第六十八話 剛対剛
(タマヨさんは無事に勝ったのか……)
潤平は目の前の大柄男と殴り合いながら、横目でタマヨの確認をする。
くノ一の攻撃を食らった時は、一瞬ヒヤリとしたがそこは流石のタマヨさん。
方法は分からないが(よく見えなかった)、しっかりとくノ一に勝ちきったらしい。
回復魔法…………、の心配はいらないだろう。
既に治療されているみたいだ。
それよりも俺の方は…………。
潤平は目の前の男に視線を戻す。
大柄の男、鑑定魔法で確認すると名前はラショウと書いていた。
ラショウは右腕をズゥンと上を掲げると、そのまま潤平に向かって振り下ろした。
潤平はそれを片腕で受け止めると、衝撃と反動が地面に伝わり、ゴバンッ! と地面が陥没する。
これだっ……!
たかが腕を振り下ろしただけの攻撃が、物凄い威力を持っている。
常人の体だったらとっくの昔に潰れて、地面の染みになっていたことだろう。この攻撃は潤平の体があってこそ耐えられているのだ。
それに、数回程度ラショウと殴り合って気付いたのだが、この男に対しては何か違和感を感じる。
頭の中で何か警笛が鳴っているとゆうか、触れた瞬間異質なモノに触っているとゆうか…………。
しかし、それらも彼の体から滲み出ている淀みの魔力の事だろうと思う。
取り敢えずのところは、潤平はその違和感を無視して目の前のラショウに集中した。
今度は潤平がラショウの体目がけて上段蹴りを入れるが、ラショウはそれを受け止める。
その反動で少しラショウはたたらを踏むが、大してダメージを与えられてないように見えた。
こいつっ、明らかにさっきよりも反応速度が上がってきている……!
戦闘に入ったことで体の調子が上がって来たのか……? それとも何か他に理由があるだけか……?
ラショウは同じ様に潤平に向かって上段蹴りをしてくる。
先程までよりも早い攻撃に、潤平は躱すことが出来ずに受け止める。
しかし受け止めたのはいいが、足の踏ん張りが利かず数メートル吹っ飛ばされてしまう。
なんだっ……!?
さっきまでとは明らかに違うっ……! 威力も速度もどんどん上がってる……!? 何故だっ……!?
潤平は空中で一回転しながら体勢を整えて、地面に着地すると自分の体に回復魔法をかける。
この数分間で受けたダメージを回復魔法で回復して、無かったことにする。
ただ潤平の回復魔法は中級なので、完全にはダメージを消し去る事は出来ない。
少しずつだが、潤平は自分の体にダメージが蓄積されていくのが分かった。
槍をあいつに投げ付けるか?
…………いやそれは駄目だな、ただでさえ武器が少ないんだ。自分から武器を手放すのは愚策、槍が無くなったらお玉であいつと戦うことになる。
それよりも…………、今はこいつをルリさんから引き離すのが先! そうすればタマヨさんがルリさんをきっと助けてくれる。
潤平は右手にソフトボールサイズの火球を出すと、ラショウに向かって三個、奴の足下に二個火球を放つ。
陽動の火球、それから目くらましの火球だ。
潤平は魔法を放った後、ゆっくりとラショウから距離を取る。
少しラショウと戦闘して分かった事がある、こいつは多分目の前の相手にしか興味がない。くノ一の加勢に行くとかワドウを助けるような行動を微塵も見せていない。
ならばこうやって少しづつ距離を離せば………………、ビンゴっ。
潤平の目論見通り、ラショウは火球を軽く手で払うと、煙をブウンッと手で払い潤平に向かってきた。
そのまま……。そのまま俺の方に来いっ。
そうすればタマヨさんがルリさんを助けてくれる。
潤平の意図を察したタマヨは、小さく頷くと慎重に音を立てずにルリの元に向かう。
ルリも下手に騒がず、タマヨが近くに来るのをじっと待っている。
もう少し……、もう少しで…………。……っ!?!?
その時タマヨの手がもう少しでルリに届きそうな時、タマヨの体が吹っ飛んだ。
何かに殴られたように頭から吹っ飛んでいくと、タマヨは意識外の攻撃を受けてピクリとも動かなくなる。
突然の事に、潤平もそれを間近で見ていたルリも理解が追いつかず、黙って吹っ飛んだタマヨを見詰めていた。
(クソがっ!!)
しかし潤平はいつまでも固まっているわけにはいかず、目の前に迫ったラショウから攻撃を受けないよう距離を取る。
遅れて姉が吹っ飛んだ事を理解したルリが、涙を流しながら口を塞がれているのにも関わらず叫び続ける。
どうゆうことだっ…………!?
何故タマヨさんが吹っ飛ぶんだ……!? 一体どこから攻撃が……!? まさか新たな敵っ!? 遠距離からの攻撃かっ!?
潤平がラショウから距離を取りながら、必死に頭を働かせ地面に倒れたタマヨさんの安否を確認しようとする。
だがタマヨさんに近付こうとも、ラショウが邪魔で近付けない。それにルリさんの元にもいけない。
どうするか必死に頭を働かせていると、ナオイエの屋敷の門が開く。
そこから剣呑な雰囲気の男達が三人ほど入ってくる。
「……あれっ? ワドウの奴やられているじゃん? 話と違くない?」
「……イチヨウもやられている。それに見ればラショウの奴も手こずってるようだ」
「もしかしてあの小僧が一人でやったのか?」
どう見ても堅気の姿ではない彼等の姿を見て、潤平は味方ではないと感じる。
くっ!? 敵の増援っ!?
ただでさえ窮地なのに、敵が増えた事で潤平は焦りが滲み出てくる。
するとジャリッとルリの前から足音がして、徐々に人の姿が現れてくる。
そこには透明魔法で姿を隠していたハズシがいた。
奴が姿を隠してタマヨさん襲った張本人だ。
潤平は直感でそう感じた。
「……危なかったな。すんでの所で間に合って良かった」
ハズシは焦った様子でそう呟いた。
そしてぐるりと辺りを見渡して、潤平に視線を向けてから石の塀で伸びて気を失っているワドウに目を向けた。
「……頭は気を失っているのか。道理で上手く事が進んでないはずだ」
ハズシはゆっくりとワドウの元に歩いて行こうとするが、それを黙って見逃す潤平ではない。
ラショウと戦いながら、左手に特大の火球を出すとハズシに向かって勢い良く放つ。
轟音と物凄い熱を放ちながら、特大の火球がハズシに向かっていくが、いつぞやのようにハズシに当たる前に何かに弾かれる。
またか…………っ!
くそったれっ……! 今なら誰もルリさんの近くにいないのにっ! どうにかしてこいつを引き剥がしてルリさんの元にっ!
いやっ! 駄目だっ! タマヨさんを置いていくことは出来ないっ……! せめて二人だけでも助けないと……!
まだかっ…………! まだ来ないのかっ…………!
潤平が何とかこの場を切り抜ける方法を必死に模索していると。
「…………うっ……!」
タマヨさんの意識が戻り立ち上がろうとする。
しかしどう見てもふらふらで、ハズシに受けた攻撃のダメージが抜けてない事が分かった。
そして弱っている獲物を見逃す筈が無いのが、奴等の特徴なので門から新たに現れた敵は、タマヨが意識を取り戻した事でそっちに狙いを定める。
不味いっ!!
潤平は奴等がタマヨに狙いを定めた事を知り、急いで体に魔力を集める。
そして新たに教えて貰った、火魔法の中級を使い奴等とタマヨさんの間に火の壁を出現させる。
ミオリさんに教えてもらったらその魔法は、通常の魔法よりもデカくそれでいて轟々と燃えていた。
潤平の魔力で作り上げたので、普通のモノよりも大きく強く熱く出来上がっていた。
目の前に現れた火の壁に、獲物を見つけて突撃しようとしていた新たな敵も、思わず止まってしまう。
目の前で燃え盛る火の壁にどうすることも出来ず、手を出す事が出来なかった。
潤平も一安心したのはいいが、まだ問題は残っている事に意識を向ける。
依然ラショウは目の前で健在だし、分断するつもりだったワドウとハズシもこちらに残ったままだ。
それに鑑定魔法も、そして火球も少なくない量発動したのに加えて、火の壁を出した事で潤平の魔力は三割程にまで減っていた。
このままでは不味い……。
目の前のラショウを先ずはどうにかしないと……。
だがどうする? 力と早さが拮抗している上に潤平の魔法では決定打を与える事が出来ない。
無理矢理特大の火球を打ってもいいが、それだと恐らく魔力が持たない。この後に後ろの三人を相手するのを考えると、魔力は残しておきたい。
それにモタモタしていると、ハズシの奴がワドウに回復魔法をかけるだろう。
今は奴は潤平に意識を向けて、こちらを見ているが奴がワドウの所に行ったら終わりだ。
ラショウを残して、後ろの三人の相手をしてワドウ達もとも戦わなきゃいけない。
残された未来は明るくない…………。
ちんたら考えている暇はない。
潤平は火球と水球を出すと、自分の足下に向けて放つ。
瞬間辺り一面に水蒸気が立ち込め、潤平の姿が見えにくくなる。
そして潤平が元いた場所から、二発ラショウに向かって火球を放つが、ラショウはそれを手で難なく弾く。
やはりこの位の威力では決定打を与える事が出来ない。
しかし潤平はそんな事は分かりきっているのだ。
ラショウは、潤平がいたであろう所にゆっくりと向かっていくが、そこに潤平はもう居ない。
潤平は静かにタマヨの所まで移動すると、彼女を優しく抱き抱える。
タマヨはまだダメージが抜けきっていなく、潤平を見てはいるが目の焦点が合っていなかった。
潤平はタマヨに回復魔法をかけると、彼女は徐々に正常を取り戻してゆく。
「……じゅんぺい……くん……?」
「タマヨさん……、今から俺は奥の手を使います…………、それを使えばあの大男を行動不能にすることが出来るでしょう……、その隙にタマヨさんは、ルリさんの目の前の男の注意を引いて下さい……」
「…………注意を引き付けるだけで良いのね……?」
「はいっ……。タマヨさんはまだ完全には回復していないでしょう…………? 大丈夫ですっ……あの男も俺がルリさんから引き剥がすので安心して下さい……。それにそろそろ隙が生まれる筈ですっ……」
悲痛な面持ちでこちらを見上げてくるタマヨ、汗で頬に髪が張り付いている。そんなタマヨに潤平は安心させるようににっこりと笑う。
無邪気な少年の笑顔に、思わずタマヨの口角も上がってしまった。
「……信じて良いのね……?」
「はいっ」
潤平はラショウがこちらに来る前に、魔法のイメージをする。
願うのは強化魔法。自身の身体能力を上げ速さ反応速度、相対的な魔力量も上げる。
それを自身の魔力が切れるまで使用できることにする。
頭の中で思い描くと魔力が抜けれた感覚がする。
そして何もない空中からチョコボールが落ちてきてキャッチする。
それを口の中に入れて味わう。
相変わらず魔法を修得した感じはないが、いつもの事なので気にしないことにする。
発動方法が分からないが、光魔法の分類なので左手に魔法を発動させて胸の辺りに持ってくる。
すると熱いモノが胸から全身を駆け巡り、潤平は思わず体をくの字に曲げてしまう。
少しびっくりしたが、体の中を駆け巡ったそれは決して嫌な類いのモノではなく、寧ろ力が溢れてくる感じがした。
両手をグーパーして感触を確かめると、晴れてきた煙の隙間からラショウを睨む。
向こうも潤平がそこにいないことに気付き、こちらに向かってきた。
潤平もそれに呼応するかのようにラショウに向かってゆっくり歩いていく。
じゃり、じゃり、じゃりとまるで戦いを告げる音のような、足音が二人の足下から鳴ると、二人の距離は手を伸ばせば触れられる位置にまで来た。
一瞬の間が空いた後、同じタイミングで二人は思いっ切り振りかぶって、お互いを殴った。
ゴインッ!! と石をぶつけ合わせたような鈍い音がすると、ラショウが思いっ切り吹っ飛んでいく。
「………………ッッッ!!!」
まさかの攻撃にラショウは苦悶の表情をしながら、地面の上を水切りの石のように転がった。
「…………は?」
それを見ていたハズシは驚きの声を上げる。
タマヨだけではなくルリも、先程までとは違う潤平の強さに目を見開いて驚いていた。
「……さっきまでの俺とは少し違うぞ、こっからの俺はちょー強くなった、シン・潤平だからな」




