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異世界、遺します ~天涯孤独となった俺に亡き祖父母が『異世界』を遺してくれた~  作者: 鏑右いなだ


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第五十一話 鑑定魔法を使いこなす

 ミオリは、兵士達が行き来をする兵舎から離れて行き、通路で繋がっている違う建物に入っていく。

 その建物に入るとすぐに階段が目につき、ミオリはその階段を降りていくので後に続く。


 地下三階分は降りただろうか。

 薄暗い通路を歩いていると、潤平の鼻に薬品の匂いと血の臭いそれと、独特の腐臭の匂いが入ってくる。

 ちょっと気になって鼻をフガフガ言わせていると、ミオリから話し掛けられる。


「臭い気になる?」


「ああ、まあはい」


「始めて来た人は皆匂いを気にするのよね。第三の君等は何も気にしてないようだけど」


「私達の兵舎にも似たような建物がある故慣れております。しかしこうゆう建物はどこも代わり映えしませんな」


「まっ、そんなもんなんじゃない? 仏さんを調べるんだからどこも皆似てくるんじゃない?」


「そうゆうもんですか」


 ミオリと第三の兵士の人達は気にならない様子だけど、強化されて常人の鼻よりも鋭い嗅覚を持つようになった潤平には、少し気になる物がある。

 ピー男爵を見れば、彼もしきりに鼻をヒクヒク動かして気に入らない様子だった。


 ミオリは突き当たりの部屋に入っていく。

 そこには数人の布を口には巻いた人が作業していて、横になった死体が三体並んでいた。


「副長殿、今し方検分が終わったところです」


「さ、なら報告して」


「こちらのご当主様の遺体は、近距離で爆発した事による内蔵破裂のショック死と思われます。争った形跡もなく特に防いだ形跡もないので、犯行は一瞬の事だったと思われます」


「そう、こっちの二人は?」


「こちらの二人は第三師団による持ち込みなのですが、片方は毒によるショック死なのですが、もう片方は違います。こちらは後ろから胸を刺されています」


「なるほど、どう思う? 潤平君」


「…………………………」


「潤平君?」


「…………当主の方は確信がありませんが、くノ一によるものだと思います。………………それとこっちの盗賊の死体は確実にワドウによるものです」


「そう、何でそう思うの?」


「俺に傷を負わせたやり方と同じだからです。相手の後ろに転移して刀で胸か腹を後ろから刺す。場合によっては毒も使う。ワドウのやり方です」


「盗賊達を沢山殺した毒は何か判明したの?」

 

「はい。それも判明してます」


「何の毒?」


「マイチョウを使ったモノだと思われます」


「どうやら当たりみたいだね」


「毒は空気中と飲み物の中に蒔いたと思われます」


「なるほど。第三師団の見解も一緒って訳?」


「そうです。我々で遺体を調べた所、使われたい毒はマイチョウで空中や飲み物のに混ぜたと報告が出されています。後ろから刺された遺体は数は少ないですが、貴族殺しの手口と同じだとランセイ様が気付き、こちらに運ばせて貰いました」


「分かったよ。とゆう事はこれはワドウとその仲間による一連の事件だと言うことだね?」


「はい。ランセイ様はそう認識されております」


「そうか、分かった。タマヨにはそう報告しとく」


「はい。ランセイ様にもそう伝えておきます」


「…………………………」


「潤平君、後はピー君が少し情報を共有するくらいだから、私達は用はないしここから出ようか」


「…………はい」


 そう言って、ピー男爵をここに残してミオリと潤平それと、第三師団の兵士二人は部屋を後にする。


 ピー男爵を一人置いていくのは悪いので、部屋の前の通路で四人とも待っていると、扉を開けてピー男爵出てくる。


「ごめん待たせたにゃ、もう終わったから行こうかにゃ」


 五人は階段上がって先程来た通路を戻って行くと、さっきの玄関入り口の受付に戻ってくる。

 

「第三の君達はこの後はどうするの? 遺体を戻すために運ぶの?」


「いえ、ランセイ様はあの遺体はこちらに置いていく用に命じましたので、そのまま置いておく事になってます。タマヨ様にもその様に言われていますので」


「そうじゃあ終わりか、お疲れ」


「情報の共有感謝します。では」


 第三師団の二人の兵士は、玄関から出て行くと外の通りに出て見えなくなる。どうやら馬は無いらしく歩いて帰るようだった。


「さてじゃあ私達も例の調査に参りますか!」


「まだ時間はあるからにゃ、じっくり調べるにゃ」


 二人が喋っている間、潤平はずっと上の空だった。

 そんな様子を見逃す二人ではない。


「……潤平君気持ち悪かった?」


「顔色が悪いにゃ」


「ああっ、いやんーどうなんだろう、そんな感じじゃないけどね」


 二人に心配され、潤平は自分の今の気持ちを話すかどうか迷い出す。


「まあ言いたくないならいいけど、でも話した方がいいよこうゆうのは。話して過去にした方が気持ちは幾分良くなるし、記憶も忘れるからさ」


「僕らはこんなの嫌とゆうほど見てるからにゃ。感覚が麻痺してるけど初めての時は辛かったのにゃ、だから潤平が辛くても大丈夫だにゃ」


 二人の励ましに潤平は上を見上げて考えるが、ここは正直に自分の気持ちを話した方が良いと思い、先程自分の中に生まれた感情を話すことにする。


「うーん。まあ気持ち悪いとか嫌だなって思ったのも確かなんだけど、あの時ね遺体を見たとき、じいちゃんとばあちゃんの遺体を見たのを思い出したんだ」


 潤平が上を向いて喋っているのを、ミオリとピー男爵の二人は黙って聞いている。


「あの時、俺は学生でいきなりじいちゃんとばあちゃんが死んだって言われて、頭の整理も感情の行き場も分からないまま、冷たくなった二人を見てどうすればいいのかなーなんて思ったんだ。幸い周りの人の助けがあってその後は何とかなったけど、でも二人が死んだ時の感情を整理するのは、二週間ぐらい掛かったかな。忘れていたけどあの時もこんな感じだったなーて、遺体を見たとき思ってさ。だからぼーっとしてたわけ」


 潤平は上を向いていた顔を、戻すとミオリとピー男爵に向かって悲しそうな笑顔を向ける。それは潤平がこの世界に来て誰にも見せたことのない、弱さをさらけ出した顔だった。


「残された人の事を考えると何だかやるせないなーと思って、だからさあのワドウのくそ野郎を捕まえて、その裏にいる奴も捕まえて企みを阻止しようぜ」


 潤平の無理に作った笑顔に、ミオリとピー男爵は何も言えずにいたが、やがて二人はお互いを見詰めてニヤリと笑うと、ミオリさんは潤平の肩を組んできて、ピー男爵は潤平の頭に乗っかる。


「そうだなっ、そいつを捕まえて悲しい事を終わらせないとなっ」


「そうだにゃ! この事件を終わらせられるのは僕達だにゃ!」


 いきなりテンションを上げた二人に潤平は戸惑う。

 そんな潤平の耳元で、ミオリさんがポショリと呟いた。


「それと悲しい思いをしたのは皆一緒だぜ。少なくともタマヨ達と私達はそんな思いを経験している。だから残された人のために、悪党を捕まえるのは大賛成さっ」


 真面目な顔で呟くミオリさんは、美人なのに男勝りな顔もあって物凄く格好よく見えた。


 その顔を見て俺の胸はトゥンクとなった気がした。

 まさかミオリさんにそんな気持ちを抱くとは、俺はルリさんやスミレさんそしてタマヨさん一筋ではなかったのか。

 新たに生まれた感情に俺の心は揺れ始めているのを感じる。

 思春期の心が激しく揺さぶられているのを感じると、頭に急に鋭い痛みが走る。


「……ねえ何で頭に爪立てているの?」


「何か落ちそうだからにゃ」


 またしてもピー男爵の鋭い爪の痛みで、潤平は現実世界に戻ってくるのだった。



「さてエノキヤに着いた訳だけど、取り敢えず私は報告を受けてくるから、潤平君とピー君は建物の前でそれとなく、鑑定魔法を使って通行人を見てきなよ」


「りょーかい」



「ねえピー男爵、鑑定魔法って使ってる間他の人には見えたりするの?」


「いや見えない筈にゃ。本人にしか認識できないようになってると思うにゃ」


「そうか、なら存分に使えるね」


 潤平は適当な所に座ると、鑑定魔法を行使して行き交う人々の風景を見ようとする。


「っぐあっ!」


 その瞬間、莫大な情報量が鑑定魔法を通して頭に流れ込んで来て、痛みと衝撃で叫んでしまう。


「大丈夫にゃっ!? どうしたのにゃ!?」


 頭の上から叫んでくるピー男爵に返す余裕もなく、潤平は流れ込んでくる情報量を処理するのに精一杯だ。

 通行人の情報、名前、身長、体重、年齢、スリーサイズ、家族構成、病気や怪我の有無、している仕事、身に付けている衣服やその購入先まで。それに地面にいる虫や生き物草花の種類、建物に使われた材質や購入先と搬入先。空を飛んでいる鳥や虫、果ては太陽や月のことまで鑑定魔法を通して流れてくる。


 潤平はどうすることも出来ず、一旦鑑定魔法を使うことをやめた。

 鑑定魔法をやめてもしばらくの間、衝撃と疲労感が抜けることはなく額から汗を流して、ただ地面を眺めていた。


「……大丈夫にゃ?」


 いつの間にかピー男爵も頭から降りており、潤平の横に立って心配をしてくれてる。

 そんなピー男爵に潤平は手を前に出して、何でもないと言った風に軽く笑って見せたが、力の無い笑顔に誰が見ても大丈夫とは思わないだろう。


 ピー男爵をそう思ったからこそ、潤平の体に初級の光魔法を掛けていた。

 そのお陰もあってか、体が元に戻ったので潤平は何があったのかピー男爵に説明する。


「…………っあ~~!! マジでっびっくりしたっ!!」


「何があったんだにゃ、いきなり頭を抱え込んでびっくりしたにゃ」


「それがさ、鑑定魔法で周りを見たらさとんでもない情報量が頭の中に流れ込んできてさ、そのせいでびっくりするわ。頭は痛いわさ。もうとんでもない目に遭ったよっ」

 

「にゃー、それは大変な目に遭ったにゃ」


「まさかこんな事になるなんて、前に使った時はこんな風にならなかったけどな~」


「前はどんな感じで使ったにゃ?」


「いやね、ある物を調べるために使ったんだけど、その時はその物の情報だけしか出て来なかったんだよね」


「…………って事は、見たい情報を絞らなきゃいけないんじゃないかなにゃ?」


「…………なぬ?」


「その時は、何か分からないけど調べたい物があったのにゃ? ならそれだけを見たかったんじゃないかにゃ。とゆう事は通行人の情報だけを見たいと思えばいいんじゃないかにゃ。それも名前と年齢だけとか」


「……なるほど、そうゆう事か。前回は見たい情報だけに限定してたけど、さっきのは全体を見ようとしたから駄目なのか」


「そうゆう事じゃないかにゃ」


「分かった。それで試してみよう」


 ピー男爵が言った通り潤平は、鑑定魔法の範囲を絞って使ってみる。

 対象は通行人の名前と年齢だけ。

 果たして…………。





 



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