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異世界、遺します ~天涯孤独となった俺に亡き祖父母が『異世界』を遺してくれた~  作者: 鏑右いなだ


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第四十二話 古い友人のイタズラ

 「しっかし潤平は困ったもんにゃー。うくくくくっ。まさかいきなりカウンターに魔獣の死体を置くなんて思わないもんにゃー。しかもそれを全部出すなんて。びっくりしちゃったにゃ」


「私もびっくりして固まってしまいました。てっきりちゃんと解体した素材を想像していたので、魔獣の死体があんなに出てくるとは思いませんでした」


「あの職員の娘も可哀想だにゃ、まさか潤平の世間知らずな部分に付き合わされるなんて、トラウマになって辞めないといいにゃ」


 御者に乗っている純平の耳に、窓を開けてわざとらしく会話している二人の声が聞こえてくる。

 その会話を聞いて、潤平は物理的に体に会話の内容が飛んできて刺さる気がする。


「はあ~っ。何でこうなったんだ?」

 

 また自己嫌悪が頭の上から垂れてくる様な気がしたので、必死にそれに負けまいと違うことを考える。


 潤平達がそんな会話をしている間、外の馬小屋で待機していた護衛のミオリ達は、潤平達が何の話で盛り上がってるのか分からず静かに後ろを着いてきている。


 まあどの道遅かれ早かれピー男爵が、ミオリにも今日起きた出来事を話すだろうと推測されるので、この後もまた同じ様にイジられるのだろうと思うと気が重くなる。


 隣に座っているスミレさんも気のせいか、あれから潤平と目を合わせなくなった気がして、最近の唯一の癒やしだったスミレさんと楽しく会話するとゆう、出来事もなくなりそうで憂鬱になる。

 潤平はぼーっと抜けた顔で青空を見上げながら、過去の出来事を消し去りたいと考えていた。 


 そうこうしてる内に、いつの間にかカントウさんが紹介してくれた職人の工房に着いており、スミレは工房の前に馬車を停める。

 皆が降りた事を確認するとスミレはいつものように馬車を消す。

 ミオリ達は工房の傍に、通行人の邪魔にならないように馬を停めた。


 皆が工房の中に入っていくが、潤平はまだ一人だけ沈んだ気持ちでのそりのそりと工房の中に入る。

 


「おおおっっっ!!」


 しかしそんな潤平も、中に入ったら沈んでいた気持ちが消え去り表情が一変する。


 工房は手前がお店になっており、棚には色んな媒体が置かれていて、壁には主に戦闘に使われる武器や防具などが飾られていた。

 潤平も男の子なので、こうゆう武器や防具それとガジェットの類いを見ると、気分がモリモリと上がってくる。


 興奮している潤平の足下で同じ様に興奮しているピー男爵を置いて、ルリは店の店員にカントウさんから預かっていた手紙を渡す。

 店員はすぐに立場の上の人にそれを伝えると、違う人が引き継いで潤平達は奥に案内される。


 お店の通路を抜けていくと、工房らしきものが見えてきて職人さん達が忙しなく色んな物を作っていた。

 ある人は金属を火に掛けて鎚で叩いていたり、研磨していたり装飾を施していたり、防具を縫う人もいれば一つ一つ手作業で何かを編んでいる人もいる。そして極めつけは魔法を使ってそれらに何かの細工を施している人がいた。


 少し喧しくて暑苦しい場所だが、潤平の目にはそんなことが気にならないほど職人達の仕事ぶりが魅力的に映った。

 店員さんはその仕事場を抜けていき、全員が奥の畳の部屋に通された。

 そこで室長が来るまでの間待つように言われたので、全員が座って待つことにする。


「ねえピー男爵! さっきの見た!? 職人さんが何かを作っている光景! 凄いねっあの人達に作って貰うんでしょ!? いやー楽しみになってきたなー!」 


「やっぱり潤平も男の子だにゃ。あの光景を見てテンションが上がるのは立派な男の子証拠だにゃ」


「そりゃそうでしょ! あれを見てテンション上がらない男の子はいないでしょ!?」


「僕も初めて自分の魔力媒体を作って貰った時はそんなふうにテンション上がったもんだにゃ。懐かしいにゃー」


 潤平とピー男爵が職人達の仕事ぶりを見てテンションが上がっている中、ルリ達は会話に入らず静かにお茶を飲んでいる。


「失礼します」

 

 きゃいきゃいと話しが二人の中で盛り上がっている中、襖の外から女性の声が聞こえてきて、襖がゆっくりと開けられる。

 すると髯を蓄え眉毛が伸びすぎて目を隠してる男性の老人と、眼鏡を掛けた妙齢の女性が一緒に部屋に入ってきた。


「どうも初めまして。儂はこの工房の室長をしているテッケツと申します。こちらは儂の家内でこの工房の事務長をしているマヒロと言います。カントウ様からのご紹介で御三家の方が困っていると聞きつけ私共が直接参りました。何卒よろしくお願いします」


「わざわざありがとうございます。私は御三家の嫡子が一人ルリと申します。今日私共がお伺いした理由は、こちらの私の護衛をしておられる潤平様の、魔法の出力媒体を一つ作って貰えるかどうかのご相談に参りました」


 この場の主人はルリなので、ルリが代わりにここを訪れた理由を話してくれる。


「なる程。そちらの方の媒体を我が工房で作る事が目的ですか。素材はご自身で持ち込まれますかな?」


「えっとはい。カントウさんに戴いた物があってそれを使って作って欲しいです。一応魔力の相性の確認は済ませました」


 テッケツと名乗った老人が潤平の方を見て質問してきたので、潤平はカントウさんに貰った素材があると答える。


「了解しました。その素材を確認させて貰ってもよろしいですかな?」


「はい。えっと、これです」


 潤平は収納魔法から、布にくるまれているホウメイスギの板材を出すと、テーブルの上に置いて布を開きテッケツさんの目の前に出す。


「こ、これはっ!! まさか……っ!?」


 布の中から現れたホウメイスギの板材を目にしたテッケツさんは、驚いて手を前に出してワナワナと震えている。


 (あれっ?)


 その反応に潤平はどこか違和感を覚える。


「潤平どのっ……! もしかしてこれはホウメイスギの板材ですか……っ!?」


 おおっ、流石。

 一目見ただけでこれが何の板材なのか分かるのか。


「はい。こちらはそのホウメイスギの板材になります」


「そ、そんな……っ! 何故そんな物をお持ちになっているのですか……っ!?」


「えっと、前にカントウさんとその仲間の命を助けた事があって、そのお礼にと貰いました」


「おおお……っ!!」


 心なしかテッケツさんは目尻に涙を溜めている気がする。眉毛で隠れているから確認は出来ないけど、どこか感動に打たれて体を震わせている気がした。


 てゆーかもしかして……。


「あの……、もしかしてカントウさんから聞いてないんですか……?」


「……はい。あいつ……失礼。カントウ殿には御三家の方が我が工房に訪れるだろうから対応を頼むように、としか言伝を貰ってませんので、まさかこんな事になるとは想像もしておりませんでした」


 あ~やっぱり、だと思った。

 話しが通っているのならばこんな風な反応はしないでしょうよ。

 以外とお茶目な所があるなカントウさん。


 テッケツは鼻を一つ啜ると気迫のこもった目付きで(目が見えない)、潤平を見つめてくる。


「潤平殿。貴方の出力媒体私が全身全霊を持って作る事をお約束します。代金は要りませんこの素材を扱わせて貰うのですから、それだけで十分お釣りが来ます」


「あっすいません、それは無しで」


 きっとこの人出力媒体の代金は要らないとか言い出すんだろうな~と思っていたので、実際にその言葉を言った瞬間却下した。


 それにテッケツさんが代金を要らないと言った瞬間、僅かにだが隣の奥さんの眉毛がピクリと動いた。

 それを見た潤平はきっとこの後色々言われるのだろうなと考え、この時点で無料にする線は消え失せた。


「このホウメイスギはこの国の由緒正しい御神木何ですよね? それを使って作った出力媒体ならこの国の宝、国宝と言われる物になってもおかしくない筈だ。そんな物を作って貰って代金を貰えない何ておかしな話はないですよ。テッケツさんが全身全霊を持って作ると言うのならば、その分の代金はしっかりと払います」


「……っ。分かりましたその様に致します。ですがこれ程の素材を使って作った媒体。値段を付けるとするのならば相応の値段になりますが大丈夫ですかな?」


 ここまで言って払えません、何て事になったら赤っ恥を俺がかくだけ。それも分かってテッケツさんは俺にそう言ってくる。


「大丈夫です。当てはあります」


「そうですか」


 何せこちらには査定中の魔獣の素材があるんだからな。

 それが売れればかなりの金額になるだろ。もし足りないとしてもまだ収納魔法の中に魔獣の死体があるから、それを売ればいいでしょうよ。


「でしたら儂も十分に作業に集中出来ます。そうですな一般の出力媒体が一週間程で出来るので、この素材を使って作るとすれば大体……、ん~三週間を期日としましょう。そうですな三週間後に完成した物をお渡ししましょう」


 早っ。思ったよりも完成が早いのね魔法の媒体って。


 潤平はてっきり月単位や年単位の完成を想像していたので、想像していたよりも早く物が完成することに驚く。


「では何か希望やご注文がありますかな? 出来るだけ希望通りに作りますが」


「あ~えっとそれなら…………」


 そのまま潤平とテッケツは魔法の出力媒体について、色々と話し合いを重ねていくのだった。

 その間蚊帳の外の人達は二人の邪魔をしないように、楽しくお茶を飲みながら談笑していた。


 数時間が経ち、潤平達はテッケツとマヒロに見送られて工房を後にした。

 日もそろそろ沈もうかと準備を始めていて、通りを歩く人達も夕食の買い物や家に帰る人の姿が目立った。

 そんな道を潤平はスミレの馬車に乗って走っている。


 潤平は工房に訪れた時と違って、今はテンションが高まりワクワクしていた。

 自分だけの媒体が作れる、それを考えると興奮してきて馬車を引っ張るのではなく、抱えてルリの屋敷まで帰れる気がしてきた。

 まあ勿論のことそんなことをしたら、通行人の迷惑になるし目立ってしまうのでやるわけがないが、それ位気持ちが昂ぶっている。


「良かったですね、潤平さんの出力媒体が作れそうで」


「はい! 待ちきれないっす!」


 興奮しすぎて折角スミレに話し掛けて貰ったのに、それに気付くこともなく早口気味に返事をする。

 潤平が体を左右に小刻みに揺らしながら御者に座っていると、前を走っているミオリの馬の前に建物の物陰から人が飛び出してくる。


 ミオリは馬を急に止めると、それに合わせて馬が大きく嘶く。ミオリが乗っている馬は本物の生き物のため、それを落ち着かせようとミオリは手綱を握る。


「何者だっ!! 急に飛び出してくるなど死にたいのかっ!!」


 ミオリは普段とは違った声で目の前に飛び出してきた物に威嚇する。

 その間にミオリの隣にいた兵士がスッと警戒態勢に入る。

 彼らが護衛をしているのはこの国の御三家の嫡子である。万が一にも何かがあってはいけないので、自然と兵士達の間に緊張が走る。

 潤平も先程までの浮かれている様子と違い、護衛の顔付きになり何かあってもすぐに体が反応出来るように、体勢を整えていた。


 物陰から飛び出してきた人物は灰色のぼろ布を纏っており、転んだ拍子に地面に手を付いて泥にまみれていた。

 その時、突風が吹いてぼろ布を纏っていた人物の顔が露わになる。


「あっ」


 泥と垢にまみれて顔が汚れていて良く分からなかったが、黒髪の中性的な顔付きをした少年の顔が見えた。

 少年はぼろ布を、顔を隠すように深く被り直すとその場から立ち去る様に掛けていく。


 (…………………………)


 それを追おうとする者はこの場には誰もいなかった。

 この場にいる人間は主のために存在する立場の人達なので、その使命を捨ててまであの人物を追おうとは思わなかったし、小汚い浮浪者に構っている暇などなかったからである。


「何だったんだ一体…………」


 ミオリがこの場を立ち去ろうとした時、今度は兵士数人が建物の横から走って現れる。今度はミオリ達は足を止めていたので、ぶつかりそうになる何て事はなかった。


「はあっはあっ……、あれっ!? 副長と上級兵長!? 何でここにいるんですか!?」


 どうやら彼らはミオリ達の部下らしく、ミオリ達の顔を見ると皆おどろいた顔をしていた。


「……私はさる方の護衛の任に着いている。お前達こそどうした? 何の騒ぎだ?」


「それが例の貴族殺しの現場に居合わせた人物が逃走してしまいして、それを追い掛けていた所こちらの方向に逃げたのですが見失いまして……」


「それはぼろ布を被った人物か?」


「そうです!そうです!」


「そうか。そいつは向こうの方向に逃げたぞ」


「了解しましたっ! おいっ向こうだっ向こうの方に逃げたぞっ」


「私も主を送り届けたら捜索に加わるとしよう。タマヨ団長は捜査に加わっていないのだろう?」


「はい! 事件が起きたのがつい先程の事なので、まだ団長には報告が上がっていないと思われます」


「そうか。逃げた人物の特徴は分かるか?」


「顔を隠していたので、顔を見た兵士は今の所おりません。付近の聞き込みは今し方始めたばかりなので情報の整理にはしばらく掛かると思われます。それとは別に逃げた人物は妙なスキルを使うようで……」


「妙なスキル?」


「それが何もない空中で兵士が急にビタッと動けなくなり投げ出されたのです。その兵士が気を失う前に言っていたのが、巨大な灰色の手が見えたと申しておりました」


「巨大な灰色の手ですって……?」



「ああああああああああああああっっっっっっっ!!!!!!!!!」


 それまで静かに話を聞いていた潤平が急に大声を出した事で、隣のスミレは勿論馬車に乗っていたルリ達、そして前で話をしているミオリと兵士達、騒動を眺めていた周りの通行人までもがびっくりして体を跳ね上がらせる。

 特に隣にいたスミレはびっくりしすぎて固まったウサギみたいになっている。


 だがその大声を出した当の潤平は、周りの事など気にならない様子で何かを思い出したようで、自分の両手を見詰めていた。


「ルリさん! 少しだけここからいなくなってもいいですか!? すぐに戻りますので! 本当にすぐに戻りますので!」


「……えっ、潤平様? どちらに向かわれるのですか? 潤平様!?」


「潤平君っ!?」


「何処行くにゃーっ!?」


 ルリの悲鳴にも似たような声を無視して、潤平は先程この場から逃げる様に立ち去ったぼろ布の人物が逃げた方向に走り出す。

 あの少年の顔を見たときから、心の奥にモヤモヤとした気持ちがあったのだが、兵士の報告を聞いて思い出した。


 巨体な灰色の手を使ったスキルを持った人物に潤平は心当たりがある。

 汚れていて顔を見てすぐには思い出せなかったが、彼は猛虎三人衆の一人末っ子のリン君である。





 



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