第三話 真面目な話2
トイレから戻ってくると、神様は黒板に文字をびっしりと書いていて、何やら難しい顔をして黒板とにらめっこしていた。
暫く待っていると、何やら終わったらしくにこにこと笑顔が溢れていた。
あんなに笑顔になるって事は、いい妙案が浮かんだんだろうけど果たしてどんな事を思いついたのか気になるな。
「うむうむ、お主のおかげで素晴らしい考えを思いついてのう、浄化の魔力に新たに放出と吸収の機能を付ける事にしたんじゃ」
「放出と吸収ですか?」
「うむ考えれば簡単なことじゃった、お主に与える浄化の魔力、その工程をお主の心臓の中でやればいいのでは、と思ったわけなんじゃよ」
「は? 心臓ですか?」
心臓とゆう言葉を聞いて、不安になり思わず自分の胸をさする。
要するにだ、神様がこの世界で作ろうとしている魔力の循環のシステム、それを俺の身体の中で実験も兼ねて作ってみようとゆうことらしい。
神様に貰った浄化の魔力で淀んだ魔力を綺麗にし、浄化された魔力は澄んだ状態となって空気中に散り、それを色んな生き物が消費していく。
潤平の場合は、吸収した魔力が通常の魔力ではなく、ただ浄化の魔力に置き換えられるとの事。
「これが出来れば、お主の希望通り無尽蔵の魔力も出来るじゃろうて、ついでに魔力の燃費も良くしとこうかのう」
「その浄化の魔力事態は、他の魔力と何か違いはありますか?」
「うんにゃそれなら大丈夫じゃ、普通の魔力同様問題なく使える筈じゃ、しいて言うなら魔力の純度が高いから、他の生き物からしたら居心地が良いくらいかのう、他には何か希望はあるかのう?」
「分かりました、俺は魔力が使えるなら大丈夫です、無理言って作ってもらったのでこれ以上は望みません」
「別にそんな難しいことでもなかったがのう、お主が良いならそれで良いかのう」
実際自分の我儘を通してもらったんだ、これ以上望むのはあまりよろしくないだろう。
しかしこれで、二つ目のスキルの無事決まった、後は俺が魔力を使って各地の淀みを浄化して回ればいいのか。
そういえば、神様が言っていた魔力の純度が高いってのはどうゆうこと何だろう。
あれかな、空気が澄んでいるとか、川が綺麗とか、だから落ち着きやすくなるとか? だとしても浄化の効果以外に何かあるんだろうか?
「うむ、これで二つ目のスキルも決まったかのう、それでは最後のスキルは何を望むかね?」
最後に貰うスキル、実は決まってなかったんだけど神様の説明の途中で、ふと思いついたスキルがあったんだよね
思いついたとゆうか欲しくなったとゆうか、さっき神様がテーブルを何もない空間から出しているのを見て、魔法を一から作り出せるスキルがあったら便利だなーと思いまして、必要な時に助かる魔法が作れたらなーと。
なので魔法を作れたり、生み出すスキルが欲しいです。
「ほ? 魔法を作れるスキルと?」
「はい、出来る限りで構わないんですけど……」
「うむう、それは勿論出来るが魔法を作る事は誰でも出来るぞ? 魔法や魔術に長けた者や、研究者など時間を懸ければ作れる物もいるがそれとは違うと?」
「あ、いえ、その場で直ぐに作れたら便利だなと思いまして、それに失われた魔法や口伝でしか伝わってない魔法、ある一定の条件でしか発動しない珍しい魔法を作れたら、良いかなーと思いまして」
「うむう、ならお主の魔力を使って作れる様にしておくかの、このスキルは、自身の魔力を消費するからのう、魔力を使いすぎないように気をつけるんじゃぞ、それではスキルの譲渡を始めるかのう、こちらに来なさい」
神様に言われて椅子から立ち上がり、神様の近くに寄る。
「それでは背筋を正して、下半身に力を入れてしっかりと立っておるんじゃぞ」
何故下半身に力を入れるんだ? と疑問に思ったが理由は直ぐに分かった。
神様がいきなり俺の胸に手を突き刺した、手は手首まで埋まり体の中をまさぐっており、最終的に心臓を握り始めていた。
ぐりぐり、にぎにぎ、そのまま神様は、数十秒間俺の心臓を握り続けていたと思う。
曖昧な感覚なのは、ショックと心臓を掴まれた経験がないので表現の仕方に困るからだ。
「うむ、これで良い」
どうやら終わったらしく、神様は俺の胸から手を引き抜いた。
しかし、他人に心臓を握られる経験なんてこの先の人生でもそうそう無いだろうな。
出来ればもう二度と経験したくない出来事だったな。
こんな事もうないよね。
「うむでは、スキルの受け渡しも成功したしのう、後はお主をこの世界に転移させるだけになるのう、覚悟はよいか?」
「はい、覚悟は出来てます」
元より戻る気はないんだ、じいちゃんとばあちゃんとも約束したし、この世界を思う存分満喫してやるさ。
「うむ、お主には色んな可能性がある、辛く厳しい出来事も待っていると思うが、それ以上に楽しく実りのある出来事もお主を待っとる筈じゃ、お主の人生に大いなる幸福あれ」
神様が、手を前に組んで深々とお辞儀をしてきたので、俺も丁寧にお辞儀を返す。
「うむそれでは、行くとするかのう」
そういうと、神様は手を前に翳した。
「達者でのーう」
神様がそう合図すると、俺の足元から地面が消えた。
は?
ちょおおおおおおおおっ!! 落ちるぅっ!
高所恐怖症の俺は、まさか落下するとは思っておらず、悲鳴を上げながら落ちつつ最後には意識を失うのだった。
これが、後にも先にも忘れないこの世界に行く直前の記憶である。
*
異世界はどんな感じだろう、美味しい食べ物見たことのない大自然、この世界ならではの文化、そして綺麗な女の子、期待で胸が膨らみますな。
でへ、でへへへへへ。
――ちゅぱちゅぱ。
魔法も使えるらしいし、女の子のピンチに颯爽と駆けつけて助けたりしたら、ハーレム作れたりして、男の夢ハーレム王になったりして。
でへへへへへへ。
――ちゅぱちゅぱ、がじがじ。
いや駄目だ、この世界には使命があってきたんだ。
異世界生活を自由に満喫するのもいいけど、淀みを浄化してこの世界を正常にしないと、じいちゃんとばあちゃんとに申し訳ない。
……でもちょとだけ役得があってもいいよね、せっかくじいちゃんとばあちゃんに異世界をプレゼントされたんだ。
ちゃんと満喫しないと勿体ないってもんよ!
――がじがじがじがじ。
いやー、異世界楽しみだな!!
待ちきれないよ!!
――がじがじがじがじがじがじがじがじ。
さっきからうざいなぁ! もぞもぞもぞもぞ何だよもう!
先ほどからヌルりとした生暖かい何かが、右手を何度も何度触っている感触で、不快になり目を覚ます。
いい夢を見ていただけに、不快な気持ちで起こしてくれた原因に文句の一つでも
言ってやろうかと、起き上がり右手を見た。
…………犬?
まず最初に目に飛び込んできたのは、大きな犬? が俺の右手を口に咥えている景色だった。
目を動かすと辺りは森で、俺は少し開けた場所に横たわっていたらしく、体に木漏れ日が差し込んでいた。
俺の右手が犬に咥えられていなかったらのどかな風景にもなりえるだろう。
改めて犬を見ると俺と同じく事態を飲み込めていないらしく、俺と犬は目が点になり数秒見つめ合っていた。
先に動いたのは犬の方で、顔に皺が集まり唸り始めてしまった。
犬が威嚇し始めた事で、本能的に右手に力を入れて少し引き寄せてしまった、それがいけなかった。
「グアウッ!! グウウウウウウッ!!」
「おわわわわわわっ!」
俺がまだ生きていると判断した犬は、体を大きく左右に振り始めて俺を引きずり出した。
やばい本当にやばいっ!?
見ると、体長三~四メートルはありそうな大きな犬が、全力で体を使って俺に止めを刺しに来た。
対して人一人が、大きな獣に対抗出来る訳もなく簡単に引きずられる。
命の危機に直面したことで、不安と恐怖が一気に来ており、頭から背中にかけてゾワゾワしたものが押し寄せ始めた。
尚も犬は俺の体をグイグイと引っ張り続ける。
「ちょっ、こんのっ、ふざっっけんな!!」
火事場の馬鹿力なのか、死にたくない一心で咥えられている右腕を思いっきり振り払った。
すると、力一杯振りぬいた腕はもの凄い速さで振り払われ、たまらず犬は腕に食いついてる事が出来ず、右腕から口を放して遠くにふっ飛んで行った。
犬が飛んで行った方向から木々の折れる音と、何かにぶつかった音と犬の悲鳴が聞こえてきた。
いとも簡単に犬を振りほどけた事と、数メートルはある獣を吹き飛ばせる膂力が自分にあることに驚いて、固まってしまう。
「はぁっはぁっ、えぇっ、何今の? どういう事?」
額からは汗が滴り落ち、心臓は激しく鼓動を刻み、呼吸をするたびに喉からか細い音が鳴っていた。
今しがた自分がした事が信じられず、思わず右手を見つめて何度も何度も握ったり開いたりを繰り返していた。
……右手が握れる? そういえば! あの犬に食われてたけどだいじょう……。
「……何もない? あれだけ食らいつかれていて? 普通だったらズタズタになって血だらけになってるのに、出血処か赤くもなっていない」
犬の涎まみれになった手を太陽に翳してみる。
右手が無くなってもおかしくなかったのに、どうなってんだよこの体…………。
……体? そうだ! 体だ!! 神様にお願いしてスキルで頑丈な体にして貰ったんだ!
そうだ神様に頼まれて異世界に転移させられて、スキルを貰いその中の一つに体を強化するスキルがあったんだった。
一つ深呼吸をする。
だんだんと思考がクリアになってきたぞ。
神様に上空から落とされて意識を失った俺は、異世界の何処かの森に落ちた。
そして森で意識を失っていた俺をあの犬もどきは、死んだ獲物だと思い右手に食いついて引っ張っていたと、そこで俺が目を覚まして犬が暴れだしたと、そういう事か。
「にしても凄い体になっちゃたな、あんなでかい犬が一振りでぶっ飛んでいくんだもん」
右手についた犬の涎を払うついでに、軽くシャドーボクシングの真似事をする。
とはいえこの体がどの位の強度を持っているのか、それは全くの未知数。
「色々試してみたいな」
とはいえやることは山積みだ、スキルの確認も大事だけどまずは人がいる場所を目指し、それから衣食住の確保と、淀みの情報も聞いていく。
でも人のいる場所分かんないしなぁ、せめて方角が分かればいいんだけど、ここ異世界だからなぁ、 どうしたもんかな。
必死に悩みながら、辺りを見回す。
周りは深い森、人里を目指すためにはこの森を抜けなければいけない、ついでに右手についた犬の涎が乾いてきて非常に生臭い。
「喉も乾いてきたし川を先に探そうかな、それから人を探そう」
でもそのためには、川を見つけなきゃいけない。
結局振り出しに戻るのであった。
悩んでいると一際大きな木が目に留まった。
高さ五十メートルは超えていそうな大きな木で、潤平の地元ではこの高さの木は見たことがないし、地元の高層マンションよりもでかく見えた。
「すげ…………」
あまりの大きさに息をのみただ見惚れる事しかできなかった。
その内潤平の頭にある考えが浮かんできた。
それはあるサバイバル番組での出来事だった。
「良い事思いついちゃった♪」
この状況を打ち破れる秘策が思いつき、この世界に来て始めて笑顔が出てくるのだった。
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