第五十三話 ムカつく女
「びっくりしたのにゃっ」
「私もだよ。いきなりあんな声を頭の中に流すなんて」
潤平に大声で呼ばれて、ピー男爵とミオリの二人は渋々といった感じで潤平の元に集まる。
そんな二人に対して潤平は苛立ちを隠さずに物申す。
「あのねやるなとは言わないけどさ、あんまり関係のない人を見つけて共有してくるのやめない? ちょっと関係のない人が多すぎるよっ」
「そうは言っても怪しい人は気になるのにゃ。」
「そうよ。私達は怪しい人間を探すためにここに来たんだから、片っ端から怪しい人間を調査しないと」
「でもですね、その困っている人まで助けるのは良いことですけど、俺らが今やるのは違うんじゃないですか?」
「私は第二師団の副団長ですし? 都の治安のために働くのは当然ですし?」
「僕はこれでもお医者さんだからにゃ。困ってる人を助けるのは本望だにゃ」
二人の正論に潤平はぐうの音も出ない。
「じゃあ逆に聞くけど、潤平君はここに座ってお茶を飲みながら、お饅頭を食って通行人を眺めているようだけど、一人でも怪しいやつを見つけた? 見つけてないよね?」
「そうにゃ。僕らが怪しい奴を見つけている間、それらしい人物を見たなんて一言も言ってないのにゃ。呑気にここで座っていたのにゃ」
「べ、別に! お茶とお饅頭を食べてた訳じゃないし! 座りながらもちゃんと通行人の監視は続けていたし! 共有魔法の元はかなりの情報量を処理しなくちゃいけないから、お腹も空くんんだっつーの! それに君等が引っ切りなしに連絡してくるから、お饅頭殆ど食べれてないから!」
「なーにを小難しい事を言ってるんだにゃ。結局見つかってないってことなんじゃないかにゃ」
「そうだ! そうだ! まだ一人も怪しい奴を見つけてないってこと何でしょうがっ」
こいつら好き放題言いやがってっ。
駄目だ、この二人を連れてきて鑑定魔法を共有するのは間違いだったかもしれない。
好き勝手し過ぎるこの二人、俺の手には負えない……。
せめてルリさん、いやフミさん辺りを連れてくればまだマシになっていたかもしれないのに。
ミオリとピー男爵の二人が潤平を囲んで、好き放題喋っているのを流しながら聞いていると、お茶屋からいやに背の高い二人組の男が出て来る。
先に出て来た男は、覆面で顔を隠していて顔は見えなかったが、とにかく体が分厚く一目見て岩や山といったイメージを連想させた。
腕にはざるを抱えていて、中にはぎっしりと色んな饅頭が詰まっているようだった。
男はそのざるを大事そうに抱えている。
そして遅れて出て来た男は細身だが、身長は高くモデルでもやっているのかと言わんばかりのスタイルの良さだった。
モデルの男(仮)は、お茶屋の入り口横で騒いでるミオリとピー男爵を一瞥すると、特に気にした様子もなかったが、潤平の事を見た瞬間少し雰囲気が変わったのを潤平は感じた。
それはほんの一瞬の事で、潤平以外の人間にすれば瞬きよりも短い時間だったが、潤平は確かに違和感を感じ取った。
二人の大男がお茶屋から出る際邪魔になると思ったのか、それまで騒いでいたミオリとピー男爵の二人は少し横に移動する。
ペコリと袋を抱えた大男が会釈すると、二人の大男は潤平達の横を通り抜けようとする。
潤平は一応その大男二人にもすれ違い様に鑑定魔法を掛ける。
怪しい奴は取り敢えず調査しとくのが、三人で決めたルールだからである。
潤平が二人を鑑定魔法で見て視界に情報が並び出す。
それを見て判断したのは一秒かそれとも二秒か、それ位の時間で潤平は勢い良く体中の血液と細胞が湧き出すのを感じた。
普段あまり体から出ることのない魔力が、勢い良くほとばしり表情は煮えたぎる溶岩の様相を呈していた。
「おいっっ!!!!!」
湧いてきたその感情は憤怒である。
通りに響く潤平の野太く低い声。
ミオリとピー男爵だけではなく、歩いてる通行人までもが体をびくりとさせて思わず立ち止まっている。
去り際に大声で呼び止められた大男二人だったが、特に気にする様子もなく静かに立ち止まった。
「何でっっ!! お前がっ! お前らがこんな所にいるっっ!!!」
潤平の怒り心頭と言った様子にも、大男二人は動じる事もなく背中を向けたままだった。
ピー男爵とミオリの二人は、まだ潤平の突然の豹変振りについて行く事が出来ず、黙ってこの状況を眺めていた。
「…………なぁ~んでばれちゃったのかな~?」
やがて細身の男がゆっくりと振り向くと、潤平に向かってにやついた顔を向けてきた。
見た目は長身の男だと言うのに、口から発せられた声が女性の声だった事に、ピー男爵とミオリは驚く。
潤平は鑑定魔法で見たときに、中身が男ではないと気付いたので特に驚きもしなかったが、あの時聞いた声が記憶の隅から戻ってきて妙にかんに触った。
「……鑑定魔法でお前を調べた。そしたら俺が今探している人物だった」
「まぁ~じか、君はそんな魔法まで持ってたんだね。いやぁ油断しちゃったよ、まさかここで遭遇するとはね」
「……おいくノ一、……お前がカントウさんとツバキさんを襲ったのか……?」
「ん? ……何それ? …………ああ~あの時あそこに居たエノキヤの主人? そうだね私がやったね。ちょっと邪魔だったから巻き込んじゃった」
「……他の貴族殺しもお前がやっているのか?」
「いや今回は私がやったけど、他の事には関わっていないよ? あ~あれだワドウ君が主にやっているから、彼が実行犯だね。……どう? これが聞きたかったんでしょ?」
「何故そんなことをする? お前らの後ろに誰がいる?」
「おっとそこまで気付いたのか、でも教えなーい。何をするか、誰が黒幕なのかは自分達で探してくれよ」
「…………じゃあ今ここで力尽くで聞いても言いわけだな?」
潤平の体から魔力が迸る。
普段こんなに体から魔力を出す必要はないのだが、潤平は今抑えられない怒りが沸いてきていて、どうしようもなく魔力が出てしまう。
「うはっ、相変わらず凄い魔力量だね」
ここまで来ると、ピー男爵とミオリも状況を把握する事が出来、二人も目の前の対象を逃がさないように戦闘態勢に入る。
「良いよやろうよ。アタシ正面からやり合うの大好きだからさ、思う存分ここでやり合おうよ」
その言葉に潤平はかっとなって、手を空に向けると特大の火球を作り出す。
その大きさは、潤平がこの世界に来て出した火球のどれよりも大きく、火球の余波で周りの温度がドンドンと上昇していった。
「……でも良いのかな?」
あ?
「私は構わないし、隣の彼もやり合うのは平気だよ。でもね私達は周りの一般人を気にしないよ?」
潤平はその言葉に魔力を込めている動きが止まる。
「知っての通り私の魔法は爆発、それも札をつけて爆発させる。周りの人間も巻き込むし、何人巻き込まれようが私は気にしないね。それにスキルもあるから一般人に化けて隠れちゃうかもしんないよ?」
火球の魔力が弱まっていく。
「それにこっちの彼は、君とも十分にやり合える程の実力を持っている。多分そっちの妖精さんと副団長殿じゃ止めるのは難しいと思うね。どう出来る? 一般人を守りながら私の爆破魔法を防ぎつつ彼と一戦交える事が君に出来る?」
潤平の顔に戸惑いの色が生まれる。
「出来ないよね? ならこのまま見逃してくれた方が無難な選択だと私は思うんだけどね。どう? ねえどう思う? ねえねえ」
こいつらを見逃す?
カントウさんとツバキさんを襲って、なおも都を恐怖に陥れようとしているこいつらを見逃すのか?
いや、そんなことは俺には出来ない。
いずれ逃がした所で、こいつらはまた俺の前に出てくるはずだ。そうなったらその時にはもう事が終わっているかもしれない。
大事な人が傷付いて、死んでいるかもしれない。
駄目だ。こいつらはここで叩く。
潤平は弱めていた火球の魔力を再度強くする。
その潤平の様子に向こうの二人は、違った反応を見せる。片方は焦り片方はやる気万々一といった感じだった。
「……あれまさかの逆効果?」
くノ一は煽った事が逆効果だと思ったのか、額に汗をかく。隣の大男は大事そうに抱えていた袋を置いて、戦意を見せてきた。
「駄目だっ潤平君っ!」
潤平がこいつらを潰そうと思った瞬間、後ろからミオリに待ったの声を掛けられる。
「今ここで君が戦ったら一般人に被害が及ぶ! そうなったらこいつらを捕まえても意味がない! 後で全ての皺寄せがタマヨにも行ってしまう! ここは一旦落ち着くんだ!」
「そうだにゃ! 周りの温度がドンドン上がっているにゃ、市民に被害が及んだら駄目なのにゃっ!」
「止まれっ! 止まってくれっ! 潤平君っ!」
ミオリとピー男爵は潤平の火球に煽られながらも、必死に思い止まるよう説得してくる。
潤平も興奮した頭の隅で、ここでやり合うのは危ないと考えてはいたが、目の前の二人を逃がすわけにはいかないとゆう気持ちもあるが……。
「…………っくそ!」
結局一般人の被害を考えて、潤平は魔力を込めて放とうとしていた火球の行使を取りやめる。
特大の火球が消えたことで、火球の余波が消えて周囲の気温が戻る。
若干余熱の影響もあったが、火球があったときと比べると全然マシになっている。
「はあ~、お姉さんちょっとびっくりした。本当に打つかと思ってヒヤヒヤしたぜ」
くノ一は焦った様子でありながらも、どこかあっけらかんとした様子で話してくる。
「まっでも、これで私達を見逃してくれるって事だよね」
くノ一のその言葉に、潤平はどうしようも出来ない事が悔しくなり奥歯を噛みしめすぎて、ガギリッと音が鳴ったのが分かった。
「それじゃ私達はこれで消えるけどいいよね、尾行するのも無しだからね」
くノ一はその言葉を最後に建物の上に飛ぶと消えていった。もう一人の大男も隅に置いた袋を大事そうに抱え直すと、くノ一の後を追うようにいなくなった。
「っっっミオリさんっっ!!!」
「大丈夫。絶対に逃がさないから」
ミオリは手を頭上に上げて一回転させる動きを見せる。
「これで後を付けている筈だから。安心して」
潤平はその行動の意味が分からなかったが、取り敢えず頭を落ち着かせるために、一旦落ち着いて深呼吸をすることにした。
落ち着いた影響で周りをよく見渡せることが出来るようになる。潤平が出した火球の影響で、周りは大事になり誰が呼んだのか道の向こうから第二の兵士が走ってくるのが見えた。
潤平は奴らが逃げた方向を見ながら、本当にこの選択が正しかったのかどうか、そればかりをずっと考えていた。




