第六十七話 水龍
「君の水魔法が私の爆破魔法よりも上かどうか試してみる?」
挑発するようにイチヨウが笑みを浮かべる。
「先程言ったではないですか、私の魔法はそう簡単には破れないと」
「じゃあ、試してみるねっ!!」
くノ一は今いる場所から数歩下がると、タマヨに向けて数枚ほど持っていた札を投げ付けてくる。
タマヨはそれらを刀を振るうと、水龍で食い破るか水で濡らして地面に落としていた。
「やるねっ!」
くノ一は一枚程度の札では効果が無いと分かると、今度は束に纏めた札を投げてくる。
同じ様にタマヨは水龍で食い破ろうとするが、中心の札が濡れてなかったために爆発する。
それでも水魔法で出来た龍なので大した効果は無く、タマヨにとって何も痛手にならなかった。
「それでは意味がありません。水龍は私の魔力が続く限り何度でも復活します」
「みたいだねっ、じゃあこれはどうかなっ!!」
くノ一は先程と同じ様に数枚の札をタマヨに投げ付ける。
(最初と同じ攻撃……?)
タマヨはその攻撃を訝しんだが、何かしてくるのを頭に入れつつ、同じ様に水龍で食い破ろうとする。
しかし水龍に飲み込まれる直前に、札の軌道が変わる。
水龍を避けるように飛んできた札はタマヨの目の前で爆発する。
「くっっ!!!」
間一髪水龍で防ぐのが間に合うが、それでももう少しで攻撃を食らいそうになって、タマヨは歯噛みする。
「あははっ! 次々いくよぉっ!!」
くノ一は大声で笑うと、空中に何百枚も札を出現させる。それらは一斉にタマヨに向かって軌道を変えながら飛んできた。
その光景を見てタマヨの表情に焦りの色が生まれる。
次々と軌道を変えて向かって来る数百枚の札に、タマヨは水龍を使ってギリギリの所で防ぐのが精一杯だった。
圧倒的に手数が足りない。
このままでは防戦一方に回ることになり、攻撃に転じる事が出来ない。タマヨはそう思いつつあった。
「ならっ!」
タマヨは守りを捨てて刀を鞘に仕舞う。
(何かくるかなっ!)
タマヨが急に構え始めた事で、イチヨウの頭の中に警笛がなり慌てて回避行動を取る。
タマヨは札が迫り来る一瞬の間体の力を抜く。
虚脱からの抜刀。
「シッ!!」
居合抜きされた刀はそのまま水龍の形を取ると、大きな龍となって目の前に迫っていた札を飲み込み、イチヨウに向かって飛んでいく。
「っっああ!!」
回避行動をしていたイチヨウはギリギリの所で、タマヨの攻撃を躱すことが出来、そのまま一回転するとタマヨを睨む。
タマヨが放った攻撃は、目標に避けられた事でそのまま飛んでいき石の壁にぶつかって消えてしまった。
爆発と衝撃、イチヨウの爆破魔法にも劣らない攻撃が、大きな音を立てて石の塀と共に崩れて消える。
「危ない危ない。いい魔法持ってるね」
「よく避けましたね」
イチヨウは立ち上がると、まるで何でもないかのように振る舞う。
「かなりの大技だ。でもその技は隙が多すぎる。それに攻撃が直線的だし、避けるのも隙を狙って攻撃するのも簡単だね。攻略法見えたりっ」
「果たしてそうでしょうか?」
イチヨウの煽りに、タマヨは平気な様子で返すとまたしても刀を鞘に仕舞い同じ構えをする。
(またっ?)
同じ攻撃をしてくるのかと思ったイチヨウは、先に札を投げ付けてから回避行動を取る。
タマヨは同じ様に力を抜いてから抜刀すると、今度は五回刀を振るった。
そして振るわれた回数と同じ数の水龍がイチヨウに向かって飛んでいく。
さっきよりもややサイズは小さいが、それでも攻撃魔法としては十分なサイズの大きさだ。
(なるほど、あの水魔法は分散できるのか。刀を振るった数だけ水龍が出ると。でも攻撃が直線的なのは同じだろ? こんな攻撃簡単に躱せる…………、っっっ!?)
イチヨウが余裕で躱そうとしたタマヨの攻撃は、自分が放った札の攻撃と同じく、追尾機能があり直前で軌道を変えてイチヨウに向かってきた。
「くそがっ!!」
それでもイチヨウは体を器用に動かし、無傷で攻撃を躱す。どうやらイチヨウの札と違って、この水龍は完璧に追尾するわけではなく、ある一定の所までしか追尾されなかった。
それと水龍が地面に当たって爆発した事で、砂塵が上がり視界が悪くなったのも功を奏した。
そのお陰でイチヨウは攻撃を避けることが出来た。
その時イチヨウの視界の端で砂塵が揺れて、タマヨが現れる。
タマヨはイチヨウの首に向かって刀を振り下ろすが、それをイチヨウはギリギリの所で躱す。
(くそっ!)
イチヨウは距離を取って戦おうとするが、タマヨがぴったりと着いてきて離れない。
「貴方は接近戦に弱い。自慢の爆破魔法を使おうとしても、自分にも被害が及ぶから使えません。潤平君が教えてくれました」
「……余計な事を言うもんだね、あの少年はっ!!」
タマヨが近付いてきたことで、イチヨウは魔法が使えなくなり隠し持っている忍具の針をタマヨに向かって投げる。
「その武器の事も聞いています」
タマヨはあっさりとイチヨウの針を弾くと、イチヨウにぴったりと着いてくる。
やがてタマヨを引き剥がす事が出来ないと分かったイチヨウは、無理だと悟ったのか足を止める。
「……ふう、くノ一のあたしの足に着いてくるなんて、あんた立派なくノ一になれるよ」
「お断りします。その様な扇情的な格好をしたいとは思えません」
「……そうかい」
「諦めたのですか? なら貴方を捕まえます、抵抗をせずにこれ以上無駄な体力は使いたくないので」
「……いや違うね」
「ではまだ抵抗しますか?」
「……そうじゃなくて、もう終わっているんだよ」
「……何のことですか?」
チョイチョイっと、イチヨウがタマヨの足を差したので、タマヨはそちらの方に目を向ける。
そこには、タマヨの足に張り付いた札があった。
タマヨが目を見開いた瞬間、札は爆発しタマヨは爆煙と砂塵で見えなくなる。
イチヨウは札が爆発する瞬間に、タマヨから離れていて爆発を食らわなかった。
やがて煙が晴れると、そこには足が火傷し皮膚が爛れて、ドクドクと足から出血をしているタマヨが立っていた。
爆発の影響でズボンが焼け焦げてしまい目も当てられない姿になっている。
やがてタマヨは、立っている事が難しくなりその場に座り込んでしまう。
「おおっ? 思ったよりも被害が軽いね。足が吹っ飛んで無くなっているかと思ったのに。ギリギリで水魔法を使って防いだのか」
イチヨウの言うとおり、タマヨは爆発する瞬間水魔法を使って足に薄い膜を張った。
だがそれでも完全にダメージを消すことは出来ず、軽くはない怪我を負ってしまった。
「あはははっっ!! これが奥の手って奴だよっ! 最後の最後まで隠しとくもんさっ!」
イチヨウの勝ち誇った顔が物凄くムカつく。
「…………どうやって私に札を付けたのですか?」
「あん? 聞きたい? いいよ。最後に聞かせてあげる。あんたが水龍をばんばか打って、地面に当てて視界を悪くしていたろ? その隙に見えない札を地面に待機させておいて、あんたが踏んだらくっ付くように命令しといたんだよっ!」
「……そうですか」
「因みに、まだそこら辺にあるかもしれないからねっ! 迂闊に動くのは危険だよっ!」
「……もうここから動くつもりはありません」
「はっ、確かにそんな足じゃまともに歩けないよね」
「……そうゆう訳ではありません」
タマヨは刀を杖代わりにして立ち上がると、水龍を自身の周りに発動させる。
「させないよっ!」
何を狙っているのか分からないが、イチヨウはタマヨに何もさせるつもりは無いので、札をタマヨに投げ付ける。
向かってくる札に、タマヨは水龍を使って抵抗するが、これでは最初の時と同じで防戦一方になってしまう。
それを向こうも分かっている、だからイチヨウは攻撃の手を緩めなかった。
ただ勿論イチヨウにも限界はあるので、空中にだせる札の数が少なくなる。
それを補充するため一瞬攻撃の手を緩める。
タマヨはその一瞬を見逃さなかった。
自分の足下に水龍を打つと、爆発して砂塵と水が舞い上がりタマヨの姿が見えなくなる。
(どうゆうことだ……?)
イチヨウはその行動が理解出来なくて、動きを止める。
こちらからも相手の姿が見えないが、向こうもこちらの姿が見えないはずだ。
(まあいいやっ、取り敢えずそこを爆破させればいいでしょ)
そこにタマヨがいるのは分かっているのだから、イチヨウはタマヨが立っているはずの場所に札を投げ込む。
その時、タマヨがいるであろう砂塵の中心でキラリと何かが光った。
「熱っ」
イチヨウは、自身の脇腹を火傷をしたような熱さを感じて、思わず自信の脇腹を確認してしまう。
見るとそこには小さな穴が空いていた。
穴は貫通しており向こう側が見えている。
「……は」
イチヨウが呆気に取られていると、またしても砂塵の向こうで何かが光った。
今度はイチヨウにも何が起こったのかはっきりと見えた。
晴れた砂塵の隙間から、タマヨが砂塵の中で高速の突きを放っていたのだ。
それが何を意味するのか分からないが、タマヨは三回突きを放った、その回数分だけイチヨウの両腕と右足に穴が空いた。
「あっ……」
イチヨウはその場に立っているのが難しくなり、横向きに倒れ込む。
お腹からは溢れんばかりに出血し、手足には穴が空いて力が入らない。
イチヨウにはもう戦える力が無かった。
薄れゆく意識の中でイチヨウは自分が負けた事を悟った。
「確かに……、奥の手は最後まで取っておく事です」
タマヨは突きの構えから大きく体勢を崩し、地面に両手を着いて座り込んだ
楽な戦いでは無かった……。 何かが狂えばあそこに倒れていたのは自分だったかもしれない。
地面に横たわっているイチヨウを見てそう思う。
タマヨは足を引きずりながらイチヨウの元に向かう。
(まだ息はある…………)
タマヨはイチヨウの呼吸を確認すると、どっと限界がが来たのか倒れそうなりふらつく。
だがまだ終わってはいない。
鈍い音がしている方向を見ると、そこでは潤平と大柄の男が盛大に肉弾戦を繰り広げていた。
更にその奥にいるルリに目を向けると、妹は自分の姉が無事だった事が嬉しいのか、泣き笑いの顔をしていた。
妹に無事だとアイコンタクトを送ると、向こうもそれを受け取ったのかコクリと頷いてた。
その顔を見ながらタマヨはあることに遅れて気付く。
(…………力が湧いてくる…………?)
それどころか爆発によって怪我をした自身の足が治っているではないか。
タマヨは回復魔法が使えない、修得をしようとはしたが何故か人を癒すとゆう魔法がとても下手くそだった。
なので、回復系統の魔法は持っていないのだが(風邪や腹痛は治せる位の魔法はある)、何故か自分の体が完全に治療されている。
もしかしてと思い、潤平を見るが彼は未だに格闘戦をしている真っ最中だ。こちらに意識を割いている様子はない。
治療されている……?
どうして治っているのか。
思考を巡らせていると、隣のイチヨウも治療されている事に気付く。
ただ空いた穴が塞がっているだけで、完全に治療されている訳ではなかったが。
それにかなりの出血をしたのでこの女はしばらく目を覚まさないだろう。
タマヨは持っていた紐でイチヨウが逃げないように体を縛る。
これで取り敢えずのところは心配ないはずだ。
だが何故自分の体が治療されている全く分からない。
分からないから、タマヨは向こうで戦っている潤平に向かって祈り出す。
(頑張れっ……、潤平君っ)
タマヨの必死の祈りは果たして届くのか。
それは祈られ神様にしか分からなかった。




