れて帰りますっ!! 絶対に死なせはしません!!」
潤平の覚悟を決めた顔付きに、ようやくタマヨは正気に戻り、頭の中でこの後どうすればいいのか目まぐるしく思考する。
「……ピー君、まだ魔力は残ってる?」
「…………うんにゃ、僕は殆どそれらしい魔法を使ってないから、全然余裕だにゃ……」
いつもは快活な様子のピー男爵も、今は流石に心が沈んでいるのかタマヨの質問にも、耳を垂らしてしょんぼりとした顔で答える。
「……結構。なら貴方の魔法でこの場から離脱します。急いで準備を。ルリは私と一緒にピー君の体に掴まって」
「……分かったのにゃ」
「……はい」
「……潤平君……。お父様を……父をどうかお願いします。そして出来るなら無事に貴方も帰って来て下さい。自分の命は大切にしてね……?」
「はいっ、分かっています」
その時ナオイエの方に出していた火壁が、突然の爆風によって一部に穴が空いた。
どうやらラショウが剣を振るっただけで穴を開けたらしく、ラショウは潤平達を見据えると、こちらに向かって淀みの魔力を放出しながらゆっくりと向かってくる。
「タマヨさんっ!」
「分かったわっ!! ピー君お願いっ!」
「やるのにゃ!」
ピー男爵が魔法を唱えると、一瞬でピー男爵が巨大化する。その大きさは潤平が潤平がこの世界に来た時み
見た、杉の木と同じくらい大きくて、目測で数十メートルは越えていると思われた。
「にゃああああああああ~~~~~~~んっ」
巨大化したピー男爵の声が辺りに響き渡る。
「……何だあれは?」
ナオイエからは潤平の火壁から、巨大化したピー男爵の上半身だけが見えていた。
「タマヨと~~ルリち~~を運ぶのにゃ~~」
ピー男爵は二人を手の平に乗せると、掴まるところがないので取り敢えず肩に乗せていた。
「逃げるのにゃっ~~、潤平頑張るのにゃ~~」
巨大化したピー男爵が走り出すと、辺りにドシィィインッ! ドシィィインッ! と振動が響き渡る。
「ピー君の奴め……、あんな魔法を持っていたのか。ふむならばこちらも相応のモノを出そう」
ナオイエが片手を掲げて淀みの魔力を放出させると、屋敷を破壊して奥から巨大な白蛇が現れた。その数三体。
白い蛇はナオイエの元まで来ると、ナオイエに撫でて貰うために頭を下げる。
「良い子だ。あれを狩って私の元に連れてきなさい」
ナオイエの命令に、蛇達は舌を数回出すと巨大な体をくねらせて、ピー男爵とゆう獲物に向かって駆け出す。
「ピー君っ! 何かこっちに勢い良く向かってくるわ!」
「にゃにゃにゃ~っ、一体何なのにゃ~~~っ」
タマヨの言葉にピー男爵は後ろを振り返ると、巨大な白蛇が三匹追ってくると分かって焦り出す。
「っ! させるかっ!」
蛇がピー男爵を追い始めたと分かって、潤平はそれを阻止しようと蛇に向かって火球を放つ。ボウリングサイズの火球は蛇の顎舌に命中するが、蛇は対したダメージを受けてないらしく顔を振って潤平の方を睨んでくる。
潤平はそれが狙いだったので、白蛇がこちらに意識を向けてくれたのならよしとする。
そして前と後ろに出していた火壁を消す。
魔力の消費と戦闘のスペースを確保するためだ。
「……その少年はいい。まずは向こうの獲物に集中しなさい」
潤平に向かって意識を集中させていた、白蛇達はナオイエに窘められ再度ピー男爵達を追おうとする。
「だからさせねえってっ!」
潤平は白蛇に向かって走り出すと、白蛇たちの尻尾の先を掴みそのまま、三匹とも纏めてジャイアントスイングで投げ飛ばす。
綺麗に投げ飛ばされた三匹の白蛇は、屋敷の奥に頭から吹っ飛んでいく。
巨大な白蛇が地面に落ちた事で、辺りに一面に自身が起きたかのような振動が起こる。
「……何なのだ君は一体……」
始めてナオイエが表情を歪ませた。
その顔は目の前の少年が理解できなくて気に入らないと言った表情をしていた。
「俺か? 俺はな、ん~~…………、ルリさんに護衛を任されたただの通りすがりの旅人だよっ!」
「……そうか、君がハズシ君の言っていた規格外の少年か」
「あっ?」
「いや前に、ハズシ君がとんでもない少年に自分達のアジトを潰されたと言っていてね。その時にハズシ君に服を売って貰った事も思い出してね」
「……服を売って貰っただと?」
「……どうやらハズシ君は君から盗んだようだね」
…………………………。
潤平の瞳はナオイエの胸の辺りを捉えていた。
よく見れば、勲章の影に隠れて胸の辺りにエイチと書かれたマークがあるのが見えた。
「その制服俺のじゃねえええええかああああああああっっっっっっ!!!!!」
まさかの制服の買い手が見つかり、潤平は頭にきて魔力を噴出しながら怒りの越えを上げる。
「ふむ、この服はいいモノだ。丈夫で軽やか伸び縮みにも優れていて、何より品格がある。私が探していた服にぴったりだ」
「ふざけんなっ! 返しやがれっ!!」
潤平が怒りに任せてナオイエに突撃しようとすると、存在を忘れていたラショウにやって阻まれる。
意識の外から放たれた、ワドウの大刀の一撃は潤平の鼻先を掠める。
潤平は数歩後ろに飛ぶと、収納魔法から槍を取り出す。
その潤平に向かってラショウが刀を振ると、潤平は槍の柄で受け止める。
だが先程とはまるで違うワドウの重い一撃に、槍を持っていた腕を弾かれ、槍の柄の一部が欠けてしまう。
強化魔法をかけているんだぞっ!?
それなのに俺の方が弾かれるのかっ!?
潤平は追撃が来る前に、またラショウから距離を取ると、修復魔法を槍に掛けてその上に強化魔法を掛ける。
これならば槍が壊れる事も無いし、ラショウとも張り合えるだろう。
「この服は既に私の物だ。キミに返す義理はない」
「ふざけんなっ! 人から盗んだ物だろうがっ!」
「ならハズシ君に言い給え。それか私から買い取り給え」
「はあっ!?」
「そんなに怒りを散らしていて良いのかね? もっと周りを見た方が良いのではないかね?」
はっ?
その瞬間後ろから何かが飛んでくるのを察知して、潤平は横に飛んだ。
それは潤平を通り過ぎると勢い良く地面に突き刺さる。
「……惜しい」
「直前で気付いたなあの少年、良い反応だ」
それは後ろで分断されていた三人組で、奴等が潤平に向かって攻撃をしてきた。
「それにワドウ君の方も回復したろう」
見るといつの間にか、ナオイエの後ろにいた女がワドウの傍まで行き、ワドウに回復魔法を施していた。
「キミが火壁を出した瞬間にアザミを待機させておいたのだよ。いずれ火壁は解除するだろうと思ったからね。火壁が消滅した瞬間、彼女に回復魔法を掛けさせたのさ」
女はワドウの回復が終わると、腕を伸ばしてハズシを掴み自分の元に引き寄せる。そしてハズシにも回復魔法を掛け始めた。
それをどうにか阻止したいが、目の前のラショウと後ろの三人組が煩わしい。
そいつらの対応をしてたらハズシの治療も終わったらしく、ワドウとハズシの目が覚めたようだった。
「さあ、どうする? キミにとっては物凄く不利な立場だと思うが? キミはここから何を見せてくれる?」
腕を広げて、まるで映画の主演にでもなったかのように振る舞うナオイエ。そのナオイエの後ろにさっき吹っ飛ばした白蛇が集まってくる。
潤平はラショウの攻撃を捌いて、後ろからの攻撃を避けながら軽く冷や汗を垂らすのだった。




