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異世界、遺します ~天涯孤独となった俺に亡き祖父母が『異世界』を遺してくれた~  作者: 鏑右いなだ


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第四十六話 逃がした獲物はでかかった

 「そう言えばタマヨさん、明日の朝一の話し合いに俺も着いていってもいいですか?」


 夜、皆が集まって食べている夕食の場で潤平は、タマヨに明日の第三師団の団長との話し合いに、自分が着いていってもいいか聞いてみる。


「……試しに聞くけどどうして?」


「いや前に俺が取り逃がした盗賊の情報を聞いてみたいなと思いまして」


「例のルリ達を監禁していた?」


「はい。そいつに対しては因縁もあるしそいつの仲間の奴にはある大事な物を盗まれたんで、少しでも情報を聞いときたくて」


「う~ん。どうかしら、関係のない人間を簡単に連れていけるほど、警備も甘くないし仮に連れていっても情報をすんなり話してくれるとも思えませんし。何かこちらに手土産でもあれば話しは通るかもしれませんけどね」


「……手土産ですか」


「そう言えば潤平君は、ルリ達を助けた後その盗賊団を殲滅させた事をどこかに報告しました?」


「? いえ別にどこにも言ってません」


「ルリは私以外に報告した?」


「いえ。特にお姉様以外に喋ってはおりません」


「そうなの、勿体ないわね魔法ギルドに言えば、そこを通して第三師団に報告されて報奨金が貰えたのに、もったいありませんね」


 マジかっ。

 あいつらの身に着けてる物や目印になる物を一つでも取っとけば良かった。

 流石に首とか持って帰る勇気はないし、それに中心メンバーのワドウ達は取り逃がしてるんだ。他の盗賊の首を取った所で雑兵の首なんていらないだろ。


「只の盗賊の首だけでも数千の額が貰えたので勿体ないですね」


 えっ?

 雑魚の首だけでも数千貰えるの?

 じゃああの場にいた数百人の首を持って帰ってれば、数十万の単位でお金が貰えったって事?

 …………うえーい、何か急にやる気無くなりましたわ。

 まさかそんなところでお金を取りこぼしてたとわ。

 マジでだるいわー。


「お姉様っ。お食事時に首の話しなんてしないで下さいっ」


「ごめんなさいルリ」


 タマヨは誠意の籠もってない謝罪を口にする。


「でも潤平君が報告をしてないとなると、第三師団はまだその情報を掴めていないと思われます。なら潤平君が自分の口で説明してもいいかもしれませんね」


「……てことは」


「ええ。我が屋敷で雇った臨時の護衛として連れていく事も出来ると思います」


「本当ですか!?」


「はい。因みに先に確認しときますがその盗賊団は数百人規模の盗賊団でしたんですよね?」


「はい。間違いありませんこの手で殆どを倒しましたから」


「私も目撃してるので間違いありません」


「一人で数百人の盗賊を倒したなんて信じて貰えないかもしれませんが、いや十中八九信じて貰えませんが。何とか説明して信じて貰えるよう納得させましょう」


「分かりました」


「そう言えば、盗賊を率いていた物の名前とか分かりますか? それがあれば彼等もグンと信憑性が上がると思いますので。ルリは分かりますか?」


「私は……名前までは分かりません。彼等が私を脅した時は名乗らなかったので、それに名前で呼び合ったりしませんでしたし」


「潤平君は?」


「俺は知ってますよ。そいつを瀕死にまで追い込んだ時向こうが名乗ってきたので」


「何て名乗ったの?」


「ワドウって言ってました」


 その瞬間タマヨは固まってしまい、何故かここで夕食を共にしていたミオリは咳き込んで、飲み込んだ味噌汁が口からちょっと漏れていた。ピー男爵が汚いにゃーと叫んでいて、すかさずフミさんが布巾をミオリに渡していた。

 ミオリは布巾を受け取り零した所と自分の口周りを拭くと、フミさんにお礼を言って布巾を返していた。


 そして潤平の元まで寄ってくると顔を近付け、気迫のこもった顔で潤平を責めてくる。


「ちょっと!? どういう事っ!? 何で潤平君が有名な盗賊とやり合ってる訳!? 説明して!!!」


 顔に唾が飛んでくるほど、ミオリは急接近してワドウの事について質問してくる。

 

 いや実際には食事をしていた最中なので、もっと色んなものが飛んできてるが。口の中見えてますよミオリさん。


「いや、だからそのやり合った盗賊の頭がワドウって名乗ったんですよ」


 潤平は顔に掛かった物を手で拭い、興奮しているミオリに何とか説明しようとする。


「盗賊のアジトに乗り込んだ時、ルリさん達が監禁されていた建物を調べていたら、後ろからそいつが話し掛けてきたんですよ。そっから盗賊達と戦闘になって、そのワドウは最後まで姿を見せなくて俺が弱った時にトドメを刺しにきたんですけどね。まあくそ野郎で卑怯な奴ですよ」


 説明するために、持っていたお茶碗と箸を置いて食事の手を止めて、ミオリとタマヨにあの日あった事を説明する。


「それで俺は猛毒と腹を刺されてやばい状況になったんですが、どうにかワドウを瀕死の状態にまで追い込んだんですが、奴の部下が来て逃げられてしまって。後くノ一もいましたね、そいつの魔法がなければもっと楽に対象出来てましたね。…………どうしたんですか?」


 潤平が喋り終える頃には、タマヨとミオリの二人は頭を抱えて俯いていた。

 やがてタマヨがゆっくりと顔を上げて潤平の方を見てくる。その顔には何か言いたげな雰囲気がありあり見て取れた。


「じゃあ潤平君は、都でも有名な極悪の盗賊と戦って訳なの……? それも瀕死の状態にまで追い込んだ……?」


「まあ、俺も結構深手を負いましたし、それに逃がしてますしね。どっかでしぶとく生きてると思いますよあいつは」


「……とゆう事は、ルリ達はそんな盗賊に捕まってたの……!? 本当に助かって良かったわね……」


 妹の上半身を強く抱き締めるタマヨに、ルリはなすがままになり目をパチクリと瞬かせてた。

 どうゆうこと……? ちょっと二人の話についていけてない気がするのは俺だけ……? ルリさんを見ると向こうも分かっていないらしく目が合うと小首をかしげていた。流れに沿ってさらりと黒髪が流れる。

 

 その動作が可愛くて、ルリは只やった何気ない動作なのに、潤平の心を萌えさせるには十分過ぎる動きだった。


「えっと……、よく分からないんですがワドウって有名な盗賊だったんですか……?」


「そりゃ勿論っ!! と言いたい所だけどあたし達高官の間だけで極秘に流れているだけだけどね。一般の人は知らないしその名前は巷には広がっていないさ」


「その盗賊が犯した罪があまりにも大き過ぎる事から、伏せているのです。当時事件が起きた時は都の人達は話題になりましたが、騒ぎにならないように当時の師団長達が収めましたから」


 タマヨとミオリは見聞きしたかのような情報を話してくれる。


「二十年以上前の事です。当時城に勤めたばかりの青年が物を盗みある方の娘に暴行を加え、自分の両親と城にいた者を殺したんです。その青年は都の兵士からも逃げ切り、事態を重く見た当時の方々がサムライを派遣しますが、それからも逃げ切ったと言われています」


「そしてそいつは後に腹心となる右腕の者と盗賊を起ち上げると、どんどんと勢力を増していき遂には私達夫婦師団の人間が手を出せない程の力を持つ事になったのさ」


「ここ数年その者の活動を抑えていると聞いていましたが、まさか潤平さんと戦っているとは。その名を潤平さんの口から聞いてびっくりしました」


「そいつらの盗賊団を潰しても、頭が生きてる限りはまた同じ事を続けるだろうね。最もそのワドウが瀕死に追い込まれているのならばもう既に、どこかで死んでるかもしれないけどね」


 ミオリが吐き捨てるようにそう言ったが、潤平はきっとあいつは生きていると確信していた。

 あの男の目は激しく燃えていた。潤平の事しか目に映らず復讐を果たすまできっと止まらないだろうなと、あの時思ったからだ。


 うえっ。そんな奴に絡まれてたなんてどんな勘違いを起こしてたんだよあいつは。


「因みに師団の間での名前はとかは……?」


「『神隠しのワドウ』そう言われているし、手配所の名前もそれで通ってる。実際ワドウはどこにでも行ける類いのスキルを所持してるらしく、追い詰めてもいつの間にか消えてるんだってさ。報告にはそう書いてたね」 


 なるほど。

 やっぱりあの時急に現れるなんておかしいと思ってたけど、俺が思ってたとおり転移のスキル持ちなのか。

 うわ~っ。面倒くさいな、俺が気付かない程のスキルだもんな、まともに正面からやり合おうとしても逃げられるだろうな~。

 前はあいつが興奮していて隙だらけだったから魔法を打ち込めたけど、今度戦ったらそんな隙はないだろうしな。どうにかして対処法を考えとかないと。

 

「そしてもう一人。ワドウの右腕で昔からそいつを支え続けてるのがハズシと呼ばれている男だね。こいつは顔も体型も知らず名前だけ師団が把握しているよ。」 


 あの時ワドウの隣にいた男か?

 顔も体型も分からないのはきっと、透明のスキルを持ってるからだな。

 あいつも許せん。俺の制服を盗んだだけでなく売り捌きやがって、絶対に制服は取り返してそいつもぶっ飛ばす。


「まさか潤平君がそんな大物の盗賊とやり合っていたとはね。あたしはその名前を聞いた瞬間びっくりしたよ」


 ミオリは落ち着きを取り戻すと、置いていた箸を手に持って食事を再開しようとする。

 だが自分の目の前に並んでいる皿を見ると、残っていた筈のおかずが無くなっており呆然とする。

 すぐに顔を上げて向かいのピー男爵を見ると、満足そうに頬を膨らましてムフフーッと得意気な顔をしており、誰が見ても犯人がこいつだとゆう顔付きをしていた。

 ミオリはその態度に黙ってられるわけもなく、静かにキレると物凄い速度で向かいのピー男爵の元に行き、彼の頬を掴んで伸ばしていた。


 そんな風に二人が騒いでいると、タマヨの冷たい叱責が飛んできて二人は静かになる。

 潤平はその間黙って食事をしていたが、ふとあることに気付く。


「……あれ、タマヨさん」


「はい、何ですか?」


「くノ一はワドウの仲間ではないんですか?」


「? くノ一とは何ですか?」


 ……あれ? どうゆうことだ?


「女性の忍者の事なんですけど……」


「ニンジャとは何でしょうか……?」


 まさかっ!?


「もしかして、この国に忍者は存在しないんですか!?」


「……ごめんなさい。そんな名前は聞いたことないわね」


「えっ!? ルリさんも!?」


「私も聞いた事がありません……」


「ピー男爵も!? フミさんも!? スミレさんも!? ヨリさんも!? ミオリさんも!?」


 潤平の問いに皆首を横に振った。


 これはまさか俺は大きな勘違いをしていたのではっ…………?

 俺はこの国が日本に似ているから、きっとくノ一がいたんだろうと思っていたけど、忍者なんて者は元々存在してなかった? あぶねー、不確定な情報であのくノ一のお姉さんを探すとこだったよっ。

 てことはあのお姉さんはそうゆう格好をしているだけ?

 でもあの時ワドウにくノ一って呼ばれてたしな。

 分からん。考えても特に分からん。

 とにかく今は、ご飯を食べることにだけ集中するか。


「そのくノ一とゆう女が気になるの?」


 しかし潤平が思考を放棄して、食べることにだけ集中しようとしても質問を投げかけられたタマヨは、気になって逆に聞き返してくる。


 そりゃそうですよね。質問されてそのまま放棄は気になりますよね。俺だって気になるし。

 これはちょっと俺が悪いな、反省。


「……そのワドウの一味も戦う時に、俺に軽い怪我と隙を作りにきたのが、そのくノ一の女なんです」


「なるほど。その女の子人はどんな人物なの?」


「あ~、身長が俺より高くて、短髪の茶髪でだるそうな目をしてましたね。見た目に反して素早くて爆裂の魔法を使ってきます。後変化のスキルを持っていて他の人に化ける事も出来ます」


「ふんふん、服装は?」


「…………夜に紛れるために黒い服を中心としてました」


「もっと特徴はないの?」


「…………扇情的な格好で肌の露出が多い服装でした」


「…………ふーん。そんな相手と戦ったんですね」


「いやっ! 本来のくノ一はそうゆう役目もありましたから! 男を惑わすのが狙いみたいなもんですって!」


「……なるほど、まあアタマには入れとくよ」


 ぐ……っ。何でこんなこと事を言わなきゃいけないんだ……っ。

 何か俺が悪いことをしたみたいじゃないか……っ。

 気のせいかルリさんもスミレさんも目が据わってる気がするし、フミさんははこちらを見てすらもいない。

 何故だっ、何故こうなってしまったっ。


「取り敢えず潤平君を朝一の会合に同席させることにします。始めは断る気でいましたが、話しを聞く限り向こうの団長にも報告をしなければいけません。なので明日潤平君が私に着いてくる事を認めます。ルリ? 潤平君を借りてもいいですか?」


「構いません、どうぞ連れていってください」


 ルリはどこか棘のある態度で潤平の貸し出しを許可する。その態度にタマヨは乾いた笑いが出て、当の潤平は少し傷付いていた。


 そして食事終えると、それぞれが散って思い思いの時間を過ごす事になる。

 その間も保護されている件の少女は目を覚ますことはなかった。





 



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