第六十一話 ファインプレー
「本当に私達一同の命を救って貰っていただき、感謝の言葉を申し上げます」
テッケツは頭をこれでもかと下げて、潤平とピー男爵にお礼の言葉を述べる。
見れば後ろの男性従業員と職人さんが、同じ様に頭を下げていた。
もう何度目か分からない感謝の言葉に、二人は居心地が悪くなってくる。
「いいのにゃ、間に合って良かったのにゃ」
「そうですよ、テッケツさん達が無事で本当に良かったです」
いい加減感謝されるのも辛くなってきたので、ここら辺で一旦終わりにしたい……。
「しかしわたし達が襲われている所に来るなんて、これは偶然でしょうか? それともウノハタノカミのお導きでしょうか?」
そう言えば、襲撃者を殲滅するのに夢中で、テッケツさんの工房に尋ねに来た本来の目的を忘れていた。
「その事なんですけど、テッケツさんに尋ねたい事があって参りました」
「私に?」
「はい。ルリさんのお祖父さんが作った会の事を詳しく聞きたいのですが」
「ミツナリ様の会の事と言われると……、献心会の事ですかな? ……まさかその会の話題が潤平殿の口から出るとは驚きましたな」
「その会の詳しい事と、加入していた人物を聞きたいのですが…………」
潤平はここに来ることとなった理由と、カントウさんから聞いた情報をテッケツさんに話していく。
「…………なのでその話をカントウさんから聞いた時、次の標的になるのはテッケツさんかもしれないと、俺とミオリさんは気付いてここに急いできた訳なんです」
「……なるほど。偶然では無かった訳なんですね。……それにしてもカントウが喋った内容で、私達の命が救われるとは、これまた面白い話しですな」
テッケツさんは、旧友のカントウさんを思い出したのか、嬉し恥ずかしそうに少しはにかんでいた。
「それで、そのケンシンカイ? について聞かせて貰えると助かるのですが……」
「……献心会。心を国に献げる、当時国中に名を轟かせていた若い頃のミツナリ様が、同じ様に若く有望な人物を探して集め作った会だと聞いています。若い頃のわたしは勿論、亡くなられた貴族の当主達、それと今第三師団の団長を務めているランセイさんも所属していました」
「えっ! ランセイさんもいたんですか!?」
「はい。当時若く将来のアズマを背負っていきそうな人物は、その殆どが会に入っていたと思います。そうですね……、ナオイエ様も顔を出すのは少なかったのですが、所属はしていたらしいですね」
「…………ナオイエ様って御三家の当主の人ですか?」
「はい、そのナオイエ様で間違いありません」
「……後の御三家の当主が二人も所属していたとなると、相当大きな会だったんじゃないですか?」
「そうです。最盛期には五百人近く人がいたと言われていましたから。当時その会に呼ばれた者は、ミツナリ様に選ばれた者なので私はその会に所属しているのが、とても誇らしかったのを覚えています。カントウの奴も意地を張らずに素直に入っていれば、もう少し面白かったでしょうに……」
「…………もう一人の御三家の人は入っていなかったのですか?」
「…………あの方は入らないと思います」
「どうしてですか?」
「……それはあの方、キクナガ様はミツナリ様に対して物凄いライバル心を持っていたからですな。当時ミツナリ様とキクナガ様はどちらも双方をライバル視していたので、その会に誘われていたとしても断ったでしょうな」
「……ライバル視ですか」
「……仲が悪いとかではないのですが、何をするにも常に張り合うとゆうか、キクナガ様が常に噛み付くとゆうか、ミツナリ様はそれを楽しんでもいる様子でしたし、険悪な仲ではなかったと思いますな」
「……そうですか」
これは一応ミツナリのライバルだから、その孫であるルリさん達を恨んでいるとかはないのか?
険悪な雰囲気じゃないらしいし、ルリさん達を貶めている主犯だと思ったけど、話を聞く限りそうでもないな……。
てか、キクナガってナオイエが屋敷に訪ねてきた時、もうまともに歩けず隠居するって言ってなかったか?
まあ人を使えば幾らでも工作行為は出来るけど、テッケツさんの話しを聞く限りそう思えないんだよな…………。
「……カントウさんは断ったと聞きましたが、他にも断った方はいたのですか?」
「勿論。カントウみたいに尖った奴が大勢おりましたな。今はもう亡くなった者もおりますが、まだ城の中枢で働いている者もおります」
「なるほど、それで襲われた人達なんですけど、テッケツさんも含め何故当主の方達が襲われたか、テッケツさんは心当たりがないですか? ……すいません俺がこんな捜査の真似事をして偉そうに……」
「ははっ大丈夫ですなっ。……そうですな心当たりと言われましても…………、すぐに思い付きそうな事は特には…………」
「何かきっとある筈なんです。でなければ今まで貴族の当主を狙って襲っていたのが、何故急にテッケツさんを襲うようになったのか説明が付きません。奴らが襲ってくるのは何か理由がある筈なんです」
「う~ん、私が襲われる理由ですな……。こんな偏屈な老いぼれ職人を襲う理由なんて、特にあるわけもない気がしますが…………」
「…………そうですか」
そこで会話が止まってしまったので、潤平とテッケツは一旦お茶を飲んで喉を潤した。
折角だからと命を救って貰ったお礼にと、マヒロさんが普段よりも高いお茶を出してくれて、それに伴うお菓子とお手製の漬け物もどんどん持ってきてくれた。
尚ピー男爵は、潤平とテッケツが会話している間中ずっと、お菓子と漬け物とお茶を三角食べしていたので、お腹が一杯になりぴふーっと息を吐いて座布団の上で横になっていた。
彼の言い分によれば、消費した魔力を回復させるために頑張って詰め込んだ…………らしい。
そんな彼が、今まで黙っていたピー男爵が、一つ気になった事があったのか口を開いた。
「…………さっき、げぷっ、ランセイも所属しているってテッケツは言っていたよにゃ?」
「……そうですな」
「……言っていたね」
「ここは襲われた。けど潤平が襲撃者は返り討ちにしたにゃ。なら次に襲われるのはランセイの所なんじゃないかにゃ?」
…………………………。
「……まさか……」
「……だってランセイさんがいるのは、第三師団のど真ん中だよ…………? そう簡単に襲われるわけなくない…………?」
「でもあいつらは、てゆーかあいつ一人だけどにゃ、転移のスキルを持っているにゃ。それがいきなり襲ってきたら、幾ら第三師団の兵士でも防ぐのは難しいんじゃないかにゃ?」
………………ごもっとも。
ピー男爵の発言が的を得ていて、この部屋にいる人間は全員黙ってしまう。
「…………なら早く第三師団に情報を伝えないと!!」
潤平はその場から勢い良く立ち上がり、急いで第三師団に向かおうとする。
「……ちょっと!? ピー男爵早く行かないとっ! いつものように頭の上に乗りなよっ!」
「やっちまったのにゃ…………、食い過ぎて腹がパンパンで動けないのにゃ…………」
「…………そんな事あるっ!? 嘘でしょっ!? これから沢山怪我人が出るかもしれないってのに、腹がパンパンで動けないのっ!?」
「…………僕はもう戦力にならないのにゃ…………、だから置いていくのにゃ…………、どの道魔力が回復しきってないから無理なのにゃ……」
「……やばいっやばいっ!!」
「…………動けるようになったら急いで向かうのにゃ…………。それまで潤平が頑張るのにゃ…………」
「~~~っっ!! 分かった! 急いで追ってきてねっ! カントウさんすいませんっ。ピー男爵を頼みます! それと二回目の襲撃はないと思いますが用心はして下さい! 何かあったら第二師団に逃げ込んで下さいっ!」
「分かりましたっ! 潤平殿も十分気を付けてっ! 何か思い出した事があったらピー殿に伝えますので!!」
その言葉を聞いて、潤平はテッケツの工房から飛び出すように出て行く。
途中すれ違った職人さんや従業員さん達が話し掛けてきたが、急いでいるのでそれらしい言葉を言ってその場を急いで離れた。
(確か……、第三師団は反対の方向だったよなっ)
以前訪ねた時の記憶を頼りに第三師団の場所を思い出す。
第三師団は、今潤平がいるテッケツの工房がある商業区から向かって左側にある。反対の右側にあるのが第二師団なので直線道路を走って左側に行けばいいのだ。
走り出す。
人の合間を縫ってなるべくなるべく目立たないように、急いで第三師団に向かう。
途中第二師団の兵士を見掛けたが、今説明してる暇はないので気にせずに駆け出した。
第三師団まで直線距離で数百メートルまで近付くと、道路にも第三師団の兵士を見掛けるようになり、目的の場所まで近いのが分かった。
ジャリジャリジャリジャリッ、と急ブレーキをかけた事によって砂と砂利が勢い良く飛んでいく。
目の前に目的の第三師団の大きな門が見えた。
潤平はまだ何も起きてない事が確認出来ると一安心して膝に手をつく。
呼吸をすぐに呼吸を整えて、門から建物の中に入ろうとしたが、そう言えばどうやって説明して中に入ればいいのだろうと首を捻る。
いきなり行って説明しても聞いてくれる訳ないし、最悪捕まってしまうかもしれない。
それに知り合いをいるわけでもないし、どうすれば中に入れるんだろう……。
こんな時、ミオリさんやピー男爵がいればなー、楽に中に入れるだろうに、どうしようかなー。
「こんな所で何してる? 少年?」
後ろから掛けられた声に振り向くと、そこに立っていたのは、前に第二師団の死体の解剖の時に一緒に同行した第三師団の上級兵長だった。
おまけにもう一人あの時と同じ兵士も横にいた。
「良かったぁ! 今ランセイさんに大事な情報を話そうとしてたんですけど、中に入れなくて困ってたんですっ」
「……ランセイ様に?」
「はいっ、貴族殺しとワドウの事について重要な情報が………………」
ガラシャァーーーッン!!!
その時、四階の一番端の部屋の窓が割れて何かが飛び出してくる。
潤平と上級兵長は大きな音立ててガラスが割れた事で、そちらに意識を向ける事になり、思わずそちらの方を見上げる。
潤平の目に飛び込んできたのは、窓が割れて何かが飛び出してくる様子で、潤平はそれが人間だと分かると急いで駆け出した。
……不味いっ!!
他の人達には確認出来たのか分からないが、潤平の目には確かにランセイさんが空中に投げ出されるのが見えた。
あのままあの高さから地面に落ちたらとんでもない事になる。
そう思った潤平はランセイさんの落下地点まで走ると、彼が地面に叩きつけられる前に、彼の事を受け止める。
若干中年太りの人を受け止めるのは難しかったが、それでも彼を地面に落とさずに上手く受け止められたのはこの体のお陰だと言える。
「ラ」
ドオオオーーーーッッッッン!!
ランセイさんの状態を確認しようと、彼の名前を呼ぼうと瞬間、ランセイさんが飛び出してきた部屋が大爆発を起こした。
潤平は、爆発の衝撃と瓦礫に晒されまいと必死に自分の身とランセイさんの身を守った。
しばらくして爆発が収まると、第三師団は静寂に包まれそして建物が燃える音と兵士達の悲鳴と怒声が混じることになる。
潤平は爆煙と土埃に巻き込まれながらも、必死にランセイさんを離すまいと踏ん張っていた。




