第五十二話 皆で手を繋ごう
「やっと報告が終わったよー。この現場に派遣した兵士達ほぼ寝てないで働いてるみたいで、もう目がさギラギラしていて目付きが悪いのなんのって、あれタマヨに言って兵士を巡回させなきゃ駄目だね…………、…………って何してるの?」
現場の兵士との話し合いを終えたミオリが、エノキヤの向かいに座っている潤平とピー男爵の元に来る。
そこにいたのは、通行人を鑑定魔法を使ってギラギラとした目で見ている潤平と、その横で同じように通行人を充血した目で追っているピー男爵の姿があった。
「今通行人を見てる所だにゃ」
「そうです、鑑定魔法を使って見てるんです」
「……いやそれは分かるけど……、何でそんな鬼気迫る表情で見てるのさ。通行人も怖がってキミ達を避けてるじゃんか」
ミオリはすぐに二人のその行動をやめさせて、普通に通行人を観察させるようにする。
「それで鑑定魔法を使ってそれらしい奴は見つかった?」
「いませんね。一応子供から老人までくまなく見てますけど、奴らに繋がりそうな人は見当たりませんね」
「ここにはもういないかもにゃー。もしかしたら次の標的を狙ってるのかもしんないにゃ」
「うーん、そうなると潤平君一人で通行人を調べるのは限度があるね。鑑定魔法を遣えるのは君だけだからさ。どうしても人手が足りないな」
「皆、鑑定魔法を使えるようになればいいのににゃー」
「そんなこと、出来るわけ無いよ」
…………皆?
いや待てよ? もしかして俺の鑑定魔法が、皆で共有出来るようになればいいのでは…………?
「それだっ!」
「うん?」
「にゃあ?」
「今のピー男爵の言葉でナイスアイデアが浮いた! そうだよ! この鑑定魔法を共有出来るような魔法を作れば良いんだよっ!」
「……魔法を作る? 潤平君何言ってんの……?」
「そうだにゃっ! 潤平は好きな魔法を作れるんだから、それが出来る魔法を作っちゃえばいいんだにゃっ!」
「……えっ? ピー君も乗り気……?」
「となると……、作る内容は俺が使ってる魔法の共有を出来るような魔法を作ればいいんだよね」
「……えっ? 話進むの……?」
「そうだにゃ、潤平が使ってる魔法の共有とこちらからもある程度情報を送れるようにすることは出来るかにゃ? いざって時に必要になると思うにゃ」
「えっ……、私のことは無視……?」
「あっそれいいねっ。情報をある程度送信と受信出来るような機能を付けて作ってみるよ」
「ちょっと! いい加減私も話に混ぜなさいっ!!」
ミオリは置いてけぼりにされたのがしゃくに障ったのか、二人の頬を片手でそれぞれ掴む。
「ふ、ふいはへん」
「ふぉ、ふぉへんはにゃ」
恐るべき握力で掴まれた二人は、口が満足に動かずに謝罪の言葉が抜けた感じになっていた。
「はあ!? 魔法を作れるスキル!?」
「声が大きいのにゃっ!」
潤平の魔法が作れるスキルの説明を聞いて、ミオリは傍を通り過ぎた通行人が振り返る位の大声を上げる。
その口をピー男爵がご自慢の肉球で塞ぐ。
潤平は魔法が作れるスキルがあるとは説明したが、ルリやタマヨに言ったみたいに自分の出自や神様の事など、この世界に来た理由を喋らなかった。
事前にタマヨと決めた通り、大勢に話すのは危険すぎる事と、余計なトラブルを防ぐため。
例え自分が信頼している副団長のミオリだとしても、安易にこの内容を喋るのは禁止されていた。
もし何故そのスキルを持っているのかと聞かれたら…………。
「そんな凄いスキル見たことも聞いたこともないけど、どうして潤平君が持ってるの?」
やっぱり。
こう返ってくるのは分かっていたので…………。
こうゆう時は…………。
「まあ一等くじに当たったようなもんですよ。今まで発見されていないのはきっと、それだけ凄いスキルだって事ですよ」
予め決めておいたこのセリフ言うことにしている。
取り敢えず魔法と違って、スキルはどこから来たのか? 誰が授けているのか? 等詳しいことが分かっていないので誤魔化すことにする。
何か言われてもそれでも貫き通せと。
ルリとタマヨが心の中で告げている。
「ふ~ん」
ミオリは自身の顔を、潤平の顔に息が掛かるほどにまで接近させると、物凄い疑いの目を向けてくる。
それを汗をかきながら潤平は受け流そうとするが、最終的に圧力に負けて視線を明後日の方に向ける。
「そ。分かったそうゆうことにする」
ミオリは一人で納得したようでそれ以来何も言わない。
「それで? 潤平君の魔法を作れるスキルで、魔法を作ったら私達も魔法を鑑定魔法を使えるようになるの?」
「まぁ、そうゆうことすね」
「そうなれば一人じゃなくて、僕達三人の目で見れる事になるにゃ」
潤平は傍らで、久し振りに『魔法創造』のスキルを使用する。
頭の中で共有魔法を作るため念じ続ける。
少し魔力が抜けた感覚が体を襲うと、どこからともなくチョコボールが目の前に落ちてくる。
それをいつものようにキャッチすると、すぐに口の中に入れる。
修得したかどうかは分からないが、まあこれもいつもの事なのであまり気にしない。
「よしこれで大丈夫。取り敢えず鑑定魔法を使って、それから新しく修得した『共有魔法』を発動させてと…………」
と思ったが、発動させるのはいいが肝心の相手に渡す方法が分からない。
このスキルは魔法を作ったとしても、説明書やチュートリアルな類いはないからどうしても、魔法の発動条件を手探りで探して行かなきゃならない。
うーん困った。単純に共有したい相手を視界に入れればいいのか、それとも共有したい相手と接触すればいいのか、まさかキスとかって可能性はないよな。
幾ら何でもそんなベタな展開はないない、…………だってミオリさんもピー男爵も出来る訳ないでしょ、ねえ。
「?」
「?」
潤平が二人の事をチラリと見て、視界に入れた状態で『共有魔法』を唱えてみたけど特に何も起こらない。そして潤平に見られた二人は、何なのか分からないと言った表情をしていた。
「あのー、ちょっと二人にご相談なんですけど」
「何にゃ、どんとこいにゃ」
「何? もしかして失敗した?」
「そうゆう訳じゃないんだけど、『共有魔法』の発動のためにちょっと手を繋いでもいいかな?」
「いいにゃ」
「ほい」
それぞれが片手を潤平の前に出してきたので、右手をピー男爵に左手をミオリさんの手を握る。
手が触れた瞬間何か潤平の体から、出て行く感覚がして潤平はむずかゆさを覚える。
体をくねくねしていると、ピー男爵は通行人をぼーっと見ており、ミオリさんは視線をあちらこちらに忙しなく移動させている。
「……大丈夫? 二人とも」
潤平の声に二人は現実に戻ってくると、それぞれ違った反応を見せる。
「……うんにゃー、すごいにゃー。町ゆく人の名前が見えるのにゃー……」
「凄い凄いっ! そこの人もあっちの人も向こうの人も皆名前が見えるっ! これは凄い魔法だよっ!!」
ピー男爵はどこか呆けた様子で、逆にミオリさんは物凄い興奮していていつものミオリさんじゃないみたいに見えた。
「取り敢えず大丈夫なようだから一旦切るね」
頭の中で共有魔法のスイッチをオフにするイメージをすると、どうやら本当に切れたようで二人は少し体がビクッとしていた。
「おぉー、すごいのにゃ。これが鑑定魔法なんだにゃ」
「ええ~もう終わり? もう少し使いたかったのに~」
「練習なんで。まあこれで使えると分かったんでそれぞれ別れて怪しい奴を探しますか」
共有魔法の発動方法も分かった所なので、本来の目的であるくノ一とワドウに繋がる手懸かりを探す。
てゆーか手を繋ぐだけで良かったのね。
よかったー。発動方法がキスとかじゃなくて、これが駄目だったら二人に言うところだったよ。
取り敢えずミオリさんはエノキヤと商店が並んでいる大通り、ピー男爵が兵舎や第三区画に繋がっている西通り、そして俺が一番人の往来が多く金融や魔法ギルド、学園等が面している中央通りを担当する事になった。
他の二人がどんな方法で監視しているか分からないが、何かあったら俺の方に情報が繋がっている事になっている取り敢えずは大丈夫。
俺は通路に面しているお茶屋で、外の椅子に座りながら適当に何かを頼んで通行人を監視している。
お金も沢山マナカードに入ってるし、お昼前でお腹も空いてきたのもあるし好き放題食べれるぞ。
焼き印が付いたお饅頭を食べようとした時だった。
ピー男爵から共有魔法を通じて、情報が入ってきた。
潤平はすぐに視界をピー男爵に切り替えると、何があったのか確認する。
そこに映っていたのは、手拭いを鼻の前で縛っているいかにも盗人ですと言った格好をしている男だった。
『潤平! こいつはどうにゃ! いかにも怪しい奴だにゃ!』
「あーちょっと待ってね。詳しく見るから」
視界を共有している相手とは、頭の中で会話できるようになっており、ピー男爵から怪しい奴がいたと報告が飛んでくる。その人の詳しい情報は鑑定魔法を持っている元の、潤平じゃないと見えない仕組みになってる。
「あーこの人はね、奥さんのなけなしの金を持って賭博に行こうとしてる、無職のどうしようもない人ですね。ワドウとは関係ない一般人ですね」
『何にゃー。そうなのかにゃ』
「関係ないので一旦閉じるよ、何かあったら宜しく」
『わかったにゃ』
ピー男爵との共有魔法を一旦閉じて、食べようとしていたお饅頭を口に運ぶ。
その瞬間、今度はミオリさんから情報の共有が飛んでくる。
今度はミオリさんの視界を借りて、何か怪しい奴がいないか調べる。
するとそこにいたのは、中年の正装をしたおっさんと大人しそうだが可愛い顔した女性が腕を組んで並んで歩いてる様子だった。
『潤平君。あれはどう見ても怪しいと思うんだけど。こんな昼間に一回り以上年の離れた男女が、腕を組んで歩くのは有り得ないよ。経験上ほぼ不貞行為だろうけど、こんな時間からは有り得ない。親子だとしても腕を組んで歩く親子はいないし、あれは世間の目を欺くための作戦だと私は思うだけど、調べてくんない?』
「分かりました。…………えっとあれは本当の不貞行為ですね。職場の上司と部下の関係で、男の方は妻に内緒でしてるつもりですけど、バレてますね。どうやらあの大人しそうな女性が奥さんに影から密告して牽制しているみたいですね」
『何ーっ! まさか本当の不貞行為だとはっ! けしからん奴め! 私の目もまだまだだね!』
「…………もういいですか?」
『あっうん。ありがとー、また何かあったら連絡するね』
ミオリとの共有魔法の閉じて、潤平は頭を抱える。
まさか不貞行為の人間調べるとは、思わぬ人間関係のドロドロを鑑定魔法で覗いてしまった。
いらぬ心労を抱えたが、取り敢えず手に持ったお饅頭を食べようと口に運ぶと、またしてもピー男爵から情報の共有が飛んでくる。
「…………何?」
視界をピー男爵に切り替えて、どんな人物がいたのかピー男爵に聞いてみる。
『ぼろ布を纏った子供二人が当たりをキョロキョロと伺っているのにゃ。怪しいから調べて欲しいにゃ』
ピー男爵が言った通り、視界にはぼろ布を纏った子供二人が、建物の影から当たりを探るように伺っていた。
「あー………………、それはね家に置いてきた小さい兄妹を飢えさせないために、年の上の二人が何か食べる物と、盗んだらお金になりそうな物を探してる所だね」
『うんにゃー! それは可哀想だにゃ! それに犯罪に手を染めるのは駄目なのにゃ! 僕が食べ物を買ってあげて魔法ギルドに連れてって、支援と子供でも出来る仕事を紹介させるのにゃ!』
「…………はーい…………それじゃ…………」
すぐにピー男爵の共有を閉じる。
お饅頭を食べようとしてそこで気付く。もしかしてこの流れだとミオリさんから、また情報の共有が飛んでくるのではと思い三十秒程待った。しかし何も来ないので安心してお饅頭を食べようとした時、ミオリさんから情報の共有が飛んできた。
潤平はムカついたので、視界の共有をしながらミオリさんに尋ねる声が、少し鋭くなった。
「……どうしたんですか」
『…………何かあったの?』
『……いえ別に』
『そう、ならいいんだけど。今度はあれよ、あんなに不釣り合いな男女がいる? 格好を誤魔化してはいるけど、田舎臭い男性にあんなに綺麗な女性が腕を組んで歩く事なんてある? 私の目は誤魔化せないわ。あれは偽物の恋人ね、世間の目を欺いているんだわ。調べてちょうだい』
「あーー………………、えっとその二人はお嬢様と使用人の禁断の恋って奴ですね……。そっとしておきましょう…………」
『嘘っ! 私の目が間違ってるなんて、ごめんね勘違いしちゃったわ。ありがとう』
「イエイエオカマイナクー」
それからも潤平がお饅頭食べようとする度に、二人から交互に情報の共有が飛んでくる。
プッチン。
瞬間、潤平はキレた。
「あーーーーーっっっ!!! 集合っっ!! 一旦集合っっっ!!! しゅーーーーーーごーーーーうっっっっ!!!!」
視界を同時に二人に共有して、頭の中で大声で二人を呼びつける。
声が飛んできた二人は、耳に聞こえない筈なのに思わず耳を塞いでしまったとゆう。
それだけ大音量で聞こえたらしい。
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