第四十話 御神木の板材
ルリの屋敷に警護が敷かれて一週間が経った。
その間、特に事件が起こることは無く至って普通の日常を屋敷の面々は過ごしていた。
そんなある日、潤平はルリとピー男爵とスミレが見守る中庭で、魔法の訓練件護衛をしているとヨリがある手紙を持ってくる。
その内容はカントウさんからであり、潤平が魔法の出力媒体を探していることをどこからか聞きつけ、良さそうな素材があるので是非どうですか? とゆう内容だった。
この話に潤平は非常に興味をそそられ、ルリさんに行きたい気持ちを全面に出して相談してみる。
するとルリさんも興味が湧いてきたのか、ミオリさんを通して姉であるタマヨに連絡を取る。
そしてタマヨから条件付きではあるが、許しが出て次の日にはカントウがいる第二区画のお店に皆で行くことになったのだ。
メンバーは手紙が届いた潤平に、ルリとその使用人のフミとスミレとヨリ、そして話しが来た時点でついて行く気満々だったピー男爵と警護のミオリ、そして警護人が四名。
決して少ないない人数にルリは悩んだが、これでもタマヨの条件ギリギリの人数を少なのだ。本来はもっと人数を増やして正式に訪問した方がいいとタマヨに言われた。
仮にも御三家の令嬢が訪問するので、もっと厳粛に訪問をしなければいけないのだが、ルリがそれを断り間を取ってこの人数にしたのだ。
しかしタマヨは用心しており、ルリにばれないように密かに影から警護人を付けていた。
それに気付いているのは潤平とピー男爵で、潤平は何か着いてきてるなー位にしか思っておらず、ピー男爵はタマヨの事だからそれ位するかにゃと気楽に考えていた。
久々の屋敷からの外出に潤平は心を弾ませる。
勿論ルリを護るため、同じ屋根の下で生活をするのも悪くないと潤平は考えているし、それにスミレさんやフミさんといった奇麗な女性と過ごせるのも非常に楽しく捉えている。
しかし都に来てから碌に観光もしていないので、やっとそれらしい事が出来ると思い楽しみでワクワクが止まらない。
因みに今回は潤平が馬車を引くのではなく、スミレが馬車を出して手綱を握っていた。
流石に町中で爆走人力車をやるのは危険行為だと思い、潤平は町の中では爆走人力車をするのは自重することにした。
御者にはスミレが付き今回は潤平がその隣に座っている。馬車の中にルリ、フミ、ピー男爵、ヨリが座り馬車の前に馬に乗った警護人が二人、馬車の後ろにミオリさんを含めた三人が馬に乗って馬車の周りを囲んでいる。
馬車は誰が乗っているか分からないように敢えて地味な加工に施しており、余計な装飾は一切付けず目立たないように施しておく。
前回は馬車の中からの景色だったが、今回は外にいることでより鮮明に都の景色を楽しむ事が出来る。
だが御者の位置に座っていると、たまに泥や土埃が飛んでくるのが煩わしいが、そこは新たに覚えた風魔法のお陰で気にせずに済む。
あれから一週間。毎日毎日魔法の熟練度を上げるため訓練に明け暮れ、生活の中でも魔法を使いようやく中級魔法を使えるまでに至った。
前回は十個ほど豆粒サイズまで魔力を制御する事が出来たが、今では慣れた様子で百個単位まで豆粒サイズまでコントロールする事が出来るようになった。
今では特に意識しなくても、数十個単位なら体の周りをくるくると遊ばせる事が出来る。
これでもう魔法を出す度に、高出力で出さなくて良いと思い、苦労した魔法の訓練の日々を思い出し感無量の気持ちになる。
魔法を行使する度に魔法爆弾作っていたのでは安心出来ないからね。やっと好きなときに自由なタイミングで魔法が使える。
第三区画の外壁の詰め所に行き、またも感じの悪そうな衛兵が身分の確認をしてくる。
人相が悪くニコリともしない衛兵を見て潤平はもしかしてだが、わざとこうゆう人物をここに配置しているのではと思い始める。
諸々の確認をスミレさんがやってくれ、潤平は只じっと座っているだけで確認が済む。
外壁を抜けると第二区画の景色が目に入ってくる。
第二区画の町並みを馬車で抜けると、前にピー男爵が教えてくれたカントウのお店に着く。
え~と何て言ったっけ。何とかや何とかやう~んと駄目だ思い出せない、折角名前を聞いたのに忘れてしまったよ。
潤平は席から降りて、カントウの店に掲げられている看板に目を向ける。そこには達筆な字で『エノキヤ』と書かれていた。
それを見て潤平はようやく名前を思い出す。
店の前に馬車を着け、スミレと潤平が待っているとお店の中から中年の男性が現れた。
「大旦那様から話しは伺っています。こちらの建物にどうぞお入り下さい」
その男性は低い物腰でエノキヤの隣に建っている、建物へと潤平達を案内する。
ルリ達全員が馬車から降りた事確認して、スミレは馬車を一旦仕舞う。
ミオリ達は馬をどこかに繋ごうして、男性が建物の中に馬小屋があると言ったので、そちらの方に馬を連れていく。
エノキヤと違って、こちらの建物は看板がある訳ではなく小さな門があるだけだった。
その門を押して入ると、砂利が敷かれていて人が歩けるように石畳が敷かれている。その周りに非常に手入れが行き届いている草花が生えてあり、訪れた人を歓迎しているそんな気持ちにさせてくれた。
石畳を進むと暖簾が掲げられた入り口があり潤平はそこを潜って中に入った。
中に入るとまず最初に目についたのが、大きな入り口で一度に何人が訪れても良いように広いスペースが存在している。
その奥には、奇麗な中庭が見え色鮮やかな花が植えられていて見る人を楽しませる工夫がされていた。
ピー男爵とルリは以前訪れた事があるようで、感動は抑えめでフミはいつも通りの静かな反応をしており、スミレとヨリは驚いて周りをキョロキョロと見渡していた。
そして当の潤平はと言うと、他の人達とは違う感動を感じていた。潤平が感動したのは今見ているこの建物の内装が、元の世界で言う高級旅館に見えて感動していたからである。
テレビとか動画で見たことのある光景に違う意味で感動しているのだ。
てゆー事はここは旅館なのか? 旅館で話をするのか? それに旅館って言ったら温泉と豪華なお食事がある筈だよね。本当にそんな感じの旅館なんですか? てかこれ何処で靴脱げばいいんですか? スリッパとかはないと思うし靴下で上がっていいのかな。
潤平が入り口でキョロキョロとしていると、ルリとピー男爵が前に進みじっと待った。すると廊下の奥からさっさっさっと妙齢の女性が歩いてきた。
「いらっしゃいませ。私この屋敷の女将をしていますツバキと申します」
「お久し振りですツバキ様、お元気そうで何よりです」
「久しぶりだにゃーツバキさん! 今日はお世話になりますにゃ」
「ええ、ルリさんもお久し振りです会う度にお綺麗になっていきますね。ピーさんもいつもお元気で何よりです」
ルリとピー男爵は、ツバキと名乗った女性を知っているようで軽く挨拶を交わしていく。
次にツバキは後ろの使用人三人に挨拶をすると、最後に入り口で立っている潤平に目を向ける。
「貴方が潤平さんですね。主人から話しは聞いております。命の危機を救ってくれただけではなく、困り事も解決してくれたと。今日はそのお礼をするためにそちらに伺うのではなく、わざわざここまで呼び出したと聞いています。本当にありがとうございます」
「あ、いえそんな危なくなっているのを助けただけなんで。それに俺が興味があって来た事なので大丈夫ですよ」
…………何か大事になっている気がする。
命を救ったとかそんな感じじゃなかった気がするけどな。それに倒した魔獣の素材だってちゃんと分け合ったし、困り事の解決? もしてないはずだ。
カントウさんは一体どんな風に話をしたんだろうか。
「おおっ! 皆さん来てくれましたか! どうぞどうぞ! 上がって下さい!」
潤平とツバキが挨拶を交わしていると、ツバキが来た方向とは反対の廊下から、カントウさんが歩いてきた。
「カントウ様、お久し振りです」
「カントウ久しぶりだにゃー」
「ルリさんもピー君も久し振りだね。フミ君もスミレ君もヨリ君もお久し振り。どうぞ上がって下さい」
カントウは潤平を除いた他の面々に挨拶をする。
そして潤平の元まで来ると、嬉しそうに顔を破顔させてツバキに潤平の事を紹介する。
「ツバキや、こちらの少年が私と仲間を救ってくれた潤平殿だ。どうだ見事な顔付きをしているだろう?」
「あなた今し方挨拶は終えたばかりです」
「おお、そうかそうか」
カントウは嬉しそうに顔をニコニコさせながら、潤平の事をツバキに紹介する。
ツバキはそんなカントウのテンションの高い様子に、ついて行けず若干煩わしさを感じている様子だった。
「あなた。それよりも彼らを早く部屋に通さないと」
「む。そうだないかんいかん、すっかりここに呼んだ理由を忘れていた。どうぞ皆さん上がって下さい、そうそう靴と荷物はここに置いておいて下さい。後ほど屋敷の者が部屋に運びますので」
カントウさんがそう言ったので、皆靴を脱いで持っている荷物を入り口の横に置いていく。
潤平は元から手ぶらで来たので置いていく荷物はない。
とゆうか収納スキルがあるのだから、わざわざ運んでくれる必要はないのじゃないかと潤平は思ったが、流れの中なので任せることにした。
「どうぞこちらです」
カントウが案内する後ろを着いていくと、屋敷の奥にどんどんと進んでいき見事な模様がほどかされた襖の前で止まる。
その襖を開けると大部屋があり、皆そこに入っていった。
「こちらで少々お待ち下さい。その間屋敷の者にお茶をお持ちさせますので」
皆が座った後カントウさんはそう言って襖を閉め、どこかに行ってしまった。
入れ替わりでこの屋敷の使用人なのだろう人達が、お茶と軽いお菓子を持ってきてくれる。
潤平は待っている間、ルリとピー男爵と談笑して時間を潰す。
「しかし凄い建物ですね。何というか豪華さもありながらそれでいてどこか落ち着きを感じる気がします」
「この建物はカントウ様が、各国の要人や王族を招いたり宿泊させたりするために作らせた建物だと言われています。私も小さい頃御祖父様に連れられて数度訪れた事があります」
「へえ~、確かに言われてみれば入り口とか凄かったですもんね」
「でもこんなに屋敷の奥まで入った事はありません。恐らくですがこの部屋は私有地に近い部屋なのではないのでしょうか」
「確かに入り口と比べてこの部屋は少し落ち着いてる気がするにゃー、きっと限られた人しか入れない部屋なんだにゃー」
「そうなんだ」
小市民の潤平からしたら違いが分からないので、どちらも大差ない様に感じる。
今居候してるルリの屋敷も凄いが、ここの屋敷もそれに劣るどころか上回っているのではないかと思うほどに凄い。
元の世界では、八畳一間の部屋が四つあった家に住んでいたのだから感覚の差が激しい。それにこの世界では最初野宿で過ごしていたのだから、人生どうなるか分からないものである。
どうせ今お茶を入れているこのお茶碗だって急須だって値の張るモノ何でしょう? それにこのテーブルだって見事な模様がついてるしちゃんと漆を塗られているっぽいし、なんで異世界に来てからの方がいいモノに触れる機会が多くなっているんだ?
そんな事を考えながら皆と会話を交えていると、襖が開いてカントウが部屋の中に入ってくる。
そしてカントウの後ろには、男性の使用人が着いてきており何か布に包まれたものを抱えている。
「お待たせしました。こちらが潤平様にお渡ししたいと思っている、魔法の出力媒体のための素材になるものです」
テーブルの上に置かれたそれを、カントウがゆっくりと布を取り皆の目の前に晒す。
出て来たそれはとても真っ白で太いただの木製の板だった。
「カントウさん、これは一体何ですか?」
「これはですね潤平さん。かの有名なホウメイスギの板材です」
「えっ!!」
「嘘だにゃっ!!!」
カントウの言葉にルリとピー男爵が声を上げる。
後ろの三人も声は上げなかったがとても驚いた表情をしていた。あのフミさんが驚いているとゆう事は、大変な貴重な物何だろうなと思う。
この場で唯一事態が飲み込めていない潤平だけが、ただ一人普通の反応をしていた。
「何ですか? そのホウメイスギとゆうやつは」
潤平が適当に板材についてカントウに訪ねた所、ルリとピー男爵が首をぐりんと勢い良く曲げて潤平の方に顔を向けてきた。
「また出たにゃっ、潤平の何も知らない例の奴が。ルリちー説明してあげるにゃっ」
「はいっ。ホウメイスギとはこの国に古来より伝わる魔力を帯びている御神木のスギの名前です。その昔世界に魔法を広めた神様がこの国に数本だけ、このホウメイスギを植えたらしいのです。それが未だに残っておりその内の現存している数本の内一本が都の中にあります。そしてそのホウメイスギの板材がここにあるとゆう事は…………」
「その通り。選定して切断した枝の一部を私が買い取ったと言うわけだ。そしてそれが今ここにあるとゆう事です」
「ホウメイスギは、第二区画の神社が所有している私有地の中にあって、一般客がそれを拝めるのは年に一度の鎮魂祭だけなのにゃ。僕らもそう簡単に見れるものじゃないから、こんなに驚いているのにゃ」
「そんな凄いものを俺なんかが使っていいの?」
「勿論どうぞ。しかし出力媒体にはその者との相性とゆうものが存在しており、それが合うか合わないかが重要になってきます。まあこれは私の感ですが、潤平さんならきっと相性が良いと思ったのでご提案させて頂きました。これでもし駄目だとしても他の事に使いますので気にしないで下さい」
カントウさんはそう言っているが、そんな由緒正しい物を自分の魔力媒体に使ってもいいのかと、潤平は緊張して手汗が滲み出てくる。
周りを見れば、皆期待に満ちた目で潤平を見詰めてくる。
ピー男爵は表情が輝いていて、まん丸の目がビー玉みたいに輝いている。
ルリも興奮した感じで、何だか潤平との距離が近い気がする。スミレとヨリも興奮しており、フミさんは表情はいつもと変わりなかったが、心なしか体が前のめりになっている気がする。
当の潤平はそんな気持ちとは裏腹に、とても緊張していて手汗が止まらず、只の魔力媒体を探すつもりがとんでもない大事になった事で、この場から去りたいと願わずにはいられなかった。
最後までお読みいただき、ありがとうございました!
皆さんの応援が日々の執筆の励みになっています。
もし「面白い」「続きが気になる」と思っていただけたら、画面下の【★で称える】や【フォロー】をポチッと押していただけると非常に嬉しいです!




