第五十七話 護衛対象の葛藤
準備を終えた潤平達は、昨日の爆破事件の詳しい報告をするため、またしても朝からタマヨの元へと向かっていた。
護衛のリスクを減らすためルリも連れ、フミ達も含めて皆でスミレの馬車に乗り込む。
唯一違うのはここにミオリがいない事だけだろうか。
「あら、皆おはよう」
予め尋ねると伝令は飛ばしておいたので、タマヨは特に驚く事もなく潤平達を迎えてくれた。
その顔は昨日よりも疲れて見え、化粧で隠していても隈が目の下に薄らと浮かんでいるのが見えた。
しかし誰もそれを指摘するものはこの場にいない。
そこにルリが、昨日と同じく食事を持ってきて差し入れていた。
「ありがとうねルリ。それで? 潤平君とピー君、昨日の詳しい経緯を聞きましょう」
タマヨに問われ、潤平は昨日の事件のことを最初から包み隠さず話した。時折ピー男爵の合いの手も交えて。
幸いこの部屋にいるのは、潤平の事情を全て知っている者だけなので変に誤魔化さずに話せる。
ランセイさんからの遺体の検分。
それが終わってからの現場の報告、そして鑑定魔法で通行人を調査しようとしたが、人手が足りないため共有魔法で、ミオリとピー男爵に手伝って貰ったこと。
その際のいざこざ。
そして潤平がお茶屋でそれらしい人物を探していたら、くノ一が変化した姿でお茶屋から出て来て、暴走したこと。
奴らを捕まえようとしたら、逆に一般人と周りの被害を人質に取られ、ミオリの助言もあって暴走を止めたこと。
情報部のおかげで、奴らが入っていった建物を見つけたのはいいが、ワドウのスキルで逃げられた事。
そして罠が仕掛けられていて、建物が爆発しピー男爵とミオリさんが負傷して、潤平が回復魔法を覚えて事なきを得たこと。
一つずつ潤平はタマヨに報告していった。
ただ一つだけ報告してない事があったが。
彼等を鑑定魔法で調査した時の懸念点についてだ。
それを言わなかったのは、報告をすべきかどうか悩んだのではなく、今この場で報告をするべきではないと判断したからだ。
「それで建物を調べた際に、地下に続く扉があったんですけどそれを俺らに調べさせて貰えないですかね」
「それは君にはさせられません、まだ瓦礫の撤去と現場付近の避難誘導が終わっていないし。潤平君は専門的な事は知らないでしょ? だから建物の跡地を捜査できるのは情報部の人間に任せときなさい」
「分かりました」
「……にゃ~、負傷者はどうなったかにゃ?」
「貴方達の働きもあって死亡者は出ませんでした。情報部の人間も巻き込まれた一般人も今は意識があって回復してると聞いています」
「そうかにゃ、よかったにゃ」
「ええ、けどこうも騒動が立て続けに起こっている事で、民衆の不安や緊張も高まっているわ。今日も朝から貴族連合の詰問がとんできたし、民衆の間で新聞も飛ぶように出ているわ。本当頭が痛くなってくるわ」
「なら、僕が魔法をかけてあげるのにゃ」
「ありがとう、助かるわ」
ピー男爵が机の上に乗って、タマヨの額に手をかざして魔法をかける。効果があったのかタマヨの顔色も少し良くなったように見える。
「それでなんだけど、潤平君とピー君はルリに説明して貰える?」
「……は?」
「……何のにゃ?」
「キミ達がミオリと結託して、ルリをここに連れてきたことの説明をね。ほらルリは昨日の騒動の時キミ達がこの建物内にいると思ってたから、何で外で爆破に巻き込まれたのかずっと気になっていたのよね」
あ~なるほど。
ルリさんが昨日からずっと黙ってたのは、これが気になってたからか。
なるほどね~はいはい。
……………………えっ? まさかあの時三人で話し合って決めた、ルリさんを置いていく作戦を今ここで話すの?
あれ、もしかしてこれは話さないと前に進まない奴?
うーん……、まあ事の発端は案を出した俺だし、ピー男爵も俺が説明しろって顔で見てくるし。
気は進まないけど、…………しょうがない、話すか。
潤平は、あの日ランセイとの会合を終えた後からの動向を話し始める。
第二師団に戻ってきて、タマヨと一緒に捜査の情報を洗い出し、何か他に見落としがないか探しているところに、カントウさんが襲われたと報告が上がってきたこと。
潤平がタマヨに精神的に助けて貰ったこと。
そして、この事はルリとピー男爵には言わないでおこうとタマヨと約束した矢先、ピー男爵にはバレてしまったこと。
そして潤平とミオリとピー男爵の三人で、現場の捜査に行こうとしたが、怪しいので口裏を合わせてルリを誘導したこと。
全てを潤平はルリに話した。
「……それで、俺らが動いたら護衛を捨てることになるので、タマヨさんのところに行こうと言い出したんです。事前にタマヨさんには話を通してました」
付け加えると、くノ一を追ったが罠が仕込まれていてこちらが負傷したことも話した。
ルリは潤平の説明を聞いている間、はいもうんも何もしゃべらなかった。ただ黙って静かに潤平の話を聞いていた。
後ろで控えているフミさん達も、時折ルリさんの表情を伺うようにチラリと視線を向けていた。
「………………私はとても悔しいです」
「……えっ」
しばらくの間潤平の話を聞いて瞑目していたルリが、ポツリと一言漏らした。
「……潤平さんの話を聞いて怒りの感情も少し湧きましたが、それ以上に自分への悔しさと情けなさが沸いてきて自分に腹が立ちます。勿論分かってはいます。私に力が無く守られるだけの存在だとゆうことは」
「……ルリちー」
「潤平さんを責めるつもりはありません。寧ろ潤平さんとピー様とミオリさんは、私の事を思って被害を抑えるためにやってくれたこと。私はそれよりも自分への腹立たしさを感じているのです」
ぎゅっと着物の裾を力一杯握り締めてるルリは、悔しそうに悲痛な顔を見せる。
「…………でも潤平さん達を心配したのは事実です。本当に無事で戻ってきてくれて安心しました」
泣き笑いの顔で迎えてくれたルリに対して、潤平とピー男爵は何処か居心地が悪くなってしまう。
ルリのことを思ってたとはいえ、口裏を合わせてしでかした事なのでどうにもバツが悪い気持ちになる。
「……ルリは今十四の歳よね」
「……はい」
「ならまだまだ足りないわね。学園での成績はどうなの?」
「……えっと、学問の成績は学年で三番目以内は守ってます。魔法の授業も同じです。棒術や体術は少し落ちますけど十番目以内には入ってます。それと裁縫と料理の授業もちゃんとやってます」
「……うん。まだまだこれからね、もっと勉強して体力をつけて色んな事を経験して成長しなさい。貴方はもっともっと強くなれるから」
「…………そうでしょうか?」
「そうよ、貴方はまだ十四歳。大人になるのはまだまだ先の事です。今はまだ悔しいかもしれないけど、きっと貴方は強くなれます。何せ御祖父様の血を継いでるし、私の妹ですから」
「……潤平様は私と三つしか変わりませんが……」
「彼はほら規格外ですし、一応違う世界でちゃんと学業を終えているらしいので、比べるのは駄目です。大体学園に彼と張り合える人がいますか?」
「……いません」
「そう。私達でさえ魔力の量は適わないし、力の差もあります。まあ色々と弱点はありますけど。でもかれに勝てる人はそうそういません。サムライの方でさえ苦戦すると思います」
「……はい」
「先を見ましょうね。今のこの苦しい騒動を乗り越えて、ルリが立派になるまで頑張ればいいじゃない」
「……私は強くなれるでしょうか?」
「なれるわよ。私がなったんですもの」
「そうにゃっ。僕だって一人前になるまで頑張ったにゃっ。ルリちーも頑張るにゃっ」
「そうですルリ様。私も初めから料理が上手かった訳じゃありません。練習をして徐々に上手くなりました」
「そうです。私も頑張りますから、ルリ様も感張りましょう」
「ですです!」
「……フミもスミレもヨリもありがとう」
「潤平は何か言わないのにゃ? 元を辿れば潤平の案から始まったのにゃ」
「えっと、これから頑張って行けばいいんです。何なら一緒に魔法の訓練もしましょう。それと棒術の訓練もしときますか……?」
「……いやそれはちょっとどうかにゃ?」
「潤平君の力だと、ルリが吹っ飛ばされる光景しか浮かばないから、やめた方がいいと思うのだけれど……」
「ですよねー」
「いえ、やります」
「やるのにゃ!?」
「ええっ!? やるの!?」
「……何で潤平君も驚いているの……」
「私は強くなるために、頑張らなきゃいけないんです。この先どんな敵や魔獣が現れても倒せるような、負けないようなそんな強い人にならなきゃいけないんです」
「おおー!」
ピー男爵は、ルリの言葉に感動してパムパムパムッと肉球を叩いて拍手をしていた。
「そのためには潤平さんの力を借りるのは絶好の機会だと思います。どうかお願いします、私と一緒に訓練をして下さい」
「……はいっ、一緒に頑張りましょう」
「これからはルリちーも加わるのにゃ!」
ルリと潤平が二人で約束を取り付ける中、ピー男爵がルリの元に駆け寄って、にゃんにゃんにゃんと騒ぎ出す。
それをフミ達もどこか嬉しそうに眺めていた。
「そうね。強くならないとね。そのためにはその騒動を終わらせて、お父様を一刻も早く解放してあげないとね。先に進むためにも」
タマヨの微笑みにルリも微笑み返す。
それを見て潤平は、相変わらずこの姉妹はとても綺麗だし、笑顔が素敵だなと改めて思った。
「さてそのためには、潤平君とピー君にお願いがあるわ」
ここでタマヨが話を切り替えて、二人にお願いをしてきた。
「何ですか?」
「何にゃ?」
「ミオリを迎えに行ってちょうだい。何人か部下も同行させるわ、それと回復したらしいカントウさんにも情報を聞いてきてちょうだい。襲撃者のことは判明したけども、何か他にも情報を持っているかもしれないから」
「分かったけどにゃ、ミオリはもう動けるのかにゃ? 怪我が治ったのは昨日の今日のことだにゃ」
「伝令がきてね、もう動けるから戻るって。だから迎えに行ってあげて」
「はい」
「分かったのにゃ」
潤平が立ち上がると、ピー男爵はいつものように潤平の頭に乗っかる。既にそこが定位置となってしまったようだ。
「あっ」
潤平がピー男爵を頭に乗っけて部屋から出ていこうとした時、何かを忘れたのか潤平が扉の前で止まった。
ピー男爵と部屋の中にいる皆は不思議そうに潤平の行動を見詰めていた。
すると潤平は、
「行ってきます、ルリさん」
ルリに一言挨拶をした。
昨日言えなかったので、今回はちゃんと言おうと思ったのだ。
「はいっ。いってらっしゃいませ、潤平さん」
ルリはその言葉が嬉しくて、花が咲いたような前面の笑みで潤平に挨拶を返すのだった。
玄関に向かうと、既にタマヨの部下の兵士が待機していた。
彼等には何度も遭ったことがある。
屋敷の護衛をしていて、リン君が追われている時に駆け付けてくれた上級兵長だ。
いやリン君ではなく、リンちゃんか?
そう言えば彼女一向に目覚めないな。今日か明日目覚めなかったらピー男爵にもう一度、診て貰った方がいいかな?
潤平は馬に乗ることが出来ないので、今回も馬車に乗る。ただ今回は護衛対象がいないので、周りを囲む馬はおらず上級兵長二人が馬車の手綱を握っている。
ピー男爵が馬車に勢い良く乗り込み、潤平も後に続く。
二人が乗り込むと馬車はゆっくりと走り出し、病院に向けて進んでいった。




