第四話 異世界の絶景
改めて見ると相当でかい、山の頂上近くに立っていることもあって、尚更大きく見えた。
巨木から百メートル近く距離を取っいても大きく見える。
すーはーすーはー。
大きく深呼吸をする、それも何度も何度も。
やる事は一つ、目の前にそびえ立つ巨木を駆け登ること。
偉大なサバイバル番組で学んだ、もし方角や地形が分からないのならば、高い場所に登れば、大体の地形が見えて川等を見つけやすくなるとゆう方法。
それを目の前の巨木に登ってやってしまえばいい。
木登りはした事があるけれど、目の前の巨木は地球でもそうそう見れないサイズ、経験があるとはいえ登れるのかと疑問に思うが、神様に強化されたこの体を信じよう。
「うし!」
再度気合を入れなおす、地上から一番手の届きそうな枝まで四メートルはある、まずはその枝を掴んで登ること、そこから巨木を登っていけばいい。
イメージするのはネコ科の動き、勢いよく走って行き壁ジャンプをする要領で、巨木を二、三回蹴って枝までジャンプする。
徐にクラウチングスタートの体勢になる、やはり勢いよくスタートするとなったら、必然的にこの体勢になってしまうんだろうか。
胸の中では、不安や恐怖で一杯なのに、何処かワクワクしている自分もいて、そんな気持ちに可笑しくなり自然と顔から笑みが零れてしまう。
アドレナリンが出ておかしくなってしまってるんだろうか? そんな事を考えつつ心の中でカウントダウンを始める。
(五…… 四…… 三…… 二…… 一…… よーい……)
「ドンっ!!」
全力で勢いよく走りだす潤平、風を切る感覚が体に伝わり音となって耳からも入ってくる。
しかし走り出したのはいいものの、何か様子がおかしい。
「ちょっ、はや、早いっ!、早すぎるううううぶわわわわわわわわわっ!?」
神様に貰ったスキルで強化された体は、凄いことに人間の身体能力を遥かに上回っていて、走る速度だけでも地球の陸上生物の速度を超えており、とても常人には制御出来る速度ではないと思われた。
おまけに驚いて叫んでしまったものだから、口の中に風が入って大変な事になってる。
「壁っ!? いや木!? やばいっ!」
自分の身体能力に驚いてるのも束の間、一瞬で巨木までの距離を走り切り目の前に巨木が迫って来ていた。
けれども強化されたこの体、動体視力も上がっており、反射で巨木を蹴り上げてくれる。
「ひえっ!」
巨木を蹴り上げた潤平はたった人蹴りで、当初掴むつもりだった最初の枝を大幅に超えてしまい、優に二十メートルは超えて巨木の半分まで届き、枝に掴まってぶら下った形になってしまい、結果だけ見れば成功した形になった。
「やべーよ俺の体……、人外染みてるよ」
自分の常人離れした体に引きつつ、半分まで登った巨木を改めて見上げる。
「にしてもでけぇ木だなぁ、これだけ登ったのにまだ登るのかよ」
枝を掴んだ体勢から、巨木に体を預ける体勢になり次から次へ枝を登っていく。
途中蜘蛛の巣や、小鳥の巣を見つけそれらを避けつつも登り続けていく、見ようにによっては大きなサルがもの凄い勢いで巨木を登って行く様にも見えなくない。
遠くから見た人がいるのならば驚いたことだろう。
気づけば巨木の頂上まであと少しの所まで登っていた。
強化された身体のおかげで、物の数分で登ることが出来た。
「…………」
五十メートルもの高さを超える巨木に登ったことで、かなり遠くまで見渡せる事が出来る様になった。
天然の展望台から、改めて見る異世界の景色に潤平は感動して言葉が出てこなかった、山には木々が生い茂っておりその木々も地球のより高く見え、空はどこまでも高く、よく見ると遠くで大きな鳥の様なものも飛んでいて、潤平の心をくすぐる。
何より空を見上げれば、この星の衛星が地球の月より大きく見える。
そんな時正面から心地よい風が吹く、潤平は目と鼻と耳と口と肌の五感を使いこの世界を思う存分感じた。
「異世界っ、最っ高だぁっっ!!」
期待と興奮で腹の下から込み上げてくるものがあり、思わず叫んでしまう。
潤平の瞳には異世界が反射して映っており、その真っすぐな瞳は異世界の景色を短くも長い間映し続けていた。
異世界の景色を堪能した頃、潤平はこの巨木に登った本来の目的を思い出す。
「う~ん、町や村は見えないし川も無いなぁ、おっ? ちょっと距離はあるけど湖があるからとりあえずそこを目指すか? 後は川を伝って下流に歩いて行けば何かしらあるでしょう」
どの時代どの世界でも川の近くに文明が出来たとゆうから、川を下って行くことで何かしら人の痕跡は見つかるだろう、例えそれが亜人や獣人の類であっても、話の通じる相手であれば生きていく上での足がかりになるだろう。
「あ~、そこらへん神様にちゃんと聞いておくんだったな」
この世界の人種や文化それに宗教のこと等を、神様に詳しく聞けばよかったと後悔したが、結局聞いてない事には変わりないので、直ぐに切り替えてしまう。
「どんな人達に会えるのかな~、エルフは是非会って喋ってみたいし、ドワーフは武器とか防具とか装飾品作って貰いたいし、吸血鬼は一緒に温泉とか行ってみたいし、獣人はただモフモフしてみたいな~、全部出来るかな~」
巨木の頂上で器用に胡坐を組みながら、のんきにくだらない妄想をしている潤平。
ニタニタ気色悪い顔で笑っているので、誰かに見られていたら間違いなく引かれていた事だろう。
「ギョォォォーーー」
「ん?」
そんな妄想に耽っていると、頭上から奇妙な鳴き声が聞こえてきた。
見上げると鳥が潤平の真上を旋回するように飛んでいた。
それは最初微小に見えていたのだが、ゆっくりと潤平に近づいており、それがただの鳥ではなく巨大な怪鳥だと分かる頃には大分近くまで来ていた。
警戒して見ていると、どうやら潤平に狙いを定めた様で、いきなり急降下し始めその頃には大分、全体像が分かる位には接近されていた。
「は!? ちょっ……!?」
身の危険を感じた潤平は、咄嗟に身を翻し巨木の頂上から降りて一段下の木に掴まった。
おかげで、怪鳥の巨大な嘴から間一髪の所で逃れることが出来たが、喜んだのも束の間、怪鳥が大きく羽ばたいた事により潤平の周りで風が吹き荒れ、潤平は枝に必死に掴まる事しか出来なかった。
枝に掴まる潤平を振り下ろそうと、怪鳥は大きな翼を使って暴風を起こしていたが、潤平も持ち前の怪力で枝から手を離さなかった。
しかし悲しいことに、枝の方が両者の力に耐える事が出来ず、根元からポッキリと折れてしまった。
「馬鹿ぁぁぁぁぁぁぁぁぁっっっっ!!」
枝が元から折れてしまっては、潤平にはどうする事も出来ず只々、無様に暴風の中で手足をジタバタさせて藻掻く事しか出来なくなり、見事に吹き飛ばされていった。
幸いだったのは、あまりに強く吹き飛ばされたせいで、怪鳥の追撃がなかった事だろうか。
数百メートルは吹き飛ばされ、放物線を描いた身体は徐々に自重で落下していき、木や枝を薙ぎ倒し最後には地面にめり込む形で止まった。
「……っあーー」
仰向けになり、身体が無事かどうか確かめる、無事だと分かれば手足を投げてゴロンと大の字になった。
「全然身体が痛くない、ちょい衝撃が苦しかったけど何ともなってねぇ」
吹き飛ばされて驚きはしたし、地面にめり込む程の衝撃もあったから、苦しい思いはしたがそれでもこの身体の丈夫さに、驚愕しつつも改めて感謝するのだった。
「あ~、それにしてもあのクソ鳥、今度会ったらぶっ倒して、から揚げかチキン南蛮にしてやる」
この世界に来て二回もモンスターに襲われれば、苛立ちが募り悪態もつきたくなる。
一応覚悟していたとはいえ、人に会うよりも先にこんな仕打ちを受ければ我慢も出来ないだろう。
それでも持ち前の切り替えの早さで、すでに立ち直っており違う事を考えていた。
「食べ物の事考えたらお腹減ってきたなぁ、どっかで食料見つけないと」
叫んだり驚いたり激しく動いた事で、お腹が減っており明らかにテンションが下がり始めた。
何より喉が渇いていて、早急に水と食べ物が必要になった。
さすがにあれだけの耐久力を見せたこの体が、直ぐに餓死するとは思えないが、苦しい思いをするのには変わりないので何か胃に入れたい。
幸い湖の方角は記憶しているから、そこに行けば大丈夫だと思い勢いよく立ち上がった。
「……あれぇ、ここどこ?」
悲しいかな、怪鳥に吹き飛ばされたせいで自分がどこにいるか分からなくなり、湖の方向がどこか見失ってしまった。
ここは深い森の中、四方八方見渡してもどこも同じ景色、潤平は振り出しに戻ってしまった。
「……え?」
λ
今潤平は森の中を走って移動している。
あれから、自分が今どこにいるか確かめるために、もう一度巨木に登り、怪鳥にまた見つからない様慎重に湖を確認して、湖に向かうために三十分程森の中を走っていた。
道中斜面を駆け下りたり、崖を飛んだり、色んな動植物を見つけたり、犬や怪鳥の様なモンスターを避けつつ、森の中をひたすら進んでいた。
森の中を走りながら気づいた事が複数個あり、一つは動植物のサイズが大きいし、それに輪をかけて魔物のサイズも大きい。
魔物に関しては、見たことがないので分からないが、ただの動植物が地球では見たことがないサイズなので、初見だとびっくりしてしまう。
これはこの世界特有の魔力が影響しているのか、でもそれだと魔物との区別がつかないだろうと思ったが、潤平には分からない事なので考えるのをやめた。
次に山の雰囲気や生態系等が、どこか懐かしく感じる時があるという事。
何か地球に似ている感覚がするのに、魔物みたいな生物がいるせで何処か違和感を感じるが、それでも地球に似た雰囲気を感じ懐かしく思ってしまう。
もう一つがこの身体のこと。
どうやらこの身体は、魔力を込める強さで身体能力が身体能力が上がっているらしい。
試しに普通の状態で岩に頭突きをしてみたら岩が割れて、魔力を込めて岩を握ると粉々になった。
神様に貰ったスキルの通り、元の身体は何倍も丈夫になっていて、魔力を込めていくと身体能力が上がっていくらしい。
現に、体感乗用車の制限速度位の速さで三十分も走っているが、息切れもしていないし疲れてもいない。
これでちょっと魔力を込めただけなので、全力を出したら一体どうなってしまうのか、期待と恐れに潤平は身震いしてしまう。
「お、見えてきた見えてきた」
森の中をひたすら走っていると、段々と視界が開けていき、キラキラと太陽の光で反射した湖面が見え始め、目的の湖が見えて来ていた。
さらに歩を進めると、大きな湖が目の前に現れた。
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