第五十六話 かけるかけるたす
「ごっめーーん! 少年にばれちゃったっ」
潤平達が、イチヨウが逃げ込んだ建物に突入する数十分前、イチヨウとラショウは自分達が付けられているのを知っていながら、わざとアジトに帰ってきていた。
そこではワドウとハズシが二階で酒を片手にくつろいでおり、突然イチヨウがきゅるるんとわざとらしく片手で、謝罪してきた事に目を点にしていた。
「………………きつい」
一言ハズシが呟く。
「…………いきなり何の話だ?」
「それがさ、ランセイと一緒に行きつけのお茶屋に行ったらさ、例の少年がそこにいたわけよ」
「あ? 奴が何でそんなとこに来るんだ?」
「知らないよ休憩かなんかでしょ、連れの副団長殿も隣にいたし。……ってそんなことはどうでも良いんだよ」
イチヨウはどかっと畳の上に座ると、話の続きをする。
「問題はね、私は変化のスキルを使って姿を変えてたし、ラショウの顔もバレてないからそのままやり過ごせると思ったんだよね。それがさ…………」
「…………それが?」
「何故か少年に私だってバレちゃったんだよね。てへっ」
「……………………はあっ?」
「いやさどうも少年はさ、鑑定魔法を持ってたようなんだよね。それで私の変化のスキルはあっさり看破されて、正体がバレちゃったってわけ。ついでに隣のラショウの存在もバレたし、何ならもっと深くまで知られたかもしんない」
「…………じゃあ何か? お前は奴とやり合って逃げ切れたって事なのか?」
「いいや」
「……じゃあ何でここにいるんだよ」
「一般人を巻き込んじゃうぞーって脅した。それで見逃して貰えた」
「…………待てよ、尾行は……?」
「ばっちり付いてきてた☆」
「お前っ! それを先に言えよっ! じゃあ今正にこの建物の周りを、第二師団の兵士が取り囲んでるって事じゃねえかっ!」
「正にその通りっ。建物に入ってくところまでばっちりと見てた筈だから、この建物の周りは包囲されている筈だね」
「そ!れ!を! 先に言えよっ! てっことはすぐに奴らが入ってくるじゃねえか!」
「だから君のスキルでさっさと逃げようよ」
「お前っ! 本当にムカつく態度だなっ!! お前がドジったせいじゃねえかっ!」
「だから最初に謝ったじゃん。ほらほら怒っている暇があったら、証拠を集めてここを吹っ飛ばす準備をしないと」
「くそっ! おいっハズシ必要なものだけ集めろっ、それが終わったら全員地下に集合だっ!」
「頭、とは言ってもこの建物にはそんな重要なものはありませんぜ。せいぜい地下に少し置いてあるくらいだ」
「じゃあさっさと地下に行けっ。その間にこの馬鹿女が仕込みを終わらせる筈だっ」
「くぅっ、今回は何も言い返せないっ。まあ予め色々と仕込んではあるからね、後は起動するだけだよ」
「そうかよっ。おいっラショウっ、ここで饅頭を食うな! ここから逃げ切った後に食べればいいだろっ!」
三人があれこれと慌てて会話してる中で、一人蚊帳の外のラショウは大好物のお饅頭を食べていた。
そしてワドウに急に怒鳴られてシュンとしてしまった。
こうして潤平達が、建物に辿り着く前にはワドウ達は、建物を爆破する準備を終えてワドウのスキルで、地下から転移して四人とも逃げていたのだった。
後には空き家になり、情報部の人間は潤平達が到着するまで、誰もいない建物を監視していたとゆう訳だ。
「…………ただいまだにゃ~」
「…………ただいま」
潤平とピー男爵は馬車から降りて屋敷に帰ってくると、玄関に心底疲れたといった感じで座り込んだ。
ピー男爵は魔力と体力が底をついて疲れ切っており、潤平は魔力、体力共に回復しつつあるが精神を磨り減らした事で疲れていた。
何せ人を救助するなんてゆう初めての経験だったし、あれだけの凄惨な現場を体験したことで、大いに精神力を使ったと実感した。
「お帰りなさい。二人共まずはお湯を浴びて夕食までゆっくりしていて下さい。その時間になったらお呼びしますので」
いつもより優しい気がするフミの言葉に、潤平とピー男爵の二人はゾンビのような足取りでお風呂に向かった。
疲れているので、二人はいつもより効率良くお湯を浴び終わると、潤平が寝泊まりしている部屋に行って、畳の上にゴロンと寝転がった。
「…………にゃあ、このまま寝ちゃうにゃ」
「…………フミさんがそうしてもいいって言ったろ? 寝ればいいじゃん」
そのまま二人は黙って天井を眺めていると、一分も立たないうちにピー男爵は寝息を立てて寝てしまった。
潤平もその寝息を聞いて、瞼を閉じて眠りにつこうとしたが、どうしてもあの時の光景を思い出してしまう。
…………またくノ一を取り逃がした。
それに皆を爆破に巻き込んでしまった。
あの時俺が、自分一人で建物を調べていたら。
もっと早くにあいつを拘束していたら、茶屋の中に入って詳しく調査していれば、もっと早くに気づけたかもしれない。
ぐーるぐると余計な考えが頭の中を巡る。
寝よう寝ようと思って瞼を閉じているが、頭は興奮しており中々寝付けずにいた。
…………それと。
潤平にはもう一つ新たな懸念点が出来た。
奴ら二人を、鑑定魔法で覗いたとき気になる点があった。
今はまだ少し気になる程度だが、それが大きい事なのか小さな事なのか、今の潤平には判別がつかなかった。
これも建物に乗り込んだ時の不安感と似ている感じがした。
潤平はゴロリと寝返りを打ち、腕枕をして横向きになる。
タマヨにも詳しく報告しなきゃいけないし、ミオリもまだ病院にいるし、何より主であるルリはとても心配しただろう。
自身がピー男爵と共に帰ってきて、部屋に入った時のルリの表情はとても悲痛に満ちた表情をしていた。
帰りの馬車の中でも、一言も話さず俺とピー男爵をずっと見詰めていたし。あまりにも見詰められすぎて思わず目をそらしちゃったよ。
あれやこれやと、頭の中で色々なことを考えている内に、潤平はいつの間にか眠っており、スミレが起こしに来るまで二人共熟睡していて起きる気配はなかった。
潤平とピー男爵はスミレに起こされ、畳の上で寝たことで畳の痕を頬に付けてボサボサの寝癖になりながら、夕食を食べていた。
その間神妙な顔をしたルリとは一言も話さなかった。
夕食を食べ終えると、また二人は部屋に戻ってまたしても深い眠りに落ちていった。
朝になり、元気ハツラツ体調もすこぶる回復した二人は、あまりにも早く起きすぎてやることもないので、縁側に腰を下ろして、朝日に染まる風景を静かに眺めていた。
示し合わせたわけではないが、最近ずっと魔法の熟練度の訓練をここでしているので、自然とここが落ち着く空間になってしまっている。
そして潤平はいつものように魔法の訓練を、ピー男爵は自分の毛繕いを始める。
「……そういや、潤平が初めてまともに使った中級魔法が、まさか回復魔法になるとは思ってみなかったにゃ」
「確かに。そう言えばそうだね、あの時はそんなこと考えていなかったけど、初めて発動した中級魔法だね」
「しかしよくあの状況で、魔法を作ろうと思ったにゃ~。しかもまともに発動するかどうかも分かんにゃいのに。思い切った賭けだにゃ~」
「あの時は必死に願ったし、何故かいけると思ったんだよね。まあそのお陰で皆を助けられて良かったよ」
「もしかして潤平は医療の道とか、人を助けたり救ったりする仕事が向いているんじゃないかにゃ~?」
「俺が? 無いよ~無い無い。あの時でさえパニックになっていたんだし、人を助けるとかそうゆう高尚な気持ちは持ってないよ。ただあの時は強く願っただけだから」
「そうかにゃ~、潤平がこの世界に連れてこられた理由だって、神様を助けるようなもんだろうにゃ。同じ様なもんだと僕は思うけどにゃ~」
「まあ助けになるならやりますとは思ったけど、でも俺本来の目的はこの世界を思う存分満喫することだから。人の助けになることは請け負った義務のようなもので、出来るならもっと適任な人がいいとは思うよ?」
潤平は話をそこで強引に終わらせた。
ピー男爵もこれ以上は平行線になるし、本気で話している訳ではなかったので話すのをやめる。
「光の中級魔法を使えるようになったのはいいんだけど、回復魔法が使えるようになった他に、どんな魔法が使えるの?」
「光の中級魔法は、他の原始の魔法と比べて使える魔法の種類が多いんだにゃ。例えば病気を診断したり治療したり、気分を良くしたり、後は自身と他人を強化するなんてのもあるにゃ。珍しいのだと植物の生長を促したり、動物と会話できたり、とにかく発見されている魔法の種類が多いのが特徴にゃ」
「ふーん。強化の魔法ってどんなの?」
「その人の身体能力、魔力量を上げるのが主な特徴にゃ。それと武器の性能も上げることが出来るにゃ。元々の性能が高いととんでもない事になるにゃ。やり方は人によって違うんだけど、大抵は光球を飛ばしたり歌を歌ったりかにゃ、液体を掛けるなんてのもあるにゃ。……………………にゃ? もしかして自分に強化魔法をかけようとしてるのにゃ?」
「……うんまあ、試しに?」
「やめるのにゃ、今でさえ怪物のような体をしてるんだからにゃ。これ以上強化したら誰も制御できないにゃ」
「でもあった方がいいとは思うんだよなー」
「それよりも潤平は莫大な魔力を持ってるんだから、他人を強化したり魔力の増強をした方がいいと思うにゃ」
「…………なるほど、その方が戦える人も増えるし、戦力の増強にもなるか」
「そうにゃ、まあいきなり強化されても普段の感覚と違うから、最初は戸惑うだろうけど、それでも効率の面を考えたら大きなことだにゃ」
「でもさー、幾ら魔力量が多いとは言え今の俺には限界があるよ?」
「にゃあ、まだ魔力が全快複してないのかにゃ?」
「そうなんだよ~、一体何時になったら元の魔力量に戻るだろう?」
「今も魔力が消費されている感覚はあるのかにゃ?」
「あるある。普段過ごす分には気にしないんだけど、それでもずっと消費されている感覚はあるよ。こう……、何だろ…………? 滝が絶え間なく流れ続けている感じ…………?」
「とんだ魔法を作っちゃったのにゃ~」
「ほんとだよね、あの時の俺は若かった……」
「じゃあ次に作る、もしくは習うのは強化魔法かにゃ?」
「ん~どうだろ? 他の中級魔法も使えるようになりたいし、案外違う魔法を作るかもしれないね」
「そうかにゃ」
「そうそう」
魔法の熟練度を上げながら談笑をしていると、二人が気付かない内にフミがいつの間にか、縁側に座っていて二人を見守っていた。
潤平とピー男爵は驚いたが、当のフミは「お気になさらずに」と言って静かに見ているだけ。
しょうがないので、潤平もピー男爵も気にしないで魔法の訓練に明け暮れる。
そうしてる内に朝食に時間になり、二人はフミに連れられいつもの部屋に向かうのだった。




