第六十四話 正解の道
潤平はすぐに立ち上がり、自分が飛び降りた窓を確認する。
窓は爆発の衝撃で割れていたが、建物自体にはそれ程被害はなかった。
取り敢えずタマヨ達が、直接の爆発の被害に遭わなかったことにホッとする。
しかし怪我はしてるかもしれないので油断は出来ない。
まああそこにはピー男爵もいるし何かあっても、怪我は治せるでしょう。
あ~いや、魔力が残り少なかったからあんまり慢心はできないか?
まぁ、ミオリさんもいるしフミさんもいるし、回復役には困らないでしょ。
それよりも…………。
潤平は目の前に転がっている兵士に扮したくノ一を見る。
「いったあぁぁ~~~っ!! 女性を窓から投げるなんて紳士がやることじゃないよ!? 普通!」
「お前を女だとは思わない。見てくれは確かに良いかもしれないが、中身が許せん」
「あっ、外見がいいのは認めるんだ~」
潤平はくノ一から決して目を離さない。
こいつは爆発魔法を得意とする、今までそれで何度苦渋を飲まされてきたか。この女はここで絶対に捕まえる。
「いやーまさかこれも見破られるとは、もう君の前では迂闊に歩けないね」
「お前を特に警戒してたお陰だ」
「おっ? 何それお姉さんを特別扱いか?」
「………………」
こいつと喋るのは腹が立つからあまり喋らないことにする。
右手に槍を出して、左手に火球出現させて手の周りでビュンビュンと回して待機させておく。
いつでも奴に攻撃を出来るようにしておくためだ。
幸いにも爆発を聞きつけた、第二師団の兵士達が中庭に意識を向けていて注目が集まっている。
そして上級兵長や勘のいい兵士が潤平を見つけて、中庭に来ようとしていた。
こいつはワドウみたいに、逃げるスキルを持ってない筈だからこれだけの兵士に囲まれたら逃げれる保証はないはずだ。
…………………………待てよ? ワドウみたいな逃げれるスキル?
潤平があることに気付いて深い思考に入った瞬間。
「じゅんべいぐんっっっ!!!!」
窓からミオリさんが潤平に向かって大声で叫んだ。
その声は悲壮に満ちており、何か混じっておるのか少し濁点が多かった。
潤平は、ミオリが身を乗り出して叫んだ方を確認しようとした瞬間、視界の端に信じられないモノが映った。
「よおう」
ルリを腕に捕まえて、彼女の頬に小刀を突きつけたワドウだった。
潤平はその光景を正面に見据えると、何かがキレて左手に出していた火球の出力が増した。
それは地面を焦がし、太陽が沈みかけている辺りの景色をごうごうと灼熱色に照らしていた。火球の影響で地面が硝子状になっている。
潤平は目の前にいるこの男から、どうやって自分の主を救い出すか煮え滾る頭で必死に考えていた。
周りの兵士達も、強すぎる潤平の魔法の影響に近寄れずにおり、どうすることも出来なかった。
「…………ちょっと刺激しすぎたんじゃない?」
「…………俺はただ言われた通りにしただけだ」
目の前の潤平の溶岩の塊のような憤怒の姿を見たら、流にイチヨウとワドウも少し焦りだしていた。
「……ちょっと~これじゃ少年に話しが通じないじゃないか~、責任取って君が少年に話しなよ」
「……ちっ! おいサムライ野郎! お前の大事なご主人様が傷付けられたくなかったら黙って言うことを聞けっ!!」
「おお~! ワドウ君言うことが一端の悪党みたいだよっ!」
「…………いや俺は盗賊だが」
「よっ、流石の悪党」
「…………うるせぇなお前…………」
「じゅん……ぺ……さん」
ワドウに捕まり小刀を突きつけられ、苦しそうにルリが呟く。
「おらっ、お前の魔法で苦しいってよっ」
その上ルリの首根っこを掴み、自分達がいる場所よりも前にルリを突き出した。
「……うっ……ああっ……」
ワドウに首を締められてることと、潤平の火球が熱いのかルリが苦しそうに呻いた。
潤平はその姿を見て急速に頭が冷めていくのを感じ、待機させておいた火球を停止させる。
「どーうどう。ようやく会話できるようになったか」
「…………………………黙れ。お前らは全員ぶっ飛ばす」
「あそう、それよりもいい話があるんだが聞かないか?」
「……………………」
「沈黙は了解って事だな。何簡単な話だ、このお嬢ちゃんを人質にする。もし返して欲しけりゃ俺らがナオイエを殺すのを見逃せ」
「……………………ふざけるなっ」
「断るって事か? ならこのお嬢ちゃんの命はないな。首辺りに刀を刺して俺が転移でそこら辺に捨てておいてやる。何気にするな、俺の小刀には猛毒が塗ってある。お前も食らったやつさ、この嬢ちゃんは人知れず暗いところで一人寂しく苦しんで死ぬだろうよ。それでもいいのか?」
「……………………よく喋る奴だ」
「おうよ! ち!な!み!に! 周りで俺らの様子を覗っている第二師団の兵士諸君! 変な気は起こすなよ? お前らが俺を攻撃するよりも俺は早く動ける。その時はこの嬢ちゃんの最後の瞬間だと思え。明日には裸でぼろ雑巾のように転がっているぜ」
ワドウの言葉を聞いて、周りで様子を覗っていた兵士達が、いつ注意を引こうか作戦を立てていたが、ワドウの言葉で動きが鈍くなった。
「……わあ~、凄い悪役ッぷりだ~。因みに私は一応女性だからね~そんなことはしないからね~、この人とは関係ありませんからね~」
…………ルリさんを助けてナオイエが殺されるのを黙って見ているか。ルリさんが殺されるのを黙っておいて見てナオイエを助けるか。
周りの第二師団の兵士は悩み抜く。
しかし潤平の心は決まっている。
あの時彼女と、彼女達姉妹が助けを求めてきた時から俺は決めている。
「……分かった。ナオイエを殺せ」
「…………ほ~う?」
「この国に取っては大事な人材らしいが、俺にとっちゃどうでもいい。ルリさんの方が大事だ」
「それでいいんだな? お前の意見がこの場での総意だな?」
「あ」
「待ちなさい」
潤平が承諾しようとした瞬間、後ろからタマヨが声を掛ける。
潤平が振り向くと、いつものタマヨの服装にべったりと血が付いていた。
出血の箇所を見るとどうやら、腹から出ていたみたいでその辺りが赤黒く染まっていた。
傷自体はもう回復魔法で治っているのか、タマヨは平然と歩いて来ている。
「もしその話を受けたとして、人質は今この場で返してくれるの? それに貴方達が約束を守るとゆう保証はどこにあるの?」
「おう? 約束はちゃんと守るぜ?」
「その保証がどこにあるの」
「そうだな~、本当はそこのサムライを引き出すつもりだったんだけど、まあいいか。この嬢ちゃんを解放するのはナオイエの屋敷でだ。俺らはそこで待ってる、あんたが派遣した兵士は引かせろ邪魔だからな。それと来るのはサムライ野郎とあんただ」
「条件が増えてないかしら?」
「そんなもんだろう。飲めないなら別にいいぜ、交渉は決裂だ」
「………………………………分かったわ、それでいいわ」
「おしっ なら今から一時間後、ナオイエの屋敷に来いや、そこで待ってるからよ」
「お……ねえ……さま」
「待っていてルリ。すぐに助けるから」
「んじゃ待ってるからな、サムライ野郎」
「じゃあね~」
その言葉を最後にワドウとくノ一はこの場から消えた。
潤平から大切なモノを奪っていって。
「潤平君、すぐに準備……」
「タマヨさん、すいません一旦ちょっと待って貰ってもいいですか?」
「……? どうしたの?」
潤平はタマヨの言葉を途中で遮ると地面に手をつく。
そのまま頭を地面に思いっ切り振り下ろした。
地面はゴバンッと音を立てて大きくひび割れると、辺りに砂埃が立ち込める。
そしてそんな行動をした潤平は頭が地面にめり込んだまま動かなかった。
……………………俺は馬鹿だ。
くノ一の事に気をとられてワドウの事が頭から抜けていた。
タマヨさんにあれだけ目を離すなと言われたのに、俺がその場から離れたら意味ないだろうがっ!
何で俺はもっと考えて行動しなかったんだっ!
「……潤平君?」
潤平の突然の奇行にタマヨは心配になり声を掛ける。
潤平は頭を地面から引き抜くと頭に石と砂がくっついてきていて、頭を軽く振ってそれを払った。
頭を上げた潤平は額が割れて出血していた。
「すいません、落ち着きました」
額から血を流している潤平の顔を見て、タマヨは優しく微笑んだ。
「額から血が出てるわよ? 拭いてあげる」
半分血に染まった着物で潤平の額を拭いてあげるタマヨ。
たが、それに対して潤平は慌てて断ろうとする。
「えっ、そんな! いいですよ!」
「いいの、どうせ血に染まっているんですもの、今更増えた所で何も変わらないわ」
少しの間そうした時間が続くと、二人の元に上級兵長達が寄ってくる。
そして遅れてミオリも駆け付けてきた。
「団長、ルリ様の元に向かいましょう」
「少し待って、武器も手放しているし、何より奴等がルリを人質に取った位で終わるわけがないわ」
「…………都への襲撃」
ポツリと潤平が呟く。
「……そう。情報では彼等は都への襲撃が本命の筈。ならばそちらに意識を向けるのも必要です。私と潤平君がルリを救いますから。貴方達には部下への警戒を促して欲しいのです。ミオリとピー男爵もそちらに加わって下さい」
「駄目だっ、私達はタマヨと潤平君に着いていく。もし何かあった時のために保険は必要だっ」
「そうです! 最悪我々は戻れなくてもいいから! 団長とルリ様だけでも逃げなければいけませんっ!」
「いいえ。これから奴等が大きく動くことを考えると、少しでも戦力と回復要員をこちら側に回してはなりません」
「タマヨとルリは御三家の人間なんだよっ!? 君等がいなくなったら意味が無いじゃないか!?」
「……私達がいなくてもアズマの民がいればそれで十分です。もし彼等の手によって大勢の民が死んだら、それこそ意味がありません。私達御三家と第二師団は彼等がいるからこそ成り立っているのです。そこを勘違いしてはいけません」
タマヨの迫力にミオリだけでなく、第二師団の兵士も黙り込んでしまう。
それだけ今のタマヨは気高く貞淑に見えた。
「それに私達二人が死んでもまだ残っています。お父様が何処かでまだ生きている限り、私達御三家の血は続いていくのです。それでも私が死んだらお父様の捜索はミオリが引き継いで下さい」
「……何言ってるんだタマヨ……」
「第三二第 第二師団団長! カグラザカタマヨが命ずっ! 我が命果てたとき! シンドウミオリがその名を引き継ぎ宝玉である兵士達を導きなさいっ!!」
「……………………っ!!」
「これは団長命令です」
「………………っぅぅ!! ……拝命……しましたっ」
「大丈夫。となりには彼がいます。彼が私達姉妹をきっと救ってくれます」
タマヨが潤平に向かって手の平を向けると、皆が潤平の方を見る。
そして注目が集まった潤平は一瞬瞑目すると………………。
「俺の全てを掛けてタマヨさんとルリさんを無事に連れて帰ると約束します」
そう皆の前で告げた。
「私達も無事に帰りますけども、貴方達も無事に帰ってきて下さいね。民も救うのも勿論ですが貴方達が無事に帰ってくるのも、約束ですからね?」
「……随分無茶を言うんだね……」
ミオリの発言に場が和んだ雰囲気になる。
「皆頑張って下さい」
タマヨの言葉に兵士達に気合いが入る。
しかしタマヨと兵士達に気合いが入る中、潤平だけがただ一人ずっと暗い顔をしていた。




