第五十八話 秘密の会
病院に着いたので馬車から降りると、潤平は病院が思ったよりも大きいことに呆気に取られる。
てっきり潤平は町医者のイメージ、現代でゆうとクリニックくらいの建物の大きさをイメージしていたので、立派な石造りの五階建ての建物の前に馬車が止まって、潤平は驚いた。
「何をぼーっとしてるんだにゃ、早く進むにゃ」
「……あっ、うん」
入口でぼーっとしていたせいで、ピー男爵に注意されて慌ててその場から動く。
建物の中は人がかなり行き交っていて、更に潤平の予想を超えていった。
上級兵長が何やら受付で話を済ませると、ミオリが運ばれた病室が判明したようで、潤平とピー男爵はその後に着いていく。
階段を上ると人気は少なくなっていき、三階まで登り切ると殆ど人の気配は無くなり、代わりに兵士が巡回していた。どうやらその階はある程度護衛をつけなきゃいけない立場の人間が運ばれる階で、強面の兵士がこちらを見ていた。
奥に進んでいきある個室の前で上級兵長の足が止まった。
軽くノックして上級兵長は部屋に入っていく。
潤平も部屋に入ると、ミオリはまだ寝ていたらしく潤平達が入ってきた音で目を覚ましたようだった。
「……やあ、お迎えかな?」
「そうです。団長に言われた通り副長をお迎えに上がりました」
「んじゃちょっと待ってて、直ぐに着替えるから」
そうミオリに言われたので上級兵長二人と、潤平は部屋から出て行く。
ピー男爵は傷が塞がっているかどうかと、ミオリの体調の診断のため部屋の中に残ってミオリを見ている。
「入っていいにゃ」
ピー男爵の許可が出たので、三人は部屋の中に入る。
着替え終わったミオリは荷物を纏めていて、もうしばらく時間がかかるようだった。
ミオリと四人は部屋から出ると、看護師さんに挨拶をしてカントウさんが居るはずの部屋に向かう。
その部屋はタマヨの部屋から遠く、少し違う雰囲気をしていた。
「失礼します。カントウさん、第二師団の兵士の方が尋ねてきました」
「おおっ、話は通してあるから入って下さい」
「どうぞ」
看護師さんに言われて四人はカントウさんが、寝ているベッドに向かう。
「失礼しますカントウ様。私は第二師団所属の者です。今回はお見舞いと何か情報があるとの事で伺いに参りました」
「はい、大丈夫ですよ。私が見聞きした事とそれと気になった情報を話します」
「助かります」
上級兵長が先に会話をし始め、最後に部屋に入った潤平は遅れてカントウの顔を見る。
「あれっ……? 潤平さんじゃないですか……!? それに…………ピー君もいるじゃないですか!? どうしてここにいるんですか!」
「タマヨさんに頼まれて、カントウさんの様子を伺いに。それと情報の収集です」
「そうですか! それは嬉しいですなっ、わざわざありがとうございます」
「思ったよりも元気そうで安心したのにゃー、ツバキは一緒の部屋じゃないのかにゃ?」
「ツバキは隣の部屋にいますよ。是非顔を出して上げて下さい。とても喜ぶと思います」
「分かったのにゃ、なら僕は隣の部屋に向かうのにゃー」
そう言ってピー男爵は部屋から出て行き、隣の部屋に向かった。
思ったよりも元気そうなカントウさんの表情に潤平は一安心する。
襲撃されて負傷したと聞いた時は心の底から心配したので元気そうで何よりだ。
あれ? 俺がこんなに心配したって事は、ルリさんも相当心配したって事だよな……。
もう一度ちゃんと謝っておいた方がいいような気がしてきたな…………。
「まさか潤平さんが尋ねて来るとは思いませんでした」
「負傷したと聞いて心配したので」
「そうですか、わざわざお見舞いに来てくれてありがとうございます」
「会話の途中で申し訳ございません。こちらお見舞いの品になります。それと急かすようで悪いのですが、あまり時間を取るのはカントウ様のお体にもよろしくないので、早めに情報をお伝えになった方がよろしいかと」
「ああ、そうですね。全快してから遭えばいいですものね。そうですね……先ずは何から話しましょうか」
「襲撃者の顔は見ましたか?」
「ああ……それは見ましたね。大柄の男で……私と目が合いました。今思うと何で顔を隠してなかったんでしょう……」
多分それは、くノ一が変化のスキルを使ってたからだ。
自分の顔が割れてない以上、変化した顔を幾ら見られた所で影響はないと思っているんだろう。
「それと…………あの日、襲われたのはモガミの……当主の方と……、あの時……私を庇って…くれた……、我が家の大事な使用人です……」
カントウさんは襲われた時の記憶を一つずつ辿って、ゆっくりとその時の状況を話してくれる。
「馬車にモガミの方が……乗り込もうかとした時、……どこからともなく男が上から降ってきました。私達は……呆気に取られていましたが、使用人がいち早く気付いてその場で大声を上げたんです……。ですがその瞬間にはもう……モガミの方が襲われていて……、そしてわたし達も爆発に……巻き込まれたんです」
「辛い記憶を思い出させてしまって、誠に申し訳ありません」
「いえ、これも都の治安のためなので」
「それでその男は、何か武器を持ったり使ったりしてませんでしたか?」
「……うーん。何せ一瞬の事なので。…………………………ああっ、そう言えば紙を……、何か文字が書かれている紙を投げ付けていましたね」
「……文字が書かれた紙?」
上級兵長は、カントウの言葉に疑問を抱いていたが、潤平には何の事か分かっていた。
それは恐らく、くノ一の爆破魔法の札だ。
やはりあいつがカントウさんを襲った襲撃者で間違いない。
まあ一応、あの時くノ一が自分がやったと言ったからこれは確認作業みたいなものだけど。
「私は……大事なお客様を守れず……、それに加えて宝である使用人も失ってしまった……」
「……お悔やみ申し上げます」
「このような事が二度と起きないよう、奴らを捕まえて敵を討って下さい……」
カントウが横になりながら、潤平達に向かって深くお辞儀をしてくる。
潤平とミオリはそれを悲痛な面持ちで見ていた。
「……カントウ様、当日モガミの方が貴方を訪ねたのは会合があったからでよろしいでしょうか?」
「……はい。会合と言うほどのものではないですが、旧友と話を温め会いました」
「それはどの様な内容か話せますか?」
「本当に下らない事ばかりです。世間話とでも言いますかね、最近の景気や病気の話など、貴族殺しの話題も出ましたね。それと亡くなったミツナリ老の話題も出ました」
「ミツナリ様……? 何故ミツナリ様の話を?」
「いえね、モガミの方が昔所属していた会がありまして、それを起ち上げたのがミツナリ様なんですよ。私はその会に所属はしてませんでしたがね、色んな方が所属していたので、私も入れば良かった等と話しましてね」
「なるほど、ミツナリ様が起ち上げた会ですか。それは今も健在で?」
「いえ、ミツナリ老が亡くなられた時に消滅してしまいました。皆さんミツナリ様を慕っているからこそ所属していたので、亡くなられたら意味が無くなったのでしょう」
「そうなのですか。では他にどのような…………」
上級兵長は、この話にはもう重要な情報はないと思い話を変えようとする。
「……その会にはどの様な人が所属なされていたのですか?」
しかしそれまで黙っていたミオリが、急に話を深掘りしてきた。
「……それはモガミの方と、キリガヤの方、ミノウの方にラクジョウの方、他にも多数所属していましたね。ああそれとテッケツの奴もいたらしいです」
「……何故カントウ様は入らなかったのですか?」
「恥ずかしい話、その頃の私はそのかなり尖っていましてね。人の手を借りずに自分の力で店を大きくすると息巻いていたので、ミツナリ様直々にお誘いいただいたのですが断りました。本当に恥ずかしい話です」
ミオリはカントウさんの話しを聞いて何か閃いたのか、横にいた上級兵長の襟を勢い良く引っ張った。
首元を引っ張られた上級兵長は咽せていたが、そんなことを気にもせずにミオリは上級兵長の耳元で、何かをゴニョゴニョと呟いている。
それを聞いた上級兵長はみるみる顔色が代わり、部屋から飛び出すように出て行った。
「……あの? どうされましたか?」
状況に付いていけないカントウは、驚いていて目が点になっている。
潤平はと言うと、驚異的な聴力でミオリのコソコソ話を拾っていたので、何故上級兵長が走って行ったのかを把握していた。
その内容は、『……貴族殺しで襲われた名前の家が含まれる、もしかすると一連の襲撃はその会に所属していた者が被害者になってるかもしれない。急いでタマヨにこの事を報告して』だった。
「……もう一度確認します。カントウ様はその会に所属してはいなかったのですよね?」
「…………はい。私は断りましたので」
「分かりました、ありがとうございます。潤平君急いでテッケツさん所に……」
「向かいます! 話は拾いましたっ」
「流石の地獄耳、恐らくだが次の標的になるのはテッケツさんになるかもしれない! ピー君を連れて行ってくれ!」
「分かりましたっ! カントウさん情報ありがとうございました! お陰で事件の解決になりました!」
「……おお? それは良かったですっ 気を付けて下さい」
「はい、ありがとうございます!」
潤平は急いで隣の部屋に向かうと、ピー男爵を強引に連れていこうとする。
カントウとミオリと残った上級兵長が部屋にいると、隣の部屋から、「ツバキさん、お久し振りです!」と、「にゃー! 何するにゃー! 僕は今ツバキと話していたにゃー!」とゆう声が聞こえてくる。
やがて数秒すれば、隣の扉が開いて潤平が廊下を早足で駆けていく音がする。
それは次第に遠ざかっていきやがて聞こえなくなった。
「……私の情報が役に立ったのでしょうか?」
「はい。カントウ様が今話してくれた内容は、我々第二師団が解決に悩んでいた例の貴族殺しの事件を解く重要な情報になります」
「そうですか、それなら話して良かったです」
「……カントウ様は、その会に所属していないと申しましたが、所属していた誰かで会の名簿を持ってそうな人は知りませんか?」
「……いやそれは何とも、何せ私は所属してなかったので…………、それならタマヨさんに聞けばミツナリ老の私物にあるかもしれませんね」
「確かにそうですね、まだミツナリ様の私物が残っているのならば、その中にありそうですね。分かりました情報感謝します」
「いえ、皆さんも気を付けて下さい」
「はい。我々第二師団が敵は討ちますので安心して下さい」
「お任せします」
「では」
ミオリと上級兵長がいなくなり、部屋は静けさに包まれる。
部屋の主であるカントウは、窓から外の景色を複雑な感情で眺めていた。
するとそこに隣の部屋から妻のツバキが訪れてきて、カントウの隣に座る。
二人は肩を寄せ合いながら、都で起こってる騒動の行く末を見守る事しか出来なかった。




