第四十九話 化け猫、襲来
あれから潤平とタマヨは、報告に来る兵士の話を聞いていく時間だけが過ぎていき、貴族の当主が襲われカントウさんが巻き添えを食らったとゆう、報告以外入って来ず犯人らしき人物は捕まらなかった。
夕暮れが終わり夜に差し掛かろうかと言う時、タマヨが潤平に屋敷に帰ってもいいと告げてきた。
あまり長い時間ルリの護衛を拘束するのも忍びないからとゆう理由でだ。
「タマヨさんは、屋敷に帰らないんですか?」
「私はほら、まだやることが沢山あるから」
タマヨがそう言ったので、潤平はその言葉に従うほかなかった。
屋敷の護衛のため巡回してる兵士の馬車に乗せて貰い潤平は帰路につく。
帰り際にタマヨから、
「今日、カントウさんが襲われた事はルリにもピー君にも内緒にしていてね」
と釘を刺されたのでルリとピー男爵には、今回の事件は言わないことにする。
多分ミオリさんには報告が言っていると思うが、潤平から話を切り出さなければ、向こうも大きな声では聞いて来ないだろう。
馬車が屋敷の前に停まると潤平は馬車から降りる。
そのまま門を潜って敷地内に入っていく、途中屋敷の使用人の人と挨拶を交わすと、ルリ達は夕食を食べている所だと教えて貰った。
「ただいま帰りました」
ルリ達がいるであろういつもの広間に行くと、襖を開けて帰宅の挨拶をする。
「おおー! 潤平だにゃー! お帰りだにゃー!」
「潤平さん、お帰りなさい」
「お帰りなさい」
「お帰りー」
夕食を食べながら口々に皆潤平の帰宅を労う。
潤平はいつものようにピー男爵の隣に座ると、フミがご飯を持ってきてくれるよう動き出す。
「あっ、いつもすみませんフミさん」
「いいえ、私が好きでやってるので」
「ありがとうございます。いただきます」
潤平は配膳して貰った夕食が目の前に来ると、両手を合わせて食べる前の挨拶をする。
そしてお腹が空いていたので勢い良くご飯を食べていく。
「それで潤平さん、遅くなった理由とタマヨ姉様は今日は帰って来てない理由を聞かせて下さい」
潤平がご飯を食べ進めていくと、丁度良いところでルリが質問してきた。きっと潤平が落ち着くまで待っていたのだろう。
口の中に詰まったご飯を食べ物を飲み込むと、潤平はルリの質問に答えてあげる。
「第三師団の団長との会合はお昼辺りで終わったんですが、その後に飛び込んできた事件が長くなったのと、貴族殺しの手懸かりを探すのを手伝っていたため、帰るのが遅くなりました。タマヨさんは事件が多数起きたのと、報告を待つため兵舎に停まるそうです」
「そうなのですか……。タマヨ姉様、ご飯をちゃんと食べているのでしょうか……」
潤平の言葉に、ルリは自分の姉の体の事が気になってしまい、少し落ち込んでしまう。
ミオリは事情を知っているのか黙って聞いていて、ピー男爵はご飯に夢中になっている。
潤平は食べ物を口に入れ、咀嚼しながら考えに耽る。
きっとこの少女は、カントウさんが襲われた事を耳にすれば心配事が増えるだろう。そのためにも彼女にはカントウさんが襲われた事は教えない方がいいと思う。
しかしピー男爵はどうだろうか、彼は歴とした一流の医者であり頼れる味方だ。ちょっとお喋りでお調子者の気があるけど、彼に喋らないのは寧ろマイナスなのでは……?
「…………さん、じゅんぺいさん、潤平さんどうされましたか?」
「あ、ちょっとお代わりするかどうか悩んでました……」
「そうですか……」
潤平がいきなりぼーっとしたことで、ルリが様子を気に掛けてくれて、しきりに潤平に声をかけていた。
潤平はそれを何でもない風に装うと、立ち上がってお代わりをしようとするが、フミに阻まれてしまい結局フミにお茶碗を預けることになる。
そんな様子をミオリは静かに食事をしながら眺めている。
夕食も終わりこの後は皆好きな事をする時間なので、潤平はいつも通りルリと自分の部屋の前の中庭で、魔法の訓練をしようとしたところミオリに呼び止められた。
「ちょっと潤平君、こっちに来な」
「? 何すかミオリさん」
「いいからいいから」
右手をフリンフリンと招くように動かすと、潤平は何故かその動きに釣られてミオリの後に付いていく。
決して美人なお姉さんに夜の密会に誘われたから、着いていきたくなったとかではない。
ミオリが止まったのは本邸と、使用人の別館を繋ぐための通路で、近くの部屋に向かうとその前の縁側に座り込む。
ここは以前潤平とピー男爵が水球爆発騒動を起こした縁側で、その時の恥ずかしい記憶が潤平の頭の中に蘇ってくる。
ミオリはそこに座ると、自分の横をポンポンと軽く叩く。
どうやら横に座れと言っているらしい。
仕方ないので潤平はミオリの横に座る。
「報告を聞いたよ、どうやら大変な事件が起きたらしいね」
「……はい。正直最初にその報告を聞いたときは、衝撃過ぎて受け止めきれませんでした……」
「そうだよね、私も似た経験があるから分かるよ……」
ミオリは夜空を輝いて自分の過去を思い出しているのか、遠い目をする。
「……ねえもしかして、タマヨに特別なお茶を出された?」
「はい……、それを飲んで大分落ち着きました」
「やっぱり、そのお茶ねタマヨが小さい時から飲んでるお茶なんだよ。タマヨのお母さんの実家のお茶なんだって」
「そうなんすか、それは知らなかったです」
「まあ、いずれ訪れるといいよ」
そう言ってから、二人はしばらく黙り込む。
先に口を開いたのは潤平だった。
「……ねえミオリさん、本当にピー男爵にカントウさんが襲われたって言わなくてもいいのかな?」
「んーどうだろ、私個人の意見としては今言わなくても、いずれどこかで聞くと思うし先に知っといた方がいいとは思うんだよね。でもまだ捜査中だからあまり情報を公にしたくないタマヨの気持ちも分かるよ」
「仮にピー男爵に言ったとして彼は騒ぎたてますかね」
「いや、ピー君は以外と頭が切れるし分別のつく人物だからね、知り合いが襲われたからって騒ぐ事はないと思うよ」
「そうですよね」
「まあ一応彼の耳に入れたくなくて、君をここに連れてきたんだ。タマヨがそう言った以上はそうしよう」
二人でそう言っていると、ふと潤平は気になった事がある。
以前どこかで聞いた事がある、猫の聴力は物凄いのだと。
「…………ミオリさん、もしかしてですけどどこかでピー男爵がこの会話を聞いてないですよね……?」
「ははまさか」
「「………………」」
その瞬間二人は振り返って、暗闇に染まる長い廊下を見る。そこには誰もいないし暗闇に光る目の存在もいない。
周りを確認してピー男爵がいない事を確認すると、ミオリと潤平の二人はホッと息を吐く。
「聞ーーーいちゃったにゃー」
その瞬間どこからかピー男爵の声が流れてくる。
「はっ!?」
「どこから!?」
「ミオちーが潤平を誘い出してどこかに行くなんて、怪しさ満点だにゃー、そんなの気になって着いていきたくなるにゃー」
声の主は頭上から現れ、屋根の雨どいから顔だけを出して二人を見詰めていた。
さながらそれは化け猫のように。
ピー男爵は器用に、屋根から飛び降りると何事もなかったかのように地面に着地する。
「それでだにゃ? 例の貴族殺しにカントウが襲われたのにゃ?」
「……どこから会話を聞いてたの?」
「最初からだにゃ、バレないように屋根の上からすべて聞いていたにゃ」
「あちゃー」
秘密にしていたい会話を聞かれていた事で、ミオリは額に手を当てて上を見る。
「まあミオリが呼び出した事だけが気になった訳じゃないにゃ。流石に潤平の帰りが遅かったので何かあったのかと勘繰っていたにゃ。予想通り帰ってきた潤平の顔付きもどこか暗かったから、これは何かあったのにゃと思ったにゃ」
「なるほどね」
「俺をちゃんと見てた訳だ」
「うんにゃ」
潤平とミオリの二人はお互い顔を見合わせる。
「まあ僕もタマヨの意見と同じで、ルリちーに言わないのは賛成にゃ。余計な心労を背負わす事もないにゃ。それでも僕には報告しといてほしいにゃ。タマヨは僕に対する信頼がないのにゃ」
僕は怒っていると言った風に、ピー男爵は体で怒っているアピールをする。
「それでだにゃ、カントウの様子はどうなんだにゃ?」
「それはまだ分からないんだ。報告には重症とは言われていたけど俺がいるときには、カントウさんの容態の報告はなかったんだ」
「そうなのかにゃー」
「でも一つ大きな進展はあったんだ。今日の襲撃者はワドウを追い詰めた時にいたくノ一の奴だと俺は思ってる」
「くノ一? 何それ?」
「前に潤平が言っていた女の事だにゃ」
「そいつがどうしたの?」
「ミオリさんはに報告が行っていると思うんだけど、今日の襲撃者は爆破の魔法を使っていたらしいんだ。俺を襲ったくノ一も爆破の魔法を使っていたんだ。それも札を使って」
「ふむふむ」
「爆破の魔法を使う奴はまあいるけど、札を使って爆破の魔法を使う奴なんてそういないだろ? もし現場に札が残っていたり被害者の体に札が残っていたりしたら、確実にその女だと思うんだよね」
「潤平君はそいつとどう戦ったの?」
「それは…………、ひたすらに距離を詰めて手首を掴んで、地面に投げ付けただけだけど……、まあそのくノ一は変化のスキルを持っていたから、投げた奴は違う奴だったんだけどね」
「恐ろしいのにゃ」
「潤平君とは手を繋がないようにする」
「いやちゃんと力加減はするからっ!!」
「でもそうなると、その女は襲撃した後一般市民に紛れて逃げたとゆう訳だよね。そうなると私達に見分けは付かないよ」
「第二師団には極み魔法の鑑定を使える人間は存在してないのかにゃ?」
「いないよそんな人は。そんなのがいたら事件はもっと楽に解決出来てるさ」
「そりゃそうだにゃー」
えっ…………。
今聞き捨てならないことを聞いたんですけど…………。
「…………鑑定魔法って、スキルを見破れるの?」
「そうらしいにゃ、スキルや魔法で姿を変えても鑑定魔法で見れば、本人の名前が表示されるらしいにゃ。まあ噂だけどにゃ」
「……………………オレカンテイマホウモッテル……………………」
「…………なんて?」
「……………………にゃああああああっっっっ!!! そうだにゃっっ!! 潤平は鑑定魔法を使えるんだにゃ!」
「えっ! そうなの!?」
まさかスキルを見破れるとは。
鑑定魔法はもっと普段から使う習慣を身に付けないと駄目だな。
「じゃあ話は早いにゃ! 明日現場に三人で行ってそいつがいないか探せばいいにゃ!」
「ちょっと待った! 私達には大事な役目があるでしょうが! ルリちゃんの護衛を放棄するのはいただけないよっ。それにそいつがまだ現場をうろついてる保証もないだろ? ルリちゃんの傍を離れるワケにはいかないよ!」
「……そうだったニャー」
「……どうしよう。また俺だけタマヨさんの所に戻って、今話した内容を話して捜査に加わる?」
「それだとルリちゃんに怪しまれるよ。二日続けて護衛を離れるなんてどう言い訳するのさ」
「「「うーん…………」」」
三人揃って夜の縁側で頭を悩ませ腕を組む。
「そうだっ! いいこと思い付いた!」
その時、潤平が何か妙案を思い付いたのか其れっぽい顔をする。
「一体何なのにゃ!」
「それはね…………」
何やらコソコソと三人は内緒話でもするように、肩を組み近づきあって小声で喋る。
その声は余程の聴覚でもない限り、遠くの人間には聞こえず、暗闇の中虫の大合唱によってかき消されていくのだった。
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