第六十話 二度目の邂逅
「取り敢えずこいつの情報は、鑑定魔法で覗けばいいと思うんだ」
「うんにゃ」
「で。思い付いたのが他人の記憶を辿る魔法を作ればいいと思ったんだけど駄目かな?」
「…………うんにゃ。それは流石に危ないと思うにゃ」
「……やっぱり駄目?」
「うんにゃ、他人の記憶を覗くのは色々とまずい気がするのにゃ。例えばルリちーがそれを聞いて決して自分に使われないと知っても、安心は出来ないと思うのにゃ。ならまだ自白させる魔法とかの方がいいにゃ」
「……自白させる魔法かー、作れるかなー?」
「じゃあ素直に質問に答える魔法はどうかにゃ?」
「ああっ、それならいいかも何とか作れそうな気がする」
「じゃあ取り敢えずこいつの情報を見るのにゃ。ついでに僕にも共有するのにゃ」
「分かった分かった。はい」
目の前に縛られている賊に鑑定魔法をかけると、その魔法で羅列された情報が、潤平とピー男爵の目の前に現れる。
名前はムシリ、年齢、体重、身長を無視していき、こいつの半生も流し読み。
どうやらこいつは、都外に巣くっていた盗賊団の一つの中の頭を務めていたらしい。
ある程度情報が見れたので一旦鑑定魔法を閉じる。
そして聞かれた質問に何でも答えてしまう魔法を作る。
頭の中で思い描き、名前は自白魔法(仮)と名付けた。
ん?
今回の魔法はいつもよりも多めに魔力が抜かれた感覚がした。
体感で二割くらい抜かれたのだろうか。
そんなことを気にしながら上を見上げると、またしても何もない空中からチョコボールが落ちてきて、潤平はそれをキャッチすると口に放り込む。
甘いチョコボールの味を楽しむと、口の中にチョコボールが溶けて消える。
これで魔法は覚えた筈だ。
そう思って縛られている賊を見据える。
「ではこれから貴方に質問する」
「………………」
「何故貴方はテッケツさんを襲ったのか」
「依頼された仕事だからだ。…………っ!?」
喋るつもりでは無いはずなのに、勝手に口が動いて喋ってしまった事に賊は驚いている。
「それは誰に依頼された?」
「分からない。顔は観ていない、女を通して依頼された。…………くそがっ!! ふざけんなっ!!」
「その女性の特徴は?」
「黒髪の長髪の女で、生気のない顔をしていた。…………っざけんじゃねえっ!! この鎖を外せっ!! てめぇらぶっ殺してやるっ!!」
「そうすか」
てっきり、女って言ったからあのくノ一の事を想像していたけどどうも違うみたいだ。って事はだ、もしかしてくノ一は他に複数人いるのか?
「テッケツさんだけが標的なら、本人だけを狙えばいい筈なのに、何故周りの人も巻き込んでいるのか。普通目撃者っていない方がいいだろ? どうして?」
「それは以来内容に含まれているからだ。出来るだけ騒ぎを大きくしろと、それを楽しんで出来る奴がこの以来を請け負っている。…………ざけんなっ! ざけんなっ! ざけんなっ! 俺を殺せっ!」
「どう思う? ピー男爵、何故騒ぎを大きくする必要があるんだ?」
「それは陽動だからじゃないかにゃ。そっちを目立たせておいて本当の目的は別にあるんじゃないかにゃ」
「キミ達の本来の目的って何?」
「それは時が来たら、この都で大きな騒ぎを起こすことだ。報酬はその時奪った金品になっている。……………………くそぉっ! 俺は終わりだっこんなデタラメな奴がいるなんて聞いてねぇぞぉっ、ワドウの野郎嵌めやがったなっ!」
「なるほど、ワドウの名前が出たって事は奴も繋がっているんだな。って事はやっぱりワドウもくノ一も一つの組織か」
「彼等を率いているのは誰なんだろうにゃ」
「ん~もっと知ってそうな奴を捕まえられたらいいんだけど、それこそワドウとかくノ一とか」
「他に重要な情報を知ってそうな人物は知らないのかにゃ?」
「いやー思い当たらないね。ワドウ達は更に警戒してるだろうし、…………そうだ、ねえおじさん。重要な情報を知ってそうな…………ひと………………を」
「よう」
潤平とピー男爵が振り向いたと同時に、捕まって縛られていた男の首が地面にゴトリと落ちる。
そして首から上が無くなった男の背後にワドウが音も無く立っていた。
時間にすれば一秒にも満たないであろう。
潤平の頭の中に色々な思考が巡り、瞬間考えるより体が先に動いていた。
「ワドウっっっっ!!!」
動くと同時に潤平は叫んでいて、目の前のワドウに向かって突進していく。
「おうよっ! こいやっ! サムライっ!!」
ワドウも迎え撃つ体勢でいたが、突然地面に転がった頭を蹴った。
蹴られた頭は勢い良く潤平の顔に向かってきて、潤平はそれを片手で払いのける。
視界が開けた時にはワドウはかなり後ろに下がっており、潤平と戦う気は無いんだと感じられた。
「っは、誰がお前とここでやり合うかよっ、馬鹿がっ!! お前とはもっと相応しい場所で決着つけてやるから待ってろっ!!」
遠くから潤平を馬鹿にするワドウに、とても怒りが沸いてくるが二回も怒りのせいで、奴らを逃がしているため冷静さを失わないようにする。
「何でお前がここに来たっ?」
取り敢えず頭を冷やすために言葉を話して会話をする。
奴から何でもいいから情報を聞き出すために、対話を試みなければ。
「あ? それはそいつの後始末だよっ。たく暗殺をしくじりやがってお陰で俺が出向く羽目になったじゃねぇか」
「つまりお前は後始末として使われているんだな?」
「言うねぇ、まぁそれだけじゃないけどな、他にももっと大きな事をしているぜ」
「都の襲撃とかか?」
その言葉を聞いた瞬間、ワドウの雰囲気が明らかに変わった。
「…………それをどこで聞いた?」
「お前が今首をはねた奴から」
「……お前は拷問や尋問が得意そうな奴には見えないけどな、余程上手く聞き出したらしい」
「そんなのぺっぺっぺーーーってやれば、誰でも出来ると思うが?」
「はっ、笑わせんな」
なるほど、ワドウは今ここに来たばかりか。
俺がこの中庭でさっきの男を魔法で自白させていたのは見ていないらしいな。
とゆう事は、こいつらが暗殺を失敗したのを監視している奴は音までは聞こえていないのか…………?
「それで? お前は、お前らはこの都を襲うつもりなのか?」
「そんなの知らねぇよ」
「知らないふりをしてももう遅いぞ、そこで死んでいる男が話してくれたからな」
「そうゆう事じゃねぇよ、俺は何も知らねえって話しだよ」
「嘘をつくな、元盗賊が」
「残念でした。今も肩書きは盗賊だ馬鹿がっ、俺は生まれつき根っからの盗賊なのよ!!」
「きめぇな」
「そりゃありがとう。そろそろいいか? お前と話しているとお前に負わされた傷がズキズキと痛むんでな。さっさと離れたいんだが」
「連れないな。先に誘ってきたのはお前だろうが」
「だからそのために相応しい場所を用意してるって言ってんだろっ」
「俺から逃げれると思ってんのか?」
「逃げれるね。前も逃げ切ったしそれに今回はこれがあるからなっ!!」
ワドウが何かを空に向かって放り投げる。
それは大きく弧を描いてピー男爵の方に向かって飛んでいく。
潤平の目にゆっくりと映ったそれは、文字が書いてある札が数枚ほど束ねられた物だった。
「じゃあな」
ワドウが一言残した瞬間、奴は消えてピー男爵の目の前で紙の束が数回ほど回転する。
潤平はスミレさんを助けたときのように、その場から跳躍するように移動すると、ピー男爵を抱えて背中で爆発を受けた。
何連鎖もする爆発に、屋敷と工房を掃除していたテッケツさんと従業員は、何が起きたのかと慌てて中庭に飛んでくる。
そこにはもうもうと煙と土埃が立ちこめており、テッケツは視界不良で何が起きたのか把握することは出来なかった。
「潤平殿ーーっ!! ピー男爵殿ーーっ!! ご無事ですかっ!!」
辛うじて大声を出して二人の安否を確認するが、その際煙を吸い込んでしまいテッケツは大きく咽せる。
高齢の域に差し掛かっているので、中々せきが止まらずテッケツは声が出せなかった。
代わりに若い男性の職人が煙をかき分けて、爆発の中心に行き何が起きたのか確かめる。
すると爆発の中心地から遠い場所に潤平が転がっており、ピー男爵を守るように抱えていた。
「潤平さん、ピー男爵さん ご無事でしたかっ!」
男性の職人が、二人が無事だと知って安堵したのも束の間、潤平の胸元からモゾモゾとピー男爵が這い出てきて、潤平の様子を確認する。
「まずいのにゃっ! ちょっと潤平をうづぶせにして欲しいのにゃっ!」
「……ぐあぁっっ」
意識はあるが、背中一面に大火傷を負い苦しそうにしている潤平を見て、ピー男爵は急いで治療していく。
急いで回復魔法をかけると、潤平の大火傷は消えていき潤平の表情も和らいでいく。
「ふうっ、これでもう大丈夫にゃっ、危なかったのにゃっ」
潤平はけろりと起き上がると、まるで怪我が無かったかのような振る舞いをする。
しかし上半身のYシャツは焼け焦げて無くなってしまい、それが爆発をもろに受けた影響だと物語っていた。
「いやー、やっぱりピー男爵の回復魔法は凄いねっ、あれだけの火傷と傷をすぐに治せるなんて」
「凄いのは潤平の体だにゃ。何であれだけの爆発を受けて体がそれだけの傷で収まるんだにゃ。本来ならバラバラになっているのにゃ。てゆーか僕もあれだけ近くで受けたら、衝撃で深手を負っている筈だにゃ。どうして無事なんだにゃ?」
「それはね咄嗟に俺がピー男爵の事を水球で包んだからさ。それが無かったら危なかっただろうね」
「にゃ? 自分にはかけなかったのかにゃ?」
「咄嗟の事で間に合わなかったんだよ。俺を覆うくらいの水球を出すのはまだ練度不足だね」
「水球だにゃ? 僕の体を覆ったんだにゃ、なら形態が変わってるから水球ではないんじゃないかにゃ?」
「えっ? どうゆうこと?」
「潤平が水魔法の中級を使えたって事だにゃ」
「嘘っ、マジで!?」
ピー男爵が放った言葉に潤平は急いで、自分に鑑定魔法をかける。
するとそこには、『水魔法』「中」と書かれていた。
「うわーーっっ!!、マジだっっ!!!、やったーーーーーっっ!!!!」
先程まで、爆発を背中に食らい呻いていたのも忘れて、潤平は飛び跳ねて喜ぶ。
「潤平っ、ちょっと喜びすぎだにゃっ 病み上がりだから少し自重するのにゃっ」
「あっ、ああそうだね、ごめんっ」
「でも良かったのにゃ」
「うんっ! 良かった!」
「あの~~~、本当に大丈夫ですか…………?」
大怪我を負って、それを治して治されて、そしていきなり飛び跳ねて。
男性の従業員は怪我で頭がおかしくなったのかと思い、恐る恐る確認する。
「あ、はい大丈夫です」
「大丈夫なのにゃ」
慌てて潤平とピー男爵は訂正する。
そこへ屋敷の方からテッケツと従業員が近寄ってくる。
潤平は立ち上がって体に付いた土埃を払うと、テッケツに何が起きたのか一部始終を説明していく。




