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異世界、遺します ~天涯孤独となった俺に亡き祖父母が『異世界』を遺してくれた~  作者: 鏑右いなだ


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第六十二話 無くてはならない魔法

 頭の中は物凄い耳鳴りがなっている。

 周りにはもうもうと煙が立ちこめていて、呼吸をするのも一苦労だ。


「……げほっごほっ!」


 潤平が呼吸をしようとすると、煙が肺に入り咽せてしまう。

 ようやく耳鳴りが治まり視界も少し晴れてくると、見えてきたのは爆発によって悲惨な状況になった第三師団だった。

 やがて完全に聴覚が戻ってくると、聞こえてくるのは兵士達の悲鳴と怒声。

 それが第三師団のあちらこちらから聞こえてくる。


「…………ばくはつ……、これは……もしかしてくノ一か……」


 まだちゃんと働かない頭を使い、この爆発の原因がくノ一の爆破魔法によるものだと推測する。


「……らん…………せいさんは……? そうだ、ランセイさんは!?」


 爆発の直前、空中に投げ出されて上手くキャッチした第三師団の団長の存在を思い出す。

 

 そのランセイはしっかりと潤平が守っており、爆発による影響は少なく見えた。

 しかし潤平の体には血が付いており、それがランセイさんの右肩から出血しているものによるものだと分かるまで少し時間を要した。


「……出血っ!? 肩から!? 回復魔法を、痛っっ!?」


 回復魔法をかけようとしたら、左肩に鋭い痛みが走り痛んだ箇所を見る。そこには爆発の影響で飛んできた木片が深々と刺さっており、その影響で潤平の背中からも出血していた。

 どうやらランセイさんを庇った時に刺さったみたいで、どうしようもなかった。


「っっっぐうっぁ!!!」


 潤平はその木片を力任せに抜くとそこらへんに投げ捨てる。

 

 それよりも……。

 


 潤平は自分の回復よりもランセイさんの回復を優先する。

 見れば彼の顔色がどんどんと悪くなるので、早く治療してあげなければいけないと感じた。


 彼の額に手をかざして回復魔法をかける。

 ゆっくりと右肩の傷が塞がっていくのが分かる。

 これで一先ずは安心かと思われたが、傷が塞がっても尚ランセイの顔色が一向に良くならない。

 潤平の回復魔法は中級なので、完全に回復した訳ではなく痛みは残るが、ここまで顔色が悪くなる事はなかった。


 どうして一向に顔色が良くならないのかと思ったが、潤平はここで一つの考えが浮かぶ。

 

 もしくノ一だけではなく、今回の襲撃がワドウもいたのならば、きっと奴は小刀に毒を塗っている。

 そのワドウがランセイさんに傷を付けたとすれば、ランセイさんの体には今毒が回っている筈だ。

 ならば今の潤平にはどうすることも出来ない。


 解毒魔法を使えない潤平には、ランセイさんの体にある毒を解毒する方法はない。

 だがそれは過去の話。


 潤平は周りをキョロキョロと見渡して、誰にも見られていない事を確認すると急いで魔法創造のスキルを使う。

 そして頭の中で魔法を思い描くと、やがて魔力が抜かれて解毒魔法が作られたと感じる。


 中級魔法で作れるか不安だったが、結果は上手く行った。

 上を見上げれば、何もない空間からチョコボールが落ちてきて、潤平はそれをキャッチすると急いで口に入れる。


 確認する事もせず、片手に解毒魔法を発動すると急いでランセイさんの頭にかざす。

 ゆっくりと解毒魔法が効いていき、ランセイさんの顔色が徐々に良くなっていくのが分かった。


 中級魔法で。ワドウの調合した毒が解毒できるか不安だったが、上手く解毒出来たようで一安心する。

 ランセイはまだ体に痛みが残っているようで、少し呻いていたが毒は一先ずは無くなったので、ここから移動しようと考える。

 火の手が近くなってきたので、ここから離れようとランセイさんを背中に背負う。


 ちょっと潤平の背中で背負うのは苦労したが、何とか担ぎ出して門の方に歩いて行く。

 

 瓦礫を避けて門まで歩いていくと、門の外は負傷者の緊急避難場所になっており、第三の兵士が門を出たところに負傷者を運び出していた。


「少年っ! 無事だったか! いきなり走り出して驚いたぞっ!」


 潤平を見つけて声を掛けてきたのは、先程門の前で会った第三師団の上級兵長であり、爆発によって負傷した怪我人や動けない人の誘導をしていた。


「助かりました……」


「ん……? …………背中に背負っているのは怪我人だな?」


「それなんですが…………、ランセイさんです…………」


「…………なに?」


「……窓から飛び出してきたのがランセイだったので、地面に落とさないように必死になって掴みました……」


「何だとっ!? あの時飛び出してきたのがランセイ様だったのか!?」


「……取り敢えず、回付魔法で傷は塞ぎましたが、中級魔法でなのでまだ痛みが残っていると思います。それと毒も食らっていましたが解毒魔法で治療しときました。万が一毒が治っていなかったら危ないので、上級の回復魔法を使える人を呼んできて貰ってもいいですか?」


「……運が良かったな、私は上級の回復魔法を使える」


「…………あっ、良かったです……。それならランセイさんをお願いします……」


「分かった。おいっ誰かっ! 手を貸してくれ! ランセイ様を安全な所に運びたい! ……少年はどうするのだ? 手が空いているのなら回復魔法を使って、負傷者を治して欲しいのだが……」


「……あっ、分かりました……。手伝います……」


「助かる」


 そうして潤平は第三師団の上級兵長と共に、負傷した兵士を回復魔法で片っ端から回復して周るのだった。



 

「……何なのにゃこれ?」


 第三師団の門の前で負傷してる兵士に片っ端から、回復魔法を掛けている潤平に向かってピー男爵が一言呟く。


「あっピー男爵来たんだね。いいところに来たよ 手伝ってくれない?」


「……手伝うのはいいんだけど、何で第三師団がこんな事になっているのにゃ」


 爆発によって半壊してる第三師団の建物を眺めて、ピー男爵が疑問に思っている。


「あいつらだよ、あいつらが襲撃してきたんだ。間違いない爆破魔法と毒による攻撃、あいつら以外にこんなことが出来るのはいないでしょ」


「にゃあ、てことはやっぱりランセイが襲撃されたのかにゃ?」


「うん」


「そのランセイはどこだにゃ?」


「刺し傷と毒を食らってたから、回復魔法と解毒魔法を掛けて、第三の兵士に引き渡したよ。回復魔法が間に合ったから大丈夫だと思うよ」


「そうだっだのかにゃ。…………ん? 潤平って解毒魔法を持ってなかったよにゃ? …………まさかまた作ったのかにゃ?」


「……そう、はあーっ、連日のように魔法を作れたのはいいんだけど、俺が作りたい、使いたい魔法とは違う方向なんだよなー。もっとクールな魔法を使いたんだけど……」


「いいじゃないかにゃ、あって困るものじゃないんだから。それにこの先世界を旅するのなら、絶対に必要になってくると思うのにゃ」


「まあそうだよね。絶対にあって困らないものだろうし、腐る魔法じゃないからね。取り敢えず最近はこの二つが物凄く役に立ってるし有り難いとは思うよ」


「そうだにゃ。この一連の魔法は使える人も限られるし、需要は高い魔法だがら皆の役に立つにゃ」


 潤平とピー男爵は運ばれてくる負傷者を片手間に治療しながら、会話を続けている。

 

 やがて一時間もすれば現場も落ち着いてきて、負傷者も少なくなり皆建物の瓦礫の撤去や、火の後始末と修復と後片付けを始めていた。


 しまったっ。

 そう言えば、テッケツさんの壊れた屋敷や工房をそのままにしてきちゃったな…………。

 俺が壊れて箇所を修復魔法で修復すれば、もっと楽に終わったのに。

 治してから来れば良かったな。


 第三の兵士が、壊れた建物の修復を始めているのを見て潤平はそう思った。

 

 だが、今この場で修復魔法を使う真似はしない。

 使ったら面倒くさい事になるし、説明も出来ないからだ。

 それにルリとタマヨとの約束で、あまり大袈裟な魔法は使わない約束をしてるから使わない。


「うんにゃー、今治療した人で取り敢えず終わりかにゃ? しっかし折角魔力を回復してから駆け付けたとゆうのに、またしてもかなり使ってしまったのにゃ……」


「お疲れー、取り敢えず頭に乗っとく?」


「いや大丈夫にゃ、そこまで疲れてる訳じゃないにゃ」


 二人は背伸びをしながら、ひと仕事終わった事を讃えあう。


「少年」


「あ、さっきの上級兵長さん、ランセイ様は回復しましたか?」


 潤平とピー男爵がリラックスしている合間に、先程門の前で会った上級兵長が潤平に話し掛けてきた。


「ああ、取り敢えずランセイ様の治療は済んだ。今は意識が戻って我々に指示を出している。それでランセイ様が少年に会いたいと言っているのだが一緒に来てくれないか?」


「……俺に?」



 潤平とピー男爵は、第三師団の上級兵長に連れられ、爆破された建物とは違う建物に入っていく。

 やがてある部屋の前で止まると、上級兵長はその部屋の扉を開けて入っていく。部屋の上には医療室と書いてあった。


「失礼します。少年を連れてきました」


 中に入ると、ベッドの上にランセイさんが静かに寝かされていたが、意識はあるようでこちらに顔を向けてきた。


「済まない。連れてきてくれて感謝する」


「いえ」


 そのまま上級兵長が後ろに控えると、ランセイはただ黙って潤平を見詰めていた。


「?」


「……………………少年よ、潤平君と言ったかな……? 命を助けてくれて感謝する…………。ありがとう……」


「ええ、どうも……」


「…………夢現に微かに覚えているよ、……私が毒に苦しんでいる時君が必死になって、私を治療してくれた事を。…………そして窓から投げ出された私を救ってくれたことも…………、爆発から身を呈して守ってくれたことも…………。……ありがとう……」

  

「ランセイさんが回復して良かったです。…………それで何ですけども今話せる気分ですか?」


「…………奴らの事だろう?」


「…………はい。やっぱりワドウとくノ一が襲撃しに来ましたか?」


「…………そうだ」


 やっぱり奴らか…………。


 ランセイは一度視線窓の外に向けると、衝撃の事実を話す。


「…………それよりも先に君に話したい事がある」


「? ……それは何でしょう」


「…………この一連の貴族殺しの事件についてだ……」


 どうやらランセイもこの事件の真相に気付いたようで、独自に自分の部下と調べていたそうだ。


「……それはミツナリさんが作った例の会の事ですか?」


「…………気付いたのか」


「はい。ここに来る前に気付いてテッケツさんの所に行ったら、賊に襲われている所だったので賊を殲滅しました。そしてそこでテッケツさんに、ランセイがその会に所属していたと聞いて、急いでここに駆け付けたとゆう訳です」


「…………そうか、それは運が良かったな……。…………だが事件の真相はもっと別のところにある…………」


 もっと別のところ…………?


「それは何でしょうか?」


「……成績順だよ。ミツナリ様が自分を含めてその年で活躍した者を、成績順に決めた者達が……、……今回の事件の被害者だ……」


 テッケツから新たに聞かされた事件の真相に、潤平はこの事件が更に悲惨さを増していく、そんな予感がしていた。





 

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